ARIA T.S.A. RE:GHOST? 作:かまぼこ大明神
「……まあなんだ。今日はお疲れさんってやつだな」
「はい。お疲れさまです」
ド深夜。仕事帰りってことで、俺たちを乗せた車は都市部にほど近い郊外を走っている。
これでドライバーが俺じゃなけりゃ、ドライブデートなんてシャレた言い回しができたんだろうな。
……車が偽装バンってのは目を瞑ってもろて。
んで、助手席にいるのはレキだ。
今夜の任務は俺たち2人に与えられた罰ってことで、半ば強制的に即席パーティーを組むことになった。
蘭豹のやつ、俺が顔馴染みと話してるだけで目くじら立てやがって……。
ぜってー罰なんて名目がなくたって、今日もどっかから任務回すつもりだったろあいつ。
『マスター。今、いいですか?』
『なんだ?』
『2台後ろ、なんかつけられてます』
『げっ、やっぱりか……』
にしたってツイてない。
こういうの、虫の知らせ? 嫌な予感ってやつ?
薄々そんな気はしていたものの、仕事帰りに尾行されてるだなんて本気で考えたくなかったのが本音。
……ま、残念ながら予感は的中したわけなんだが。
『念の為に周囲の防犯システムを確認したので、尾行はほぼ間違いありません』
『うへ……。ほんと嫌んなるな』
とことんツイてない。
けどまあ、人生最悪の瞬間なんて案外簡単なことで更新されていくもんだ。
だってそうだろ。昨日の俺はカップ焼そば失敗して人生最悪の日だなんて考えてたわけだし。
……そうだ、ポジティブにいこう。
隣に人を乗せて運転しているわけだし、動揺して手元を狂わせるわけにもいかないしな。アバババ……。
『プチコマ、情報を集めろ』
『はぁい!』
『よし、とりあえずこのまま移動するぞ。……はぁ』
ひっそりと、心の内で吐きだされるため息。
こうして結構萎えてげっそりしていようが表情に一切出てこないのは、この義体の良いところでもあるし悪いところでもある。
例えば表情から思考を読まれてどうこうだとか、そういう心配がないのは便利だ。
その反面、無愛想だと思われたりガンつけてると思われるのは不便だし、余裕ぶってると思われるのも心外なわけで。
いや、表情筋が仕事しないだけで内心あっぷあっぷしてるんですがねこれでも。
……つって、他人様からはそう見えないのが困ったところなんだよな。
『さっきの残党かな……。人数はちゃんと確認したはずなのに、どこに隠れてたんだろう?』
『先手必勝! バーンとやっちゃおうよ!』
『うーん。他に生き残りがいたら面倒だし、ちょっと深めに潜っておこうかな』
『むぅ……はいはーい! ボクも手伝うー!』
『よーし。マスター、警視庁のサーバーからファイルを釣り上げてきました!』
『うがぁー! むーしーすーるーなぁー!!!』
……癒されるわー。
デフォルメされたエージェント状態のプチコマが、自分の周囲を漂いながらあれそれと会議をしているのはわりと俺の中では眼福だ。
これはまさに万人が認める可愛さ……ああ、蜘蛛嫌いは例外な。
中途半端に教科書通りな尾行を続けているのは、恐らく一般の方が乗っているであろう車を2台挟んで後方にいる普通車。
ちょくちょく別の車と交代したりして誤魔化しているつもり……なのか? どっちにしたって2台ぽっちでやることじゃないだろ。
「今回の任務、呆気なく終わりましたね」
「そうか? ……ま、そうだったかもな」
いつも通り、涼しげな顔をしているレキ。
さっすが、美少女版サイトーさん枠の言うことは違うな。うっかり惚れるとこだぜ。
レキがいると、俺も取り逃しに必要以上の神経を割かなくて済むので仕事がしやすい。
おかげで今夜は楽できた。うん……。なんか変な連中に尾行されてるみたいだけども。
まあなんにせよ、別に狙撃手の手を煩わせる必要はないだろう。
レキとは今後とも良きパートナーとして末永く付き合っていきたい。
さっき楽した分の時間外労働は、こちらで引き受けておくかな。
先生、ここは私が……っ! みたいなやつ。
『うーん。やっぱり警視庁のサーバーにある今回制圧した武装グループの構成員のリストには、さっき拘束した27人目以降の情報は載ってませんね……』
『載ってりゃ最後の確認の時に気付いてただろうしな、人数足りねーって』
『うー、車種とナンバーから持ち主の関連情報を洗い出すとなるとちょっと時間かかりそうです……』
『じゃあ先に車両盗難の届出の有無を確認してみるのはどうかな? ボス、ちょっと回り道しましょうよ』
『わかった。アマテラス、確認含め頼んだぞ』
『命令は了解されましたぁ。お任せください!』
言葉通り、調べ物はプチコマに任せて俺は俺で運転に集中する。
また今度の休みにでもめいっぱい構ってやろう。オセロかトランプでも買って帰るか。
「お店、開いてませんでしたね」
俺が脳内マップから最適な経路を算出したところで、ふとレキがそんなことをボソリと言った。
店? 店、店……ああ、いつものファミレスか。
普段、俺たちは任務のあとにお疲れ会と称してファミレスを利用してしばらく駄弁ってから帰っている。
帰りは大抵夕飯時かそれを少しすぎたくらいなんで、ついでに食事を済ませていくわけだ。
で、いつも帰りに使っているルート上の店舗が既に営業時間を過ぎていたんだろう。
今日はかなり、時間も遅めだからな。
「それな。いやー、うっかりしてたわー」
つい、いつもの癖で回り道をしながら走っていた。
この時間帯なら別に今走っているルートから帰らなくてもいいはずなのだ。
蘭豹も晩酌のタイミング過ぎてるだろうし、こんなド深夜に生徒を呼び出したりはしない……よな?
元々、絡み酒ウーマン蘭豹の晩酌に長い時間付き合わされたくないんで、帰りの時間を調整するのに寄り道するようにしだしたのがはじまりで。
俺だけなら適当にぷらぷらして時間を潰すとこなんだが、レキとパーティーを組んだ日の帰りはファミレス固定になっている。……どこぞの細い子に食事の習慣をつけさせるために。
だいたい、レキのやつは食わなさすぎるんだ。もっと肉をつけろ肉を。せっかくの生身の体だってのにもったいねぇ……。
『プチコマ。連中、攻撃してくると思うか?』
『なんとも言えませんね。少なくともこんな街中で事を構えるつもりはないみたいですが……』
『お前もそう思うか』
『えぇ゛、でも相手は犯罪者だよ?』
『わかってないなー。あいつらがキミと同程度ならとっくの昔に撃ってきてるんだろうけど、そうじゃないってことはつまりこんな所で迂闊に騒ぎを起こしたらどうなるか考えるくらいの脳は詰まってるってことだよ』
『あぁーっ! い、今遠回しにボクのこと
おいおい、ちょっとおバカな方が可愛いだろ?
ツクヨミはそのままでいいんだよ。
レキはもっと食え。肉をつけろ。生身のパーツを大事にするんだ。
「今の、右でしたよ」
「……おう。知ってる」
これから使うことになるかもしれない装備の点検をしつつ、ハンドルをさらに左へ切る。
とりあえずさらに正規のルートから遠回りして時間を稼ぎつつ、適当なタイミングで深夜営業してるファミレスに入るとしよう。
『あ、この角度なら顔写真から照会出来るかも……よーし。どれどれー──っと。ああ!? この運転手、過去に何度か逮捕されてるぞ!』
『アクセス出来るか?』
『えっと……。ふわー、武器密売グループの構成員みたいです。紐付けされた端末の履歴に取り引きに関するやり取りの断片を確認しました!』
『へぇ……。ちなみにその組織、どんな品を扱ってるんだ?』
プチコマが表示したリストに軽く目を通す。
えーなになに……。相手はそこそこ大きな組織の中でも末端もいいとこで、構成員の犯罪歴も大多数がチンピラの域を出ないくらい。
おまけに大した仕事も任されていないと。……ほーんふーんへー?
これって要するに、なんかあったらトカゲの尻尾切りにされるポジションのやつなんじゃね?
『……知らん間に商売邪魔したんで目付けられたってとこか 』
『そーなりますね。どうしましょう?』
じゃ、遠慮なくぶっ飛ばす方向で。
ひよっこの俺でも、この程度の火の粉なら振り払い慣れている。
正直昨日のカップ焼きそばダバァの方が、こっちよりもダメージでかかった。
食べ物の恨みはー……って、そりゃ違うか。
舐めて掛かるとデッドエンドしかねないこの世界。
もちろんよくある死亡フラグイベントというのも忘れてはいけないが、遠山が自転車を爆破されて神崎に助けられたという今朝の事件とこの件は関係ないはずだ。
自転車爆破は世間一般的に武偵殺しの模倣犯による犯行だってのが専らの噂……まあ本家なんだろうが。この際模倣犯だか本物だかは別にどうでもいい。
もし万一あれが模倣犯の仕業だとしても、S.A.C.の笑い男*1という前例(前…?)だってあるわけだし、誰がやったかなんてのは重要じゃない。
つまるところ、話の流れ的にまず来るのは武器密売組織絡みの事件ではなく、遠山らによる自転車爆破事件の捜査&解決だと思われる。
話の出だしで盛大に爆破されましたよ、それとは全く関係ない──犯行に使用されたセグウェイやらUZIやらを取り扱っていない武器密売組織の敵が出てきましたよ、結局爆破したのは誰だったんだろうね。おわり。
……とはならないだろ? フツーなら。
ラスボスへの伏線? ラスボスが小道具使ってまで自転車爆破はちょっと規模が小さすぎてわからない。
ないとは言い切れないんだろうが……なんか弱そう。
油断はしないが、以上の要素から恐らく遠山らとは全く関係のない案件として対応させてもらう。
「お昼に、あなたについて訊かれました」
「……へえ?」
っと、危ねぇ。……動揺してハンドル切り損ねるとこだった。
こういうとこでラグなしに咄嗟の制御ができるのは義体のいいとこだよな。
「調べて回っているみたいです」
「おおう、そいつはまた。人気者はつらいねぇ……」
調べて回ってるって……おいおい。
去年、徹底的に探っても無駄ムーブ&根回ししたのに今になって一体誰が?
『ああー、えっと……そのことなのですが……』
『……なにかあったのか?』
『武偵校のデータベースにそのー、マスターの名前が検索履歴に……』
『なんだと?』
『教務科のバンク及び照会システムにアクセスした形跡があります。これは……今日のお昼頃ですね』
『うぇ、つまりボスって人気者ってことぉ?』
『バカだなー。マスターが自分のこと探られるのを嫌ってるの忘れたのか?』
『あ、そ、そうだったぁー! た、大変だぁ!』
『あーはいはい。そうだね、大変だね。ほんとに大変なんだよ!』
人間誰にだって隠し事の1つや2つ、あるものだ。
大なり小なり知られたくない秘密を抱えて生きてるんだから、誰だって自分のことをコソコソ探られたら良い気はしないだろう。
俺は単純に抱えてる秘密が人一倍デカいってのもあるし、普通に嗅ぎ回られるのは嫌いだ。
自分では完璧に隠し通しているつもりでも、どこにボロが出てるかわかったもんじゃないしな。
「ご存知かと思いますが、念の為に伝えておきます」
「……ん。いや、サンクス──っと、ここでいいか」
忠告ありがとな、レキ。
ともあれ、そういうことなら仕方ない。また明日にでも調べてる本人を捕まえて注意勧告しとくか。
いつだかの理子の時みたいに、興味本位で人のプライベートを暴くのは良いことじゃないって説教する方針で。
「……ここは?」
「まあ、あれだ。──寄り道ってやつだな」
目的地から少し離れた場所にあるコインパーキングに駐車し、首を傾げるレキにファミレスを指さして伝える。
尾行組は俺が片すから、先行って注文でも取っといてくれ。腹も減ってるだろ。
『調べてるやつってのは気になるが後回しだ。今はひとまずこのバンを餌に連中の出方を見る。これで手を出してくるようなら容赦なく一気に叩くぞ。プチコマ、各所に手を回しておけ』
『アイサー!』
さて、やりますか。
Aria The Scarlet Ammo Re:Ghost?
アオイ──この後、深夜のコインパーキングで銃撃戦をしてファミレスで一服する。愛銃はマテバ。トグサリスペクト。
レキ──またしても何も知らないレキさん(16)。ファミレスで待っていたら相方が表で銃撃戦してた。アオイだから仕方ないと思ってる。最近食事を覚えた。
プチコマ──マスコット。
偽装バン──銃撃戦でベッコベコにされた。
尾行してた人たち──気づいた時にはボコボコにされてた。
アリアなんとかさん──思ってた以上にアオイの情報が集まらなくて苦労してる。
キンジなんとかくん──まだ原作通りの道を辿っている
引き続きお気に入り登録、しおり、評価、ありがとうございます
感想嬉しいです、感謝は返信をもって代えさせていただきます
旧作見てくれてた人がまた見に来てくれてることに驚き
というかまだ覚えててくれたんですね
もちろん、感想なんかあると作者は大いに喜びます