「遺伝子」と「環境」の不都合な真実
むかしの若者といまの若者が決定的に違うのは、「日本にかつてあった栄光の時代を肌感覚で知っているかどうか」だけではない。
いまの若者は「人間社会のネタバレ(不都合な真実)」をあまりにもたくさん供給されてしまっている。
行動遺伝学や発達心理学の目覚ましい進歩は、私たちが想像していたよりもずっと「遺伝子」や「認知的特性」がその人の能力や人格、ひいては人生に大きな影響を与えることを、身も蓋もない真実として社会に「開示」した。たとえば、教育心理学者の慶応大学・安藤寿康教授の研究に基づく「遺伝と環境が様々な形質に与える影響」というグラフを見たことがある人はとても多いだろう。*1
安藤教授によって世に出された、このたった1枚のグラフがもたらした社会的影響は計り知れないものだったと私は推測している。これによって、体格やIQはもちろん、性格特性から才能、発達障害や反社会性まで、ありとあらゆる側面が「遺伝」という本人の努力ではどうすることもできない刻印によって、とても無視できないほど大きな影響を受けていることが示されてしまったからだ。
遺伝・発達要因だけでなく環境要因についても、言葉を失うほどの「ネタバレ」が次々に提供されるようになっていった。たとえば東京大学学部生たちの親の世帯所得は6割以上が950万円を超えており、なかでも1550万円以上というきわめて例外的な高所得層が1割以上を占めるという驚くべき結果になっている。*2 エリートの子はエリートになるのである。