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■コウモリ宿主のウイルス
コウモリの絵やたばこだけなら実害はないが、中国ではコウモリも重要な食材らしい。困ったことに世界中の多くの国でコウモリを自然宿主とするウイルス感染がヒトにも広がるという事例がある。エボラ出血熱やハンタウイルス感染症、ヒストプラズマ感染症、そして狂犬病を含むリッサウイルス感染症など枚挙にいとまがない。
なぜコウモリは人にウイルスを感染させるのか。興味深い論文があった。
哺乳類の中で唯一、長距離の飛翔を行うコウモリは、酸化ストレスにより細胞内に多くの核酸断片を生じる。断片化した核酸は通常では細胞内の分子センサーに認識され、細胞にウイルス抵抗性を与えたり、他の免疫細胞を活性化するインターフェロンという物質が誘導されたりする。しかし、コウモリはこのようなインターフェロン応答を欠き、結果、多くのウイルスに持続感染しているという。
彼ら自身は未知のメカニズムでこれらのウイルスに抵抗するが、他の動物に媒介して疾病を引き起こすため、人獣共通感染症の原因となっている。空を自由に飛べるコウモリはその数が多く、世界では1000種に達する。多くは夜行性のため目が退化し、自ら発射する超音波の反射により餌や障害物など外界を探知する。
コロナウイルスの多くがコウモリを宿主としているため、過去にも今回のようなパンデミックがたびたび生じ、そのたびに人類やその祖先は治療薬がなくても獲得免疫の力でこれを撃退してきたのであろう。実際、SARSやMERSは今では跡形もないし、今回のCOVID-19も数カ月のうちに消えていくであろう(と信じたい)。その結果、残ったのが、感冒の原因となる4種類のコロナウイルスである。
■流行中は禁煙減煙を
今般流行している新型コロナウイルス(SARS-CoV2)は、現時点では特効薬もワクチンもなく、国内流行が始まりつつある現在、手洗いなどの個人衛生に努めるしかない。もう一つ、最近気になった論文は、喫煙が肺胞細胞のコロナウイルスレセプターACE2の発現を誘導するというものである。
これは健常者の肺組織を用いた研究で、実際の患者さんの予後は未知数であるが、禁煙でウイルス結合性が低下するのであれば、少なくとも流行中は禁煙減煙するにこしたことはない。
○早川智(はやかわ・さとし)/1958年生まれ。日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授。医師。日本大学医学部卒。87年同大学院医学研究科修了。米City of Hope研究所、国立感染症研究所エイズ研究センター客員研究員などを経て、2007年から現職。著書に『戦国武将を診る』(朝日新聞出版)など
※AERAオンライン限定記事
戦国武将を診る 源平から幕末まで、歴史を彩った主役たちの病
早川 智
早川智
早川智(はやかわ・さとし)/1958年生まれ。日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授。医師。日本大学医学部卒。87年同大学院医学研究科修了。米City of Hope研究所、国立感染症研究所エイズ研究センター客員研究員などを経て、2007年から現職。著書に『戦国武将を診る』(朝日新聞出版)など
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