前回の記事で、コメントをくださった方々ありがとうございます
日本の介護現場では、持ち上げて介護をするということが、
まだベースで行われていると思いますが、
最近は、少しずつ持ち上げない介護に変わってきているのかなと感じました。
今日は、スウェーデン介護で何故持ち上げない介護が行われているのかということを、
私の考えるスウェーデン社会全体の考えや、介護士目線から書いていこうと思います。
スウェーデン高齢者介護施設で、
介護士が利用者を持ち上げて移乗をするということは、まずありません。
何故持ち上げて移乗することが無いかと言うと、
① 持ち上げることで利用者を傷つける可能性大。
② 介護者側の体に負担がかかりすぎる。
という、すでに2つの危険要因が存在するからです。
危機管理という目線から見たら、すでに2つも危険要因があるのに、
それを行うということを推奨する人は誰もいません。
なので、逆に自助具を使わない持ち上げ移乗をすることはタブーになっています。
持ち上げ移乗が全くないわけではないですが、
それを見ると、全員が「介護者と利用者に怪我がなくて良かった」と胸をなでおろします。
(危険要因観点の余談ですが、日本ではよく安全面を考えて介護をする傾向にあると思います。
例えば良くあるのは、利用者が立ち上がるは転倒の危険性があるからと、車椅子に座ってもらうこと。
立位歩行という行為の危険要因は何かと考えた時に、「転倒」という危険要因しか思い浮かばないのですが、
持ち上げ移乗の危険要因は何かと考えた時に、
「利用者を落とす」「介護者の体の負担」「利用者の体が器具にあたって怪我」など、
立位歩行より多くの危険要因があるのに、歩行はダメ、でも持ち上げ移乗はオッケーとなっているのは、
日本ならではの矛盾かなと感じます^^;)
入所時に私達介護士は、まず利用者がどの程度歩行が出来るかアセスメントします。
自分の足で立って歩ける⇒介助不要、見守りのみ。
自分の足で立てるけど、足がもつれる⇒2人介助、もしくは回転盤、立位リフト使用。
自分の足で立てない⇒床走行式リフト使用。
利用者の歩行状況は、基本的にこの3つの段階の中のどこかに入るので、
それを作業療法士に報告して、
介護士と利用者が一番使いやすい自助具を発注してもらいます。
どの自助具を使うか、どのタイプが良いかというのは、私達介護士が決めることができます。
ここでの作業療法士との話し合いは、
「私達介護士が今まで使ったことのない自助具の中に良いものがあるか?」
という話合いになります。
介護士はアセスメントした時に、
利用者が上記の3つの中のどの段階にあるのかが分かっているので、
どんな自助具が必要かは、過去の経験からすでに分かっています。
最近新しく出た自助具や機械があるかどうかは、介護士は把握してないので、
その情報を補充する形で、作業療法士と話合いが行われる程度です。
作業療法士が「これが良いかも」とお勧めしてくれても、
私達介護士が使いにくい!と思ったら、
私たちの使いやすいものに交換してくれることもあります。
作業療法士は常々、
「この機械を使うのはあなたたち介護士だから、安全で使いやすいものを選んで!」
と言ってくれます
ただ、リフトを使うとなると、
シートを体の下に敷いたりして、時間がかかることがあります。
じゃあ、時間がなくて間に合わなかった場合はどうするの?となりますが、答えは、
「間に合わないことは無い」です
介護というのは、日常生活のお手伝い。
「日常生活をする」と考えた時に、間に合わないことは、本当は無いはずなんです。
間に合わないと思ってしまうのは、社会や自分たちが時間や作業量を決めているから、
そこに到達しなければ「間に合わない」となります。
ただ私たちも利用者も、社会の中で生活していて、決められた時間や作業量があります。
実際問題、間に合わない状況に出会うこともあると思います。
しかし私は、介護現場の間に合わない状況を見極めるのは、
私達介護士の仕事ではあると思っていません。
私達介護士が一番考えなくてはいけないのは、施設運営や、社会システムの流れではなく、
目の前にいる利用者の介護です。
実際、時間がなくて他の利用者の介護が間に合わなかったとなった場合、
それが「問題」になります。(介護士の怠慢であれば話は別ですが^^;)
その時点で、会社がそれを「問題」として取り上げます。
そして会社は、その問題点を改善しなければいけません。
そうすることで、介護士にも利用者にも良くなる改善が必要となるので、
この場合、問題を問題として取り上げることは、悪いわけではありません。
スウェーデンでは、よく介護士が施設側に「間に合わない事」の問題解決を
直談判にいくことが良くあります。
例えば、2人の介護士で、10人の起床介助を行う場合、
10人の中の7人がリフト使用で、そのうちの入浴介助が2人となると、
時間的に見ても、とても午前中だけで間に合いません。
(間に合わない中でも、フィーカの時間は必ず取るのがスウェーデン流)
この場合実際に、間に合わなかったとして、介護を受けられなかった利用者がいたとします。
そうすると、介護を受けられなかった利用者・家族はそれを問題として施設側に抗議します。
ただ、そこで介護士は物理的に無理なことを、しっかり説明する必要があります。
一人一人の利用者の介護に要する時間を、全員の介護士が共有していないといけません。
例え介護度が要支援であっても、動きが遅い人であったり、体調不良であれば、
5分で終わるはずの介護が、20分かかることもあります。
そのことを介護士がしっかり施設側と家族に説明できれば、
間に合わないという事実があったとした時、施設側からの調整が必要になります。
介護士は、それぞれの利用者の介護に要する時間がおおよそですが、数字化できます。
なので、それを武器に、間に合わないので調整してください!と言って、
労働環境改善に努めることも、介護士と利用者の為になると私は思っています。
持ち上げない介護をする為には、
人手不足や時間不足を改善できるのが一番早いですが、
その前に、私達介護士一人一人が、
「持ち上げて移乗することは危険要因がいっぱい!」
「介護に間に合わないことはないから、急ぐ必要はない」
「私達介護士が現場と利用者のことを一番理解していると自信を持つこと」
と様々なことを認識して、それを介護社会全体で意識改革してしまうのが、
今の日本の介護現場を変えるには、一番近道なのかなと私の目線から見て思いました