日記
ハンマー・マジック (岡山秋の音会 その3)
岡山・秋の音会への遠征記の続きです。

今回は、岡山だけではなく私にとっては久しぶりの2Hさん邸訪問です。瀬戸大橋のルートは本州四国連絡橋の中でも最短のルートですが、橋梁部は尾道・今治ルートとほぼ同じ。陸上部が短いだけにかえって豪快な眺め。

香川県側に上陸したところで、昼食。2Hさんの案内で、さっそく評判の讃岐うどん屋さんへ。美味しかった!
2Hさんのオーディオルームは、14畳分の二間続きを合わせた大空間のオーディオ専用スペース。マジコのハイエンドスピーカーを長手方向のほぼ真ん中に据えた配置は独特の空間感覚です。機器類は、ラックを使わずすべてスピーカーの後方の平土間に展開しているというのも独特で、そういうシステムの基本は、やはり変わっていません。
まず最初は、Blu-rayによるAV再生で絢香のライブ。

はっとしたのは、ディスプレイがスピーカーよりはるか後方に置かれているのに、音の奥行き位置と映像とがまったく違和感がないことです。4年前は空間感覚があまりにも研ぎ澄まされていて、聴いていてそのテンションの高さにちょっと疲れてしまうところとか、リスポジやソフトによって音場や音像定位が極端に変わってしまうところがあったのですが、これはとてもナチュラル。音像輪郭も線ではなく前後の曲面を感じさせる自然な3D立体感です。
スピーカーは以前に比べると少しだけ前方(リスポジ側)に移動したとのこと。アンプの配置なども変更があるようです。音響パネルやフロアに敷いたモジュールマットなども無くなって、全体にシンプルになりました。電源関連も変更があったようですが詳しい説明は伺っていません。とにかくそこかしこに2Hさんの細かいこだわりがうかがい知れるのです。しかも、そういう細かい変更なのに、大幅な進境ぶりなのです。
とにかくステージ全体の奥行き感(Ensemble Depth)と個々の奥行き(Individual Depth)が半端ない。音像定位が明快で、その安定度は抜群。特に奥行きの表現が素晴らしいのです。立体感覚に無頓着なセッティングでは金魚鉢や水族館の水槽を眺めているような再生になってしまいがちで、どこかに面が生じたり屈折率の歪みようなものがあるのですが、2Hさんは部屋ごと音楽会場にワープしたかのような空間共有感があります。
その意味で、このソフトは2Hさんの独壇場という感じでした。

雷鳴には、ほんとうにドキリとさせられました。2chのピュアオーディオにもかかわらずサラウンド・パンニングでは、ほぼ円を描きます。さすがに真後ろでは頭に近めの後ろを横に移動する感覚になりますが、これは5.1chのサラウンドでも傾向は同じだと思います。
それが、ゴムプラスチック・ハンマーでスピーカー・ベースをコツンと一撃すると、なんと音像や空間がバラバラと崩れてしまいます。これにはびっくり仰天しました。スピーカーセッティングは、まさにコンマ1ミリのフォーカス。自分のシステムも含めて、数々の平行法セッティングを体験していますが、ここまで繊細なものは初めての体験でした。ほんの少し戻すとほぼ元に戻りますが、直前までの立体フォーカスまでに戻すにはかなり時間をかけて調整する必要がありそうです。まさにマジック。とにかく驚きました。
音色や質感の向上にも目を瞠るものがありました。

カラヤンの第九リハーサルをかける2Hさん。第四楽章では、カラヤンは楽章初めの低音弦パートを執拗に繰り返させて、音の強弱やアウフタクト、アクセント、音の区切りなど、こと細かに指示を出します。その度にみるみる音楽に生気を帯びていく。2Hさんは、本番よりもこのリハーサルの方が低音の量感や質感がよく捉えられているというのです。それは、自分のシステムの低音に自信を得たからだということなのでしょうね。
helicatsさんが、この日に持ち回ってかけたハイレゾ音源。

残念ながら、唯一、ディスク派の2Hさん宅ではうまくセッティングができませんでした。でもCDなら持ってますよということで再生してみましたが、helicatsさんはハイレゾ再生に未練が残ったようです。面白かったのは、ハイレゾでは2曲(カナリア~500マイル)が1トラックでつながっているのに、CDでは別トラックになっていること。それで最初は、ちょっと混乱。こんなこともあるのですね。
helicatsさんのお目当ては、「500マイル」冒頭のベースのアルコ。ほんの10秒程度のところ(笑)。でもこの新譜は、井筒香奈江のボーカリズムの原点回帰みたいなところもあってなかなかの録音。このほか、スイートサウンドさんご紹介の森恵、とりさんのUruなど、さすが女性ボーカル・フリークの岡山・音会の面々らしいソフトに耳を奪われました。

Uruは、かなり録音レベルが高くて音量設定に戸惑うところがありましたが、音会の皆さんのサウンドをお聴かせいただいた後で自宅で聴いてみると、拙宅システムでのこれらのソフトの再生にはちょっときつさも感じる部分もあって、まだまだだなぁと痛感させられました。
最後に、例の余興です。

2Hさんは、実はEDさんと同じアイソレーショントランスをお使いです。このトランスは、Soulnoteのパワーアンプ(デジタル(PWM)パワーアンプ)だけに使っています。そこで、スイートサウンドさん持参のノイズカットトランスはCDプレーヤー(Esoteric K-01)につないで、ここだけでの有無の比較となりました。
直列カスケードほどではなく違いはわずかですが、ほぼ同じ傾向だと感じました。

Uruでは特にわかりやすかったかもしれません。《有り》だと、音像が引き締まり、“よりオーディオ的になる”印象があります。一瞬、お?いいかも!とも思いますが、《無し》に戻すとと、ボーカルにわずかにピッチを変えた音声がかすかに重ねられていることがわかったり、エコーがよく聞こえるなど音楽的な情報量が多いことが感知できます。
帰りは、丸亀駅まで送っていただき、JRで帰宅の途につきました。

初めて鉄道で渡る瀬戸大橋から観る夕景が素晴らしかった。車内は立ち客が出るほどの混雑でした。
音会の皆さん、2日間、楽しくも充実したオーディオ旅でした。大変お世話になり、ありがとうございました。
(終わり)
レス一覧
-
ベルウッドさん、こんばんは。
嬉しい記事をいただきありがとうございます。きっと色々吟味なさったのでしょうけれど、その結果の文章がとても正確に拙宅の環境を現してくださっていると思います。
拙宅は音源に即した音を出すことを目標にしています。極力、特定分野の音に注目した調整や、器材の固有の脚色がないように心がけています。
そのためか、音に関してはほぼ全く触れられておりませんから、『この音が』と意識されないくらい違和感がなかったのだとすれば、それで全く良いわけです。或いは言及するにも値しなかったかΣ( ̄ロ ̄lll)!?笑
一方で、そこそこ安定した音場(になっている……であろう??)環境下で、動いたようには見えないズレであれだけ音空間が変わってしまうという実態は、どうにかその先を追ってきた副産物の現象です。
そういった雰囲気を酌んでいただけたとすれば、とても嬉しいことです(=゚ω゚)ノ
以前お越しいただいてからの変化で効いたのは、結局一番がSP位置で、あとそれぞれ同程度でトランス、たわしアース、ケーブルの洗濯ばさみ(笑)、と思います。SP位置以外は碌に吟味なんてしていませんから、こだわりと称すには恐れ多いような変更です(^▽^;)
オミクロンがどうたらと言われ始め、ちょっとまた行き来が難しくなってしまうかもしれませんが、いずれまたお目にかかれることを楽しみにしております。
by2Hくん at2021-12-03 23:13
-
ベルウッドさん
>ハイレゾでは2曲(カナリア~500マイル)が1トラックでつながっているのに、CDでは別トラックになっていること。
逆のパターンですが
PentaToneの192KHz Tchaikovsky: Violin Concerto /ユリア・フィッシャーの2楽章と3楽章の繋ぎで時々プツンと音が出ていました。
元々2楽章と3楽章は別ファイルでしたが2つを足して1ファイルにしたら残響の微小音を含めて見事に繋がってプツンの音も出なくなりました。
ハイレゾ配信をする時に単純に2分割したみたいです。
192KHzを分割するには何等かの処置が必要かもですが音の劣化を嫌ってそのまま配信?
今回はCDにする時に2分割したパターンですね。
それか単純にトラック番号を挿入しただけとか?
byhelicats at2021-12-04 00:44
-
ベルウッドさん おはようございます。
2Hさん宅での空間表現は、いつもながら見事ですね。ただ、ベルウッドさんの隣に座って聴いていたのですが、ハンマーマジックは、良く分かりませんでした。
我が家では、ハンマーを使ったことは無いので、その内やってみようかと思っていますが、ツイーターBOXなどは置いているだけなので、だるま落としのように移動して、元に戻らなくなるかも?・・・・
今回は、ノイズカットトランスの効果を他のお宅でも確認しようと計画したのですが、私としては意外な結果となりました。
我が家の2階では300VAタイプが活躍しているのですが、今後は、じっくり聴き直してみたいと思います。
なお、ノイズカットトランスをご利用の方には、ご心配をおかけしているようですが、我が屋では、電源極性の管理やアース接続などは行っていませんので、詳細な確認はできません。この場をお借りして、お知らせします。また、この件について、コメント等ありましたら、私宛のメッセージ等でお願いします。
byスイートサウンド at2021-12-04 09:06
-
2Hさん
音色や質感もよかったですよ。やはり色づけとかオーディオ的誇張がないところが2Hさんの真骨頂ですね。それでいてソフトのそのものの音色を出す能力としての感度の高さとレンジの広さを感じました。カラヤンのだみ声(笑)はともかく、コントラバスとチェロの合奏は素晴らしかったですね。
>SP位置以外は碌に吟味なんてしていません
いえいえどうして、どうして。かなり細かいところにいろいろやっておられるなぁと感心しました。そういうことって、思いつき、気づき、とっつき、やみつき、という「つき」の積み重ねなんですよねぇ(笑)。
東京にお出でのことがあれば、ぜひ、お声がけください。
byベルウッド at2021-12-04 09:57
-
helicatsさん
あそこは、もともとはダイレクトカッティング盤の別テイクなんですよ。「カナリヤ~500マイル」ということで続いているのが本来の収録なんだと思います。ですから分割していないハイレゾが本来の形。でも別テイクはDSD11.2で収録してPCMにダウンコンバートしているので、演奏としては続いていてもトラック分割は可能です。なぜCDだけ分割したのかはよくわかりませんけど。
「500マイル」のイントロは踏切をイメージしているんだそうです。
DSD再生では、続きものでトラック分割していると、ギャップレス再生でも、どうしてもプツンとノイズが微かに入りますね。あれはどうしても入っちゃうのですかね。
byベルウッド at2021-12-04 10:11
-
スイートサウンドさん
ハンマーマジックはわかりませんでしたか!?
…ということは、リスポジの厳しさは依然として強いということですかねぇ。そういえば皆さん遠慮されるので、ほとんどセンターリスポジを独占させていただいてました。すみませんでした。
もうちょっと他のリスポジで聴いてみたほうがよかったかもです。それにしても、2Hさんの空間表現は独自の素晴らしさがありますね。
お使いのノイズカットトランスは、3Pの電源コンセントではなかったでしょうか。そうであれば、極性もアースも管理するまでもなくそのままだと思います。ただし、アースは(ニュートラルラインから)独立していて、それがトランスのシールドにつながり、2次側にも同じ3P仕様でつながるのでクリティカルかもしれません。一般的な2線100V仕様では本領発揮しないのかもしれません。専用アースを取るべきでしょうね。
2Hさんご自身がお使いのアイソレーショントランスの方は、別途コーセルのパワーラインフィルターを併用していて、アースもベースケースを経由させるというひと手間加えた上で、専用アースを取っておられました。窓からアース線が外に引き出されてましたね。ご本人に聞いたわけではないので正確ではないかもしれませんが。
ノイズカットトランスは、それと同じか、あるいはそれ以上にアースがキモだと思います。
byベルウッド at2021-12-04 10:44
-
ベルウッドさん、スピーカーのセッテングは最後はトントン!の感覚で1mm単位なんですよね。
それが完璧に出来る人はオーディオマニアでもごく僅かだと思います。
私が知っているだけで3人ですが、その方々のピントが合う音には納得させされます。
私はcmオーダーですから腕は二流と言われても仕方ないです。
まぁ、指向性の広い音にして二流の腕をカバーするのが精一杯です。
byニッキー at2021-12-05 13:25
-
ニッキーさん
2Hさんのセッティングは、1mm以下です。何しろハンマーでカン!とスピーカーベースを叩いただけでしたからね。ピントの感覚ってそういうものだとわかっていてもびっくりしました。
一方では、リスポジをとても限定的にしてしまうセッティングには、一般的にはとても寛容ですね。頭を左右に動かしただけで定位が動いてしまうというセッティングも数多く経験してきました。
これらに対して、とても大らかな空間再生というのもありますね。喫茶店とかバーなんかでは、鴨居あたりにけっこう離して左右のスピーカーを設置するとか、あるいは逆オルソンとか波動スピーカーとか空間感覚を損なわずに広い指向性での再生など。
byベルウッド at2021-12-05 20:32
レスを書く