どうも、つばこです。
ご愛読いただきありがとうございます。
天才クソ野郎のエピソード2つ目は、若干ミステリー仕立てとなっております。
天野くんのサスペンスを楽しんでいただければ幸いです。
時折、謎解きや犯人当てを読んでもらえたら嬉しいなぁ、なんて考えております。
とある大学の学生食堂の2階テラス席。
ここは学園の問題児である
昼食時になれば、パンを片手にタバコを吸っている天野の姿を見つけることができる。
彼のあだ名は「天才クソ野郎」。
とにかく性格が酷い。
他人を辱め、不快感を逆なでし、小馬鹿にすることを好んでいる鬼畜のサディストだ。
それなのに医学部の首席で、学業の成績はとても優秀。
なまじ優秀なあまり、教授たちは天野を厳しく
早く卒業してくれ、もしくは中退してくれ、何でもいいから1日でも早くいなくなってくれ、というのが大学の切なる願いだった。
その日、天野の前には珍しく一人の女性がいた。
英文科の2年生、
岸野は先ほどから顔を歪めて「わぁわぁ」と泣き喚わめいている。
ハンカチは涙でびしょ濡れ。
鼻水だって垂れ流し。
手がつけられないほど泣いている。
クソ野郎はそんな女性を眺めながら「実に良い光景だ。俺様はもっとこんな光景を拝みたいんだよ」と、内心ほくそ笑んでいた。
天野勇二
本当に酷い男だな。
君の気持ちはよくわかるよ。
天野は女に同調するように頷き、優しく頭を撫でてやった。
クソ野郎にしては珍しく紳士的な行為だ。
岸野町子
酷いですよねっ!?
あたし、彼のために貯金を全て使い果たしたんですよ!
100万近くはあったはずです!
彼のギターとか、バンドのための費用とか、全部工面したのに、他に女がいたなんて!
しかも、しかも……!
女はさらに大きな声で号泣した。
岸野町子
それがバレたら、あたしをぽいって、捨てたんですよ!
もう貯金のない女には用はないって!
新しい女と暮らすって!
あたしは彼にすっごく尽くしたのに!
子供だって堕ろしたのに!
最低です!
ひどすぎます!
どうしても許せません!
天野は「うんうん。わかる、よくわかるよ」と表向き同調しながらも、 「バカな女だ。男に貢いで捨てられるなんて、頭が悪いからそうなるんだよ」と思っていた。
岸野町子
天野さん、お願いします!
彼を……いや、あのクズ野郎を殺してください!
天野勇二
殺すなんて大層なことを言うね。
殺人には協力できないな。
岸野町子
でも、そのくらいしないと、あたしの気がすみません!
天野勇二
まぁね、そうだろうな。
ああ、よくわかるよ。
天野は口先だけの同調を繰り返しながら、懇願する女の姿を眺めた。
地味な女だ。
100円ショップで売っているような分厚いメガネをかけている。
三つ編みにしている髪の毛は栄養不足なのか、キューティクルのキュの字もない。
羽織っているカーディガンにはシミ汚れが飛び散り、清潔感の欠片も感じられない。
そばかすだらけの顔には申し訳程度の化粧が塗られており、それがとても似合っていなかった。
顎はしゃくれ気味。
頬骨が角のように飛び出している。
独特の臭気を放っているが、香水やシャンプーの類ではない。生乾き臭と濡れた犬の臭いが混ざったようなものだ。
ぐだぐだ描写してもしょうがない。
一言で済ませてしまうなら「ドブス」だった。
天野はぼんやりと女の顔を眺め、心底同情した。
この男は医学部に在籍している。
人体の構造を知り過ぎてしまったためか、見てくれの美醜には大した興味を抱かない。美人でもブスでも同じホモサピエンスのメスだ、としか考えていない。
それを抜きにしても、神が彼女に与えた試練は残酷だと感じた。
天野勇二
もう彼のことは愛していないのか?
ぼんやり尋ねると、女は首をふるふると横に振った。
岸野町子
ほんとは、ほんとはまだ好きなんですぅ……。また彼があたしを愛してくれないかって。でも、そんなの難しいって、思いますし、絶対に許せないことは許せないし……。
岸野はぐだぐだと喋り続けている。
舌っ足らずな喋り方はグズグズで、これだけで他人に不快感を与えるだろう。
この娘は自分が持っている醜さの自覚が足りない、と天野は思った。
もう恋なんて縁がない。
一生独身がお似合い。
結婚なんて出来たら奇跡。
そう開き直って生きなければならないのだ。
天野勇二
確かに、彼にはお仕置きが必要かもしれない。どの程度まで懲らしめようか? ギターを二度と弾けないようにでもしてやろうか?
岸野町子
だ、駄目です!
ギターは彼の命なんですよ!
なんて酷いこと言うんですか!
さっきまで殺せ、と言ったくせにそれは拒否だ。
天野勇二
じゃあ、どうしたいんだよ。
せっかく勇気を出して俺様に依頼するんだろう?
岸野町子
はい……。
天野勇二
自分がどうしたいのか、手を胸に当ててよく考えろ。
それを俺に告げるんだ。
岸野町子
えっと、うんと、そのぉ……。
天野勇二
時間はたっぷりある。
冷静に考えるんだ。
自分の本当の望みをな。
天野はそう言ってタバコの煙を吐き出した。
女はぎゅっと目をつぶり、こめかみに中指を当てて何やらブツブツ呟き始めた。気味の悪い仕草だが、きっと一生懸命何かを考えているのだろう。
天野はイライラを噛み殺しながらシンキングタイムの終了を待った。
岸野町子
あのぉ……。
女がやっと口を開いた。
岸野町子
彼が、私のところに、戻ってきて欲しいですぅ……。
頬を染めながら背中をモジモジさせている。
天野は至極冷静に言い放った。
天野勇二
無理だよ。
女はまた「ワッ」と顔を伏せて泣き出す。
天野は少々可哀想な気がしたが、彼女のために言ってやることにした。
天野勇二
あのなぁ……。
君、自分の顔を鏡で見たことある?
もうね、頬骨が突き出して顎はしゃくれてるし、髪は汚いし、着ている物も不潔だし、鼻が曲がるほど臭いし、化粧も下手糞。
残酷なことを告げるが、女として最底辺と言ってもいい。
天野勇二
君も女子大生なんだから、キャンパスを歩くことぐらいあるだろ?
君よりブスな女、見たことあるか?
君より汚い格好の女を見たことあるか? いないだろ?
いないんだよ。
君よりブスな女はいないんだよ。
重要なことだからもう一度言うが、君よりブスな女はいないんだよ。
君みたいな女に男が言い寄ってくるとしたら、金が目当てに決まってるだろう?
天野の辛辣な言葉を受け、女は「ワッ」と顔を伏せて号泣した。
このクソ野郎は人を泣かすことだって好んでいるが、この場では不快感を強く覚えていた。恐らく罪悪感が湧き上がっているのだろう。
岸野町子
……じゃあ、あたしは、どうすればぁ、どうすればいいんですかぁ……。
天野勇二
彼が自分のところに戻ってくる以外の希望を言え。
指を潰すとか、一生子供のできない体にしてやるか、全治一生にするとか、障害手帳を持ち歩く体にしてやる、とかな。
少しは気も晴れるだろう?
物騒なことを言い出した。女は必死に首を横に振る。
岸野町子
そんなことしたら、彼が可哀想ですぅ……。
天野勇二
じゃあ、どうしたいんだよ。
岸野町子
わ、わが、わがぁ……
わがりまぜんよぉ……。
うわぁぁぁぁん!
また大声で泣き出した。
天野は心底ため息を吐いた。このドブスに魔女の呪いでもかけられていれば、王子様のキスで美人に生まれ変わるかもしれないが、現実は果てしなく残酷だな、と感じた。
天野勇二
(……いや、待てよ。現代医療という魔法があるじゃないか)
天野は女の顔を見ながら、頭の中でそろばんを弾いた。
天野の父親は産婦人科を元に手広く病院を経営している。その中には美容整形外科も含まれていた。
天野勇二
(頬骨と顎の矯正。目をぱっちり二重に。そばかすの除去。脂肪吸引。鼻にプロテーゼ。唇にヒアルロン酸。歯も全部抜きたいな。どうせムダ毛の処理もしてないだろうから……)
計算が終了した。天野は期待をこめて尋ねた。
天野勇二
なぁ、500万くらい持ってないか?
岸野町子
そ、そんなに持ってませんよぉ……。もう貯金は使い果たしました。
学生だしローンを組むのは困難だ。とんでもない暴利になる。
魔法のプロデュースはお手上げだった。
天野勇二
仕方ない。
やはり彼を懲らしめよう。
腎臓のひとつでも潰してやればいいんじゃないか?
岸野町子
だめだめだめ! 絶対にダメですぅ!
天野勇二
彼に適当な女をあてがわせてみるか? 性悪女でも近づけさせて大金を巻き上げようぜ。
岸野町子
そんな! 彼にあたし以外の女なんか近づけさせないでください!
天野勇二
じゃあ美人局にしよう。
女って餌にほいほい引っかかった彼を俺様がフルボッコだ。俺の女に何手ぇ出してんだコラ? ってやつ。
岸野町子
それじゃ彼が殴られちゃうじゃないですか! なんでそんな酷いことばっかり思いつくんですかぁ! やめてくださいよ!
天野は深くため息を吐いた。
じゃあどうしたいのだ。
殺せと言ったかと思えば、やっぱり戻って欲しいとか、希望がぐだぐだで整理できていない。
岸野町子
なんとかぁ、なんとか彼とやり直せませんかぁ?
女は泣き腫らした顔を浮かべている。
ただでさえ醜い顔がもっと醜い。
これ以上泣かせたらどこまで醜くなってしまうのか、天野は心配になった。
天野勇二
しょうがねぇなぁ。
まぁ、やってやるよ。
君のところに帰る作戦を練ろう。
だが期待はするなよ。
天才である俺様でもうまくいかないかもしれん。
岸野町子
あ、ありがとうございますぅ!
頭を深く下げた女を見て、天野は早くも途方に暮れていた。
女と別れた後、天野は相棒である
天野勇二
あれだ。あの出来損ないのホストのような男。ギターケースを持っているな。
佐伯涼太
カレが
今回のターゲットってワケね。
涼太は意気揚々(いきようよう)とメモを取りながら、隠しカメラで長谷川の顔を撮影している。
この男は天野の数少ない友人だ。
他人のゴシップを追いかけ回すことを好む変態なのだ。
元々、涼太はナンパとコンパが三度の飯より好きなチャラ男だ。
女性を追いかけ回すという趣味が、素行調査や尾行まで好む変態にまで
一歩間違えれば優秀なストーカー、もしくはゴシップ雑誌の記者、立派な探偵にでもなれるかもしれない。
色々な意味で、天才クソ野郎との相性はピッタリだった。
ターゲットである長谷川は英文科の1年生だ。
岸野町子は英文科の2年生だったので、先輩後輩の関係から恋愛に発展した(と、岸野は少なくとも思っている)のだろう。
講義が終わり長谷川は立ち上がった。
涼太は長谷川をさり気なく呼び止めて、何やら楽しそうに会話している。
遠目から観察していると、2人はあっさり意気投合したようで、肩を組んで喫煙所に向かった。
さすが涼太だ。あっさり長谷川と知り合いになったようだ。
遠目からでは確かなことは言えないが、長谷川はそれなりに不細工な出で立ちだった。
金髪をホスト風に大盛りにして、肌を黒く焼いてジャラジャラと無駄なアクセサリーを身に
案外、岸野とお似合いかもしれないな、と天野は感じた。
しばらくすると涼太から着信が入った。
佐伯涼太
あ、もしもし勇二?
長谷川くんと話してきたけど、今は彼女がいないって言ってたよ。バンドに専念してるだけだってさ。
天野勇二
なんだと?
それはおかしい。
岸野の話では相当なスケコマシ野郎のはずだが。
佐伯涼太
長谷川くん、大学デビューなんだって素直に教えてくれたよ。自分は見てくれが悪いから誤魔化してるって。でも彼女ができなくて苦労してるってさ。
紹介して欲しいって懇願されちゃったよ。
天野勇二
岸野の話とかなり印象が違うな。
佐伯涼太
ぶっちゃけかなりの好青年。
僕の印象では岸野さんって娘の狂言じゃないの? って感じがするけど。
天野勇二
長谷川が嘘をついている可能性は?
佐伯涼太
うーん。
8割の可能性でないと思うね。
涼太の観察眼はそれなりに信用できる。となれば、狂言である可能性が高い。
天野勇二
長谷川をそのまま尾行できないか? 岸野の話であれば女と同棲しているはずだ。
佐伯涼太
そう言うと思って、僕ちゃんただ今尾行中。
天野勇二
さすがだ。
結果がわかったら教えてくれ。
天野は電話を切った。
妙な違和感がある。岸野の発言の全てが嘘ではなかったように感じる。しかし涼太の観察眼は岸野の狂言であると告げている。
この違和感は何なのか。
岸野が一方的に執着しているだけなのだろうか。
長谷川という男がとぼけているだけなのだろうか。
天野勇二
(まぁ、涼太の尾行の結果を待つしかないか)
天野はぼんやり空を眺めた。
この時はまだ、この件が大事になるとは、夢にも思っていなかった。
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どうも、つばこです。
ご愛読いただきありがとうございます。
天才クソ野郎のエピソード2つ目は、若干ミステリー仕立てとなっております。
天野くんのサスペンスを楽しんでいただければ幸いです。
時折、謎解きや犯人当てを読んでもらえたら嬉しいなぁ、なんて考えております。
謎過米削の理由せめて教えて
↓めっちゃ今更で見るかわからないけど笑笑
美醜ってのは骨格だけじゃなくておしゃれや化粧とか、表面上のものが及ぼす影響も大きいわけで
天野にとって表面上のものはどう取り繕っても大差なくてただの人間だけど
その表面上の美醜を除いて骨格とかだけみたとしてもこの人はブスとみなされるほどのものだった
ということだと思う、たぶん
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