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“新潟のドン” VS.「スマホ録音議員」 田中真紀子と遺恨、口癖は「カネよこせ」

「週刊文春」編集部

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 新潟が揺れに揺れている。泉田裕彦衆院議員が「2、3000万の裏金を要求された」と星野伊佐夫県議を名指しで告発。スマホで録音した音声データを公開したのだ。一方、県政を牛耳ってきたドンは小誌の単独取材に応じ――。

「泉田さんが『選挙って幾らくらいかかりますか?』って聞いてきた。私は『それは2、3000万くらいじゃないの?』とこう言った。お金の話はこれ以外、何も出してないんですよ」

――誘導された、と?

「私のところに来るのに盗聴器(スマホのこと)を持ってくるなんてことは納得ができませんよねぇ。本当に変わったな、ここ2~3年。人を疑う猜疑心が強くなったなぁと思うね」

 12月6日、小誌の単独取材に応じたのは、“新潟のドン”と呼ばれる男。星野伊佐夫県議(82)である。

「俺は泉田さんに会いたいよー。明日、家で待ってるからさ」

 9月3日夜、泉田裕彦衆院議員(59)のもとに星野氏から一本の電話が入った。

 翌4日朝、泉田氏が訪ねたのは、床面積約300平米、3階建ての瀟洒な豪邸。二人きりの場で交わされた会話について、泉田氏が明かしたのは、約3カ月後の12月1日のことだった。

「総選挙で、2、3000万円の裏金を要求されました」

 さらに12月3日、当日スマホで録音したとする音声まで公開したのだ。一方の星野氏は「裏金じゃなくて政党活動費の話」と否定。互いに一歩も引かない事態となっている。

 泉田氏は87年に旧通産省に入省。04年からは三期12年にわたり、新潟県知事を務めてきた。17年の衆院選で自民党から出馬(新潟5区)し、初当選。二階派に所属している。

元新潟県知事の泉田氏

「泉田氏の評判は一言で言えば、“変人”。協調性に欠け、パフォーマンスが目立つタイプです。知事時代は原発の再稼働に否定的でしたが、再稼働を進める自民党から国政出馬が決まると、言葉を濁すようになりました」(自民党関係者)

 そんな泉田氏を支えてきたのが、星野氏だ。自らの会見でもこう語っている。

「泉田知事は変人だという声が県庁の内部や他の議員からも出た。私はそれを打ち消すのに大変、時間がかかった。周りで支えて三期務めてもらったんです」

泉田氏の3.5倍以上の収入

 なぜ、一地方議員に過ぎない星野氏にそこまでの政治力があるのか。

「史上初めて県議として県連会長に就任。09年から7年間務めました。県連の収入は年4億円。これだけのカネを動かせるポジションに居続けたのです。16年に退きましたが、現在、当選12回。二階俊博元幹事長や河村建夫元官房長官とも太いパイプを持っています」(県政関係者)

県連会長を7年務めた星野氏

 星野氏の権勢はその集金力からも窺える。

 星野氏が代表の「自由民主党新潟県長岡市・古志郡第一支部」(20年)の収支報告書によれば、収入額は約7340万円。泉田氏が代表の「新潟県第五選挙区支部」(20年)の収入額が約2000万円だからその3.5倍以上だ。

「星野氏が豊富な資金力を持つに至った背景には、“角栄直伝”の政治手法がありました」(同前)

 故・田中角栄元首相の地盤、長岡市に生まれた星野氏は58年に長岡商業を卒業。同級生が振り返る。

「卒業後は、兄が社長を務める星野組という土建会社に入社。公共工事などを担当するうち、県幹部と知り合いになったそうだ」

 転機が訪れたのは、20代前半。角栄の地元秘書で、「国家老」と言われた本間幸一氏との出会いだ。

「本間さんは『活きの良い若者はいねぇか』と越山会のスタッフを探していた。それで、白羽の矢が立ったのが星野だった」(知人)

 やがて星野氏は若者を束ねる越山会の青年部長として頭角を現し、78年の県議選補欠選挙で初当選を果たす。元栃尾市長の馬場潤一郎氏が回顧する。

「10数年前まで、越山会は越後交通のバス10数台を貸し切り、支援者と温泉旅行に行くのが恒例行事でした。それを長く仕切っていたのが、星野さん。角栄からの覚えもめでたく、引退後、星野さんが後継者として国政に転じるという話が幾度も浮上していたほどです」

田中角栄後援会を仕切ってきた

 結局、県議として県連を取り仕切る道を選んだ星野氏。自身が私淑してきた角栄の長女・真紀子氏にも容赦しなかった。田中事務所の元秘書が明かす。

地元建設会社の“長岡詣で”

「きっかけは、98年の参院選です。星野氏を筆頭にした県連は現職の真島一男氏を推しましたが、同時に96年の衆院選で落選した真紀子氏の夫・田中直紀氏が無所属で出馬。夫の応援をしようとしない星野氏に、真紀子氏は『パパの応援をしないなんて、何やってんのよ!』と激怒していました。以来、真紀子氏との間には遺恨が続いています」

真紀子氏とは決裂

 実際、夫の直紀氏も今回のバトルを受け、周囲にこう漏らしていた。

「国会議員を飛び越し、権限を振るってる。自分独自に勝手にやっているわけだから、越山会の流れはもうないよ。俺も選挙中に変な文書を撒かれたもんだ」

 真紀子氏とは決裂したものの、“ミニ角栄”と言われるその政治手法に磨きをかけていく。ある自民党議員の後援会幹部が目の当たりにしたのは、“目白詣で”ならぬ“長岡詣で”だ。

「十年ほど前には“長岡詣で”が頻繁に行われていました。長岡から50キロほど離れた新潟県十日町の土建会社の役員は『星野先生に挨拶へ行ってくる。これがないと県の仕事が来ない』と言いながら、200万円が入ったバッグを手に長岡に通っていました。選挙が近づくと『おい、選挙だから100万円よこせ』というのが、星野氏の口癖です」

 だが、そんな星野氏に捜査のメスが入ったことがある。長岡市発注の下水道工事を巡る官製談合事件で19年1月、「星野氏の右腕的存在」(同前)の秘書・A氏が逮捕されたのだ。

「実は捜査の“本丸”は星野氏だった。ところが物的証拠が出ず、A氏も関与を認めなかったため、立件は見送られました。A氏は公判で弁護人から『今後政治には関わらない?』と問われ、『はい』と答え、執行猶予付の判決が下された。ところが結局、星野事務所に戻って“裏仕事”を担っています」(地元記者)

 こうして、“新潟のドン”として君臨してきた星野氏。それは、泉田氏との関係においても変わらない。

 例えば、泉田氏の資金管理団体「泉田裕彦政治経済防災研究会」の収支報告書によれば、選挙区内の各支部に5万円程度を寄付しているが、ダントツに多い100万円を寄付しているのが「長岡支部」。星野氏が代表を務める支部だ。さらに泉田氏個人も100万円を寄付しており、計200万円を星野氏側に寄付している。

長岡支部への支出がダントツ(泉田氏の収支報告書より)

「そもそも岐阜県に出向していた泉田氏を知事選に擁立したのが、星野氏。17年の衆院選も周囲の反対を押し切り、出馬させた。それゆえ、星野氏になかなか逆らえなかったわけですが……」(同前)

 今年5月にはこんな出来事があったという。東京から長岡の事務所に出張中だった泉田氏の女性公設秘書の携帯が鳴った。電話の相手は星野氏。瞬間、耳をつんざく怒号が響いた。

「河野太郎との二連ポスターなんて長岡市内には一枚も貼らせないぞ! 大変なことになるからな」

「みんな二階派に入れて」

 星野氏は河野太郎ワクチン相(当時)ではなく、菅義偉首相(同)のポスターに替えるよう命じたという。その翌日、秘書が星野事務所に謝罪に出向くと、待ち構えていたのはA氏だった。

「A氏は『あんた、何考えてるんだ!』と怒鳴っていた。そうした横暴ぶりに、泉田氏の不満も限界に達していきます」(県連関係者)

 結局、泉田氏は10月末の衆院選では野党統一候補の米山隆一氏に敗退し、辛うじて比例復活で当選する。そして12月3日、星野氏が裏金を要求したとされる音声を公開したのだった。

新潟5区で当選した米山氏

 当事者たちはどう答えるのか。星野氏は12月6日、冒頭のやり取りに続き、以下のように語った。

――過去に、いわゆる裏金を受け取ったことは?

「ありませんよ」

――地元の衆院議員や元市長から受け取ったことは?

「いやいやいやいや、そんなことありません。それは昔の話ですよ! 何かというと、車代や電話代でしょ? そんなものです」

――A氏は働いている?

「まだ(執行猶予が)2カ月かそこらあるんで。私の大事な片腕で物凄く大切な人。もう兄弟のようにね。前、迷惑かけたけどね」

 翌日、再び取材に応じた。

――二階氏とも親しい。

「私はね、どちらかというと、二階派の皆さんと付き合いが多いよね。金子恵美さんだとか、長島忠美とか、みんな二階派に入れてもらったんですよ」

――真紀子さんと確執が。

「生き様が正直な方ですよね。はっきり言って。(今は)応援もしてないし」

――角栄に学んだことは?

「私がオヤジさん(角栄)から習ったのは、周りが助けてくれることを有難いと思わなきゃダメだよ、ということです。愛だな、愛」

――泉田さんはそれが足りない?

「実は昨日から、お前も子供みたいなことしてんだって言われて、ものすごくショック受けてます。もうあなたの電話が最後(笑)」

 書面でも事実確認を求めたが、回答はなかった。

二階派と近い

 一方、泉田氏に事実確認を求めたところ、主に以下のように回答した。

「(泉田氏の)秘書への裏金要求は継続的にあったものと認識している。

 過去の5区支部長も長岡支部に寄付してきたから、『お前も』との要求でした。ただ、5区支部が長岡支部の経費を一部負担していたこともあり、交渉の結果、200万円分の寄付ということで合意した。なお、その後の資金提供の際、現金での持参を強く要請されたため、振込先口座を教えてもらうのにかなりの時間がかかったと記憶している。

 星野県議から『河野太郎とのポスターなど、長岡市内に一枚も貼らせない』と秘書が言われたことは事実。断り通したところ、激怒され、大変なことになるぞ、と恫喝されたとのことです」

 県連は二人を聴取の上、年内の決着を目指すという。

もともと“蜜月関係”だった2人(新潟テレビ21より)

source : 週刊文春 2021年12月16日号

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