ワクチンは通常、認可される前の臨床試験中だけではなく、認可された後もその安全性は継続して評価されており、安全性に関する情報は随時更新されます。こうしたワクチンの安全性に関する情報を正しく理解するためには、予防接種に関連する用語の意味を知ることがとても重要です。ここでは、とても誤解されやすい有害事象(副反応疑いもほぼ同じ意味合いです)と副反応の違いについて説明します。
有害事象(副反応疑い)とは?
まず有害事象について解説します。有害事象ときくと、その字面からまるでワクチンが原因で起きた有害な健康被害と結び付けてしまいがちですが、実はそうではありません。有害事象とは、ワクチン接種後に起こった健康上好ましくない出来事のすべてを含みます。すなわち、ワクチン接種後に起こったというワクチンとの「前後関係」さえ満たせば、「因果関係」の有無は問わず有害事象(もしくは副反応疑い)として報告されるのです。
そのため、有害事象にはワクチンが原因ではない(因果関係のない)事象も多く含まれている可能性があります。極端な例ですが、ワクチン接種後に不慮の自動車事故などの被害を受けたケースであっても報告された場合は有害事象として扱われます。
実際、米国でのモデルナ社製ワクチンの臨床試験中に落雷に見舞われた被験者も、ワクチン接種後の有害事象として落雷が報告されています。こうした事例は因果関係がないことは明らかですが、その他の病気においてもワクチンとの因果関係があるとは考えにくい事例もあります。
たとえば、ワクチン接種後であっても、ワクチンとは関係なくもともとの持病が悪化したことによって病気が発症する(例えば持病の高血圧が悪化して脳卒中を発症)こともあり 、この場合もワクチンとの因果関係の可能性は低いと考えられます。
副反応とは?
一方で、副反応とは有害事象の中で因果関係の証明されたもののみを指します。因果関係を証明するためには、前述の「前後関係」だけでなく、ワクチンを接種しなかった人々との「比較検討」や「科学的メカニズムの確認」などの専門的な調査をして総合的に判断する必要があります。すなわち、以下の図のように予防接種が原因で起きた真の副反応とは、有害事象(もしくは副反応疑い)の限られた一部分を指すのです。
「有害事象」や「副反応疑い」という用語は、いかにも副反応を強く疑っているかのように聞こえて誤解されやすいですが、実際は個別の因果関係の調査前の段階であり、ワクチンとは関係のない事象も含まれていることも多いのです。
それではなぜこのような誤解されやすい用語の違いがあるのでしょうか?
それは、万が一にも本当の副反応を見逃さないように、因果関係が明らかでないものも含め幅広く「有害事象」や「副反応疑い」として医師等に報告していただき、そしてその中から本当の「副反応」の可能性があるものの因果関係をきちんと調査していくといった2段階の対応をしているからです。
さらに、厚生労働省は透明性の向上等のため、有害事象も含めて報告のあった事例をすべて公表しています。これは、専門家や行政の方々の予防接種の安全性に対する誠実な姿勢によるものともいえます。
しかし、これらの用語はニュースなどでもよく誤用(まだ因果関係がわかっていない有害事象の段階にもかかわらず、副反応と断定してしまうなど)されています。因果関係について明記されていない場合は、まずはワクチンが原因とは分かっていない不確かな段階であり、注意が必要です。
このため、ニュースなどで「ワクチンを接種した後に〇〇を発症」という情報に触れても、まずは冷静になって、前後関係がそのまま因果関係につながるわけではないと考えることがとても重要です。因果関係を証明するためには、個々の事例の詳細を専門家が検討して、研究や調査を行う必要があるということを念頭に置き、こうした情報を吟味する必要があるのです。
因果関係が証明されていない情報に惑わされないためにも、まずはこの基本となる用語の定義を正しく理解し、情報を得る際の参考にしていただければ幸いです。
(注:本コラムに記載している内容は、筆者の見解となります)