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ホーム/オリジナル記事/M&Aの効果を最大化。楽天が実践するPMIの秘訣

M&AはCVCによるスタートアップ投資のエグジット手段の1つだが、カルチャーの違う企業と一緒になって相乗効果を出すのは難しい。国内外で複数の実績を持つ楽天グループはM&A後にシナジーを生み出すためにどのような取り組みをしているのか。また、傘下のCVCとはどのように協業しているのか。楽天グループ執行役員兼楽天USAのChief Strategy Officerで米国のM&Aを担当している木村慎治氏に聞いた。

楽天USAで海外M&Aを実行、CVCとの役割分担

楽天グループ(以下、楽天)はこれまで、米国を中心に海外スタートアップを積極的に買収し、成長につなげてきました。楽天のスタートアップ投資の体制について教えてください。

木村慎治氏(以下、木村) 当社グループのCVCである楽天キャピタルと、私が所属する楽天USAの2つの組織で海外のスタートアップに投資しています。

楽天キャピタルはグローバルを対象に、ITスタートアップ全般に投資する楽天ベンチャーズのほか、フィンテック、EC、モビリティなどのテーマファンドを保有しています。

楽天キャピタルが運用している資産の規模は非公開ですが、日本のCVCの中では最大規模といえるでしょう。シンガポールやルクセンブルクなどにも拠点を持っており、米国のオフィスには3~4人が常駐しています。

私は楽天USAでM&Aなどを担当していますが、楽天キャピタルの人間とよく意見交換をしています。楽天キャピタルからは投資の判断に際して「この会社は米国での事業でシナジーを生み出せるか」などと意見を求められますし、楽天USAに持ち込まれる投資案件を楽天キャピタルに紹介することもあります。

楽天キャピタル(CVC)とはどのように役割分担をしているのでしょうか。

木村 楽天キャピタルは基本、IRR(内部収益率)を重視しています。自社でM&Aすると投資リターンを得られないので、基本はIPOか他社への売却が選択肢になります。

ただし楽天キャピタルも最近はリターンだけではなく、全社の事業戦略においてどういう効果があるのか、そもそも楽天が投資する意味や社会的な意味があるのか、という点についても投資の際にかなり考慮します。

2005年から米国で20社以上買収。実行までのプロセスとは

米国におけるM&Aの主体は楽天USAですが、これまではどのような企業を買収してきたのでしょうか。

木村 米国1件目の買収案件は2005年のLinkShare(現:楽天アドバタイジング)というアフェリエイトの会社です。国によって消費者が求めるECの仕様は違うので、米国のEC市場を知るために、マーケティング会社を買収しました。

2社目は2010年に買収した通販会社Buy.com(バイ・ドット・コム)で、その後は多種多様な会社を傘下におさめてきました。

これまでで最大の案件は、約1050億円(約10億ドル、1ドル=105円換算)で2014年に買収したキャッシュバックサイト運営のEbates(イーベイツ)です。

イーベイツ(現:Rakuten Rewards)は、ユーザーが同社のサイト経由で買い物すると、出品者から売上の一部がマーケティング費用として支払われ、そのうち数%を我々が、残りをユーザーが、それぞれ受け取ります。流通総額は約1.2兆円(109億ドル、2020年度実績)と、キャッシュバックでは米国最大の企業となっています。

直近だと、2020年12月にオーストラリアのFillr(フィラー)という会社を買収しました。この会社は「オートフィル」と言って、各ユーザーの住所やクレジットカードの番号などの情報を正しく把握して、オンライン決済の際に自動でその情報を入力する技術を提供しています。

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