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アルテイシアの59番目の結婚生活

2021.11.18 更新 ツイート

おらこんな村イヤだけど、諦める気はさらさらない アルテイシア

うちの夫は6歳の時に両親が離婚して、母子家庭で育った。

義母いわく、結婚前は優しかった夫がモラハラDV野郎にヘン~シン(超あるある)
夫が息子にまで暴力をふるおうとしたため、離婚を決意したという。

当時「お母さんについてくるよね?」と泣きながら息子に聞いたら「クワガタを飼えるのであれば」とキッパリ返されそうだ。

 

離婚後、義母はスナックでホステスとして働き始めたが、生活は苦しかった。

困窮した末に「お母さんと一緒に死のう?」と息子に言ったら「死ぬんやったら一人で死ね!」と返されたという。

夫いわく「俺はレンジャー忍法を愛読していたので、殺されてたまるかよ! と家中に忍者の罠を仕掛けた」とのこと。

小学生の夫は忍者の苦無(くない)に憧れて、運動靴の靴ひもに釘を仕込んで登校していたそうだ。

今では笑い話として語れるが、母子家庭の貧困は笑い事ではない。

日本では子どもの7人に1人が貧困状態にあり、母子家庭にいたっては半数以上が貧困である。

共産党の食糧配布ボランティアに参加している友人が「シングルマザーの女性がいっぱい来るよ」と話していた。

「コロナで収入が減って一日一食しか食べてない、だから本当に助かる……と泣きながら帰っていくんだよね」と。

コロナ禍で安倍さんはろくに会見を開かず、貴族みたいに紅茶を飲む動画を流し、260億かけてゴミみたいなマスクを送ってきた。

安倍さんと仲良しの麻生さんは「とてつもない金持ちに生まれた人間の苦しみなんて普通の人には分からんだろうな」と過去に発言している。

彼らには貧困に苦しむ人々なんて見えないのだろう。

うちの義母もそうだったが、いわゆる夜職で働くシングルマザーは多い。

シングルマザーは正規雇用につくのが難しいため、非正規でバイトをかけもちしながら子どもを育てる女性も大勢いる。

夜職で働くシングルマザーを主対象にフードパントリー(無料食材)を提供する「ハピママメーカープロジェクト」を率いる石川菜摘さんは、
「コロナ禍で困窮する夜職のシングルマザーは増えている。どこのフードパントリーや子ども食堂も予約ですぐにいっぱいになる」と話している。(詳しくは女子SPA!の記事を)

コロナの持続化給付金や家賃支援給付金の対象から、性風俗事業者が除外された件が話題になった。

同じ頃、ワイドナショーで松本人志が「ホステスさんがもらってる給料を我々の税金では、俺はごめん、払いたくはないわ」と発言した。

近年の彼の発言には「アルテイシアからアルマゲドンにナッチャウヨ」と爆発しっぱなしだが、この時はもう怒りを超えて悲しくなった。

「これ以上、嫌いにさせないで……」と元カノみたいな気持ちになった。

私は子どもの頃から「4時ですよ~だ!」や「夢で逢えたら」を見て育ったのに、初恋の人がネトウヨおじさんになっちゃった気分である。

松本よ、おまえさんも幼少期の貧乏エピソードをよく話してたやないか。いつのまに安倍や麻生みたいな「見えてない側の人間」になってしもたんや。

超富裕層の彼がこんな発言をするのもグロいが、それを放送するテレビ局もヤバい。

これはあからさまな職業差別であり、夜職の女性を社会から排除する発言である。

放送後、ネットでは松本の意見に同調するコメントが広がった。

影響力のある人間の言葉は差別やヘイトを助長する。トランプ政権下のアメリカではヘイト表現やヘイトクライムが激増した。

松本の発言にはネットで批判の声も上がったが、彼は謝罪することもなく、今も番組は続いている。これが圧力と忖度か、これが吉本の力か。

私の周りは「うんざりするからテレビは見ない」という人がほとんどだし、若年層のテレビ離れが進んでいる。

一方、一番身近にいる高齢者(義母83歳)はむっさテレビを見ている。

衆院選の後、義母とこんな会話を交わした。

義母「野党共闘は失敗やったんやろ? 共産党と組んだのがあかんかったんやろ? テレビでみんな言ってるやん」

私「お母さん、もし野党共闘していなければ自民党は圧勝して……」

義母「それに役人は偉そうにいばって給料たくさんもらって、維新はそんな連中と戦ってる庶民の味方やろ」

私「お母さん、新自由主義ってわかります?」

義母「難しいことはわからんけど、吉村さんいつもテレビに出てがんばってるやん。それに民主党にはやっぱり任されへんわ」

私「なんでそう思う?」

義母「悪夢のような民主党政権って、テレビでみんな言ってるやん」

テレビの洗脳スゲー。

義母のおばあさん仲間も「吉村さん好きやねん、テレビでよく見るし」と言っているそうだ。実際、吉村さんが選挙の応援に行くと人がげっさ集まるという。

「コロナにはイソジン」とか言うてても、テレビに出ると人気が出る。

頭が痛くなるが、80代のおばあさんに向かって「この凡愚の情弱め!」と責めるのは酷である。

でも私はもう関西に住むのがつらい、マリネラに亡命したい。

義母に「新自由主義とは」と説明しようとしたら「今日耳日曜~」とスルーされた。

小難しい話は聞きたくない、わかりやすい言葉がほしい。そういう人が多いから、トランプも支持されたのだろう。

通訳の友人が「トランプの英語って小学生レベルなんですよ、あのわかりやすさが支持者の心をつかむんでしょうね」と話していた

トランプは議会襲撃前の集会で「強さを見せるんだ! 強くならなければならない! 弱さでは私たちの国を取り戻すことはできない!」と演説して、支持者を煽った。

議事堂の廊下には、暴徒がうんこをした形跡があったという。

そんなの小学生でもやらないだろう。というか、うんこってそんな自在に出せるもの?

うんこからいったん離れて、話を戻そう。

シングルマザーの貧困は社会問題であり、政治や福祉の貧弱さが招いたものだ。

にもかかわらず「身勝手に子どもを産んだんだから自己責任だ、自業自得だ」と母親がバッシングにさらされる。

そして父親の存在は透明化される。

女ばかりが責められて、男の責任は問われない。これは赤ちゃんを遺棄する事件が報道された時も同じである。

この件については、雨宮処凛さんが言いたいことを全部書いてくれているので、こちらの記事を読んでほしい。

私は激しく膝パーカッションしすぎて、YOSHIKIみたいになった。

『毎年のように妊娠を誰にも言い出せず、自宅などでひっそりと出産し、どうしていいかわからず手をかけてしまったという事件を見聞きしている。

2021年9月末にも、自宅で出産した高校生が逮捕されている。

(略)その少し前には、就職活動で上京した際、空港のトイレで出産した女児を殺害した23歳女性の裁判が注目を浴びた。

(略)7月には、あるベトナム人技能実習生に科せられた「実刑」が大きな話題となっていた。

この女性は20年11月、双子の赤ちゃんを死産し放置したとして死体遺棄の罪に問われていたのだが、懲役8カ月、執行猶予3年の有罪判決となったのだ』

『このような事件が起きるたびに、「身勝手な母親」「勝手に妊娠・出産して困ったら殺すなんて無責任すぎる」などと女性に対する非難が嵐のようにわき起こる。

もちろん、小さな命が奪われてしまったことは痛ましいし、裁かれるべき罪であることは間違いない。

それでもこの手の事件が起きるたびに思うのは、「なぜ、妊娠させた男のほうは影も形もないのだろう?」ということだ』

記事にもあるように、赤ちゃんを遺棄して起訴された20歳の専門学校生は、相手の男性から中絶の同意書にサインがもらえず、複数の医療機関で中絶手術を断られていたそうだ。

中絶の際に「配偶者の同意」が必要とされているのは、日本やインドネシア、サウジアラビアなど11カ国しかないという。

『日本では緊急避妊薬が薬局で買えないだけでなく、経口中絶薬はそもそも認可すらされていない。

(略)薬を飲むだけで中絶ができる経口中絶薬は世界70カ国で承認され、WHOも安全な方法として推奨しているのに、である。

現在、日本で中絶手術をすると10万~20万円かかるが、海外での経口中絶薬は430~1300円。これでどれほどの悲劇が防げるだろう』

これが日本の女たちが生きる現実である。

もし男に対する「妊娠させた罪」があれば、DNA鑑定で父親を特定して責任を負わせる法律があれば、男も本気で避妊するし、緊急避妊薬も薬局で買えるし、経口中絶薬も承認されているんじゃないか。

ジェンダーギャップ指数120位のヘルジャパンでは、女の体のことを男が決める。

そんな国でどうやって女が安全に生きていけるのか、少女たちを守ることができるのか。

日本は性教育もかなり遅れていて、国が子どもを守る責任を放棄している。

一方、海外では包括的性教育が成果を上げている。

性教育が進んでいるオランダでは初性交年齢が高く、十代の出産中絶率も低いそうだ。

スウェーデンでは保育園から子どもに性教育やジェンダー教育を行ううえ、国内に200か所以上のユースクリニックがある。

そこで若者が性や心身について相談できるし、ピルや緊急避妊薬を無料でもらえたりもするそうだ。

かたや日本はないないづくしである。

テレビもねえ、ラジオもねえ、おらこんな村イヤだ……と吉幾三は訴えていたが、おらが村にはテレビやラジオはあるが、吉本と維新に乗っ取られている。

おらこんな村イヤだ、日本を出たならユーロを貯めて、北欧でトナカイ飼うだ。

と歌いたくなるが、私は生まれ育った神戸の街が好きなのだ。それに自分だけ救われたらいいとも思えない。

なのでこつこつコラムを書きながら、声を上げ続けたいと思う。

この国の政治がすぐに変わらないことは、45年生きてきて知っている。

世界では100カ国以上がクオータ制を導入して女性議員が増えているのに、日本の衆議院では女性が1割以下しかいない。

おまけに女性の政調会長が選択的夫婦別姓に反対したり、「男女平等は絶対に実現しない妄想」だの「LGBTは生産性がない」だの発言する議員もいる。

けれども、#KuTooや生理の貧困や痴漢問題が国会で取り上げられたりと、変化も感じている。

特にここ数年の社会の変化は大きい。

ジェンダーやリプロダクティブ・ヘルス/ライツの書籍やコンテンツが売れている現状も、10年前には考えられなかった。

それが金になると分かれば、メディアのトップにいるおじさんたちもGOを出す。

私も10年前に「フェミニズムについて書きたい」と出版社に提案しても見向きもされなかったが、今では「フェミニズムについて書いてほしい」と依頼が来る。

また、若い人たちから「アルさんのコラムでフェミニズムを知って、政治に興味を持つようになって、今回初めて投票に行きました」と嬉しい報告もいただく。

大学生にはジェンダーの授業が大人気だそうだ。ジェンダーやフェミニズムは政治に興味を持つ入り口になる。

こうした時代の流れは止まらない。「男尊女卑を守りたい」「多様性なんていらない」と政治家が思っていても、そんなのは断末魔の叫びなのだ。

「リベラルは負けた」「ジェンダーは争点じゃない」だの言う人々もいるが「何言ってんの? 調査兵団は未だ負けたことしかないんだよ?」とハンジさんも言っている。

この世界は地獄かもしれないけど、巨人にぱくぱく食われるわけじゃない。だから私は諦める気などさらさらない。

下半身の安定感には自信のある中年として、どっしり腰をすえて、今後も発信していく所存である。

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アルテイシア

神戸生まれ。現在の夫であるオタク格闘家との出会いから結婚までを綴った『59番目のプロポーズ』で作家デビュー。 同作は話題となり英国『TIME』など海外メディアでも特集され、TVドラマ化・漫画化もされた。 著書に『続59番目のプロポーズ』『恋愛格闘家』『もろだしガールズトーク』『草食系男子に恋すれば』『モタク』『オクテ男子のための恋愛ゼミナール』『オクテ男子愛され講座』『恋愛とセックスで幸せになる 官能女子養成講座』『オクテ女子のための恋愛基礎講座』『アルテイシアの夜の女子会』など。最新作は『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった』がある。 ペンネームはガンダムの登場人物「セイラ・マス」の本名に由来。好きな言葉は「人としての仁義」。

Twitter: @artesia59

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