大阪府・市、アンジェスと協定締結
世界各国がワクチン開発にしのぎを削るなかにあって、影が薄い印象が強い日本勢だが、筆者は一つの研究プロジェクトに注目している。
大阪府と大阪市は14日、大阪大学発のバイオ企業アンジェスが取り組む新型コロナウイルスのワクチン開発を迅速化するために必要な措置を講ずるための協定を締結した。協定によりアンジェスは7月から大阪市大での臨床試験の開始が可能となり、大阪府の吉村知事は「9月までに実用化を図り、年内に10~20万人への投与を目指す」としている。
プロジェクトの中心メンバーは大阪大学の森下竜一教授である。開発のキーコンセプトは「DNAワクチン」である。通常のワクチンは、ウイルスを鶏卵などで培養して不活性化した上で患者に接種するが、今回開発するワクチンは、ウイルス本体ではなくウイルスの遺伝子情報を患者に注入する。具体的には、感染に関係するウイルス表面のスパイクタンパク質に関する遺伝子をつくり出すように設計された「プラスミドDNA」を用いる。注射でプラスミドDNAを体内に入れると、ウイルスを注入した場合と同様、体内に抗体ができるという。
通常のワクチンはウイルスを使用するため一定の感染リスクは避けられないが、DNAワクチンは遺伝子の設計図を使うため感染の心配はない。さらに大腸菌を利用して大量培養できることから製造コストが安い。製造に要する期間も通常のワクチンでは供給までに5~7カ月かかるが、DNAワクチンの場合は2カ月程度ですむとされている。
今年3月時点で森下氏は「臨床試験に入るまでには最低でも半年はかかる」としていた(3月12日付東洋経済オンライン)が、今回の協定締結により、臨床試験の開始が2カ月以上前倒しとなった。
頼もしい助っ人も登場している。東証一部上場のバイオ企業であるタカラバイオは20日、日本経済新聞のインタビューで「アンジェスで開発されるワクチンについて厚生労働省から製造販売の承認を得た場合、年内だけで20万人分のワクチンを供給できる」と述べ、ワクチンの量産体制を構築する考えを明らかにした。
現段階では森下氏率いるアンジェスチームが世界の先頭を走っているが、米国企業も開発に着手しているとの情報がある。森下チームが無事1番乗りを果たし、日の丸ワクチンが世界の新型コロナ危機の救世主となることに期待したい。
(文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員)