東京国際映画祭から発信!すべての女性へのメッセージ。

Culture 2019.11.05

グッチやサンローラン、ボッテガ・ヴェネタ、バレンシアガ、ブシュロンなど名だたるラグジュアリーブランドを擁するケリングが、カンヌ国際映画祭の公式プログラムとしてスタートした「ウーマン・イン・モーション」。その5周年を記念し、東京国際映画祭2019にてトークイベントが開催された。

登壇したのは女優の寺島しのぶ、写真家・映画監督の蜷川実花、アーティストのスプツニ子!。国内外でその才能を発揮して活躍する豪華な顔ぶれが集結した。ファシリテーターを務めたのは、毎年カンヌ国際映画祭に取材で訪れ、「フィガロジャポン」でもおなじみの映画ジャーナリスト、立田敦子。

そんな彼女たちが一堂に会し、自らの経験を通して女性が直面する課題などを語ったその内容は、とても意義深くて刺激的! 当日足を運べなかった方にも、あらゆる立場にいる女性にパワーをくれるトークの内容をお届けしたい。

#MeTooで日本の女性たちの状況は変わった?

191103_women_in_motion_06.jpg

左から、立田敦子、寺島しのぶ、蜷川実花、スプツニ子!。

−−2年前にハリウッドの大物プロデューサーによるセクハラ問題から#MeToo運動が起こり、このムーブメントに乗って女性たちが声を上げはじめ、映画のイベントで女優や女性映画監督が発言をするようになりました。映画界は変わってきているといわれますが、蜷川さんは映画を撮りはじめてから、日本の映画界での女性の立場はどう変わってきていると思いますか。

蜷川 私は33歳の時に『さくらん』(2007年)を撮り、その当時はメディアで女性監督とか女流監督とか、とにかく女流、女流、というのが付いて回って、その度に何となくイラっとしていたんですけど(笑)、今年はそれが付かなかった。そういう意味では緩やかに変わってきたなと思います。それよりも私は蜷川幸雄の娘であるということが重く呪いのようにかかっていて(笑)。今年は(『Diner ダイナー』で)藤原竜也さんとご一緒したので、特にそれを聞かれた年でした。

あと私の組は女性スタッフが多く、特にNetflixのドラマ「Followers」では半数以上が女性。それはすごく珍しかったみたいです。蜷川さんのところの女の子たち楽しそうだねってよく言われるので(笑)、日本の映画界の中ではちょっと特殊な環境なのではないかと思います。

−−意識的に女性スタッフを起用していますか?

蜷川 はい。Netflixの時は、もし選べるのであれば、同じ能力ならなるべく女性を多くしてもらえますか、とお願いしました。『Diner ダイナー』(19年)や『人間失格』(19年)もすごく女性が多かったですけど、それは技師の方が、蜷川組だから女の子を多くしよう、女性連れていってあげたら喜ぶかな、と考えてくれたようですね。

−−寺島さんは蜷川さんの作品にも出演していますが、男性監督ともたくさんお仕事をしていますね。ハリウッドでは、ロザンナ・アークエットが子どもを産んで復帰したら仕事がなかった、ということが理由で『デブラ・ウィンガーを探して』(02年)というドキュメンタリーを撮りました。第一線で活躍する女優たちが子育てや母としての悩みを赤裸々に語る内容が話題になりました。それから15年経ち、ハリウッドではメリル・ストリープやヘレン・ミレン、ジュディ・デンチなど60代、70代の女優が主役を張る作品が出てきましたが、いまの日本の映画界について、女優の立場からはどう思いますか。

寺島 やっぱり女性が圧倒的な主役、という作品は難しいし、数少ないと思います。日本には20代の“カワイイ”文化があって、大人の女性の話はなかなか映画として成立しないのかもしれない。私も子どもを産んでからは、誰かのお母さん役だったり、これが現状なんだなと思いながらやっています。ケイト・ブランシェットさんと対談した時も、女性のための台本が少ないと言っていたし、日本は極端かもしれないけど、全世界でみんなが思っていることなんですよね。

実花ちゃんは中身がすごく女子だけど、私はどちらかというと中身がすごく男子なんです。だから男子が多いほうが好きだし、女子といると緊張する。それはたぶん歌舞伎界という周りを見渡せばほぼ男子、みたいなところで育っているから、その環境の影響だと思います。いま現場では技師にも女性が増えてきて、女性の照明やカメラマンもいる。男か女かのくくりでなく、すごく男っぽい男の人もいればフェミニンな男の人もいるし、女性の心を持った男性も、男性の心を持った女性もいて、どの性別でもみんなが一緒になって作品を作れば、より感性が広がるなと思います。女性として、とか言われるとかゆい(笑)

191027_women-in-motion_02.jpg

『キャタピラー』(2010年)で日本人として35年ぶりにベルリン国際映画祭 最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞したほか、数々の舞台や映画でその才能を絶賛される寺島しのぶ。撮影:渡部孝弘/提供:ホリプロ

−−スプツニ子!さんは映画からは少し離れたアート界にいますが、今年はカンヌ国際映画祭での「ウーマン・イン・モーション」でハリウッドの俳優たちの生のトークを聞きましたね。ご自身の立場から、いまの映画界の変化についてどう思っていますか。

スプツニ子!  変化という意味では、#MeTooムーブメントの発端は映画でしたが、ここ2年くらいでどの業界でも女性が声を上げられる雰囲気ができてきた気がします。いままでいろんな嫌なことを言われてきた歴史があると思うんです。困ったり、ハラスメントを受けたりしても誰にも言えなかった。テレビやラジオ、雑誌のようなメインストリームメディアしか発信ができなかったけれど、いまではソーシャルメディアで誰でも発信ができて、女性が抱え込んできた声が表に出てきたなという変化を感じます。

寺島さんの話に繋がるんですけど、映画業界はまだやっぱり監督も脚本家も男性が多い。人口の半分が女の人なのに、女性から見た世界とか、女性の気持ちの動きがしっかりストーリー化されてこなかったと思うんです。人口の半分の人たちが当たり前に見てきた世界をただ描いているだけで“女流”って付けたがるのは、それが珍しかっただけ。

蜷川 自分の中の女性性に目を向けることが圧倒的な個性になっちゃうんですよね。この現状がどうなのかということは大前提としてありますが、女性性と向き合いながら作ると作品としてもキャラが立つというか(笑)。なぜならほかにいないから。

スプツニ子!   これまでの映画で女性がお母さんとか、すごい性的な対象、という描かれ方をしてきたのと違って、私たちの気持ちを代弁してくれている! リアルな女性のキャラクターがいる!って思うんです。

蜷川 ヒロイン像って圧倒的に男性たちが作り上げてきた妄想じゃないですか。でも私の現場では逆転していて、カッコいい男の子たちにヒロイン的な役割を担ってもらっていることが多いんです。役者の子たちは「ここ気持ち繋がらないんですけど」って言うけど、女の子なんて永遠に気持ち繋がらない中でやってきたじゃないですか(笑)。男の子たちは気持ちが繋がるとか、僕たちの人格はどうなのか、ということを演じる時に求める。でも女優さんにそんなこと言われたことはない。“夢の女”を演じることが当たり前になっている。

寺島 実花ちゃんの映画では、美的なところがありつつ、ジッパーを開けるとグロいものがどーっと出てくる。そういった作品はいままでなかった。それでいて決してグロすぎない、そこのバランスがアーティスティックだなと思います。日本では男性は美化したがるところがあるし、女性は撮れない、っていう監督はたくさんいらっしゃいますよね。

−−男性の夢の女を演じることも嫌ではない?

寺島 そこは私の分野じゃないの。綺麗な人がやればいいの(笑)。ご一緒した中で廣木(隆一)監督は唯一、女性をわかっていると思う。すごく女性が好きだし、ちゃんと女性の嫌な部分も見抜いてそのまま撮ってくれる。女性を撮るのがピカイチな監督だと個人的に思っています。

スプツニ子!  物語を語る側にこれまで女性が少なかった。以前アーティストの先輩の男性に、アドバイスがあると言われて。君はすごく才能があるけど、本当に大成したかったら女性というテーマだけじゃなくて、そこから出た方がいいよ、って言われたんです。最初はなるほど、と思ったんですけど、よく考えてみると女の人から見た世界を描いただけで勝手に「女性的」ってラベル付けられて、ひとつの小さいカテゴリに入れられてて。私のやっていることって人間として全員に通じる話で、ニッチじゃないよ、と思って。単にこれまであなたたちがずっと男性の視点でやってただけじゃない、と。

蜷川 「女流監督」とか言われていた頃、女性だから大変でしたよね、とすごくその答えを求められた時期があるんです。もちろん監督は大変ですけど、女だから現場で大変だったみたいなことは、私はたぶんギリギリなかった世代。自覚がないだけなのかな。

191027_women-in-motion_03.jpg

木村伊兵衛写真賞を受賞するなど写真家として活躍するのみならず、映画『さくらん』(07年)、『ダイナー』(19年)など監督として数多くの映像作品も手がける蜷川実花。

−−レバノン出身の女性監督ナディーン・ラバキーも、女性だからではなく、映画を撮ること自体が大変だと言っていました。

蜷川 そのとおりだと思います。特に最初の2本(『さくらん』と『ヘルタースケルター』(12年))は、内容も重かったし、自分も不慣れだから、女だからこんな失礼なことをされた、なんて思う間もないくらい大変でした(笑)

−−写真家としてデビューした時にも「ガーリー写真」と言われていて。

蜷川 そっちのほうがしんどかった。当時若かったので、女の子ということにそんなに商品価値があるのかとびっくりしたんです。自分のことを美大生と思っていたら、テレビの取材で女子大生って言われて、私は女子大生だったんだ、って(笑)

1/5

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

Magazine

FIGARO Japon

2022年1月号 No.547

本当にしたいことを仕事に。A New Career is Cal...

View More

2014年3月31日以前更新記事内の掲載商品価格は、消費税5%時の税込価格、2019年9月30日以前更新記事内の掲載商品価格は、消費税8%時の税込価格、2019年10月以降更新記事内の掲載商品価格は、原則的に標準税率10%もしくは軽減税率8%の税込価格です。

COPYRIGHT SOCIETE DU FIGARO COPYRIGHT CCC Media House Co.,Ltd. NO REPRODUCTION OR REPUBLICATION WITHOUT WRITTEN PERMISSION.

メゾンブレモンドの人気アイテムと

メゾンブレモンドの人気アイテムと
フィガロジャポンのお得なセット!

毎日の料理をたちまち南仏プロヴァンスの味わいに変えてくれる人気調味料と本誌定期購読の限定セット登場。

詳しくはこちら!