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2021-07-02

プロ投資家の招聘で変わる、新生オムロンCVCの戦略

1970年代からベンチャー投資を行ってきたオムロン。創業者である立石一真氏が設立した「京都エンタープライズデベロップ」(KED、1972年~1979年)は、日本における民間最古のVCと言われる。

時は流れ2014年、オムロンは新たにCVC「オムロンベンチャーズ」を立ち上げたものの、その後、4年間は思ったような成果を挙げることができなかった。転機となったのは2018年。VCの立ち上げから投資、ファンドのクローズまで携わった経験のある井上 智子氏を代表に招き入れ、同社のオープンイノベーションを加速させている。

プロ投資家が加わることでCVCはどのように変わったのか。今回は井上氏にこれまで取り組んできた変革やその手ごたえについて聞いた。「大企業はもっと変わらなければいけない」と語る井上氏の真意をお届けする。

「大企業を変えたい」井上氏がオムロンベンチャーズにジョインした理由

2014年にオムロンベンチャーズを設立した背景について教えて下さい。

CVCを設立した背景には、新しい事業を生み出すためには自社のみでは限界があり、他社との協業が必須になったことがあります。オムロンはこれまで様々な新規事業を生み出してきたものの、近年はなかなか新しい事業が生まれなくなってきました。構造的に既存事業にリソースが割かれ、加えて自前主義に陥っていたのです。

そのような状況を打破し、新しい事業が次々に生み出される体制を作り出すため、2014年にオムロンベンチャーズを立ち上げました。実はオムロンは創業者が1970年に日本最古のVCを立ち上げています。長い時を経て、改めてCVCを立ち上げることにしたのです。

プロ投資家である井上さんがオムロンベンチャーズに参画するまでにはどのような経緯があったのでしょうか。

CVCの設立当初は3年で30億円の投資を行う予定でした。しかし、当時のメンバーはオムロン社内の人材のみ。結果、4年経っても目標の6分の1しか投資できず、小粒の新規事業しか生み出せていませんでした。

加えて、当初は海外にも投資をするのが目標の一つでしたが、探索活動も進まず思うような投資ができていませんでした。その状況を鑑み、投資経験のある人が必要だという結論から、私に声がかかったのです。

私はもともと産業革新機構という政府系の投資会社の傘下で、医療機器に特化したVCの立ち上げや運営をしていました。1号ファンドがうまくいき、ちょうど2号ファンドを設立するにあたって、また次の10年コミットをするのか、もっと違うことにチャレンジするか悩んでいた時でした。

そんな時にオムロンのCTOから声がかかり、オムロンのビジョンややりたいこと、例えばデータを活用して個別最適化医療を実現したいことなどを聞いたのです。非常に面白いと思ってジョインすることに決めました。

前職で投資活動をしながら、本当の意味でイノベーションのエコシステムを築くためには大企業がもっと変わらなければいけないと思っていたので、いいチャンスだとも思いましたね。

戦略リターンの定義を見直すことで、投資の視野を拡げる

代表就任後、どのような変革をしてきたのでしょうか。

CVCを設立した2014年から私が代表になるまでの4年間で投資した8社中、海外の案件は1件だけでした。私がジョインしてから3年で投資した9社はすべて海外。イスラエルや米シリコンバレー、ボストン、英ロンドンを拠点とするスタートアップに投資をしてきました。

また、海外企業に投資をするにあたっては、現地のインサイダーネットワークに入ることも重要なので、現地でプレゼンスのあるVCにもLP出資しています。MBAやスタンフォードの医療機器イノベーターを育てるプログラムに参加した経験や、前職での経験を活かし、コネクションを作ってきました。

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