ー飛行訓練は木曜日に始まります。グリフィンドールとスリザリンとの合同授業ですー
な、なんだと...。
俺は、グリフィンドールの談話室の掲示板の前で呆然としていた。
一番嫌いなスポーツは?と言われたら俺は迷わずクィディッチと答えるだろう。
クィディッチとは、箒に乗って行われる魔法界のスポーツだ。
魔法使いと魔女の間で最も人気の高いゲームで、相手のチームよりも多くの得点を取ったほうが勝ちとなる。
簡単そうに思えるが、クィディッチはとても難しいスポーツなのである。
空中で固定されていないホウキにまたがると、人間の「重心」が股間よりもやや上にあるので、バランスを上手く取らなければどんなにしっかりつかまっていても、ホウキと一緒にグルリと回転して落ちてしまうのだ。
また、クィディッチの試合中、選手たちは電柱や街灯が倒れたり、走行中のトラックが横転したり、電話ボックスや自動販売機が倒れたりするほどの瞬間風速50メートル以上の風を受けながらプレーしているのである。
また、クィディッチでは一試合にふたつのブラッジャーが使われ、プレイヤーを箒から落とすために飛び回る。各チームにふたりのビーターがおり、ブラッジャーから味方プレイヤーを保護し、敵プレイヤーに向かって打つのだが、ブラッジャーは、箒よりも速く、まともに当たるとその衝撃はなんと
50km/hで走る乗用車に跳ねられたときに匹敵する。
こんなのが当たったら痛いどころではすまされない。
いままでクィディッチで死者が出なかった方が不思議である。
だから、クィディッチは、嫌いだ。
「…だから、クィディッチは嫌いだよ。
そもそも、200キロも出る箒で初心者に教えようとするなんてどんな教育方針だよ。
せいぜい、高速道路で100キロぐらいしか走行しない車でさえ免許が必要なんだっていうのに。
200キロで地面に衝突したらどうするんだよ。
即死だよ、即死!」
「けど、箒に触れ合える、スゴい良い授業じゃないか」
「死んだら意味がないじゃないか。
前のハッフルパフとレイブンクローの合同授業は全員一斉に箒で飛んだらしいけど全員、安全措置が行き届くのか不安だよ」
「ネビル、君はクィディッチの魅力がわからないのが不思議だよ」
「ロン、君も何であんな危険極まりないスポーツが好きな理由が分からないよ」
木曜日の朝、俺はロンとクィディッチについて大論争をしていた。
ハーマイオニーは、ハリーに『クィディッチ今昔』で得た情報を伝えまくっていた。
俺が大争論に熱中し、立ち上がろうとすると、メンフクロウが俺に、ばあちゃんからの小さな包みを持ってきた。
「熱中してたところだったのに...」
俺はそれを開けて、白い煙のようなものが詰まっているように見える大きなビー玉ぐらいのガラス玉をとりだす。
「『思い出し玉』か!
嬉しいけどばあちゃんは、過保護で困るな」
ため息をついていたところにマルフォイがグリフィンドールのテーブルのそばを通りかかり、玉をひったくろうとした。
だが、俺は思い出し玉をしっかり握り、ひったくられないようにするとともにマルフォイに杖を向けた。
「デパルソ 退け」
マルフォイがスリザリンのテーブルまで吹き飛ばされるとマクゴナガル先生がサッと現れた。いざこざを目ざとく見つけるのはマクゴナガル先生だった。
「どうしたんですか!」
「マルフォイが俺の思い出し玉を取ろうとしたので吹き飛ばしたまでですよ」
「そうだとしても危険な行為です。
人に危害を加えてはいけません!
わかりましたか、ロングボトム」
「わかりました」
その日の午後三時半、ハリーもロンも、グリフィンドール寮生と一緒に、初めての飛行訓練を受けるため、正面階段から校庭へと急いだ。
よく晴れた少し風のある日で、足元の草がサワサワと波立っていた。
傾斜のある芝生を下り、校庭を横切って平坦な芝生まで歩いて行くと、校庭の反対側には「禁じられた森」が見え、遠くのほうに暗い森の木々が揺れていた。
スリザリン寮生はすでに到着していて、二十本の箒が地面に整然と並べられていた。
マダム・フーチが来た。
「なにをぼやぼやしてるんですか」
開口一番ガミガミだ。
「みんなのそばに立って。
さあ、早く」
俺は自分の藩をちらりと見下ろした。
古ぼけて、小枝が何本かとんでもない方向に飛び 出している。
大丈夫なのかよ。
俺は恐怖に駆られていた。
「右手を箒の上に突き出して」
マダム・フーチが掛け声をかけた。
「そして、『上がれ!』と言う」
するとみんなが「上がれ!」と叫んだ。
しかし、箒はピクリとも動かなかった。
中には、飛び上がり手に収まっていた人もいたが、少なかった。
次にマダム・フーチは、藩の端からすべり落ちないように箒にまたがる方法をやって見せ、 生徒たちの列の間を回って、帯の握り方を直した。
「さぁ、私が笛を吹いたら、地面を強く蹴ってください。 はぐらつかないように押さえ、二メートルぐらい浮上して、それから少し前かがみになってすぐに降りてきてください。 笛を吹いたらですよ一、二の――」
ところが、俺は、緊張しすぎて、先生の笛に触れる前に思いきり地面を蹴ってしまった。
「こら、戻ってきなさい!」
先生の大声をよそに、俺はシャンパンのコルク栓が抜けたようにヒューッと飛んでいった四メートルー六メートルぐんぐん離れていく地面を見下ろし、俺は箒から真っ逆さまに落ちる。
「モリアーレ 緩めよ!」
俺は無重力のような状態となり緩やかに地面に着地した。
マダム・フーチは、真っ青になって、俺に駆け寄った。
「怪我はないですか?」
そう言うとマダム・フーチは俺の体の隅から隅まで確認する。
「怪我はなさそうですが一応、医務室に行きなさい。
私も同伴しましょう」
そう言うと俺は医務室に行かされた。
「なんだって!
俺が医務室に行ったあとそんな事があったのか!
...たぶん、ハリーは退学にはならないとは思うけど、罰則はありそうだね。
だけどマクゴナガル先生がマルフォイも一緒に連れて行かなかったのは不思議だね。
見ていたはずなのに.....」
夕食時にハリーの騒動を聞いてびっくりした。
15メートルの高さから箒でダイビングして捕まえるなんて相当難しい。
思い出し玉が地面に落ちるのは1.7秒ほどのため、その1.7秒の間に箒で地面に向かい、地面ギリギリのラインで箒を水平にしなくてはならないのだ。
「フーチ先生に箒はそのままにしておくようにって言われていたのに飛んだなんてあり得ないわ。
だけど、ネビル、すごいわね。
クッション呪文は、3年生になってから教えられるのに!」
飛行訓練の事件に俺は驚いたが、ハーマイオニーは逆に規則を破ったことに対して憤りを感じていた。
ハーマイオニーは、規則を重んじる性格だから致し方ないとは思うが。
そうして、ハリーの方へ目を向ける。
すると驚いたことにデブの手下を率いたマルフォイもいた。ハーマイオニーも同様だ。
「ポッター、最後の食事かい?マグルのところに帰る汽車にいつ乗るんだい?」
「地上ではやけに元気だな。 小さなお友達もいるしね」
「僕一人でいつだって相手になろうじゃないか。
ご所望なら今夜だっていい。
魔法使いの決闘だ。杖だけだー相手には触れない。
どうしたんだい?
魔法使いの決闘なんて聞いたこともないんじゃないのか?」
「もちろんあるさ。
僕が介添人をする。おまえのは誰だい?」
「クラップだ。真夜中でいいな?
トロフィー室にしよう。
いつも鍵が開いてるんでね」
そう言うとマルフォイはスリザリンのテーブルへ向かった。
「魔法使いの決闘ってなんだい?
君が僕の介添人ってどういうこと?」
「介添人っていうのは、君が死んだらかわりに僕が戦うという意味さ」
「死ぬのは、本当の魔法使い同士の本格的な決闘の場合だけだよ。君とマルフォイだったらせいぜい火花をぶつけ合う程度だろ。 二人とも、まだ相手に本当のダメージを与えるような魔法なんて使えない。マルフォイはきっと君が断ると思っていたんだよ」
ロンの言うことは正論だ。
呪文学でもまだ1度も実際に呪文を使ったことはないし、一年生が相手を攻撃、拘束、防御出来るような呪文を決闘中に変な体勢で放てないだろう。
だが、マルフォイが来ないことも考えられるが。
「もし僕が杖を振っても何も起こらなかったら?」
杖を振ればなにか起こって相手を倒すよりも自滅する確率のほうが高いぞ。
「杖なんか捨てちゃえ。鼻にパンチを食らわせろ」
相手には触れないんじゃないのか?
「ちょっと、失礼」
やはり、ハーマイオニー。見逃せない。
「まったく、ここじゃ落ち着いて食べることもできないんですかね?」
「聞くつもりはなかったんだけど、あなたとマルフォイの話が聞こえちゃったの…」
聞くつもり満々だったがねー
「聞くつもりがあったんじゃないの」
同感だ。
「……… 夜、校内をうろうろするのは絶対ダメ。 もし捕まったらグリフィンドールが何点減点されるか考えてよ。それに捕まる決まってるわ。まったくなんて自分勝手なの」
「まったく大きなお世話だよ」
「バイバイ」
「もう!なんで分からないのかしら。
行かないようにすべきかしら?ネビルは、どう思う?」
どうせ、あの二人は、止めても行くだろう。
行くのだったら減点されて反省したほうがよっぽど効果があるだろう。
「行かせていいんじゃないかな。
どんなに止めても行っちゃうと思うし、捕まって減点されたほうが少しは反省するんじゃないかな?」
「そうよね……」
ハーマイオニーは、納得していない様だった。