今週もお読みいただきありがとうございます。
ここまでが「問題編」となります。
火曜日には「解答編」がアップされますので、ご期待いただければ幸いです。
【ここまでに明らかとなった天野くんの特殊能力まとめ】
・イケメン
・金持ち
・頭が良い
・喧嘩が強い
・女の子の扱いに長けている
・見るだけで「処女」か「非処女」か当てちゃう
・目を見るだけで心理を読んじゃう
・目を見るだけで「犯人」を当てちゃう ←New!!
天野くんはもはや人間じゃないな(´・ω・`)
小阪春香の殺人事件は大きなニュースになった。
一人暮らしの女子大生が自宅で刺殺された――。
それだけでも衝撃的な事件なのに、マスコミの興味を引き立てる要素がたっぷり詰まっていたのだ。
天野勇二
小阪春香は部屋で刺殺されていたところを発見された。
死因は失血死。死亡推定時刻は深夜3時から4時の間。
しかも、カードキーは室内の廊下に落ちていて、部屋は……
天野は新聞の記事を読み、呆れたように言葉を続けた。
天野勇二
……完全な 『密室』か。
どういうことなんだ、山本。
天野は新聞をテーブルに放り投げた。
目の前には相棒である涼太。
そして山本の姿がある。
事件を知った直後、テラスに呼び出したのだ。
山本直道
僕も、さっぱりわかりません……。
山本は真っ青になって震えている。
涼太はその姿を同情したように見つめた。
別れたいと願っていても恋人。
きっとショックは大きいだろう、と感じた。
佐伯涼太
ねぇ、山本くん。
昨日の朝、小阪さんを迎えに行ったよね?
山本直道
えっ?
ど、どうしてそれを……?
佐伯涼太
その現場を見てたんだ。
君たちを尾行して張りこんでいたのは僕なんだよ。
山本は納得したように頷いた。
山本直道
は、はい。
昨日の朝、彼女を迎えにマンションまで行きました。だけど、いくら呼び出しても、電話をかけても応答がなくて……。
頭を抱え、怯えたように言葉を続けた。
山本直道
あの時、もう彼女は死んでいたんですね……。
なんで、こんなことに……。
誰がこんな酷いことを……。
天野はその姿を冷たい目で見つめた。
天野勇二
(……安い芝居だな)
天野はもう一度新聞記事を眺めた。
小阪の死体を発見したのは、小阪の両親。
娘との連絡が一切取れなくなり、心配した両親が夜になって部屋へ向かった。
そこで息絶えた娘を見つけた。
部屋の扉はロックされていた。
犯人は外部から施錠したのだろう。
それなのに、鍵は室内の廊下に落ちていた。
確かに密室条件を満たしている。
天野勇二
おい山本よ。
お前、合鍵を持っていたのか?
山本は脂肪を震わせながら否定した。
山本直道
持ってません。
カードキーは2枚しかないんです。
彼女が使っていたものと、彼女の両親が持っていたもの。それしかありません。
天野は山本の顔を睨みつけた。
山本の瞳の奥底を覗きこもうとしている。
恐ろしいことに天野という男は、相手の目を見てある程度の心理を読んでしまう。
この男に簡単な嘘は通用しない。
山本直道
特殊なカードキーなので、管理業者じゃないと合鍵が作れないんです。
本当に合鍵なんて持ってません。
調べてもらえばわかります。
天野は山本の弱々しい顔を見て舌打ちした。
嘘を吐いている目ではない。
カードキーは2枚しか存在しなかったのだ。
つまり、本人と両親しかマンションに入れなかった、ということになる。
天野勇二
(どうなってやがる。どうやって侵入したんだ)
天野は何度も新聞を睨みつけた。
記事によれば、深夜1時から死亡推定時刻まで、マンションに侵入した人間は2人。
①殺された小阪本人
②深夜に帰ってきた細身の女性
細身の女性とは、オートロックを通れず立ち往生していた小阪を助けてくれた、スーツ姿の女性のことだ。
すでにマンションの住民である、ということが判明している。
おまけに殺害当日、監視カメラに映っていたのは『マンションの住民』と『関係者』しかいなかった、とも書かれている。
警察は外部関係者の侵入も脱出も記録されていない、と判断したのだろう。
天野勇二
(それも無理はない。カードキーだけでは、この密室を作ることはできないんだ)
天野は腕組みをして
新聞記事によれば 『三重の密室』だ。
部屋の鍵はロックされていた。
正面エントランスにはオートロック。
裏口からの侵入もカードキーが必要。
要所要所に監視カメラが設置されている。
①部屋の扉
②マンションに侵入する扉
③監視カメラ
この3点が、外部からの侵入を阻んでいる。
天野は新聞をテーブルに置き、静かに口を開いた。
天野勇二
山本よ、もう面倒だ。
結論から告げよう。
俺様は密室トリックなんてものはくだらねぇ、と考えているんだ。
ドラマじゃよく目にするトリックだが、俺に言わせれば、密室なんか作る必要性を感じない。
言い換えれば、密室トリックを解かなければならない必要性も感じない。
天野は肉食獣のような瞳を浮かべている。
山本は恐怖に震え上がった。
天野勇二
密室のトリックなんて解く暇があれば、犯人に尋問して中身を訊けばいい。どうせ決定的証拠ってのは『自白』しかねぇんだ。
つまり、お前に訊けば一番早い。
山本、俺様の見立てによれば、
お前が犯人だ。
山本は涙目で叫んだ。
山本直道
ど、どうして僕が!?
僕はマンションを深夜に出ました!
それから朝まで、マンションに立ち寄ってませんよ!
天野は極悪の笑みを浮かべた。
天野勇二
そんな弱々しいデブの演技をしても、天才クソ野郎の前では無駄なことだ。
お前は人を殺した目をしている。
俺様の目は誤魔化せない。
どうやって実行したんだ?
どうやって侵入不可能な密室を作りあげた?
山本直道
ぼ、僕じゃありませんよ!
僕には殺せないんですよ!?
それに殺すつもりなら、天野さんに相談しません!
山本は必死に訴える。
だが天野は非情だ。
天野勇二
黙れ。殺したのはお前だ。
お前には殺す動機がある。
縁を切りたいと願っていたじゃないか。後は殺害方法を明らかにするだけさ。
早く吐け。
どうやってマンションに侵入して殺したか吐くんだ。
吐かないのであれば、全身の骨を折るぞ。
天野は両指をポキポキ鳴らしながら立ち上がった。
このクソ野郎は様々な格闘技を習得している。
脅しではなく、本当に全身の骨を折ることが可能だ。
山本直道
ひぃぃ!
僕じゃないですってば!
山本は悲鳴をあげた。
天野は恐ろしいほどの殺気を放っている。
この男が放つ殺気は本当に怖い。
殺気だけならば、本職の極道にも負けていない。
佐伯涼太
ねぇ勇二、
それは言い過ぎだよ。
さすがに涼太が
佐伯涼太
証拠もないのにさ、山本くんを追いつめちゃダメだよ。
天野勇二
だが、絶対にコイツが犯人だ。
目を見ればわかる。
佐伯涼太
目を見ればわかる……って。
何をバカなこと言ってんのさ。
それじゃ立証なんかできないよ。
天野勇二
だから今脅してんだろ?
おら、吐けよ。
俺様の大好きな拷問の時間だ。
山本は震えながら立ち上がった。
これ以上ここにいたら、本当に暴力を振るわれそうだ。
山本直道
と、とにかく!
僕は本当にやってません!
失礼します!
山本は必死にテラスから逃げ出した。
意外にも俊敏な動きで駆け出す。
捕まえようと手を伸ばしたが届かなかった。
天野勇二
チッ、後はフルボッコにして自白させるだけだったのに……。
お前が中途半端に止めたから逃がしちまった。もう捕まえるのが困難だぞ。
涼太は冷静に天野を
佐伯涼太
だからさ、山本くんには殺すことができないってば。
監視カメラに山本くんはおろか、不審者の姿も映ってなかったんでしょ?
それは記事を読めば明白だ。
涼太も実際に見ていた。
佐伯涼太
山本くんが深夜0時前にマンションを出たのは僕も見たし、監視カメラも録画してる。
そして朝、山本くんがマンションまで訪れていたことも知ってる。
どうやっても殺せないよ。
天野はため息を吐きながらタバコに火をつけた。
天野勇二
そうなると、犯人はマンションの住民としか考えられない。
佐伯涼太
うん、僕もそう思うね。
天野勇二
だがそれでは密室の謎が解けず、不可思議な状況まで発生する。
佐伯涼太
そうなんだよねぇ。
新聞によればピッキングした形跡もなくて、ドアの取っ手には関係者の指紋がべったり付着していて、拭き取ってすらいないんだよね。
天野と涼太は新聞記事を眺めた。
天野勇二
殺害現場は部屋の中央だ。
佐伯涼太
そうだね。
小阪さんが自ら扉を開けて、深夜なのに部屋まで呼ぶ……。
それほど親しい人間の犯行だね。
天野勇二
それなのに、部屋には小阪本人、小阪の両親、恋人である山本。
こいつら以外の痕跡がない、と書いてあるじゃないか。
天野は首を
天野勇二
ありえない。
しかも争った形跡までないんだ。
確実に顔見知りの犯行だ。
普通それだけ親しい人間ならば、小阪の部屋を何度か訪れているだろう。
指紋が存在しないのはおかしい。
指紋以外にも科学捜査が痕跡を見つける。それが見つけられていない。そんなことはありえない。
天野は改めて断言した。
天野勇二
やっぱりアイツだよ。
山本が殺したに決まっている。
俺様の頭脳がそう告げている。
涼太は呆れながら尋ねた。
佐伯涼太
だからさぁ、どうやって山本くん、もしくは第3者が犯行に及ぶのさ?
マンションに入れないんだよ?
深夜に小阪さんと一緒にオートロックをくぐった女性が怪しいんじゃないの?
天野は首を横に振った。
天野勇二
警察もそう考えるだろう。
だが、女の痕跡が部屋に存在せず、巨体だった小阪が抵抗もできずに殺されるとは考えにくい。
スーツ姿の女性は明らかに細身だった。
小阪は男性であれば横綱を目指せるほど太っていたのだ。
細身の女性が一切の抵抗を許さず、指紋も残さず、痕跡さえ残さず、部屋で刺し殺したなんて、現実的ではない。
佐伯涼太
でもさ、マンションの住民以外は、殺すことができないよ。
そもそも侵入できないんだから。
天野は平然と答えた。
天野勇二
簡単じゃないか。
非常階段とか、どっかから忍びこめばいいだろ。
佐伯涼太
非常階段には鉄柵があって無理。
裏口は駐車場に直結しているけど、記事によれば監視カメラが侵入者の映像を記録してないね。
天野勇二
監視カメラか……。
エントランスを通らず、外部の非常階段を上るのはどうだ? それなら監視カメラに映らないんじゃないのか?
佐伯涼太
そう、確かにそれは可能なんだ。
カードキーさえ持っていれば、外部の非常階段を上って小阪さんの部屋まで行ける。
監視カメラに映ることはないね。
そこまで言うと、涼太は残念そうに肩をすくめた。
佐伯涼太
ただ、残念ながら僕ちゃんの張り込みはそんなに甘くないんだ。
非常階段を使った人間なんて、夕方から朝の9時まで、1人もいなかったよ。
天野は呻いて涼太を睨みつけた。
天野勇二
なんだよ、それなら 『四重の密室』になるじゃないか。
部屋の扉、マンションに侵入する扉、監視カメラ、涼太の張り込み、どれも突破できないのか。
佐伯涼太
そうなんだよね……。
そう考えると、僕の証言も必要なのかな。警察は外部の非常階段も疑うはずだもんね。
天野はタバコを携帯灰皿に押し込み、嫌そうに片手を振った。
天野勇二
面倒だから止めておけよ。
非常階段を使うにも鍵が必要だ。
密室であることには変わりない。
警察に協力しても見返りはないし、時間の無駄だよ。
佐伯涼太
まぁ、確かにそうだね。
涼太も密室の謎が解けない以上、自らの『外部の非常階段は使われなかった』という証言も意味がないだろうと判断した。
佐伯涼太
はぁ、誰が犯人なんだろ?
小阪さんの両親か、マスターキーを持ってる管理業者かな?
天野勇二
犯人が出入りした気配がないからな。合鍵かマスターキーで、外部の非常階段から侵入して殺した……。警察はその線を疑っているはずだ。
部屋に第3者の痕跡はないのだから、容疑者の筆頭候補は両親。
だが記事によれば、両親には確かなアリバイがあると書いてやがる。
天野は新しいタバコを取り出し、火をつけながら断言した。
天野勇二
やはり山本しか考えられない。
あいつが殺したんだ。
佐伯涼太
なんでそう思うのよ?
『天才クソ野郎』のご立派な考え、凡人の僕ちゃんにはさっぱり理解できないね。
天野勇二
お前の張り込みの話がどうも気になる。特に山本と小阪の様子が不自然だ。
違和感があるんだよ。
何度もすまないが、もう一度昨晩のことを教えてくれ。
涼太は張り込みの様子を詳しく語った。
もう何度目かの説明になる。
天野は話を聞きながら虚空を睨みつけた。
天野勇二
(絶対に山本が犯人なんだ。どうやってこの密室を作り出したんだ……?)
天野は何本もタバコをふかした。
どこかに違和感がある。
その正体が掴めない。
天野勇二
(『四重の密室』とはいえ、所々に『穴』がある。だが、全てを突破するのは容易いことじゃない……。どうやって涼太の張り込みをかい
天野はタバコの火を消そうとして舌打ちした。
携帯灰皿が吸殻でいっぱいだ。
吸殻をゴミ箱に放りこみ、再びタバコに火をつけた。
天野勇二
……うん?
タバコを吸いながら、携帯灰皿とゴミ箱を見つめた。
天野勇二
……そうか。
天野は突然立ち上がると、テラスをぐるぐると歩き始めた。
天野勇二
そうか、それだ。
そもそも部屋の密室なんて簡単なことなんだ。
これで山本が脱出できる。それで涼太と警察の目を誤魔化したのか……。
独り言を呟きながらテラスを歩き回る天野を、涼太は驚いて見つめた。
佐伯涼太
え? どったの?
まさか密室の謎、解けたの?
天野はしばらく歩き回っていた。
やがてピタリと立ち止まり、平然と告げた。
天野勇二
ああ、解けた。
天野は指先を振り回した。
パチリと指を鳴らし、薬指で前髪をかき上げ、空中で糸を紡ぐように回転させると、拳銃の形を作って涼太に突きつける。
天野勇二
解けたぞ。ついに『四重の密室』をぶち破った。
涼太はあんぐりと口を開け、青ざめながら尋ねた。
佐伯涼太
う、嘘でしょ? え?
ガチで山本くんが犯人なの?
天野勇二
ああ、山本め。この俺様を甘くみやがって。
まったくトリックなんてものは、解いてしまうと実につまらないものだな。
天野は呆れたように笑っている。
涼太は何度も生唾を飲み込み、震える口を開いた。
佐伯涼太
それ、冗談じゃないよね?
まるで侵入の気配がないんだよ?
どうやって四重の不可能をぶち破るのさ?
天野は「クックック」と不敵な笑みを浮かべた。
天野勇二
いいか涼太よ。
ひとつ良いことを教えてやろう。
密室殺人だろうが、不可能犯罪だろうが、そんな単純な問題を解き明かすことぐらい……
指先を
天野勇二
この天才クソ野郎にかかれば、
全てうまくいくのさ。
12,612
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