日本大百科全書(ニッポニカ)「柏餅」の解説
柏餅
かしわもち
餅菓子の一種。楕円(だえん)形扁平状の新粉餅でみそ餡(あん)や小豆(あずき)餡をくるみ、二つ折りにしてカシワの葉で包み蒸した餅。端午の節供には粽(ちまき)とともに供物(くもつ)に用いる。江戸時代は、東海道白須賀宿(しらすかしゅく)と二川宿(ともに静岡県)の中間猿馬場(さるがばば)の茶店に、名物の柏餅があった。『万葉集』に「家にあれば笥(け)に盛る飯を草枕(くさまくら)旅にしあれば椎(しい)の葉に盛る」とあるが、古代は堅い葉が簡便な食器として使われた。ツバキ、ササ、サクラ、カジ、カキ、ナラの葉なども用いられている。とくに「かしは」が葉椀(くぼて)、葉盤(ひらで)の類とされ、膳夫(かしわで)がそれをつかさどる人とされたのは、カシワの葉がしなやかで、食べ物を盛るのにはもっとも都合がよかったからである。しかし柏餅の記録は椿餅(つばきもち)ほど古くない。推定されているところでは中世以降で、端午の節供に柏餅を食べる慣習は、江戸時代初期からである。1680年(延宝8)の『俳諧向之岡(はいかいむこうのおか)』には、柏餅にちなんで「餅なりけふ世人はをみがく玉がしは」としゃれた一句が収載されている。一方『天正(てんしょう)日記』の7月23日に「五郎兵衛嬶(かかあ)、かしはもちくれる」とあり、この菓子が端午の節供以外にもつくられたことがわかる。また、お盆の供物に使う地方もある。
男子の節供である5月5日に柏餅が使われたのは、夏の新葉が出るころに古い葉が落ちる、つまり跡継ぎができたという意味で一家繁栄を祈り、祝う心情がこめられている。中身の餅に小豆餡を入れるのは室町時代のまんじゅう以後のことだが、みそ餡のほうは、原型を平安時代の花びら餅までたどることができる。さらに古い形は奈良時代の伏兎(ふと)(唐菓子の飳(ふと))であった。その花びら餅に似ている柏餅の形が、前記のように判じ物的な江戸川柳(せんりゅう)をつくらせたのである。
[沢 史生]