転生先がBETAで頭脳級な私   作:一般監視員

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一部シーンカットにより今回短めです。


第12話 これからです

 ー 2001年 旧帝都 式典会場 ー

 

 一通りの要人による挨拶が終わり、戦死した兵士への弔いが行わる。出席していた晴海も例にならったが、出席していた軍人の中から「どんな顔をしてそこにいるんだよ.....。」「お前に弔われたくはないだろうな.....。」などと小声で話しているのが聞こえてくる。

 

(まぁ、当然の反応だよね....。)

 

 晴海は特に聞こえてないようなふりをした。その後、式典はそのまま何事もなく事が進んだ。

 式典が終わるとアナウンスで出席者向けに食事が用意されていることが説明され、ほとんどの人は用意された仮設会場へと向かう。夕呼が「あんたはあんまり気乗りしないわよね。」と少しばかり晴海に同情したようであったが、晴海は「先生のご都合に合わせますよ。」と返した。夕呼は政府関係者と話しがあるため、どうしても食事の席に出る必要があったのだ。その間、晴海を担当する責任者として、晴海から離れているわけにもいかず、どうしたものかと思っていたのだが、晴海の返事に夕呼は「ごめんなさいね~。」と機嫌がよさそうだった。

 

(とはいったものの......。ここまであからさまに敵意向けられるのわね~。)

 

 会場に入った晴海は常に夕呼の傍にいたのだが、ほとんど話しかけられることはなかった。榊首相が唯一声をかけてくれたくらいで、大半は晴海と距離を開け、不気味そうな視線を向けている。

 

(はやく終わんないかなー。)

 

 特に食事に手を付けることもなく、話し相手もいない晴海は暇でしょうがなかった。その時、背後からゆっくり近づく気配を感じ取った。

 

「貴方が宗谷晴海さんですね。」

 

 晴海は後ろから声を掛けられ、「はい、そうですが。」といいながら顔を向ける。(何かめんどくさいこと言われるのかな)と思っていた晴海であったが、後ろの人物に顔を合わせると、そこに立っていたのは晴海も知る人物であった。

 

(鎧衣課長!?)

 

 唐突な登場に驚いた。裏で暗躍しているイメージがほとんどの鎧衣課長が目の前にいることに晴海は何かしてくるのではと警戒するが、周囲に攻撃的な意思をもった存在を確認できない。

 

「そう、警戒なさらずとも大丈夫ですよ。実は貴方に会いたいというお方がおりましてね?来ていただけませんか。」

 

「私と会話をしたいのであれば香月先生の同伴、許可が必要なので、先に先生にお話をお通しください。」

 

 不用意についていきたくない人物であることも理由ではあるのだが、晴海は表向きな理由で同行することを拒んだ。

 

「ふむ。それは困りましたね。香月先生は先ほどから政府のお偉いさんと話している様子。その間に割って入るのもね?」

 

 私の方を見て「分かるでしょう?」とでも言いたそうな鎧衣課長だったが、晴海はそれでも「許可は必須です。無理であるというならば、お断りします。」と強く言い切った。

 

「いやはや、私、貴方に嫌われていますかな。」

 

「十分怪しむくらいには。」

 

 そんなことを課長と暇つぶし程度に話していた晴海であったが、その課長の後ろから近づいてくる人物が見えた。複数の斯衛兵に囲われて......。

 

(ま、ま、まさか!?)

 

 晴海の様子を見た鎧衣課長が「では、ここでお話ししていただきましょう。」と言うと、歩いてくる人物に向けて帽子を脱ぎ頭を下げた。周囲の軍人や官僚も頭を下げる。

 向かってきた人物は日本帝国の現・政威大将軍。煌武院 悠陽その人であった。その両脇に控えている斯衛兵は月詠姉妹である。

 

(な、なぜ殿下が!?)

 

 晴海はあまりにも予想外であった出来事に思考が停止した。予定ではいつかは直接話し合いをする必要があると思っていた人物とのあまりにも早く唐突な出会いであったからだ。政府関係者と話していた夕呼もただならぬ状況に「すみません。ちょっと...。」と言い話を途中でやめ、晴海の傍へ来た。

 

「殿下。このものが何か不手際をなさいましたでしょうか....。」

 

 夕呼は頭を下げながらそう言う。晴海が何かしてしまったのではないかと不安な様子であった。

 

「いえ、何でもありませんよ、香月博士。私はこの者に興味があった故、顔を合わせたいと思っていたのです。」

 

「問題といえば殿下の前であっても頭を下げようとしないことであろう。」

 

 後ろに控えていた真那が晴海を見下すようにしながらそう言い放つ。

 

「私はBETAの代表.....。と言える立場でここに来ている。それにお前たちと終戦を迎えたわけでもない。人としての礼儀を我々に通すなら、その前に自分たちの証明を終わらせることだな。」

 

 真那の態度にムカッとした晴海はBETAが舐められているように感じ、そう言い返した。夕呼が「この馬鹿ッ!」と言いたそうな表情で晴海の方を見つめていたが、晴海はプイっとそっぽを向いた。

 

「殿下に対しお前など!BETA風情が調子にのりおって!お前たちのせいでどれほどの「真那!お止めなさい!」」

 

 悠陽が真那の発言を止めに入り、「真耶もなぜ止めに入らないのです!」としかる。月詠姉妹は「申し訳ございません!」と悠陽に頭を下げる。

 

「宗谷さん。申し訳ありません。臣下が失礼を......。」

 

 そう言い悠陽が晴海に頭を下げようとする雰囲気を感じた晴海はとっさにテレパシーで悠陽の頭に話しかけた。

 

『頭を下げるのはやめてください。ここで頭を下げられると今後の関係に影響します。謝罪は十分です。私も言いすぎましたから。』

 

 急に響いた声に驚いた様子の悠陽であったが、晴海が頷いて「大丈夫です」という気持ちを伝えると、先ほどの言葉が晴海の能力であると理解したのか、頭を下げることはしなかった。

 

(こんな人目の多いとこで殿下に頭を下げさせたなんてなったら、何が起こるかわかったもんじゃないよ.....。)

 

「失礼。挨拶が遅れました。私がBETA使節団の代表を務めます。宗谷晴海です。殿下にお会いでき光栄です。」

 

 晴海はそういうと帽子を脱ぎ、一応の形として頭を下げる。この方が対外的にイメージはまだいいだろうと考えた結果であった。BETAらしからぬ様子に周囲の声は少しざわめいたようであったが、悠陽が「存じております。今後とも宜しくお願い致します。」と返してくれたおかげで、特に何かが起きるわけもなく平和に顔を合わせることができた。

 後ろの真耶が「殿下、お時間が....。」と言う声が聞こえた。悠陽はうなずき、「皆様、お騒がせてしまい、申し訳ありません。私は失礼させていただきます。」というと、斯衛をつれて会場を後にした。

 

(本当に顔を合わせにきただけだったんだ.....。何か話すのかと思ったけど....。って鎧衣課長は!?いつの間に消えた!?)

 

 消えた鎧衣課長に驚いたものの、なにはともあれ何事もなくてよかったと晴海は安心した。夕呼も「あんたも少しは抑えなさいよ。私の責任になるでしょ。」と晴海にささやいたが、晴海は「はい、努力します。」と受け流した。

 

 

 

「殿下、どうでしたか、あのものは。」

 

 会場の外を出て、移動するために車両へ向かう道中、真耶が悠陽に話しかける。

 

「宗谷さんですか。人間らしくて、本当にBETAか疑ってしまいました。あまりにも人間らしくて。」

 

「そうでしたか。」

 

 悠陽は晴海の様子を見て何か思うことがあったようだが、真耶もそれ以上深く聞くようなことはしなかった。真那は先ほどのこともあり少ししょぼんとしているようだ。

 

「今後とも情報の収集は怠らないように。」

 

 悠陽の言葉に真耶は「ハッ!」と返した。

 

 

 

 その後、必要な人物との話し合いがようやく終わった夕呼は「用事は終わったけど、どうする?」と晴海に聞いた。晴海は「早く帰りたいです....。」ともうこの会場にいるのはこりごりとしている様子だ。

 

(BETAにも精神的なダメージはあるのかしら....。)

 

 晴海の様子を見た夕呼はそんなことも考えたが、今はいいかと考えをやめ、「それじゃ、帰りましょ。」と言い、晴海を連れて会場を出ることにした。

 

 

 帰りの車内にて.....。

 

 

「ところであんた、今後どうするつもり?」

 

「今まで話した通りですよ。与えられた任務を遂行します。」

 

 夕呼は頭に手をやって「あぁ違う違う。そういうのじゃないわ。」という。晴海は何だろうと首をかしげる。

 

「任務を遂行するのに私とあんたは協力関係にあるでしょ。あんたがいつもどこから来てるか分からないけど.....。って言ってもハイヴから来てるんでしょうけど。何か用がある時にあんたを呼ぶ手段がないのよ。だから、今後はどうするのっていうこと。」

 

 いわれてみれば、晴海から用がない限り、横浜基地に行くこともなく、その間は連絡すら取っていなかった。

 

「もしかして.....。何かありました....?」

 

 晴海が恐る恐る聞くと、夕呼はグイと顔を近づけ「大ありよ!」と怒鳴るようにいった。

 

「あんたから連絡がない間私一人であんたに関する物全部処理したのよ!?苦情から問い合わせ、そして会わせろっていってくる各国の対応も!それに......!」

 

 止まることがなさそうな夕呼の文句に晴海は夕呼の口に手を当てて、「そ、それは申し訳ありません。」という。

 

「確かに香月先生がいないと私も公的な身分で活動できないですし、先生もオルタネイティヴ4の遂行に影響があるのは分かりました。しかし、私が帰る場所を伝えるのはさすがに.....。」

 

「何言ってんのよ。帰る場所なんて元々聞く気ないわよ。」

 

(え?何言ってるの?)

 

 晴海はまた首を傾げた。

 

「横浜基地のセキュリティレベルが高い場所にあんた用の専用個室が設けられたのよ。だからそこに基本的に通うっていうか、いて頂戴って話。」

 

(え?何言ってるの?正気かこの人。)

 

 晴海は夕呼の話に混乱した。惨劇を引き起こした当人を基地の中に入れることを許可しているこの状況に全く理解できなかった。人類の危機管理が低いのか、それとも晴海を救世主かなにかと勘違いしているのか。そのどちらでもない何か。晴海はそう考えた。

 

「横浜基地に他計画や国連で進められているプロジェクトの詳細は今後入ることがなくなったのよ。オルタネイティヴ4の専用基地として特別扱いになったの。だから、あんたがもし諜報活動をしたとしても軍事的や技術的な情報はオルタネイティヴ4関係のもののみになるわ。だから、あんた専用の個室を設けることができたってわけ。」

 

 晴海はリーディングでもされたかと疑うほど完璧な夕呼の回答に大体を理解した。

 

(そうであれば、失うものもオルタネイティヴ4だけだし、オルタネイティヴ5に影響がでないから容認したってわけか....。)

 

 晴海は「なるほど」と小声を漏らす。夕呼の頑張りが目に見えるようで心から感謝したかった。今日の政府関係者との話もそれに関係したものであったのかもしれない。

 

「専用の個室の件、了解しました。しかし、私も上位存在に連絡をする必要があります。その時はハイヴに戻らなければなりませんが.....。」

 

「反応炉までの国連施設への出入り....。と言ってもあんたに関係する場所しか入れない特別仕様だけど、あんた専用の身分証兼セキュリティパスももうできてるわ。」

 

 あまりの用意の良さに晴海は一種の不気味さすら得た。

 

「先生.....。また何か企んでいませんか?」

 

 晴海が怪しむように夕呼の顔を見る。夕呼は溜息をもらす。

 

「さすがにもう勝手に動けないわよ。あんたは日本政府と関与している以上、国連が無断で作戦なんて行ったら、更に反国連、反米感情が悪化して人類同士で殺しあいになってしまうもの。」

 

 そういう背景があったのかと晴海は理解したが、基地にいる際に油断はしないでおこう.....。と決めた。

 

「そういう事情であれば、私も先生に協力させてもらいます。あまりにも多くの借しができてしまいましたね......。」

 

 夕呼はとたんに先ほどまでの疲れた表情から目をキラキラと輝かせた。

 

「そう!これは借しよ!あんたへの借しなのよ!あんたに言われるまで、忙しさですっかり忘れていたわ!」

 

 晴海は地雷を踏みぬいた気がした。

 

「あんた借しを残すのは嫌いよね!今日はこのまま横浜基地へあんたも行くわよ!私の部屋でとことん借しを返して頂戴!」

 

(今晩......。休めれそうにないなぁ......。)

 

 「さぁ!帰るぞー!」と元気そうな夕呼と「は、はい....。」とうなだれた晴海であった。

 

 

 この後、晴海は夕呼の部屋でとことん質問攻めにあうことになり、挙句の果てに体の構造を調べると言い出した夕呼の手によって、あんなことやそんなことをされてしまうことになるのだが......。その内容は尊厳を守るためにここではカットすることにした。

 


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