ARIA T.S.A. RE:GHOST?   作:かまぼこ大明神

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02'' 電脳日記(上) - SPADEWORK

 2006年──○月●日

 

 今日から後期の期末考査だ。

 あまり成績上位に固執せず、当たり障りなくマイペースをモットーに挑む。

 かといって赤点は勘弁だが……。

 

 日本国籍を持つ14歳の男子中学生、当たり障りのない経歴の数々。

 この世界のシステムで十全な、完璧なものを用意するのは容易ではない。

 しかし、苦労しただけの価値はあった。

 デッドエンド回避が最優先目標とはいえ、外界との接触を完全に断つ気は毛ほどもない。

 積極性に欠ける性分といえども、だからといって目と耳を閉じ、口をつぐんで孤独に暮らすのはゴメンだ。

 俺は元平凡な社会人として、今も健康で文化的な最低限度の生活だけは変わらず続けている。

 

 義体に慣れるまでの最初の1年間は、とりあえず最寄りの学校に転入生という形で籍を置きつつ、以前の学校から引き続き自宅療養中ということにした。

 そこから不毛の1年を経て、義体の扱いにある程度の自信が持てるようになってからは、それまでの経歴を加味して体が弱い控え目な生徒を演じ、進学先の中学校に通っている。

 そうして一歩引いた態度で臨んだことで、クラスメイトたちからはどうやらちょっと暗いやつだと思われているらしいが、変に目立つよりはいいだろう。

 

 なんて、言い訳もしつつ……。

 こればっかりは年齢差もあって、なんとなく俺が彼らのテンションに乗り切れていないだけな気もする。

 

 

 ○月●日

 

 プチコマからの提案もあり、今朝から軽いジョギングをはじめることになった。

 義体なので筋力が鍛えられることはないが、継続して周囲に運動している様子を見せることで、体が弱い設定の俺が今後何らかのアクションを起こした際、有利に働くだろうという計画だ。

 たしかに、今後の予定を考えるとポーズでも体力作りをしていますアピールはしておいた方がいいかもしれないな。

 

 

 ○月●日

 

 先日の定期試験の結果が発表された。

 中の上、上の下をふらふらしている感じだ。

 これなら内申点も悪かないだろ、たぶん。

 

 あと数ヵ月もすれば進級、中学三年の春が来る。

 成績から見るに学業に関しては特に滞りなく、学生としてソツなくこなせているように思う。

 ……問題は、結局クラスにあまり馴染めなかったことくらいか。

 もういっそ開き直ってしまうかな。

 

 

 ○月●日

 

 三年から授業に参加してみないかと、体育の教師から提案を受けた。

 今年まで体育の授業は全て見学扱いにしてきたが、両親とよく相談して、受けるなら書類にサインを貰ってくれとかなんとか……。

 

 もちろん、俺に両親はいない。

 強いて言うならプチコマが身内みたいなもんだな。

 ちなみに、体育の授業についてはプチコマと相談するまでもなく参加は決まっている。

 早朝のジョギングもはじめたことだし、ちょうどいい機会だろう。

 サインは自分で筆跡を変えてもよかったが、ふと冗談でプチコマに求めてみると、4本指のマニュピレーターでペンを取りそのまま器用に名前を綴った。

 ……少し負けた気分だ。

 

 

 2007年──○月●日

 

 中学三年となり、担任の教師らから本格的に進路の話題が振られるようになってきた。

 

 進路については一応自分なりに考えてある。

 俺の前にある選択肢は2つ。

 台風の目理論で物語の舞台となるであろう東京武偵高校へ進学するか、しないかだ。

 

 俺は物語の内容をあらすじでしか知らないので、どこでどんなことが起こるだとかまではわからない。

 そもそもまず本当にこの世界がラノベ通りに話が進むのかもわかっていない。

 だが、奇しくも主人公らが俺と同い歳なのはわかっている。仮説が正しければ2008年の新入生だ。

 高校二年の春。一癖ある主人公と、そんな主人公よりも癖のあるヒロインの劇的な出会いから物語は始まる……ん、だったか?

 

 いずれにしても、進路希望調査表の提出期限までには答えを出しておかないとな。

 

 

 ○月●日

 

 進路についてだが、ひとまず考えがまとまった。

 とりあえずは、なにも考えずに入試を受けるだけ受けてみようと思う。

 受かったらそっちへ進むし、受からなかったらそれはそれで別の道を探す。

 これで行こう。なるようになる──いや、そうした方がいいと俺のゴーストが囁いてるんだ。きっと。

 結局は運に任せた丸投げ論だが。自分の中では、別に悪い考えではないと思っている。

 武偵を養成する機関というくらいだ。向こうに行けばそれなりの経験値が得られると考えていいハズ。

 

 それに、だ。武偵になれば今みたいにこっそり賞金首狩りをしなくてもよくなる。これは大きなメリットだ。

 ここ最近はセーフハウスの確保や高い機密ボディ、装備の支度でなにかと支出が多かった俺の厳しい懐事情。

 そうでなくても万年金欠に悩んでいるのだ。大手を振ってポイントを稼げるに越したことはないだろう。

 

 

 ○月●日

 

 進路希望表を提出した俺に、最初の壁が立ちはだかった。

 担任だ。元は辻褄合わせに使っていたしょうもない設定とはいえ、体の弱い俺が武偵高を目指すことに難色を示している。

 一応武偵は武偵でも探偵学部を志望すると伝えてみたが、口ではやるだけやってなどと言いいつつも、あまり納得はしていなさそうだ。

 

 

 ○月●日

 

 下校中に立ち寄ったコンビニで、運悪く強盗に遭遇してしまった。

 こないだの悩みがまだ解決していないってのに。全くついてない。

 

 商品の吟味中に大柄なおっさんに迫られて思わず反射的に殴って捻り上げてしまったが、幸い無意識に加減ができていたのか軽く伸びる程度で大事には至らなかった。

 どうせ人質にでもしようと思ったんだろう。同年代の中でも小柄な部類の俺に目をつけたまでは良かったんだがな。

 まさか相手がサイボーグだとは思うまい。お互い運が悪かったんだよ、ほんとに。

 

 にしても賞金首狩りで自分から犯罪者に絡みに行くことは何度かあったものの、向こうから絡んでくるのはさり気に初めてだ。

 なんというか、いよいよもって治安の悪い世界っぽさが出てきたな……。

 まあ、とはいえコンビニ強盗なら()()()()()()()()()()()()()()()()()()か。

 相手がナイフで、銃を持ち出して来なかっただけまだマシだと思うべき……って、何だか日々のニュースに随分と毒されてきてる気がするな。

 

 

 ○月●日

 

 まずったなぁ……。

 どうやら先日のコンビニ強盗の一件が、うちの学校にまで伝わったらしい。

 今朝全体朝礼で校長にわざわざ前に呼び出されて、警察からの感謝状をもらった。

 

 殴っただけ──こちとら事情を知らなかったもんだから寸前まで暴行罪になるんじゃないかってびくびくしてたくらいだし、変に話を大きくするのは勘弁して欲しいって事情聴取の時に言っておいたはずなんだが。

 この調子だと、残念ながら俺の願いは無事(?)聞き届けられなかったらしい。

 いっそ聴取を受けずに逃げるべきだったか……いや、あの時にはもう顔見られてたしな……。

 

 おかげで以前まで話したこともないような相手からよくよく声を掛けられるようになった。

 社交辞令で応答こそしてるものの、またこれが微妙な感じなんだよな。

 

 

○月✕日

 

 世の中には有名税というものがある。誰もが一度は耳にする、悪名高い代償みたいなもんだ。

 もちろんそんな税金は実在しないが、有名になると損なことも多いってのはよく聞く話だ。

 

 それは政治家や芸能人、スポーツ選手だったり、作家だったりとジャンルを問わない。

 名のある人物は常に週刊誌の記者の目を気にし、ちょっとした発言にだって気を遣わなければならなくなる。

 俺の場合、暗い印象だった奴が形がどうであれ有名人になったのだから、それを気に入らないと思うやつだってそりゃ当然いるわけで。

 

 要するになんだ、なんかガラの悪い変な連中に目をつけられたっぽい。

 ……憂鬱だ。

 

 

 ○月●日

 

 これも怪我の功名ってやつなのか。

 

 因縁つけてくる連中の対策に実害が出る前に手を出せない状況に持ち込もうと考えた結果、校内では存在感を消すように意識して無視を徹底、下校前にまずトイレの個室に身を隠し、光学迷彩を起動させてそのまま帰宅……という流れがここ一週間で完成しつつある。

 図らずも隠密行動の練習となっているが、この付け焼き刃の技術がここでどれだけ通用するものか。

 

 思えば多少ガラの悪い中学生なんて、今後あるかもしれない最悪と比べれば癇癪玉と核爆弾ほどの差がある。

 生き残りたいなら、この程度で憂鬱だなんて嘆いてはいられないのだ。

 

 

 ○月●日

 

 今日から週末までの5日間、高校入試の都合で東京に滞在の予定だ。

 都市部の駅に到着するなり早速ひったくりに遭遇して早々にうんざりしたが、ここまで来たからには明日からの入試最後までやりきってやろうじゃないか。

 

 ちなみにひったくりは首根っこ鷲掴みでとっ捕まえた。

 ……首の骨折らないように加減はしたぞ?

 

 

 ○月●日

 

 東京武偵高校──。

 あらすじに出てきた主人公達が通う学校である。

 俺はそれしか知らない。いや、知らなさすぎた。

 とんでもねぇキャラが通う高校なんだから、教師だってとんでもねぇ奴らだって少し考えりゃわかるはずだってのに……。

 

 今朝、肝心の試験で蘭豹という名の鬼のような教師に目を付けられてしまった。……比喩ではなく。

 相手さんについて、軽くネットに潜って調べただけでも目眩がした。

 蘭豹。香港マフィア、ボス、娘。これだけでわりとお腹いっぱい。

 少なくとも下手に逆らって良い相手ではないし、安易に敵に回したくない人物である。

 

 一般入試である筆記試験の会場に向かっている最中、うっかり「お、美人だ」なんて一瞬目を奪われたのが運の尽き。

 次の瞬間にはお互いバッチーっと目が合って「何見てんだコラ」からの実技試験行きである。

 ……目が合ったら殺すって、スレンダーマンかよ。

 

 正直に言うと、実技試験でも余裕だと思っていた。バリバリ慢心してた。

 最初は受験生同士による捕物競争と、そう道中に鬼教師──もとい蘭豹先生から試験内容を伝えられて少し焦ったものの、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 もちろんこんな試験受けるくらいだから他の受験生は腕っぷしに自信がある、或いはそういった訓練を受けているのだろうが、そうはいっても一般学校出身の素人の域を出ないはず。

 ──と、まあそんな感じに考えていたわけなんですが。

 

 その結果は散々たるもので。

 逃げ回るのに必死で、肝心の撃ち合いも事前にブラックマーケットから取り寄せてインストールしていた射撃ソフト頼み。

 アシストによって精度は上がるが、そこに読み合いや技術なんてものはない。

 結局誰かを撃退してポイント稼ぎなんて余裕もそんなになかったし、最後は残ってる奴らと如何に遭遇しないようにするかに全振りだった。

 試験用に新調した機密ボディの性能に加え、補助ソフトやプチコマのサポートを受けておきながら余裕がないというのはなかなか……。

 

 なんというか、正直言ってこの先が思いやられる。

 賞金首狩りで図に乗っていたのか。こいつはもう、試験に受かる受からない以前の話だ。

 いずれにせよ、このままじゃダメだ。帰ったら気を引き締め直ささないとな。

 

 

 ○月●日

 

 祝、合格。マジか。




中三〜高校入試、合格


まだ盛り上がりには欠けますが……
感想なんかあると作者は大いに喜びます
ROMってる間に色々機能が追加されてたみたいっすね

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