Photo: Some Rights Reserved by Joi Ito
アーティストでMITメディアラボ助教授のスプツニ子!さんが、クール・ジャパン推進会議のメンバーとしてトークしたイベントのレポート”Video Artist Sputniko! On Japan, Creativity And Her New Gig At The MIT Media Lab“を日本語訳しました。
掲載誌は Forbes 、原著者はベルリン・スクール・オブ・クリエイティブ・リーダーシップのメンバーでジャーナリストのPaul Glader氏です。
昨年NHKの番組で拝見して以来、スプツニ子!さんの考えやスタンスに興味を持っていますが、その魅力を改めて考えてみると、彼女の著書のタイトルでもある「はみだす力」だと感じます。
アーティストとして、またサイエンスのバックグラウンドを持つ者として、世の中の“常識”をひっくり返すような、決まり切った枠を打ち破るような、そんなものを作り続けるスプツニ子!さん。クール・ジャパンを推進する政府の会議のメンバーにも選ばれ、一層活躍が期待されます。
このレポート記事は、そんな彼女を知る入口として役立つのではないでしょうか。
========================
▽Forbes: Video Artist Sputniko! On Japan, Creativity And Her New Gig At The MIT Media Lab(日本語訳)
一人の女性が、黒いミニスカートと白いレザージャケットを身に纏い、サングラスを頭にのせて、部屋に入ってきました。そんな出で立ちも、スプツニ子!として知られる彼女が人々の興味をかき立ててやまない理由の一つです。
すぐに彼女が自分のiPhoneでみんなの写真を撮って、ピースサインをしながらイタズラっぽい笑みを浮かべたので、みんなも彼女にカメラを向けて撮りました。そんな中で始まった、ソーシャルメディアについてのトーク。ここまでの流れは、彼女がこれまで、3つの大陸を渡り歩きながらアートの世界で辿ってきた、目まぐるしい旅の足跡を語り始める前のことです。
もしも、会話を盛り上げたり、質問を引き出したり、刺激的でクリエイティブなディスカッションを促したりするものがアートなのだとしたら、スプツニ子!はそういうことに天才的な力を見せるのです。
また、彼女のことを「こんな人だ」と枠に当てはめて説明するのも難しいことです。ビョーク(アイスランド出身のシンガーソングライター)のような歌手でもなければ、イーボン・ブリルを彷彿とさせる科学者でもありません。マリーナ・アブラモビッチのようなアーティストでもありませんし、レディ・ガガに似たパフォーマーというわけでもありません。いえ、ある意味そうだとも言えるし、そうでないとも言えるのです。
Photo: Some Rights Reserved by Kai Hendry
「ベルリン・スクール・オブ・クリエイティブ・リーダーシップ」(ベルリン市に設立された、クリエイティブ領域におけるリーダー育成を目指す大学院)のアジア・モジュールの現場を、クール・ジャパン推進会議のメンバーとして訪れた彼女は、クリエイティブ産業において日本が展開しようとしている活動について語ってくれました。
同じく話を伺ったのが、コンサルティングファーム「A.T.カーニー」のディレクターである梅澤高明氏。ファッションや食の分野で成功を収める、Muji(無印良品)やUniqlo(ユニクロ)、Ippudo(一風堂)といったクリエイティブなブランドを拡大してゆくことで、工業やテクノロジーにおける強みを超え、さらに発展してゆこうという、日本の目指す道を語ってくれました。
日本は今、ポップミュージックや漫画文化、こだわりの食などを海外に輸出する術を探っているのです。
日本のクリエイティブ業界で注目を集めつつあるスプツニ子!は、イギリスと日本、さらにアメリカを繋ぐ懸け橋となっています。
彼女が、ロンドンにあるロイヤル・カレッジ・オブ・アートの学生として発表した最後のプロジェクトで考案したのは、「生理マシーン」なるもの。装着することで、お腹が締め付けられ、血がしたたるあの気分を男性が体験できるマシンです。
アイデアをさらに膨らませた彼女は、このマシンを使うキャラクターとして、女性のように振る舞うタカシを考案。さらに、クラウドソーシングの形で制作費とボランティアスタッフを募って、自らタカシを演じた自作のロックミュージックのビデオクリップを制作したのです。
学部ではインペリアル・カレッジ・ロンドンで数学とコンピュータ・サイエンスを学んだスプツニ子!。彼女は、この作品が巻き起こし、また作品が世界各地でネット上の話題になるきっかけとなった様々な論議を大いに楽しんでいると言います。
共感を生めるようなものをデザインすることができるのかどうか、っていうのを考えてる人がいたようです。私のことを、生理を体験したい日本人の男なんじゃないかって思った人も。
Photo: Some Rights Reserved by Global X
彼女の初期の作品と言えば、「カラスボット☆ジェニー」と名付けられた女の子が主役の映像もあります。これは、スプツニ子!や協力したスタッフが制作した、本物のカラスとデジタルの声で会話できるカラスのロボットを使用したもの。
カラスとやっと一対一で声を交わすことができた時、すごく興奮しました。ジェニーというキャラクターは、女の子の友達と気楽に会話できない子で。それで彼女は、カラスについての色々な論文を読み漁って、このカラスボットを作ろうと心に決めるんです。
自然や動物やテクノロジーについての議論を巻き起こすようなことをしたい、と彼女は言いました。
ポップカルチャーの中に入っていって、博物館や美術館の外でもっと議論していきたいですね。ポップカルチャーに加わるなら、日本は面白い場所。日本のポップカルチャーはとても多様で、純粋な芸術も例外ではないかも。日本では、すごくたくさんのものがポップカルチャーに含まれるって言っていいんじゃないかな。
この作品(「カラスボット☆ジェニー」)を機に、スプツニ子!は一躍、ニューヨークのMOMAや東京にある数カ所の有名美術館で展示会を開くこととなりました。今や、ルイ・ヴィトンなどのファッションブランドが彼女とコラボレーションして、ハンドバッグやiPhone、Tシャツを制作するようになっています。東京発のファッション雑誌では、アートやファッション、フェミニズムをめぐる彼女の作品を追う特集も組まれています。日本の10代女子に向けた自己啓発本も書きました。
そして最近では、MITメディアラボの助教授としてボストンのMITに赴任し、エンジニアを学ぶ学生たちと力を合わせて、アートやエンジニアリングの領域のプロジェクトに取り組もうとしています。
アンディー・ウォーホルやレディー・ガガのようであまりに自己中心的だ、と彼女の作品を批判する人もいますが、ファンは作品の魅力が一層深まっていると考えているようです。
彼女の作品では、楽しげなビデオやインスタレーションやパフォーマンスが手法として用いられていますが、彼女はこれらを、フェミニズム、日本のアニメ文化、パンク/ポップミュージック、科学、テクノロジー、自然、グローバルな社会問題など、様々なテーマに上手く向き合うためのメディアと考えているようです。
また彼女はこうした活動に、ビデオを用いた作品で注目を集めつつあるライアン・トゥレカーティンのようなアーティストとは似つつも異なる形で、ソーシャルメディアを通して取り組んでいます。
東京は多様性以外は世界ダントツだと思う。もっと外国人と女性が活躍できる場所にして、世界中の才能を集める努力をするべき。(いま世界の才能がロンドンやNYCやシンガポールに引き抜かれてる)そしたら誰も追いつけない、サービスもインフラも経済もクリエイティブも、世界でダントツ最高のまち!
— Sputniko! スプツニ子! (@5putniko)2014, 5月 16
作品の映像を観てその説明を彼女から聴いたあと、あるクリエイティブディレクターがこんなことを言っていました。「ここ2年で一番刺激的なものを観たよ」
以下は、ベルリン・スクールの参加者から投げかけられた7つの質問に対する彼女の答えです。
「スプツニ子!」という名前は何から取ったのですか?
「スプツニ子!」は、背が高くてイギリスと日本のハーフだったために付けられた、高校時代のニックネームです。友人の中に、背が高くて科学が好きなので私はロシア人だ、みたいなことを言う子がいて。
その後、大学に入って組んだバンドをスプツニ子!と名付けました。私がこうした作品を作り始めたのはその頃から。それ以来、自分の名前は一度も変えていません。
「スプツニ子!」として日本政府の会議に出席したら、政治家の人たちは上手く口にできずに困っていたようでした。そういう場面ではたまに、もう少し真面目な名前があったらなぁなんて思うことがあるけど、今は変えられません。この名前になってもうかれこれ長いです。
日本に戻ったのはいつですか?
日本には2010年に戻って、アメリカに移ったのが2013年。MITメディアラボのテレビタレントになりました。メディアラボを創ったニコラス・ネグロポンテにインタビューしたこともありましたね。ここに居たいな、と思っていました。
メディアラボのみんなは、MOMAでの展示を通して私の作品のことを知ったそうで、ニコラスに「アートの教員を探しているんだ」と言われました。MITでの毎日は私にとって未知の冒険です。
教員としての仕事とアートのプロジェクトとのバランスはどうやって取っているのですか?
私は教員ですが、MITでやっているのは、新しいアート作品をつくることです。学生はその手伝いをしてくれる、という感じですね。MITやメディアラボではいつも、サイエンスやクリエイティブの力で本当にたくさんのことが起こっています。3Dプリンターを使って内臓を作ろうとしている人もいます。それを知って驚くと同時に、自分でも別のアイデアが浮かぶんです。
MITが考えているのは、こういった突飛なアイデアを生み出せるアーティストを巻き込むことで科学者にインスピレーションを与えることができるかもしれないということです。
アーティストは何かを証明する必要はありません。自分の想像力をふくらませればいいんです。そうやってあれこれ生み出すことで、MITにインパクトを与えられると思っています。
映像作品の中には、性をすごく強調するような内容のものもありますよね。これは女性に力を与えたいという考えとどう結びついているのですか?
フェミニストであれば性への意識が強い、という風には思っていません。私は、もっと多くの女の子たちが、この世界を変えるような力を持って行動を起こせると感じるようになればいいな、と考えています。
ポップカルチャーを利用するのも、それが自分の声を最も多くのオーディエンスに届けられるメディアだからです。日本でフェミニズムのようなものが声として広まるためには、それを大きなオーディエンスに届ける必要があります。それが、作品の中でスーパーヒーローみたいなキャラクターを使っている理由であり、またとても女性らしい身なりに装っている理由でもあります。
執筆した本では、現実的な話をいろいろ書きました。私たちが社会のシステムを変えようとしているんだ、って。大事なのは、どう見えるかよりも何を考えているか。見方じゃなくて、どう考えて行動するかなんです。
文化が重なり合ったようなバックグラウンドは、自分を性格付けていると思いますか?
2つの文化圏の中で育ったので、本当にあらゆるものが混ざり合って私という存在になっています。映像作品の中にも、異なる文化や力が激しくぶつかる要素を入れることが好き。それが私の取り組み方です。
これから取り組もうとしているプロジェクトはありますか?
次のプロジェクトは、インドの代理母産業をめぐるものです。インドの代理母は、アメリカや日本などの夫婦の子どもを妊娠して出産しています。子どもを自然に産めない夫婦のために、インドの女性が代わりに子供を産んであげるっていう…
この代理母ビジネスを取り巻くシステムや製品のデザインを始めようとしています。お腹の中の赤ちゃんの心臓の鼓動や姿かたちがリアルタイムでわかるようなものを作って、東京にそのモデルを置いてみよう、って。
夫や友達とそれを見て、「赤ちゃんってこうやって大きくなってゆくんだね」って言えるようになったら…子供を産むっていうことをほかの誰かにやってもらうことになるのかも。
ほかの誰かに任せることと、任せないことの間の線引きはどこにあるんだろう、って考えています。
クール・ジャパン推進会議の中でどういう役割を担っているのですか? また、日本のポップカルチャーを宣伝して海外に輸出してゆくために、そういう役割の中でどういうことに取り組んでいきますか?
ただ一人のアーティストとして取り組みたいです。広告塔になることが自分の役割だと考えたくはありません。
私がクール・ジャパン推進会議のメンバーに選ばれたのは、ロンドンで学び、クリエイティブ・カルチャーを肌で知っているからです。私には、日本国内にも、海外にもたくさんの日本人の友人がいます。日本で政権を持っている自民党が探していた、若い女性のアーティストという条件に、20代女子の私がぴったり当てはまったんですよね。
======================
▽Source:
▽Related: