※この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは一切関係ありません。



 その日、天野あまの涼太りょうたは小学校の「同窓会」に参加していた。



 約10年ぶりの同窓会。



 しかも初めての開催とあって、会場は懐かしい顔ぶれで溢れていた。



天野勇二

まったく……。
俺様はこんな会、出たくなかったんだがな。

佐伯涼太

何を 野暮やぼなこと言ってんの。
折角の再会じゃん。
もっと楽しもうよ。

 

 愚痴ぐちる天野とは対照的に、涼太は上機嫌だ。

 

天野勇二

どうせ、お前は旧友との一夜限りのロマンスが目当てなんだろ?
相変わらず下半身から先に動く男だな。

佐伯涼太

そんなことないって。
僕は初恋の「あの娘」に会うのが楽しみでしょうがないんだ。

天野勇二

よく言うぜ。
もう何件コンパの約束をとりつけた?

佐伯涼太

えっとね、
まだたったの4件。

天野勇二

実にチャラいゲス男だ。
お前は期待を裏切らないな。


 天野は酒を飲みながら、会場を見渡した。


 ここは一流ホテルの一室。


 安い会費にしては豪勢な同窓会だ。


 恐らく幹事である星崎ほしざきの手回しだろう、と天野は思った。


???

あー!
勇二くん、涼太くん!
久しぶり!

 

 天野たちを見つけて、1人の同級生がやって来た。

 

佐伯涼太

おっ! 里香りかちゃんだ!
すっごく綺麗になったね!

天野勇二

そうだな。
驚くほど美人になったな。

里香

ホントにぃー?
やだぁー。
2人とも褒めすぎなんだけど。

 

 里香はお世辞とも気づかず、嬉しそうに笑った。

 胸元を強調したドレスに本日の意気込みが表れている。

 

里香

勇二くんと涼太くんは、相変わらず仲が良いのね。

佐伯涼太

もう腐れ縁だよ。
まさか大学まで一緒とは思わなかったね。

里香

どこの大学に通ってるの?

 

 天野は大学名を告げて、

 

天野勇二

涼太は文学部。
俺は医学部さ。

 

 と、何事もないように言った。

 

里香

す、凄いじゃない!
2人とも頭良かったもんね!


 途端に里香の瞳がキラキラ輝き出した。


 長身のイケメンコンビが一流大学に通っており、その片方が医学部在籍と聞けば、無意識の内にテンションが上がっても致し方ないだろう。



 その姿を見て、天野は内心舌打ちをした。


 大学や学部名を聞いて、態度の変わる人間が嫌いなのだ。


佐伯涼太

ねぇ里香ちゃん、
星崎くんを見なかった?


 天野の機嫌が悪くなることを察したのだろう。


 涼太がすぐに話を逸らした。


里香

星崎くんは幹事だし、あちこちのテーブルを回ってるからねぇ。
……あれがそうかな?

 

 里香が指さした方向に、旧友たちと談笑している星崎の姿があった。

 

天野勇二

星崎には礼を言わないとな。
ちょっと行ってくる。

佐伯涼太

あ、僕も行くよ。

 

 天野と涼太は里香に別れを告げて、星崎の下へ向かった。

 

天野勇二

星崎よ、久しぶりだな。

星崎孝雄

……おっ、勇二に涼太か!
久しぶりだな!

 
 天野が声をかけると、星崎は嬉しそうに破顔した。
 
 

星崎孝雄

いやぁ、学校きっての秀才が揃ってお出ましとは、同窓会を開いたかいがあったよ。

佐伯涼太

勇二はともかく僕は秀才じゃないって。
それよりホッシー、ありがとう。
こんなに素敵な会場を手配してくれて。
君のコネなんでしょ?

星崎孝雄

こんなコネはとっておきなんだぜ。
たまたま空いてただけだよ。

 

 星崎はホテルチェーンのオーナーの息子だ。

 医者の息子である天野とは、また違った種類のボンボンといえる。

 

天野勇二

こんな豪勢なパーティ、医師会でも開かないぜ。さすがホテル王の息子だな。

星崎孝雄

よく言うよ。
医者の息子の勇二には敵わないよ。

 

 2人は和やかに笑った。

 旧友のため、嫌味も皮肉も混ざっていない。

 涼太はその姿を嬉しそうに見つめた。

 

佐伯涼太

ねぇホッシー……。
綾瀬あやせさんは、
やっぱり来れなかったの?

星崎孝雄

綾瀬って、あの綾瀬か……。

 

 星崎は辛そうに口を開いた。

 

星崎孝雄

あまり具合が良くないらしい。
電話してみたんだが、外出は難しいと母親に断られた。

佐伯涼太

そっか……。

 

 涼太は肩を落とした。

 

天野勇二

綾瀬の具合が良くないというのは、 『EPP』の影響か?

 
 『EPP』とは「骨髄性プロトポルフィリン症」のことだ。
 肌に紫外線が当たると傷みを伴うだけではなく、肝臓を悪くしてしまうという難病だ。
 日本では数十人ほどの発症者がいる。
 

星崎孝雄

それが、どうもそれだけじゃないみたいなんだ。

天野勇二

それだけじゃないとは、
どういうことだ?

 

 星崎は周囲を見渡した。

 

星崎孝雄

ちょっと暗い話になる。
2次会、もしくは3次会で話そう。

 

 そう言うと星崎は天野たちに別れを告げ、別のテーブルへ移って行った。

 

天野勇二

残念だったな。
やはり涼太の初恋の人は現れず、か。

佐伯涼太

覚悟はしてたけど、やっぱり寂しいね。

天野勇二

夜間の外出すら厳しいとは、肝臓に異常をきたしたのかもしれんな。

佐伯涼太

そうだね……。

 
 涼太は珍しく落ち込んでいる。
 天野はその姿を見て「無理もないか」と感じた。
 
 綾瀬と誰よりも親しくしていたのは涼太だ。
 ほぼ付きっきりで面倒を見ていた。
 初恋の相手、というだけではない絆があった。
 

佐伯涼太

……まぁ、
気分を切り替えていこうよ。

 

 涼太は軽薄な笑みを浮かべ、明るい声を出した。

 

佐伯涼太

他にも可愛い子はいるんだ。
今夜の内にじゃんじゃんコネ作らないと!
さぁ、合コンが僕ちゃんを待ってるぞぅ!

 

 涼太は鼻歌を奏でながら、女子のテーブルへ飛び込んで行った。

 すっかりいつものチャラ男に戻っている。

 

天野勇二

(それがお前らしいよ)

 

 そう思いながら天野は涼太の後ろ姿を見送った。

 

 

 

 その天野を1人の旧友が見かけた。

 

???

……勇二?
勇二じゃないか!

天野勇二

おお、橋田はしだか。
久しぶりだな。

  

 天野と橋田は親しげに握手を交わした。

 

橋田翔馬

懐かしいな。
勇二はやっぱり医者を目指しているのか?

天野勇二

まぁな。
敷かれたレールの上を走ってるよ。
橋田は何やってるんだ?

橋田翔馬

俺も敷かれたレールの上を走ってる。
警視庁に入ろうと思ってる。

天野勇二

なんだと?

 

 天野は驚いて橋田を見つめた。

 小学生の頃、橋田はそこまで秀才という訳ではなかった。

 

天野勇二

お前キャリアになるのか。
随分と勉強したんだな。

橋田翔馬

親父が警視庁に勤めてるからな。
同じ道を歩んだ結果、そうなるだけだよ。

天野勇二

なに?
お前の親父、どこの課に属してるんだ?

橋田翔馬

警視庁の捜査一課だよ。

 

 天野はたまらず尋ねた。

 

天野勇二

だったらお前、うちの大学で起きた殺人事件を知らないか。

橋田翔馬

大学ってどこのだよ。

 

 天野は大学名を告げた。

 橋田は驚いて声をあげた。

 

橋田翔馬

それってあれか?
交際相手を自殺に見せかけて殺した連続殺人事件のことか?

天野勇二

そうだ。
あの事件は俺が解決したんだ。

 

 橋田は唖然とした。

 天野を頭の先からつま先まで見つめる。

 

橋田翔馬

お、お前が?
まさかそんな……。
……いや、勇二だったらやりかねないな……。

天野勇二

橋田の父親が捜査一課だとはな。
コネクションが欲しい。
連絡先を交換してくれないか?

 

 橋田は肩をすくめて言った。

 

橋田翔馬

別に構わないが、民間人と警察が協力するなんてドラマの中の話だけだぜ。

天野勇二

もちろんわかってる。
だが、他にも殺人事件の犯人を突き出してやってな。

橋田翔馬

ほ、他にもって……。
お、お前、今何やってるんだよ?

天野勇二

ただの大学生さ。
犯人を捕まえるのは大したことじゃないんだが、警察に届けて事情を説明するのが面倒でなぁ。
警察関係者とのコネが欲しいと思ってたんだ。

橋田翔馬

そ、そうなのか……。

 

 天野と橋田は連絡先を交換した。

 

天野勇二

同窓会なんて気乗りしなかったが、こんな発見もあるとは。
来てみるものだな。

橋田翔馬

あまり期待するなよ。
役に立てるか正直わからないよ。

天野勇二

逆に俺のコネクションはフル活用してもらって構わない。
中絶させたい女がいたら連絡しろ。
うまくもみ消してやる。

 
 天野の父親は産婦人科を元に手広く病院を経営している。
 確かに困った時は頼りになるだろう。
 

橋田翔馬

あはは、確かに病院関係者である勇二のコネはありがたいな。
何かあったら頼むよ。

 

 2人が談笑していると、1人の女性が声をかけてきた。

 

???

……やっぱり。
勇二くんだ。
お久しぶりね。

 

 天野と橋田は振り返って女性を見つめた。

 そして驚いて声をあげた。

 

天野勇二

お、お前……。
まさかとは思うが、
坂上理恵子さかがみりえこか?

橋田翔馬

う、嘘だろ?
こんな美人さんになったの?


 坂上は あでやかな紫色の着物をまとっていた。

 モデルのような長身の細身体型。
 品よく結われた黒髪の下にはうなじが覗き、同年代とは思えないほどの色気を放っている。

 そこに2人が知っている坂上の面影はなかった。

坂上理恵子

ダイエットしたの。
どう?
綺麗になった?

 
 天野も橋田も驚いて頷くばかりだ。
 
 小学6年生の時、坂上理恵子はクラスで一番の『巨漢女子』だった。
 おまけに短気。
 気に入らないことがあればすぐに拳を振り回す。
 誰よりも喧嘩が強かった。
 
 
 天野は当時から格闘技をかじっていたが、坂上とはまともに喧嘩したことがない。
 つまり、喧嘩することを避けていたのだ。
 
 
 それなのに成長した坂上は、この場にいる誰よりも輝いている。
 圧倒的な美人。
 顔立ちすら変わっているように見える。
 
 
 天野は坂上の顔をじっと注視した。
 

天野勇二

(顔をイジりやがったな……)

 

 父親が美容整形外科を経営してることもあり、天野は整形に明るい。

 

 目元と鼻筋にメスを入れたな、と判断した。

 

坂上理恵子

これ私のお店なの。
良かったら来て欲しいな。

 

 坂上は名刺を2人に手渡した。

 スナックの名刺だ。

 場所は銀座の一等地。

 

天野勇二

私の店って……
経営してるのか?

坂上理恵子

そうなのよ。
まだ始めたばかりだけど。

天野勇二

ほう。大したものだな。

 

 同世代の人間が銀座に店を構えるとは、なかなか出来ることではない。

 相当な苦労をしたか、かなり有能なパトロンを捕まえたのだろう。

 

坂上理恵子

今夜は2人に会えて良かった。
特に勇二くん、私、あなたのことが好きだったのよ。

天野勇二

俺を?
お前に何かしたか?

坂上理恵子

したわよ。

 

 坂上は優雅ゆうがに微笑んだ。

 

坂上理恵子

勇二くんだけが、私を「デブ」とか「ブス」とか ののしらなかったじゃない。
いつもイジメから守ってくれた。
すごく嬉しかったな。
あなたは私にとっての王子様であり、ヒーローだったのよ。

橋田翔馬

あ、ちょっと俺、
酒取ってくる。


 橋田が気を利かせてその場を離れた。

 天野は坂上に向き直った。


天野勇二

そうなのか。
気づかなかったよ。

坂上理恵子

中学は別々になって、とても寂しかったんだから。
今日は天野くんに会えることだけを楽しみにしてたの。

 
 天野は少年期の自分を思い浮かべた。
 
 
 幼い頃から「神童」や「天才」と呼ばれてはいたが、今ほどの「クソ野郎」ではなかった。
 成長した今では『天才クソ野郎』と呼ばれる問題児だが、小学生の頃はただの正義感の強い少年だった。
 くだらないイジメは見過ごさなかった記憶がある。
 

天野勇二

そうか……。
それは光栄だよ。

 

 天野は素直に礼を述べた。

 

坂上理恵子

ねぇ、同窓会が終わったら、2人きりで飲みなおさない?


 坂上は意味深な笑みを浮かべながら誘った。

 天野がどうしたものか悩んでいると、


佐伯涼太

やっほー!
勇二ってば誰と話してるの?

 

 涼太が戻ってきた。

 天野がとんでもない美人と談笑しているのを、すかさず見つけたのだ。

 

坂上理恵子

あら涼太くん。
久しぶりね。

佐伯涼太

えっと、君は……?

坂上理恵子

やだ、坂上よ。
坂上理恵子。
忘れちゃった?

佐伯涼太

ええっ!?
さ、坂上さん!?

 

 涼太は仰天して飛び上がった。

 

佐伯涼太

ほ、本当にあの坂上さんなの?
マジで!?
すごく綺麗になったね!
見違えたよ!

坂上理恵子

うふふ、ありがとう。

 

 坂上は涼太にも名刺を手渡した。

 

坂上理恵子

これ、私のお店。
良かったら飲みに来て。

佐伯涼太

銀座に店を構えてるの?
うわぁ、あの頃の坂上さんとは思えないよ。

坂上理恵子

涼太くんも一緒にどうかな。
同窓会が終わったら飲みなおさない?

佐伯涼太

行く行く!
行くに決まってんじゃん!

 

 涼太はすぐに同意した。

 美人からの誘いを断る理由はない。

  

佐伯涼太

あっ、だけどさ、
ホッシーも呼んでいいかな?

坂上理恵子

ホッシーって星崎くん?
もちろんいいわよ。

 
 坂上は優雅に同意した。
 仕草のあちこちに余裕と色気が潜んでいる。
 
 なるほど、10年もたてば人は変わるものだなと、天野は素直に感心していた。
 

 

 

 

 同窓会が終了すると、天野と涼太、星崎と坂上の4人はバーへ向かった。

 

星崎孝雄

この4人なんて、
珍しい組み合わせだよな。

 

 星崎が笑いながらビールを飲んでいる。

 

佐伯涼太

そうだね。
僕と勇二はコンビみたいなもんだったけど、ホッシーに坂上さんなんて珍しいよね。

 

 天野はジンを舐めながら、涼太に尋ねた。

 

天野勇二

涼太よ、星崎を誘ったということは、綾瀬のことを聞きたいんだろう?

 

 天野が涼太の背中を押した。

 涼太は深く頷いた。

 

佐伯涼太

……うん。
ホッシーに綾瀬さんのことを聞きたかったんだ。

坂上理恵子

綾瀬さんって、確かお日様に当たれなかった……。

佐伯涼太

そうそう。
厄介な難病を抱えてたよね。

 

 坂上は日本酒を飲みながら微笑んだ。

 

坂上理恵子

涼太くんと綾瀬さんは仲良しだったわね。
同じクラブだったし。
いつも一緒にいたような気がする。

佐伯涼太

そうだったねぇ。
6年の時は毎日一緒だったよ。

 

 星崎はそんな涼太の横顔を切なげに見つめ、ゆっくり口を開いた。

 

星崎孝雄

あくまで電話で聞いた話なんだけどさ、肝臓がかなり悪いらしいんだ。
外出できないほど弱ってるって。なんでも……

 

 星崎は辛そうにビールを飲み干した。

 

星崎孝雄

ガンが見つかったそうなんだ。

 

 残酷な言葉に、その場は凍りついた。

 星崎は場を静寂させた責任を取るように言葉を続けた。

 

星崎孝雄

ただでさえマトモな日常生活を送れないってのに、酷い話だよな。

天野勇二

肝臓か?

 

 天野が星崎に尋ねた。

 星崎は「たぶんな」と答えた。

 

星崎孝雄

正直、もう長くないらしい。
同窓会で誰か気になる人がいれば、見舞いに来て欲しいと伝えてくれって、頼まれたよ。

 

 星崎はビールを追加で注文した。

 涼太は青ざめて黙り込んだままだ。

 

星崎孝雄

だけど、今日の場ではそのことを話せなかった。
一気に場が冷めてしまうし、俺には話す勇気もなかった。
見舞いになんて行けないよ。

 

 星崎は涼太を強い視線で見つめた。

 

星崎孝雄

だけどな、涼太には見舞いに行って欲しいんだ。

 

 坂上がその言葉に続く。

 

坂上理恵子

そうよね。
涼太くん、誰よりも綾瀬さんに優しかったじゃない。

 

 涼太は呆然と目の前のグラスを見つめていた。

 ショックのあまり頭が真っ白になっているのだろう。

 星崎たちの言葉すら耳に入っていない。

 

天野勇二

涼太、しっかりしろ。
一番辛い思いをしているのはお前じゃない。綾瀬だ。

 

 涼太はその言葉で自分を取り戻した。

 

佐伯涼太

……そうだね。
お見舞いに行くよ。
綾瀬さんはどこに住んでるの?

 

 星崎は懐からメモを取り出し、涼太に差し出した。

 

星崎孝雄

鎌倉で静養しているらしい。
正直、俺は会いに行ける資格がない。行ける資格があるのは、涼太と勇二くらいだろう。

 

 星崎が辛そうに息を吐く。

 坂上が慰めるように背中をさすった。

 

坂上理恵子

仕方ないわよ。
小学生なんだから。
2人が特別だっただけよ。

星崎孝雄

そうかもな……。
俺は綾瀬さんどころか、坂上さんにも酷いことを言った。
今更ながら申し訳なく思うよ。

坂上理恵子

星崎くんも私のこと、ブスって馬鹿にしたもんね。
結構傷ついたのよ。

星崎孝雄

だけど、その度に殴られたぜ。

坂上理恵子

あら、ごめんあそばせ。

 

 ちっとも悪いと思っていない口調だ。

 どこかつやっぽい表情を浮かべ、星崎をじっと見つめた。

 

坂上理恵子

当時は本当に傷ついたのよ。
女子に『肉団子』なんて「あだ名」をつければ、殴られるのが当然じゃない。

星崎孝雄

ああ、そうだよな。
ごめんな。

 

 坂上は悪戯っ子のように微笑んだ。

 

坂上理恵子

ううん。
本当はもう気にしてないわ。
あの時のことがあったから、逆に頑張れたと思うし。

 
 星崎と坂上が話している間、涼太はメモに書かれた住所をじっと眺めていた。
 
 天野はタバコを吸いながら、涼太の横顔を見つめた。
 

天野勇二

なぁ涼太。
明日、一緒に行こう。

 

 涼太が驚いて天野を見つめる。

 天野は構わず言葉を続けた。

 

天野勇二

明日は日曜日だ。
暇だろ?
……いや、暇じゃなくても予定を全てキャンセルしろ。
ガンだというならば、急いだほうがいい。

 

 涼太は黙って頷いた。

 そして天野の顔を見つめた。

 

佐伯涼太

勇二も、一緒に来てくれるの?

天野勇二

ああ、綾瀬がどうしているのか見たいな。

 

 涼太は小さな笑みを浮かべた。

 

佐伯涼太

会ってうまく話せるかな。
僕は怖いよ。
症状の重い綾瀬さんに何を話せばいいのか、よくわからないんだ。

 

 天野はタバコの火を消し、涼太の肩を軽く叩いた。

 

天野勇二

この俺様がついている。
安心しろ。
俺様にかかれば全てうまくいくさ。

 

 その言葉を聞き、坂上が嬉しそうに声をあげた。

 

坂上理恵子

ああー! 懐かしい!
勇二くんの決め台詞!
あの頃と変わってない!

 

 星崎も嬉しそうに笑った。

 

星崎孝雄

そのセリフを聞くと勇二だな、って気がするな。

 

 涼太は苦笑しながら言った。

 

佐伯涼太

今でもしょっちゅう言ってるよ。
子供の頃から何も進歩してないんだからさ。

 
 涼太たちは声をあげて笑った。
 天野はその様子を嬉しそうに眺める。
 
 
 懐かしい旧友との再会。
 
 共に飲む酒の味は格別だと、天野は感じた。
 

佐伯涼太

……わかった。
明日、行くよ。
綾瀬さんに会ってくる。

 

 

 涼太は力強く頷いた。

 

星崎孝雄

辛い思いをさせるが頼む。

坂上理恵子

きっと綾瀬さんも涼太くんに会いたがってると思うわ。
優しく声をかけてあげて。

 

 天野は静かに言った。

 

天野勇二

病状はかなり重いだろう。
覚悟して行こう。

 

 涼太は黙って頷いた。

 

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つばこ

どうも、つばこです。
 
今回の「さよなら編」は全4話のエピソードになる予定です。
つまり来週の土曜日には終わってしまうのですが、楽しんでいただければ幸いです。
 
『天才クソ野郎の事件簿』は様々な要素(笑い、恋愛、友情、推理etc)を盛り込んだエンターテイメントにしたい、と考えておりまして、今回の「さよなら編」はそのひとつを埋めるピースになります。
私としてはかなり気に入っているエピソードのひとつです。
「comicoでも絶対に書きたいッ!!!」
と願っていた物語になります。
お気に召していただけたら本当に嬉しいです(´∀`*)ウフフ
 
そしていつもオススメやコメント、本当にありがとうございます! 
誤字や修正点、ご要望なども頑張って反映していきますので、これからも宜しくお願いいたします!

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コメント 156件

  • コクレア

    最新話見てまた戻ってきた…
    涼太好き…

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  • 麒麟です。Queen親衛隊

    このお話天クソで一番好きです*

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  • とりこ

    涼太くんは綾瀬さんのことが
    あったから、女の子と深く関わらなくなったのかな?

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  • カボルイス世ハピ天クソ契約

    はやくコミックで(高クオリティで)やって欲しい。

    これ4話しかなかったのかぁー、かなり好きだし全話買ってるわ

    通報

  • kj

    リアルではキャリアは警視庁じゃなくて警察庁だけど敢えて変えたかな?

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