新たな不妊治療
「子宮移植」とは?
子宮をもたない女性に、第三者の子宮を移植して、妊娠・出産につなげる「子宮移植」。いま、不妊治療の選択肢のひとつとして、新たに加わろうとしています。子宮移植について解説します。
なぜ必要?
生まれつき子宮をもたない、または、病気などにより子宮を摘出してしまった女性は、妊娠・出産をすることができず、その治療法もこれまでなかった。代理出産により子どもをもつことはできるが、倫理的な問題、代理母への負担等により日本では認められていない。また、出産した女性が母親になるという法律があり、戸籍上の「母」になることもできない。子供を望んでいるが、子宮をもたない女性の希望に応えるため必要とされている。
子宮移植の流れは?
体外受精で夫婦の受精卵をつくり保存した後、第三者から提供された子宮を女性に移植する。(母親や姉、妹など家族が子宮を提供することがほとんど。)1年程、免疫抑制剤を投与して、子宮が拒絶されず機能することを確認してから、保存していた受精卵を子宮に戻す。
どんな人が対象?
生まれつき子宮をもたない「ロキタンスキー症候群」という病気の女性と、子宮がんや子宮頸がんなどの病気で子宮を失ってしまった女性が対象。
※ロキタンスキー症候群は、5000人に1人の割合で発症するといわれている。
※近年、20~39歳の子宮頸がんの罹患率が高まっている。子宮を残す手術をする傾向にあるが、病状によっては子宮をとらざるをえない場合もある。
移植後、必要になることとは?
1年以上かけて、移植した子宮への拒絶反応の確認や免疫抑制剤を減量し、拒絶反応などの問題がないことを確認。その後、夫婦の受精卵を子宮に戻す。子宮を保つために、妊娠・出産するまで免疫抑制剤を服用し続ける必要がある。
子どもへの影響は?
子宮移植後、母親が服用する免疫抑制剤の胎児への影響が不明。
倫理的な問題は?
生命維持臓器といわれる心臓などの臓器と違い、子宮は、子宮がなくても生きていける。そのため、子どもを産むために、健康な人の体を傷つけることが倫理的に許されるのか問われている。子宮移植は10時間以上に及ぶ大きな手術で、死亡のリスクもゼロではない。
尚、日本の臓器移植法では、脳死を含めた死者からの子宮の提供を認めていない。
日本ではどの段階?
10年程前より、慶應義塾大学と東京大学、そして京都大学の専門家でプロジェクトチームをつくり、子宮移植の研究を進めてきた。2013年に、一度摘出した子宮を再移植したサルが出産に成功し、2014年には臨床研究に向けた指針を策定している。今後は学内の倫理委員会、または日本子宮移植研究会の承認が得られれば、子宮移植を行うことができる段階にきている。現在は、慶應義塾大学病院と名古屋第二赤十字病院で、臨床に向けた準備を始めている。
世界の動き
10か国でおよそ40件の子宮移植が行われ、11人の子どもが生まれている。
(10ヵ国:スウェーデン、アメリカ、チェコ、インド、トルコ、中国、ドイツ、セルビア、ブラジル、サウジアラビア)