トップページ
学会案内
お知らせ
学会賞など
男女共同参画
資料室
講演会
englishpage

会長挨拶

日本育種学会会員の皆様

令和2~3年度の育種学会会長を務めさせていただくことになりました筑波大学の大澤 良です。よろしくお願いいたします。本来は総会においてご挨拶させていただくところ、新型コロナ感染拡大防止への対応として第137回講演会・総会を中止したため文章で失礼いたします。

新型コロナウィルス感染症の拡大は、未曾有の事態です。世界全体に広がり、経済や社会への影響は想定をはるかに超えてきています。日々深刻さが増すなかで、現場で過酷な業務に就いている方々に、心からの敬意と感謝の意をお伝えしたいと思います。この感染によって、あるいは関連して亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、ご家族の皆様に謹んでお悔やみを申し上げます。

今から約70年前の1951年4月6日に第2次日本育種学会が発足し、50周年を記念した式典や企画が2001年に行われました。その時の記念講演や企画を育種学研究第3巻4号(https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jsbbr/3/4/_contents/-char/ja)で見ることができます。その中にある2050年を見据えたアンケート結果や鵜飼保雄先生の論文は、今の私たちがこの20年で何を進めてきたのか、あるいは何ができなかったのか、また何をし忘れているのかを考えさせてくれるものです。是非、この春に学会員の皆様に再読していただき、育種学の役割、あるいは学会の果たす役割について考えていただければと思います。

今期の課題を副会長の加藤鎌司先生と考えています。現状はと言えば、この20年間会員数の減少が続いています。その原因について、運営委員会で真剣に議論し、対応をしていきたいと考えています。もう少し根本的に学会活動のあり方を見直す必要があるかもしれません。しかしながら、まずは会員の満足度を向上させることが重要ではないかとの意見で一致しています。

学会に所属する意味は、魅力的な学会活動の推進によって生まれるものです。最新情報を流通させること、その情報に対する解釈を明確にすることは重要な役割です。学会員には当たり前にそれらの情報が届き、自然に吸収する環境を用意することで、育種学に携わる、あるいは育種事業に携わる方々に本学会を必要としていただけるのだと思います。その中には学会誌の質の向上も含まれています。幸いにも前期の会長をはじめとして、編集委員長、編集担当運営委員のみなさのご尽力により、日本学術振興会より高い評価をいただくことができましたので、今期も辻本 壽委員長のお力をお借りしてより一層の努力をさせていただきます。育種現場の方が学会に出られない、あるいは地道な育種の成果が評価される場がないとの声も聞こえます。学会賞とは別に、各作物の育種成果を積極的に評価できるような制度も考えていきたいと思っています。育種学研究の充実も重要な課題です。

学会に所属するもう一つの意義として、顔を合わせての議論の充実があります。今一度、顔を合わせて議論することの大切さを訴えたいと思います。コロナ禍によって、残念ながら春の学会は中止となりました。このような事態に対応し、学会の意義を継続させていくことも求められます。そのためにオンラインでの学会開催などもできる体制を確立していく必要があります。一方で、ビデオ会議を通じた学会運営の体制が整えば、それでよいのかということも考えなければなりません。オンライン会議のような方法は学会の「情報の流通・理解」という機能は代替できると思います。しかし、学会の果たしている役割には「研究の種探しの場」や「若手の就活の場」という側面もあります。何気ない会話から次の研究グループができる、あるいはポストに見合う人材を見つけるなどが重要な役割だと思います。顔を合わせることで得られる情報量をオンライン学会で得ることはまだ難しそうです。せっかく運営が安定してきた地域談話会のより効果的な在り方を模索しながら、オンラインを使った有効な学会運営の在り方について課題としていきたいと思っています。

最後に、現在、遺伝子組換え作物をはじめとし、ゲノム編集技術など育種技術に対する社会的不安が起きています。育種という行為全体への否定につながらないように本学会として社会的対応が迫られています。生物学上の懸念がすべて育種の懸念ではないことを主張することも大切です。どのような育種であれ、育種については私たちが専門家です。私たちは自らの立場を深く自覚し、社会との対話をもっと進めることが必要だと思っています。学会は誰かが運営してくれ、その場を借りて発表する場ではなく、学会員の参加によって成り立つ意見交換、発表の場です。

皆様のご協力をお願いして、ご挨拶とさせていただきます。

令和2年5月
筑波大学 生命環境系 教授
大澤 良

(c)2005 Japanese Society of Breeding. All rights reserved.