38歳“ボードゲーム伝道師”が説く会員集めと大会成功の秘訣

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岩田慎太郎さん(一般社団法人「ボードゲーム」会長、プロボドゲーマー)

 長引くコロナ禍で“おうち時間”が増えた人も多いだろう。家族とのひと時にうってつけなのが「ボードゲーム」だ。

 ボードゲームはドイツ発祥で、ボードにコマを配置し、陣地を広げるなどして得点を競い、遊ぶアナログゲームの総称だ。競技人口5億人ともいわれるチェスや、日本でも昔からある「モノポリー」、最近若い世代に人気の「人狼」もそのひとつ。

 毎年1000種類以上の新作が全世界で発売され、人気のゲームは世界大会も開かれる。近年日本でもファンが増え、ボードゲームファンを公言する芸能人や、ボードゲームを気軽に楽しめるカフェも増えている。

 そんなボードゲームを広めようと奮闘しているのが、一般社団法人「ボードゲーム」会長の岩田慎太郎さん、38歳だ。人呼んで“ボードゲームの伝道師”――。

■大手製粉会社を脱サラ

 愛知県の一宮市出身。小学生当時はファミコンブーム真っ盛りだったが、「目に悪いからという理由で、買ってもらえなかったんですよ」と振り返る。

 その代わりに買ってもらったのがボードゲーム。UNOやドラゴンクエストのボードゲーム版などに夢中になった。

 中学生になってようやくスーパーファミコンを買ってもらったが、選ぶソフトは桃太郎電鉄などボードゲームタイプばかり。

「やっぱり好きだったんでしょうね」

 とはいいつつ、それは子供の遊びの範囲内。特にボードゲームの大会に出るようなこともなかった。大学に進学してからは、麻雀にのめり込み、就職したのは、ゲームとは無関係の大手製粉会社。

「冷凍食品の市販用営業部というところに配属されました。要はスーパーで売る家庭用冷凍食品です。とにかく真面目に働きました。先輩から引き継いだ取引先の売り上げを3年で10倍にするなど成果も上げたのですが、全く評価されず……。年功序列で、対外的な成果よりも社内営業を優先すべしという社風も合わず、4年で退職しました」

 その時26歳。しかし、アテもなくいきなり辞めたわけではない。最後の1年間は週末に副業をし、それで稼げるめどが立ったことで、退職を決意したという。

「カタン」に出合った瞬間「これだ!」と

「やっていた副業はイベントの仕事です。他業種のビジネスマンを集めて交流会を開いたり、街コンのはしりのようなイベントを開催したりして、参加料や企業からの協賛金で、最終的には月に30万円ほど稼げるようになりました」

 会社を辞めて半年後には月の収入が50万円に。少し余裕が出てきたところで始めたのが、雀荘でのアルバイトだった。

「イベントって基本的には週末に行われるので、平日はヒマなんですよ。それで大好きな麻雀を極めようと、麻雀のプロに弟子入りし、雀荘で働き始めました」

 平日は雀荘、週末はイベントという二足のワラジで1年ほど過ごした頃、麻雀でイベントを開くことを思いついた。

「初心者のための麻雀教室を開いたんですが、これが全く人が集まらない。ルールが難しくて一日では覚えられないのと、人数が多くなると賭け麻雀に走ったりして、早々に撤退しました」

 そんな時に出合ったのが「カタン」だ。全世界で2000万個以上売れている大ヒットボードゲームで、カタンという無人島を舞台に、拠点となる開拓地や家を建て、島全体を開拓していく。世界大会も開かれるほど、海外ではメジャーなボードゲームだ。

「雀荘で一緒に働いていたプロ雀士が、実はカタンの日本チャンピオンで、その人に教えてもらったんです。遊んだ瞬間にコレだ(!)って思いましたね。初心者にも分かりやすいし、それでいて奥が深い。これを日本に広めたいと思いました」

 27歳の時に1回目のカタン大会を開催。最初はわずか8人の参加だったが、回を重ねるごとに増えていき、2年後には50人、さらに2年後には200人を毎月集めるほどの一大イベントに成長した。

「とにかく面白いし、4人いないとできないゲームなので、やろうと思ったら友達を誘うしかない。口コミの力ですね」

 にわかにボードゲーム業界から一目置かれるようになった。しかし、それがかえってトラブルの種になる。

業界内から思わぬバッシングを受ける

 ドイツ発祥で、ボードにコマを配置し、陣地を広げるなどして得点を競い遊ぶアナログの「ボードゲーム」。毎年1000種類以上の新作が登場し、人気のゲームは世界大会も開かれるという。近年、日本でもファンが増えているが、普及の一翼を担ってきたのが社団法人「ボードゲーム」の会長だ。

 大手製粉会社を26歳で辞め、イベント系の会社を設立。イベントが開催されるのは週末だったため、時間のある平日に趣味の麻雀の腕を磨くべくアルバイトをしていた雀荘で、プロ雀士に教わったのが「カタン」というボードゲームだった。

 全世界で2000万個以上売れている大ヒットゲーム。だが日本では無名。それを日本で広めようと考えた。27歳の時に1回目の大会を開催。4年後には毎月200人の参加者を集めるまでに成長。そしてその年(2014年)に社団法人を設立。

「理由は2つあります。ひとつはイベントの参加者が増えたこと。もうひとつは業界内からバッシングを受けたことです」

 バッシングの理由も2つある。ひとつは“八百長疑惑”。当時メーカー主催の全国大会で、上位20人中16人は、自らが主催する大会の参加者が独占したことがあった。それが気に入らない既存の愛好団体から「仲間内で融通しあっている」と濡れ衣を着せられたのだ。

 もうひとつは偶然メンバーにマルチ商法をやっている人物がいたこと。本人は関わっていなかったが、ネット上に主催団体は「マルチ商法の巣窟だ!」と書き込まれた。

「これはちゃんとした法人格にして、社会的な信用を得ないとマズいなと思って、社団法人を設立したんです」

 その騒動で、会員は一時期半分以下の100人に減ってしまったが、むしろ「いい教訓になった」と語る。

「SNSって、すぐに何千人と集められる便利なものである一方、すぐ離れてしまう弱点もあります。それで集客してもいいのですが、その後いかに生身の人と人とでつながれるかが大事。うちの場合はそれがあったので、風評被害にも負けず、立ち直ることができたのだと思います」

お笑いライブで実験

 バッシングという逆境をはねのけ、2020年1月の大会では250人を集めるなど、社団法人設立前の会員数を超えた。それほど、ボードゲームに懸ける思いが強かったのだ。

 ところで、抜群の集客力は、意外なところでも発揮された。お笑いの世界だ。イベントを開催する時に余興で漫才のようなことをやっていたため、「自分の集客力があればお笑いでもいいところまで行けるのではないか」と思ったのだ。というのもお笑いライブは観客の投票で優勝を決める、いわゆる“オンエアバトル”形式が一般的。勝てばその上のレベルのライブに出場できる。岩田さんは自前のネットワークを生かし、会場に知り合いを多数動員。見事勝ち上がることに成功した。

「最終的には、スターの登竜門的な有名ライブにも出て、今をときめくチョコレートプラネットさんとも共演しました。え、そのままお笑いを続ければよかったのに? とんでもない。それ以上は実力がないと無理。お笑いは本当に厳しい世界だと思い知りました」

 持ち前の集客力を生かし、ボードゲームの普及にも勢いがついてきたところで、コロナ禍に巻き込まれた。

「2019年にオープンしたボードゲームカフェも順調だったので、コロナさえなかったらと、悔やまれますね」

 それでも、「コロナが明けたらボードゲームを子どもたちに教えたい」と意気込む。デジタル化が進んでいる中、他人とアナログでつながれ、そして楽しくお金のことや人とのコミュニケーションなど、社会勉強もできるのがボードゲームの魅力だからだ。

「内部留保やボードゲーム動画の収益などで、2023年までは赤字でもボードゲームカフェを続けられる。それまではボードゲームの火を消さないよう、何が何でも耐えるつもりです」

 伝道師がいる限り、日本のボードゲームの未来は明るい。

(取材・文=いからしひろき)

▽岩田慎太郎(いわた・しんたろう) 1982年、愛知県出身。プロボードゲーマー。一般社団法人ボードゲーム会長。「カタン」などのドイツゲームから、日本発のしりとりゲーム「ワードバスケット」まで、幅広いゲームのスキルを持つ。レクチャーできるゲームは1000種類以上。自らボードゲーム制作をするほか、池袋でボードゲームカフェ「ONE」の経営も行う。人呼んで“ボードゲームの伝道師”。

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