ARIA T.S.A. RE:GHOST?   作:かまぼこ大明神

3 / 9
03" 電脳日記(下) - FIRST YEAR

 2008年──○月●日

 

 どうやら俺の推測は当たってしまったらしい。

 今朝の入学式で、同期の中にトオヤマ・キンジなる男子生徒の存在を確認した。

 

 今現在、トオヤマとは一般教科のクラスが別で専門科目が同じという微妙な距離に俺はいる。

 探られると激痛の走る腹しかない以上、トオヤマに主人公補正倍プッシュでこちらのテリトリーに踏み込まれるとつらい。ひっじょうに困る。

 当初の予定通り、在学中はあまり印象に残らないような動きを心がけるしかないだろう。

 

 そんなわけで、俺があまり目立たないよう初日を過ごしつつ軽く調べ上げたトオヤマの情報がこれだ。はいドーン。

 遠山キンジ、7月5日生まれ満16歳、身長168cm、体重62kg、血液型はA型、東京武偵高校1年A組所属、専門科目は強襲科、暫定的な武偵ランクはS。

 ついでに関連人物にも探りを入れてみたが、特異体質だの超能力だのと気が遠くなったので軽く渫ったところでやめた。

 ……なんつーか、ああいうの見せられると先行きが不安になってくるぜ。

 

 ともかく、これで遠山のことはある程度わかった。

 成績優秀に加えてそれっぽい補正持ち、関係者には見目麗しい少女の姿もある。

 イケメンだが、どことなく冴えない印象があるのもそれらしい……。

 まあ、いかにも主人公って感じだな。

 

 ……あ、あとそれからだ。

 1日観察して見た感じ、遠山もあまり積極的なタイプではなさそうだった。

 同じ専門科目にいても、こちらからなにかしらのアクションを起こしさえしなければ妙な衝突もないだろう。

 ここは当分、あいつの周囲では大人しくしているのが吉か。

 

  

 ○月●日

 

 とても今更だが、この世界には武装探偵──略して武偵という国家資格がある。

 俺が賞金首狩りで楽をするためにも、手に入れておいて損はないと考えてる資格もこれだ。

 

 この武偵免許を持つ者は武装を許可され、逮捕権を有するなど警察に準ずる活動が可能になる……。

 その存在意義はさておき、報酬と引換に様々な方面から依頼を受ける何でも屋、それが今現在の武偵の在り方だ。

 時に銃を手にして巨悪を打ち砕き、時に腰を痛めながら延々と草むしりをする。

 そのどちらも同じ武偵の仕事だっていうんだから、温度差に驚きだな。

 ま、どちらにせよ正当な報酬──サラリーのもとに依頼される仕事なわけだ。

 件のポイントは俺が金銭を消費することでも僅かに入ってくるので、武偵ってのは将来の仕事としても悪くなさそうなんだよな……。

 

 なお、強襲科に所属する生徒が生きて卒業できる確率は97.1パーセントである。

 残りの約3パー? ……ハ、ハ、ハ、。

 

 

 ○月●日

 

 今日も今日とて俺は授業に出席し、蘭豹先生からの無茶振りをこなし、おまけに絡まれ酒を飲まされ……。

 あれオカシイな、俺は武偵免許を取るために学校に通ってるんじゃなかったのか。

 

 武偵校に入学して、なんだかんだでもう3ヵ月。時間の経過とは早いものだ。

 相変わらず親しい友人はいないものの、蘭豹先生や仕事で組む生徒、エージェント体のプチコマと話し相手には事欠かないでいる。

 学園島すら動かすゴリラ女・蘭豹のお陰で俺まで変人扱いされてしまっているが、あくまで俺は一般武偵校生だ。

 そこんとこヨロシクゥ……。オマエマルカジリ。

 

 

 ○月●日

 

 今日も今日とて武偵見習いは往く……。

 

 普段、任務は同じ強襲科の生徒数人と組んでいるのだが。

 今回はいつもと少し毛色が違い、俺は狙撃科の少女と組むことになった。

 

 同期の中じゃかなり背の低い俺と同程度の身長と頭のヘッドホンが特徴の少女で、名前はレキ。これは一応覚えておこう。

 移動の空き時間、暇になってヘッドホンでなにを聞いてるのか話を振ってみたら、風の音を聞いていると短く返ってきた。

 

 うんまあ、あんな真顔で風の音と言われてもなんのことだかさっぱりなのだが。

 ……ニュアンス的にはたぶん、ゴーストの囁きみたいなもんだろうか。

 俺はまだ囁きが足りてないが、その代わりにプチコマが頑張ってくれている。

 そんなこんなで話してるうちに俺たちは現場に到着して、仕事に取り掛かった。

 

 ちなみに、誰と組んでようが俺が任務中にやることは大して変わらない。

 単身で突入して場を荒らすだけ荒らして駆け回り、状況次第では壁をぶち抜き、隙があれば銃撃や格闘戦もする。

 射撃の命中率は入試の前にインストールしていた補助ソフトがインジケーターを表示してくれるお陰で悪かないが、格闘戦は……要手加減の練習ってとこか。それかこっちにも制御ソフトを入れるか。

 普段ならなんやかんや時間の掛かる内容の仕事も、今日は狙撃手であるレキが同行していた為にいつもより早めに片付いた。同行者様様だな。

 

 ……ま、こんな任務を普通の武偵はひとりでやるっていうんだから、俺のデッドエンド回避への道はまだまだ遠く険しいんだろう。

 なんせ、この程度で手こずってるようじゃあな。

 おもえば安価なボディとはいえ義体を使ってんだから、チンピラくらい1人で殲滅しなければ。

 少佐やバトーさん並とはいかなくても、作中に登場するちょっと強いモブキャラレベルは目指そう。

 

 閑話休題──。

 

 仕事のあとは特に何事もなく報告を済ませ、いつものように蘭豹先生に絡まれてから寮の自分の部屋に戻った。

 っと、そうそう。帰りがけに寄ったコンビニでレキと遭遇したんだったな。

 プレーン味の某有名バランス栄養食を手にしていたので夕飯かと聞くと、そうだと返事が返ってきた。好きなのだろうか。

 ともかくそれだけじゃ味気ないだろうと大豆と果物のバランス栄養食を一本購入して追加してやると、いつかちゃんとお返しをするとお礼を言われてしまった。

 いや、こっちも任務を手伝ってくれたお礼のつもりだったんだがな……。

 

 

 ○月●日

 

 今日は相手側の想定外な装備や急な増員もあり、思いのほか時間が掛かってしまった。

 まさか機関銃まで持ち出してくるとはな……。

 

 ただ、こっちも別の任務に出ていたレキが駆け付けてくれたお陰で日付を跨いでから間もなく制圧が完了。

 あー、疲れた。さっさと帰って寝る。

 

 

 ○月●日

 

 今日は昼まで休んで、起きたらまずレキに改めて礼を言いに行った。

 

 当の本人は礼を言われて即、以前のお礼だと平然と返してきたが。

 お前さんや、二百円にも満たないたった一本の栄養食で働き過ぎだぜ。むしろお釣りで借りができたなぁと感じるレベルだわ……。

 

 そうしてこの借りは必ず返すと誓ってから、彼女と別れて蘭豹先生のところへ。

 話に聞くところによればなんと、あの鬼教師がわざわざ任務帰りのレキをこっちまで寄越してくれたらしい。

 案の定ぐだぐだとうざ絡みされ、酒もしこたま飲まされたが。おいコラ教師。

 けどまあ、死なれたら明日の酒が不味くなるなんて言われたらなにも言い返せんよな。

 

 で、酒の肴になんか一発芸披露しろと言われたので仕方なく左手だけで小さな鶴を折って渡したら面白くないと殴られた。嘘やん。

 こちとら全身全霊を掛けた渾身の一発芸を披露したつもりやぞ。最終回で謀殺されたくない念を込めた、制御ソフトを一切使わない片手折り鶴だぞ?!

 ……ああ、なんか殴った方が痛そうにしてたけど。無茶振りに応えられただけでもマシだというのに何というマジ理不尽……。

 

 

 ○月●日

 

 なにやら最近、俺の周りを変な女が辺りをうろちょろしてるらしい。

 俺も薄々勘づいてはいたが、決め手はばったり鉢合わせたレキからの情報だ。

 

 どうも俺のことを嗅ぎ回っているようだったので念の為プチコマに調べさせたところ、彼女は探偵科でちょっとした有名人らしくいい趣味してるらしい。

 あまり詳しくは聞かなかったが、放置していい手合いじゃないとのこと。

 で、誰でどんな手合いかと思えば入試で転けそうになっていた女子だった。

 俺に訊きたいことがあるなら直接訊けと釘を刺しておいたものの、この忠告にどれだけの効力があるものか。

 あれだ、これで大人しく聞くなら有名にはなってないだろうし。

 

 女子に忠告した後、追跡されないように曲がり角で光学迷彩を使ってセーフハウスに寄り、そのまま寮に帰ったが……少し警戒しすぎか?

 

 

 ○月●日

 

 高価な機密ボディとその先にあるもの。

 スペック的にできないことはないと保証されている攻殻ロールも、やはり動きが完全に再現出来てるかと問われれば微妙なところだ。

 先人たるオリジナル達にはとても勝てないということは重々承知の上だが、それでも彼彼女らを真似てる以上はそれなり以上の完成度が欲しいところ。

 

 が、どうするにも圧倒的に経験値が足りていない。

 ……やはりまたビルから飛び降りてみるしかないか。

 

 

 ○月●日

 

 以前注意した探偵科の、確か峰理子だったか。

 それがどういうわけか連絡を入れてきた。

 なにかと思えば茶の誘いで、ケーキを奢られた。

 

 どうも知りたいことがあるなら直接訊けと言い含めたのを覚えていたらしく、ケーキと引き換えに情報をねだられた。

 俺のことが知りたいだなんて物好きなやつめ。

 情報については質疑応答の形でいくらか答えて、探られると激痛の走る質問はケーキじゃ足りないとはぐらかしておいた。

 ……なんか、俺はまたケーキを奢られる予定らしい。

 

 それはそうと四対四の実戦テスト、カルテットが来週に迫っている。

 一年全員参加のこのテストで俺だけ参加しませんというわけにはいかないので、俺も誰かとチームを組むことになるわけだが……それでも俺がやることは大して変わらないだろうな。

 

 

 ○月●日

 

 カルテットはこちらのチームが勝利を収めた。

 試合では真っ向から勝負を挑むことはせず、俺はひたっすら逃げて撃つだけだったものの。

 全体的に見ると圧勝だったらしく、そうでないとなァと今日は一段と蘭豹先生のテンションが高かった。

 

 そういえばだいぶ前に折って渡した鶴が綺麗に加工されて吊るされていたな。……十中八九加工したのはアレじゃなさそうだが。

 視線に気付いた本人は、生徒からの好意を無下にするのは教師としてどうのこうのと調子良く喋っていた。

 おう、あん時のあんた面白くないからって殴ってきたろ。俺は覚えてるぞ。

 

 

 ○月●日

 

 武偵殺し、武偵殺しねぇ。ここ1年の中じゃわりとデカい部類の事件だ。

 もっとも、まだ原作スタートというわけではない。

 記憶が正しければ、物語の始まりは遠山が二年に進級してからだったはず。

 

 にしても、武偵を狙うってんで武偵殺しと呼ばれちゃいるが、その実未だに死者は出てないんだよな。

 乗り物に爆弾を仕掛けて、無人移動銃座で追いかけ回して海に叩き落とす手口。

 この世界のマジな凶悪犯罪と比べればまだ愉快犯レベルってとこだろう。

 実際、俺が使ってる賞金首狩りのリストにもまだ載ってないしな……。

 

 

 ○月●日

 

 今日はレキと組んで仕事をした。

 

 彼女とは教務科の勧めもあってそれなりの頻度で組んでいる……といっても、まだどんな任務だったか数えて思い出せる程度のもんだが。

 それでも俺の共闘回数最多記録をぶっちぎりで更新しているのは間違いなく彼女だ。

 

 いつだかの厄介な仕事以来、現場に着いたらまず枝を張る*1ようにしているので、今回は以前のように援軍が来ても相応の対処ができた。

 面倒もなかったしな。いつだかの機関銃持ち出しはタチが悪すぎたんだ。

 枝に限らず武偵殺しの騒ぎがあってから、例えば光学迷彩やなんかの傍から見てわかるようなものは依然として人前で使わないものの、プチコマを経由させたハッキングやダイブ等はより積極的に有効活用するように意識している。

 この世界のネットのレベルじゃどこまで活かせるかわからないが、電脳戦の経験値もいつか必要になってくるはずだ。

 

 帰りにどうして敵の位置が正確に分かるのかと訊かれて軽く焦った。

 普段のコミュニケーションでは受け身な姿勢のレキの方から、まさかそういったアクションを起こしてくるとは思わなかったもんだからな……。

 とりあえず熱感知ソフトの使用をバカ正直に答えるわけにもいかないので、彼女の風の音に絡めてゴーストの囁きに従ったと答えて誤魔化しておいた。

 ……まあ嘘は言ってない。ソフトの使用も情報を信じるかどうかも、結局は自分自身に従ったということなのだから。

 

 

 2009年──○月●日

 

 今日も特に書くことは……っと、ああ。

 そうだ、久しぶりに来週末から2日ほど休みをもぎ取ってやったぜ。

 

 基本的に蘭豹先生がひっきりなしに任務を回してくるもんだから、俺に土日祝日なんてあってないようなもんだからな。

 なくても無理に仕事用意してくるぞあの鬼。経験値はありがたいんですがね、それとこれとは話が別なんスよ。

 

 空きが出来たのは前述の通り来週末、一旦静岡にある我が家に帰宅して日々酷使している義体の本格的なメンテナンス、あるいは交換を行う。

 さすがにメンテナンスフリーのイモータル義体でもない、それもやっすい義体を使ってるのに1年近くノータッチで放置しておくのは不味いしな。

 安モンだし、ガタがきてりゃさっさと交換でいいだろう。

 

 

 ○月●日

 

 薄く埃の積もった我が家よ、俺は帰ってきた。

 ガレージで大人しくしていたプチコマたちも、俺の帰りを喜んでくれている。

 

 エージェント体で傍にいたとはいえ、直接触れられるのが嬉しいのだろうか。いずれにせよ可愛い。

 早速プチコマに義体のメンテナンスを手伝ってもらい、それから彼女らのボディの手入れをしてやった。

 ……また暫く帰って来られないだろうから、いつもより念入りに。

 

 これといって何かをするわけでもなく、ただのんびりとしているのは本当に久しぶりだ。

 あー、また明後日から任務祭りか。結果的に望んだこととはいえ、少し憂鬱になってくるな。

 

 

 ○月●日

 

 久しぶりの大仕事だったからか、精神的な疲れが出た。

 疲れてるはずなのになかなか寝付けないんで、日記をつけながら真夜中の学園島をほっつき歩いている。

 こうして歩いていると色々考えさせられるものだ。なんというか、1人反省会ってやつだな。

 今日の任務ではここがダメだったとか、ここはオリジナルならもっと上手くやれたとか。そういうことばっか考えている。

 

 オリジナル。俺が勝手に本家の皆様方をそう呼ばせてもらっているだけだが。

 マジで背中すら見えてこねぇの。追いかける身からすれば、偉大すぎてどこからが先達の背中なのかわかりゃしない。

 本当に俺なんかがデットエンド回避できるのか……?

 

 ……いや、やるんだ俺は。

 そのためにも経験値、経験値が足りねえ!

 もっと寄越せ、もっとだ……!

 

 

 ○月●日 

 

 ばったり出会したレキに普段世話になっているお礼として静岡土産を渡した。

 理子や蘭豹先生の分はもちろん休み明け、というより帰って早々に渡している。

 なんせ、わざわざ探さなくたって向こうから来るわけだしな。

 

 あれから1週間になるが、日持ちする物なので問題なし。

 常に持ち歩いてたのかというツッコミもなしだ。実際場所に困るもんでもなかったし、その通りだからな。

 ちなみに土産は橙マーマレード。これでヨーグルトでも食べればいいだろうさ。

 

 

 ○月●日

 

 明日から新学期。

 可哀想な俺は、蘭豹の新春大任務祭りで春休みなんてないものだった。

 

 ……というかだ、入学から休みなんてそんなにもらってないんだが? あらやだうちの学校ブラック一歩手前じゃない。

 まとまった休みがないならせめて日中くらいのんびりしたいと、楽しみにしていた桜の24時間監視ごっこも蘭豹のラブコールで早々に中断。

 

 ガーッ、任務に駆り出されるしマジ碌なことがねぇ!

*1
盗聴行為、細工すること




高校一年目〜二年目、始業式前日


前回までのお気に入り登録、しおり、評価、ありがとうございました
ここすき? なんてのもあるようで

次回からやっとこ人物視点です
感想なんかあると作者は大いに喜びます

▲ページの一番上に飛ぶ
Twitterで読了報告する
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。