「犬と暮らしたい!」と思ったとき、あなたはどこから愛犬を迎えますか? まず、ペットショップを思い浮かべる人が多いかもしれません。一方で、何となくペットショップから迎えるのはよくないイメージもあるけれど、実際のところは…?
そんなペットショップにまつわる国内外の状況や議論、背景にある問題について、人とペットとの共生について研究し、動物愛護管理法にもとづく飼養管理基準の検討会にも委員としてかかわる、帝京科学大学准教授の加隈良枝先生に聞きました。
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ペットショップの仕組みから起こりやすい問題
犬を迎えようと思ったとき、今の日本には主に3つの選択肢があります。
- ペットショップで買う
- ブリーダーから直接迎える
- 保護犬を迎える
どこから迎えるのがいいかは、その家族の状況や希望などによっても違っていて、それぞれにメリットとデメリットがあることは理解しておくべき。そのうえで、世界的に「ペットショップで展示販売する」という方法を規制していく流れがあることも事実です。
では、なぜペットショップが問題になるのでしょうか。加隈先生はこう説明します。
「ペットショップで子犬を展示販売しようとすると、希望者がいつでも買えるように、需要のあるなしにかかわらずさまざまな子犬を常に仕入れる必要があります。そのためには、子犬を安定して供給する仕組みが必要になります。子犬を安く大量に生産しようと効率化を進めると、そこにかかわる犬たちにしわ寄せがいきやすいのです」
子犬の大量生産・大量消費によって、起こりやすいのが以下のような問題。
- 繁殖犬を適切に管理せず、産めるだけ産ませることにつながりやすい
- 子犬を産めなくなった繁殖犬は不要となり、飼育放棄されるおそれがある
- 子犬が小さくてかわいいうちに売り、母犬に早く次の子犬を産ませることにつながりやすい。それによって、適切な期間を親兄弟と一緒に過ごしていないことで、成長した犬に問題行動が起きやすい
- ペットショップで展示販売される期間が長くなると、問題行動が起きやすくなる
- 手軽に入手できる結果、迎えた犬に問題行動が多いと飼育放棄されやすくなる
- 売れ残って行き先のない犬が出てきてしまう
ペットショップ自体が悪いわけではなく、現在のバラエティに富んだ子犬を展示販売するという方法では、このような問題が起きやすい仕組みになっているのです。
ペットショップの規制が進む国も
では国外では、ペットの販売に関してどのような規制があるのでしょうか。
加隈先生によれば、英国(北アイルランド以外)では、繁殖犬として過酷な環境にいたことで体調を崩して亡くなったルーシーという犬がきっかけで、2020年4月にイングランドで、2021年9月にスコットランドとウェールズで「ルーシー法」が施行されたとのこと。
これにより、ペットショップ(ブリーダー以外の第三者販売業者)による生後6カ月未満の子犬・子猫の販売が禁止され、世界的なニュースになりました。
今後、英国で生後6カ月未満の子犬を迎える場合は、保護施設からか、認可を受けたブリーダーからということになります。さらに、ブリーダーから迎える場合も、子犬が産まれた場所で、母犬と一緒に生活している様子を見せることが義務づけられているそう。
その他にも、アメリカではペットの販売に関するルールは州法で決められていますが、2019年1月にカリフォルニア州でペットショップでは、繁殖業者で生産された犬・猫・うさぎの販売が禁止になったのを皮切りに、同様の規制を導入する州が増えています。
2021年11月にはフランスでも同様にペットショップでの子犬子猫の販売規制が決まるなど、ペットショップ規制の動きが進んでいます。
ペットショップに代わるシェルターの存在
とはいえ、これらの国でも、ペットショップを禁止する法律が急にできたわけではありません。
加隈先生によれば、英国にはもともと「ペット動物法」において、公共の場や路上でペットを販売することは禁止されていたとのこと。一方で、犬猫たちが保護されているシェルターが各地にあり、気軽にアクセスできるよう一般に開放されています。
「犬を飼いたいなと思ったときにすぐ行きやすく、その場で犬を見られるのはむしろシェルターなのです」
アメリカにも、シェルターは全国に2,000~3,000カ所あり、犬を迎える人の6〜7割はシェルターから引き取っているというデータもあります。つまり、ブリーダーなどから犬を買う人より、シェルターから保護犬を引き取る人のほうが多いことがわかります。
日本でも保護犬を迎える人は増えているものの、今も犬の入手先で一番多いのはペットショップです。
一般の人がアクセスしやすいシェルターも少しずつできていますが、日本は国土が狭く土地が高いという国柄、十分な広さのシェルターを確保しにくいという問題があるそう。
「また、欧米と比べて、民間の動物保護団体に獣医師やトレーナー、研究者などの専門家がほとんどおらず、団体同士の横のつながりが弱く、個人の力に頼ることになりがちなのも、日本のシェルター運営の難しさと言えます」
ペットショップがなくなれば解決?
では、ペットショップを厳しく規制すれば、ペットの繁殖や流通、販売に関する問題は解決するのでしょうか。
「たとえば英国のルーシー法のような法律ができると、犬を販売する側だけでなく、買う側にとってもハードルは高くなります。ブリーダーは飼育環境にスペースや経費をかけたり、希望者の子犬の見学に対応したりと、ブリーディングに対して時間やお金、労力をかけることになり、必然的に犬の価格は上がります」
「購入する側にとっては、価格が高いうえに、事前に子犬の見学に行かなければいけない手間も加わると、そこまでしてちゃんとしたブリーダーから犬を迎えようという人は減ってしまう可能性があります。社会の理解が追いつかなければ、犬は社会からどんどん減っていってしまうかもしれません」
同時に、抜け道を探って安く手軽に子犬を販売しようとする人たちが出てくることも考られるんだそう。
「たとえば欧米では、一部の地域で規制が進んでも、インターネットでのペットの販売は禁止されていません。そのため、周辺の国や地域にあるひどい飼育環境の繁殖業者で生まれた子犬を仕入れ、ブリーダーと偽って子犬や子猫をインターネットで割安で販売しているケースなども多く、これによりいつまでも悪徳業者がなくならないことが問題になってきました」
「今回、子犬が産まれた場所で、母犬と一緒に生活しているようすを見せなければいけないと決まり、インターネット販売も難しくなりましたが、需要がある限り抜け道を探る人は出てくるだろうと危惧されています」
飼う側の知識や関心こそが大切
一方で、日本でもペットショップへの規制は厳しくなってきています。
2021年6月には、動物愛護管理法にもとづく飼養管理基準が施行され、犬猫を取り扱う業者に対して、ケージの広さや従業員の人数、繁殖の回数などの具体的な基準が定められたばかり。これにより、一部経過措置(猶予期間)があるものの、今後はこの基準に従えない業者は、動物取扱業者の新規登録・更新ができなくなるとのこと。
これは、ペットショップに留まらず、動物を取り扱う他の業者にも適用されます。そのため、基準を満たさないブリーダーや動物病院のペットホテル、保護団体のシェルターなども、このままでは続けていけないところが出てくるのではと懸念されています。
そして、登録の更新ができず廃業する業者が続出した場合、そこにいた犬猫たちはどうなるのか、という問題もあるのです。
「とはいえ、時代の変化があるのも確かですし、法律で決まったということは、国民がそれを求めているということ。どこかで『それはダメでしょう』とはっきりさせて、変えていかなければいけない部分もあるとは思います。お金がないと言っている場合ではなく、そこにお金を回してでもやらなければいけないし、それでお金がかかるならその分を値段に上乗せするしかないですよね」
本来なら、ペット販売のルールを厳しくしなくても、良くない業者からペットを買う人がいなくなれば、その業者は存続できなくなります。
単にルールで一律に縛るだけでなく、動物を飼う側も、その動物の背景にはどんな事情があるのか想像したり調べたりして知識を付け、どこから迎えるべきか判断することも大切なのです。
「ペットの繁殖や流通の問題に知識や関心を持つ人が増えることで、動物の扱いがひどい業者から買う人が減り、動物を大切にする飼い主や業者が多くなっていく。そうやって、少しずつでも動物に優しい社会が実現していくといいですね」
今回お話を伺ったのは…
加隈良枝先生
