「バチェラー・ジャパン」シーズン4が11月25日、いよいよ配信される。参加者紹介VTRで「結婚は不公平。制度が変わらない限り結婚しない」と言い切り、番組のジェンダー観を批判してネットをザワつかせたのが松本妃奈子さんだ。
結婚NGなフェミニストの彼女がなぜ、「婚活サバイバル」を謳うバチェラー・ジャパンに参加したのだろうか。
専門は家族社会学、「日本の結婚は排他的」
Amazon制作のリアリティーショー「バチェラー・ジャパン」。1人の独身男性「バチェラー」の婚約者の座を巡り、女性たちが争う本作もついにシーズン4に。15名の女性参加者の1人である松本妃奈子(ひなこ)さんは飛び級で国立大学に進学。当時からジェンダー問題、フェミニズムに関心を持ち、現在は後期博士課程で家族社会学を研究している。最新の論文は「パパ活」について。
松本さんは自身の結婚観について、現在結婚している、また結婚したいという人を批判するものではないと前置きした上で言う。
「日本の婚姻制度は恋愛対象が異性であることを前提としていて、セクシャルマイノリティを排除する制度です。結婚すれば税制上のメリットもあるけれど、それを享受できない人がいるという点にずっと疑問を感じていました。
税制で優遇されるといっても、所得税の配偶者控除などは主に女性が103万円の収入に収まるよう『働き控え』をするなど、女性の社会進出を妨げる要因にもなっています。結婚という制度そのものに反対ですし、それを取り巻く税や社会保障も改善すべき点がたくさんあるなと」(松本さん)
女性らしさの押し付けにも警鐘
バチェラーの見所の1つは、男性と参加女性たちが繰り広げる非日常なデートシーンだろう。クルーザー、ヘリ、水族館を貸し切って、派手な打ち上げ花火の演出も当たり前。中でもビーチでさまざまなアクティビティをするのは番組のお約束で、参加者の募集要項にはシーンに合わせて水着に着替えるよう書かれている。
女性たちがバチェラー(男性)のために料理の腕を競うのも定番だ。
「見た目の美しさや、どれだけ料理ができるか気遣いができるかなど、やっぱりバチェラーという番組って女性性を披露する物語だと思うんです。一方で男性は肩書きや収入などハイスペックであることに価値があると強調している。男女共にこうあるべきという固定的な性役割を強化してしまう部分があって、そこはジェンダーを研究する者として批判的に見ています」(松本さん)
そんな松本さんがバチェラー・ジャパンに参加したのは、結婚という制度にこだわらなくとも誰かを心から好きになって人生を共に歩みたい、そんなパートナーに出会うチャンスだと思ったからだ。最終的に婚約者に選ばれたとしても、「事実婚や他の新しい形を提案するのもアリ」(松本さん)だと考えて応募した。
「上昇婚」は狙ってません(笑)
理想のパートナーは精神的に対等なパートナーシップを結べる男性。バチェラー・ジャパンの松本さんの紹介VTRを見た視聴者から「こんな考えの女性でも『上昇婚』を狙うのか」という反応もあったそうだが、
「自分で言うのも憚られるのですが、学歴・年収ともに性別問わず同年代では上位にいると思っています。上昇婚を目指しているわけではありませんということは言いたいですね(笑)」
とピシャリ。一方で、揺れる気持ちもある。
「男性に食事をおごってもらうのも、見た目を可愛いと褒められるのも嬉しいんです。対等な関係を築きたいと思う一方で、男性が担っている既存の性役割の旨味も享受したい。学歴も経済力もある私でさえこうしたアンビバレントさを持っていることが、現代を生きる女性の象徴だなと思っています」(松本さん)
選ばれなければ価値がない?婚活の戦場で生まれた絆
バチェラー・ジャパンへの参加を伝えると、大学の指導教授からは「戦場に行くと思いなさい」、母親からは「絶対に媚びないで」と叱咤激励のLINEが届いたという。
とはいえ女性たちの至上命題はバチェラーに「選ばれる」ことだ。そのためにはたとえ意志に反しても戦略的に行動を取ることが必要だが、葛藤はなかったのだろうか。
「普通の恋愛であれば互いに選ぶという相互行為が行われますが、バチェラーの場合は女性が一方的に『選ばれる』という構図。そういうパッケージに自分を押し込むことに抵抗がなかったと言ったら嘘になります」(松本さん)
バチェラーに選ばれることを目指して2カ月間の共同生活を送る女性たち。デートがうまくいかなかったり、脱落したり……涙を流すことも多い過酷な日々の中、女性参加者同士でいつも声を掛け合っていたことがあるという。
「選ばれなかったとしても私たちの価値が下がるわけじゃない、と繰り返しみんなで話していました。自分とバチェラーが、たまたまこのタイミングでは合わなかっただけだよねと。今回は特に個性的な女性メンバーが多かったので、その個性がバチェラーに刺さるかどうかって本当に運みたいなもの。
バチェラーに限らず、恋愛がうまくいくかどうかで女の子の価値が変わる、上下するわけではないですしね」(松本さん)
「男らしさ」からの脱却にも注目
4代目バチェラーを務めるのは、国内外で3つの会社を経営する実業家の黄皓(こうこう)さん(34)だ。バチェラー・ジャパンの男女逆転である「バチェロレッテ・ジャパン」では最後まで婚約者候補として残っていたが、選ばれず。
今回は当時からの心残りだった「弱さをさらけ出す」ことをテーマに臨んでいる。松本さんは黄さんについて、
「番組のテーマである『真実の愛』を探すためには素をさらけ出すことが必要な反面、バチェラーとしてリーダーシップを求められる場面も多く、女性たちを選ぶ、切り捨てなければならない立場としての責任も感じていたはず」
と語る。黄さんが抱える葛藤やアンビバレントさ、いわゆる「ハイスペ」男性として生きてきた彼が「完璧であること」「男らしさ」の鎧から脱却できるのかも番組の見所になりそうだ。
税や社会保障を変えて、結婚をピュアな恋愛に
最後に松本さんに家族社会学の観点から、理想の結婚のかたちを語ってもらった。
「同性婚が認められること、そして税制などでも男女の非対称性が排除されていることが大前提です。
日本政府は個人ではなく世帯を最小単位とした政策を打っていますが、それって家族に社会保障を担わせているようなもの。育児や介護などの公的サービスが減ったとき、負担が増えるのは主に女性です。
社会保障は家族ではなく個人単位で提供されるべきです。そうすれば、結婚はよりピュアな恋愛としてのパートナーシップになると思います」(松本さん)
一方で、人は必ずしも恋愛しなければならないわけではない。他人に心身共に恋愛感情を抱かないアロマンティック・アセクシャルの人たちもいる。「1人でも、誰とどのような理由で一緒に暮らしても尊重されるような社会であるべき」だと松本さん。そのためには「『結婚してこそ1人前』というような社会の風潮を変えることが必要」だという。
そんな松本さんとバチェラーは一体どんな化学反応を見せるのか。
「『バチェラー・ジャパン』シーズン4は予測不能な波乱の展開てんこもりです。多様な視点で見て、考察するところまでが楽しみだということをお伝えしたいです」(松本さん)
「バチェラー・ジャパン」シーズン4は2021年11月25日22時、Amazon Prime Videoで配信開始だ。
(文・竹下郁子)