はい、ロミオを捕まえた。

さて、少々付き合ってもらおうか。

うるせぇなぁ。少し黙れよ。

やっと黙りやがった。
どうだ？
お前と同じトリックを使ってやったんだぞ？

自分で使ったトリックに、自分が引っかかってどうするんだよ？
お前はバカなのか？
いや、バカなんだろうな。
この人殺しのクズ野郎め。

俺様の見立てに間違いはない。
小阪を殺したのはお前だ。

ああ、確かに殺すつもりであれば、俺様に依頼する必要性を感じない。
小阪がどんな状態だったのか、検死の詳細なんて知らんが、こんなことでも言われたんじゃないか？

お前との子供ができた、とかな。

子供ができた。
絶対に堕ろさない。
そうなれば結婚しか道はない。
いくら俺様が新しいロミオをあてがっても無駄なことだ。
妊娠させて別れるとなれば、小阪の中に住む別人格が暴れ始めるだろう。
世間体も最悪だ。
その時、お前の中に住む悪魔が 囁（ささや）いた。ジュリエットを殺してしまえ、とな。

しかし、お前は俺様に「縁を切りたい」と依頼してしまった。
明確な殺害動機だ。
これではどう小阪を殺しても、お前に疑いの目が必ず向く。
ならばどうしよう？
お前はこう考えたのかな？
自分が犯人としてかなり疑わしいが、犯行不可能な状況を作り出す……。
例えば、今の張り込みされている状況と、マンションの密室を活用できないだろうか……。

お前は考えが 安直（あんちょく）なんだ。
犯行不可能な密室だから犯人ではない、という防衛線は、

『密室条件がクリアされれば犯人である』

という物的証拠でもあるんだ。
だから現実世界で密室殺人なんか起きないのさ。お前はドラマや漫画の観すぎだよ。

そう、張り込みがあった。
だからこそ犯人がお前だと気づくことができた。
俺が張り込みの様子を聞いて、真っ先に違和感を覚えたのは、正面エントランスの 『ポスト』だ。

お前と小阪が一緒に帰った時、ポストに入っていた郵便物を回収していた。しかし深夜、小阪が帰った時も、エントランスのポストを開けている。
おかしいよな？
ポストなんて開ける必然性がない。
無視して部屋に帰るべきだ。
なぜそんなことをしたのか……。
お前たちの行動スケジュールを考えれば、答えが見えてくる。

昨日の朝、お前はわざわざ小阪を迎えに行ったな？
だが、小阪がうっかり寝過ごしてしまえば、チャイムを押しても、電話をかけても、全て無駄足に終わるんだ。
じゃあ、そんな時のためにどうするべきなのか……。

恋人であり、朝になれば迎えに来るとわかっている『お前』にカードキーを渡して、ポストに入れておいてもらうのさ。

夜は基本的に家から出ない。
次の朝にはお前が来る。
だからお前はポストに鍵を入れてマンションを出て、その鍵で小阪を起こしに行く。
これがルールだったはずなんだ。

だから深夜、小阪はポストを開けても鍵がないことに驚き、オートロックの前で立ちつくした。
それでお前に携帯で怒ったのさ。
お前はこう言ったのかな？

『ごめんね。ポストに入れるのを忘れて、持って帰っちゃった』

とかな。それをお前は……

小阪の部屋の中で、
言っていたんだよな！？

そうだろう？
お前は携帯電話で、うまく小阪をコンビニまで移動させた。
オートロックがあれば部屋に鍵をかけなくとも不安が少ない。
外出している僅かな時間帯にマンションの住民が、鍵が開いていることに気づき、忍びこむ可能性は皆無に等しい。
どうしても不安なら1階まで降りて鍵を回収し、部屋に戻って閉めればいい。
小阪はそれをしなかったし、お前もそうさせないように誘導したのだろう。

密室のひとつ、涼太の張り込みはここだけに穴があった。
小阪と涼太をコンビニへ誘導させ、
お前は非常階段を上る。
これで監視カメラを突破。
部屋の扉も突破だ。
『四重の密室』の中へ侵入することに成功した。

これはお前にとって賭けだった。
小阪はオートロックを突破できず、部屋に帰ることができない。
だが朝までの時間であれば、誰かがエントランスを通ると踏んだのだろう。
運の悪かった小阪はオートロックを通過して部屋に戻り、部屋で待っていたお前に刺し殺された。

お前は部屋を出て鍵を閉めると、『ドアポスト』を開けて室内にカードキーを放り投げた。
これで部屋の密室は完成だ。
部屋はそれでいい。
しかし、問題はここからだ。
マンションからいかに脱出するか。
監視カメラと涼太の張り込みという『二重の密室』が残っている。
突破するトリックが必要だ。

だが、それも俺様の姿を見れば、すでに暴かれていることが理解できるだろう？
ジュリエットの住むマンションにはダストスペースがあり、ゴミを運ぶためのエレベーターもあった。
お前はそれを使って1階まで降り、ダストスペースから駐車場に出て物陰に隠れた。

記事によれば『マンションの住民』と『関係者』以外は、玄関と駐車場の監視カメラに映っていない。
では、この『関係者』とは誰だ？
そう、マンションの管理人と、
ゴミ収集業者だよ。

だからマンションまで行って、管理人に尋ねてきたよ。
当然ながら防犯のため、1階のダストスペースにも鍵がかかっている。ここがガラ開きだったらオートロックなんて意味がない。
つまり、これは広義に解釈すれば
『四重の密室』じゃないんだ。

『五重の密室』なんだ。
ならば、事件当日の朝、ダストスペースの扉は開いていたのか？
ここが閉まっていると手詰まりだ。
そいつを管理人が教えてくれたよ。

なんと！　昨日の朝！
ダストスペースの鍵は開いてたんだとよ！
だが、珍しいことでもないらしい。
住民にとってはゴミを捨て、駐車場に出られる便利な扉だ。その日もそんなことだろう、と思ったらしい。これで『五番目の密室』もクリアできた。

つまりこうだ。
マンションを出たお前は、ゴミ収集業者に見えるような衣装でも探しに行った。
ダストスペースから駐車場に出ると、衣装に着替えて駐車場に隠れ、ゴミ収集車が来るのを待った。
ゴミを回収し、収集車は駐車場を出て行く。それに捕まって乗ったり、走って追いかけたりすれば、ゴミ収拾業者の関係者に見える。
そうやって監視カメラと涼太の張り込みを騙したんだ。

後は普段着に着替え、何食わぬ顔でマンションに戻るだけ。いかにも迎えに来たのにカノジョが起きない、という演技をしてな。
起きるワケないさ！
お前がその手で殺したんだからな！
これで四重……いや五重か。
密室の謎は解けた。

そうなると不思議だなぁ。

『殺したのはお前しかいない』

そんな結論にたどり着くんだ。
部屋には第3者の痕跡がない。
どうせお前のアリバイはない。
密室と不可能条件はクリアできる。
ほう、これは驚いた。
なんと、もうお前以外に、
犯人がいないんだ。

あっはっは！
本当にバカだよな！
密室という証拠が、お前を犯人だと教えてくれるのさ！　自分で作ったトリックが 『自分が殺人者です』と証明してしまう！　だから現実世界で密室殺人なんか誰もやらねぇんだよ！

何が違うんだ？
もう密室の謎は解けたんだ。
警察に教えてやれば、ダストスペースや駐車場からお前の痕跡を探し当てるさ。

お前はまだ気づいていないのか。
バカなロミオだ。
『証拠』なら、もう手に入れたぜ。

嘘じゃないさ。
そもそも、これは『五重の密室』じゃないんだよ。

これは実のところ、
『四重』でも『五重』でもない。
『六重の密室殺人』なんだ。