今年1月から(一部の例外を除き)中絶を禁止する法律が施行されたポーランドで11月7日に行われた「Not one more! March for Iza」集会の様子。30歳だったIza(イザベラ)は、訪れた医療機関で妊娠異常を認められながらも、適切なタイミングでの中絶手術を拒まれ、胎児死亡後に敗血症性ショックにより死亡したとされる。Photo: Beata Zawrzel/NurPhoto via Getty Images
2020年6月愛知県で当時20歳の女性が公園のトイレで出産した新生児をビニール袋に入れて放置して死なせたとして、死体遺棄、保護責任者遺棄致死容疑で逮捕された事件がありました。そして今年2021年5月、名古屋地方裁判所岡崎支部は女性に懲役3年執行猶予5年の有罪判決を下しました。女性は控訴しなかったため、有罪が確定しています。
女性は家庭の経済事情などから、胎児の父親である男性と相談して中絶することを決断。ところが病院で中絶手術の希望を告げると、男性の同意を求められました。同意書に署名すると一度は約束した男性と連絡がとれなくなり、女性は手術をキャンセルせざるを得なくなりました。その後女性は別の病院2、3カ所を受診しましたが、その度に男性の同意書を求められたために手術を受けられず、結果的に母体保護法で中絶が可能とされている時期を過ぎ、「手術はもうできない」と告げられたといいます。
日本にはいまだに堕胎罪が存在しており、母体保護法によって人工妊娠中絶が認められるのは、「身体的又は経済的理由」によって妊娠の継続や分娩が母体の健康を著しく害する場合と、「暴行もしくは脅迫」の結果としての妊娠の場合とに、限られています。そして、前者の場合は原則として「配偶者の同意」が必要だということになっています。未婚の場合や暴行、脅迫によって妊娠した場合などは法的に相手の同意は必要ありませんが、愛知県の事件のように、未婚であっても相手の同意を求める医療機関が少なからずあります。相手の男性から民事裁判で訴えられることを医師が恐れるからではないかと法律関係者は言います。
実際のところ、中絶に配偶者同意が必要なのは、日本を含めて世界で11カ国・地域に限られています。ドメスティック・バイオレンスなどで配偶者同意を得ることが困難な場合に限って同意を不要とする方針を厚労省が示したのですら、ようやく今年の3月になってのことです。結果として、中絶を望んだのにそれを拒まれ、妊娠と出産とにひとりで直面せざるを得ない状況に追い込まれた女性だけが責任を問われるような事件となりました。これは、セクシュアル・リプロダクティヴ・ヘルス/ライツ(SRHR: 性と生殖に関する健康と権利)が深刻に侵害された体制が、日本で現在もまだ続いていることを示しています。