無職転生 ー妄想してみたー   作:ぺこぽん

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回想 冒険者時代 氷結迷宮編3

 ごきげんよう、ルーデウス・グレイラットです。

 本日ご紹介する物件は、永住保証付きの我が家です。

 

 どうぞ見て下さい。

 雪国仕様でモダンでトレンディーな味わいでしょう。

 天井もたっぷりありますよ。

 余裕の収納能力だ。年季が違いますよ。

 え、一番気に入ってるのは何です?

 

 値段だ。

 なにせ敷金、礼金、水道料金はタダ。

 光熱費に至るまで全て無料となっております。

 だって何も無いからね!

 

 外界に唯一通じる出入口は、たった一つだけ。

 それがなんという事でしょう。

 防火対策済みのぶ厚い氷に覆われてしまっています。

 

 今なら侵入者を閉じ込める自動センサー付きです。

 これで防犯対策はバッチリですね。

 家主も出入りする事が出来ないのが玉に瑕ですが。

 なんちゃって。

 

「困った……」

 

 俺は閃光弾代わりの火球を遺跡の奥に放つ。

 火球は、奥底に続いていく遺跡の道を照らし、そのまま奈落の底にと消えていった。

 うん、落ちたらまず死ぬな。

 

「ロキシー先生の方はどうですか?」

「駄目ですね。どうやら壁の方も破壊出来そうにありません」

 

 ロキシーには、氷の壁周辺を調べてもらっていた。

 出口がなけりゃ作るまでよ理論を期待していたのだが、無理だそうだ。

 遺跡の壁は固すぎてびくともしない。

 

「装備も食料も心許ないです。救援を待つにしても恐らく……」

「エリナリーゼさんやギルドが異変に気づくとしても、きっとだいぶ後になりますよね」

 

 なにせ剣王ギレーヌが付いているのだ。

 万に一つも有り得ない。

 今はその信頼が仇となっていた。

 

「ごめんなさい、私のせいで……」

 

 テレサは申し訳無さそうに頭を下げる。

 いや、エリスも悪乗りしてちゃんと止めなかったに違いない。

 

「エリス、確認だけど外には誰もいなかったんだよね?」

「そうよ。確かに保証するわ」

 

 エリスは自信を持って答えを返す。

 となると、外で誰かが魔術で俺達を閉じ込めてる訳ではなし。

 やっぱり遺跡の何らかの罠が稼働したのだろうか。

 だが、それなら疑問が残る。

 

「どうして俺達が入った時は、閉じなかったんでしょう」

「何かしら条件があるのかもしれないですね」

 

 ロキシーは杖でコツコツと遺跡の壁を叩いた。

 条件か。

 もしかしたら、ある程度の数の生物が入ると起動するとかかな。

 だったら、魔物はどうやって棲み家にしてるんだか。

 

 ふと俺の足元で、ぱきりとクッキーが砕ける様な音がした。

 足元を照らすと思わずぎょっとした。

 

 幾つもの朽ちた骨が散らばっている。

 大小共に魔物のものだろう。

 人間のが混じっているとは考えたくない。

 

「恐らく俺達が死ぬまで、あの入口は開かないという事でしょうね」

 

 全員がしばし沈黙した。

 通称、死ぬまで出られない遺跡だな。

 

 こいつらも俺らと同じ様に誘い込まれ、外に出る事が出来ず餓死したのだろう。

 それにしても、もし龍神の配下がこんな所でおっ死んだと知ったらオルステッド様も嘆くだろうか。

 おお、ルーデウスよ。しんでしまうとはなさけない!

 

 いや、彼の事だ。

 俺の死亡報告書を一瞥し、そうか……と呟いた後は机の片隅に置きやり、すぐに忘れそうだ。

 

「そうはいくか」

 

 もうとうこんな所で死ぬつもりはない。

 ましてや誰かを死なせるつもりもない。

 

「別の出口があるはずです。きっとリアーナさんを攫った魔物もここは通り道にしたんでしょう」

 

 罠が発動したのは、入口で俺達が固まってたせいかもしれないな。

 

「この遺跡、いえ迷宮を進みましょう」

「迷宮ね!」

 

 もはやそう呼ぶに相応しいだろう。

 エリスはやけに嬉しそうだ。

 

「あたしらだけでか?」

 

 ギレーヌの疑問は最もだ。

 何せ未体験、未踏地の場所だ。

 こういう時、頼りになるギースもいない。

 

「他に道はありません。リアーナさんを助け出して、脱出しましょう」

 

 ロキシーがコクリと頷いた。

 

「迷宮の事なら任せて下さい」

 

 頼りになるのはギレーヌとロキシーの二人だ。

 迷宮踏破のベテランだしな。

 

「転移の迷宮以来ね!わくわくするわ!」

 

 張り切っている所申し訳無いが、わくわくさんには釘を差しておこう。

 あれは赤本付きだったからだよ。

 今はもう、オルステッドのスクロールもない。

 

「エリスは前に出すぎない事。せっかくフォーメーションの練習をしたんだから」

「もう、ちゃんと憶えてるわよ」

 

 こうしてギレーヌとエリスが前衛。

 俺とテレサが中衛。

 ロキシーが全体を見渡せる後衛についた。

 

 遺跡は暗い為、火球を幾つかパーティーの頭上と周囲に配置しておく。

 魔力の消費量は、この際無視だ。

 戦闘時に松明で手を塞ぐのは愚策だろう。

 

 それに中にも雪が吹き込んでいて、道は凍って滑りやすいのだ。

 うっかり足を踏み外しでもしたらどうなる事か。

 直ぐ隣の断崖絶壁に落ちる事だけは避けたい。

 

「ルーデウス、これだいぶ歩きやすいわ!」

「それは何より」

 

 あと、全員の靴に土魔術で作ったスパイクを取り付けた。 

 これならいくらかは動きやすいだろう。

 

「エリスー、あとあんまり大声は出さないようにね」

「わかったわ!」

 

 全然わかってない。

 エリスのいつもの大声で、頭上の遺跡の壁から巨大な氷柱が落ちてきた。

 慌てて避けたから良かったものの、当たれば大惨事だ。

 

「わ、わかったわ」

 

 よし。これは、ほんとのわかっただな。

 

 暫く、どんどんと遺跡の道を降りていく。

 するとようやく他の生物に遭遇した。

 毎度お馴染みのアサルトドッグ達が歯を剥き出しにして、唸りつけてきた。

 やあ、マヌケなお仲間よ。

 

「氷槍吹雪!」

 

 ギレーヌとエリスが、前衛で戦っている間に俺とロキシーで続々とやって来る敵を上から撃ち滅ぼす。

 二人で連携し、後続の魔物を寄せ付けない。

 直ぐに敗北を悟った奴らは、暗闇にと逃げていった。

 

「エリス、後追いはしないように」

「ふん、大したことないわね」

 

 エリスは小声で勝利を祝っている。

 ギレーヌは倒したアサルトドッグの一匹を、足で蹴飛ばした。

 

「随分と腹を好かせているな」

 

 見れば脇腹が浮き出て、痩せこけていた。

 逃げ道が分からなかったのだろうか。

 振り返ると、俺達を閉じ込めた入口はもう点にしか見えない。

 

「肉が無いなら仕方無いですね。最悪、魔物を食べる手もあるのですが」

 

 え、ロキシーさん、魔物を食べるんですか。

 解毒魔術を使えばなんといけるらしい。

 俺達も誰かの食料のならない様に祈るばかりだ。

  

 魔物を幾つか蹴散らした後、さらに奥底にと続く別れ道に突き当たった。

 真正面の道は、構造物が崩れていて進めない。

 さて、どちらにしようか。

 

「あ、あれは姉のです!」

 

 そこでテレサが曲がり角に何かを発見した。

 地面に落ちた羽飾りのようだ。

 血の滲んだそれは何らかの魔力付与品らしい。

 

「きっと姉が目印にと落としたんです」

「じゃあ、左ですね」

 

 魔物に攫われながらもやるなあ、リアーナさん。

 俺達は、更に遺跡の奥深くに進む事にした。

 

 大声でリアーナさんの名前を呼びたい気持ちをぐっと我慢し、俺達は手掛かりを探す。

 余り足元ばかり見ていては危険だが、彼女が落としたかもしれないも物を見落とす訳にはいかない。

 

 ふと頭上を見上げると巨大な女性像が目に入った。

 なんともナイスバディだ。

 

「魔界大帝キシリカ・キシリスの像ですね」

 

 博識なロキシーが説明してくれた。

 へえー、あれがね。

 

「復活していたら是非お目にかかりたいものです」

「そ、そうですか」

 

 ロキシーは魔族だからか、少し尊敬の念を抱いているようだ。

 夢を壊しちゃ悪いと思い、実情は黙って置くことにした。

 

「それにしても、あまり迷宮らしい魔物はいませんね」

 

 転移の迷宮ではそれなりに特異な魔物が生息していた。

 だがここでは、地上の魔物と代わり映えしない。

 ちょっと拍子抜けだ。

 

「まだ迷宮が出来てから、そんなに時間が経っていないのかもしれませんね」

「だとしたら早めに発見出来て良かったと言うことですか?」

「ええ、迷宮らしい罠はもあまりないようですし」

 

 そういえば以前パウロから迷宮の成り立ちについて聞いたことがあるな。

 昔のことなのでおぼろげだが。

 確か普通の洞窟とかに魔力が集まり、魔力結晶となり、迷宮に変化していくのだったか。

 

「どちらにしても気を抜かずに行きましょう」

 

 ロキシーの言う通りだ。

 また、マナタイトヒュドラ戦みたいのはごめんだしな。

 迷宮の守護者にぶち当たる前に脱出しよう。

 

 

 だが、そうは問屋がおろさなかった。

 アサルトドッグを率いたターミネートボアが現れたのだ。

 そして、そいつの様子はどこかおかしい。

 

「腐ってるな」

 

 まず、ギレーヌが辛そうに鼻をしかめた。

 

「うげ……」

 

 まるでゾンビなのだ。

 魔物の毛皮は剥がれ落ち、肉が腐り、骨が覗いている。

 それでもなお動いている。

 

 よく見れば体の不足している箇所は、氷が補っている。

 出口を封鎖している氷と同じ様だ。

 

「岩砲弾」

 

 様子見に俺が放った魔術が奴の頭を直撃した。

 頭蓋が砕けきり、脳髄が飛び散る。

 ターミネートボアは、音を立てて倒れた。

 

「やったか」

 

 あ、つい言っちゃった。

 おかしい。

 倒したはずの奴が立ち上がってくる。

 

 見れば奴の俺が岩砲弾で抉った箇所は、氷が他と同様に覆い始めている。

 不死身かよ。

 

「グルァァア!!」

 

 雄叫びを上げ、すぐさま群れが襲いかかってきた。

 エリスとギレーヌが剣で、アサルトドッグを数匹斬り伏せる。

 ああ、くそっ。

 奴らも同じだ。

 斬り倒しても、直ぐに斬られた部位を氷が補い復活してくる。

 

「後ろからも来てます!!」

 

 ロキシーの警告で俺は振り返る。

 見ればゾンビ仲間のアサルトドッグの群れが迫ってきていた。

 挟み込まれたのか!?

 あれ、でもおかしいな。

 

 こいつらさっき俺達が倒してきた奴らじゃないか。

 剣で斬られている箇所に見覚えがある。

 エリスとギレーヌがつけた傷だ。

 

「死んだはずの魔物が復活してます!」

「どうやらその様ですね。っーその錫杖を振るいて世界を凍りつかせん、氷結領域!」

 

 ロキシーが敵の動きを止めようと、足元を凍りつかせた。

 アサルトドッグ共の足が地面に釘付けにされる。

 その間にトドメをと思ったのだが。

 

「駄目です。氷結系の魔術は吸収されるようです!」

 

 見る見る間に氷結領域の氷は、奴らの体に吸収されていくのだ。

 吸収した分、体に纏わりつく氷が一回り分厚くなっている。

 

「私が前に!」

「テレサさんはここにいて下さい!」

 

 俺は剣を抜くテレサさんを押し止める。

 俺はロキシーの前に出て、岩砲弾を雨のように降らせてやった。

 復活出来ない様に完膚なきまでにだ。

 

「ではこれなら!ー氷槍吹雪!」

 

 ロキシーも氷の槍で後続を薙ぎ払った。

 どうやら氷結系でも質量攻撃は有効な様だ。

 砕け散った骨が辺り一面に散らばり、ようやく奴らは沈黙した。

 

「そっちは大丈夫!?」

 

 エリスが救援に駆けつけてきてくれた。

 

「ごめん、援護できなかった」

「それくらい問題ないわよ。ギレーヌがいるもの」

 

 確かにギレーヌはゾンビ相手でも臆していない。

 今も最後の一体を膾切りにした所だ。

 そうして、ようやく戦闘が一段落となった。

 

 だが、問題が残った。

 ギレーヌが魔物の巨体を片手で引きずってくる。

 するとそれに合わせて、そいつの部品も追い縋ってぞろぞろと動くのだ。

 

 氷が互いをくっつけようとしているらしい。

 面倒だな。

 ゾンビ映画じゃ、脳みそフルスイングで動かなくなるはずなのだが。

 

「どうする。また後ろから襲われたらきりがないぞ」

 

 ギレーヌは更に細切れにして地面に放る。

 それでもなおうごめいている。

 また復活して挟撃されたられ厄介だ。

 さっきも後衛のロキシーにまで危険が迫ったしな。

 

「どうしましょうか……」

 

 そうだ。私にいい考えがある。

 よし、捨てよう。

 

「あんまりへりの方には近づかないでくださいね」

 

 皆に注意を促しながら、隣の断崖絶壁から魔物の残骸を突き落とす。

 流石にこの高さから落とせば粉々だろう。

 厄災式処理法だ。

 この手に限る。

 

「皆さん、怪我とかありませんか?」

「大丈夫よルーデウス、ちょっと寒いだけ」

 

 エリスの声にいつもの張りがない。

 見れば、剣を握る手がだいぶ赤くなっていた。

 いくら闘気を纒っているとはいえ、剣で敵を斬るたびにまともに冷気を浴びているからだ。

 

「少し休憩を取りましょう」

 

 俺は皆で集まって、魔術で周囲の温度を上げた。

 全員、ほうっと深い息を吐く。

 それから少ない食料を分け合ってちびちびと食べる。

 

「ロキシー先生、平等に分けているんですからもっと食べて下さい」

「私は体が小さいので大丈夫ですよ」

 

 よく動く前衛にエネルギーが必要なのは確かだ。

 でもこのパーティーの頭脳であるロキシーが倒れても困るのだ。

 俺はせいぜい小脳くらいしかないしな。

 

「それにしても、ルーデウスは暖っかいわね」

「もっと温度を上げようか?」

「このままでいいわ。それより、えいっ!」

「ふわっッ!!」

 

 エリスに思いっきり冷たい手を背中に入れられた。

 変な声が飛び出る。

 冷たいって!

 

「ギレーヌも触ってみたら」

「ふむ」

 

 今度はギレーヌに首元をもげる勢いで両手で挟まれる。

 あのね、俺は人間カイロじゃないんだが。

 

「テレサさんもついでにどうですか?」

 

 寒そうに手に息を吐きかけていたテレサさんに手を伸ばす。

 思わずテレサさんも俺の手を取ったようだ。

 あれ、意外とごつごつしてて大きいな。

 剣の修行とか頑張っているのだろうか。

 

「ロキシーも来なさいよ」

「い、いえ。私は自分で暖めれますので」

 

 背中に密着したエリスがロキシーに声を掛ける。

 するとロキシーは俺から顔を背けて、自分で魔術を使った。

 ふむ、何かちょっと残念だ。

 

「リアーナさん、無事だと良いですね」

 

 俺はテレサさんを安心させる様にぎゅっと手に力を入れた。

 するとテレサさんは顔を顰めて、手を引いた。

 あれ、俺もしかして嫌われてる?

 まあ、よくいるハーレムパーティーのくそ野郎とか思われてなきゃいいが。

 

「私達ずっと二人で協力して今までやってきたんです」

 

 あ、手を引いたのはリアーナさんの羽飾りを触るためだったのか。

 テレサはぎゅっと大事そうに握りしめる。

 

「今回の依頼も姉が引き受けてきて、達成出来たらようやく帰れそうだったんです。それがこんな事になってしまって……」

 

 とても苦労してきたのだろう。

 テレサさんの言葉の端々からその様子が伺えた。

 

「病気の親御さんの所にですか?」

「あ、はい」

 

 テレサは少しきょとんとした様子だ。

 

「すみません、他の冒険者の噂で。立ち入った事聞きました」

「いえ……」

 

 身の上話を聞き、俄然助けなければいけなくなった。

 あと一日位は、リアーナさん救出を目指そう。

 残念だがそれ以上はタイムリミットだ。

 

 さあ、もう少し行ける所まで行ってみよう。

 




俺達の迷宮探索はまだ始まったばかりだ!

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