中尾をテラスから追い出すと、天野は1人の男を呼びつけた。

　華奢な長髪の男だ。

　軽薄そうな笑みを浮かべている。

　天野と同じくらい端正な顔立ち。

　こちらも背丈は180cmを越えている。

　足も長い。

　すらりとした八頭身のイケメンだ。

　天野は憎たらしく、それでいて若干嬉しそうに言った。

　
　実にチャラい発言だ。
　リズミカルに腰を前後に振っている。
　

　涼太はチャラチャラした動作を止めた。

　訝しげに天野を見つめる。

　天野と涼太の付き合いは長い。
　小学校から大学まで進路が同じ。
　幼馴染で腐れ縁の間柄だ。

　しれっと告げる。

　涼太は血相を変えて叫んだ。

　天野は「同感だ」とばかりに頷いた。

　天野はげんなりしながらタバコの煙を吐き出した。

　涼太は同情したように肩をすくめた。

　
　涼太は青ざめた。
　長い茶髪をかきむしりながら叫ぶ。
　

　天野という男は『昼飯を奢ること』を条件として、学生からの頼みごとを引き受ける『趣味』を持っている。

　そもそもは女学生に言い寄るストーカーを追い払ったことがきっかけだった。

　天野としては暇潰しにすぎなかったが、女学生が「何かお礼をしたい」と願った。

　そのためなんとなく昼飯をおごらせたのだ。

　それ以来、ひとつの噂が一人歩きし始めた。

　――天野に昼飯を奢ると、厄介なトラブルを解決してくれる。

　そんな噂だ。

　それから多種多様な悩みを持つ学生たちが、天野のもとを訪れることが多くなった。

　これまでさまざまな依頼を受けたものだ。

　――試験のヤマを教えてほしい。

　――難しい論文の書き方を教えてほしい。

　そんな他愛もない依頼もあれば、

　――絡んできたチンピラとのトラブルを仲裁してほしい。

　――非合法な薬物を仕入れてほしい。

　そんな物騒な依頼もあった。

　どれも警察や弁護士には相談できない事情があるものばかり。

　引き受けるとしたら裏稼業に精通している「事件屋」ぐらいだろう。

　そのため天野は『学園の事件屋』とも呼ばれているのだ。

　
　涼太の口調は真剣だ。
　どこか小馬鹿にしたような言い回しだが、本当に涼太は天野を心配しているのだ。
　

　天野は人差し指で自らのこめかみ辺りをトントンと叩いた。

　天野は嫌そうに言葉を続けた。

　涼太は納得したように黙り込んだ。

　恐ろしいことに、このクソ野郎は人の目を見て、ある程度の心理を読み取ってしまう特技を持っている。

　何かしらの第六感が 「依頼を受けた方が面倒な事態にならない」と察したのだな、と理解した。

　涼太はその言い回しが少し気になったが、聴かなかったことにした。

　他人なんか寄せ付けない天野とは違い、涼太はコンパとナンパが三度の飯より大好きなチャラ男だ。

　必然的に友人の数が多い。

　キープしている女の子も多い。

　誰もが「リア充爆発してしまえ」と願うほどのチャラ男だ。

　ため息を吐く涼太の顔を眺めながら、天野はニタニタと悪い笑みを浮かべた。