Introduction:佐藤正久 参議院議員の人権や憲法に関する過去の発言が、一部のインターネット界隈で話題となっています。
佐藤議員についてはこのニュースサイトでもたびたび取り上げていますが、彼の憲法に対する考え方、ひいては自衛隊と文民統制の考え方については、大きな問題を抱えているような気がしてなりません。
そして、今回の人権や憲法にまつわる発言はどうなのでしょうか?
彼は人権を騒ぎ立てるのは「馬鹿だ」と言っていますが・・・
発端は一枚の画像でした
先日、筆者はインターネット上で次のような画像を見かけました。
どのような経緯で、誰が作成したかは全く不明ですが、参議院議員 佐藤正久氏の発言が大きな非難を浴びているのは容易に想像がつきます。
文面にもあるように、人権を過剰に叫ぶのは馬鹿であるし、また、”護るための大きなもの” とはおそらく「国家」を指すのでしょうが、その国家のために人々を犠牲にしてもかまわない憲法改正を佐藤氏が画策しているのだとすれば、それこそ問題極まりない発言です。議員のクビでは済みますまい。
切り取られ、Twitterで拡散された発言
佐藤議員が実際に発言した内容は次の通りですが、これはインターネットの動画でも確認することができます。
個人の権利、個人の権利、個人の権利、馬鹿じゃないかと
そこはまさに、そういう、もっと大きなものを護るために個人の権利を抑えて
今はこうですよ(だから死んでこい)
そういう意味で、憲法にそういう精神の(国のために死ぬ)規定がないから余計に弱いんです
憲法に緊急事態条項とかあれば、もっとたぶん、軽易に緊急事態を法律に基づいて発令(部下に死ねと命令)できた憲法では権利や自由というものが前面に出過ぎていて、義務と責任が引っ込んでいるような感じ
個人の権利や自由を抑えるということも必要なわけで
私は義務なき権利はないし、責任なき自由はないという国柄を、憲法の方にも明記・・・
ただし、この動画を見れば分かるのですが、括弧書きの箇所「(だから死んでこい)」とか「(国のために死ぬ)」について、佐藤氏はまったく発言していないことが分かります。
また、この動画を注意深く見ると、ところどころに編集の跡、つまり発言の部分部分を ”意図的” に切り取り、つなげてあることに気がつくはずです。まさに言うところの「発言が切り取られた」状態なのです。
ここで先ほどの画像に戻ってみましょう。
画像には「大きなものを護るために命を捨てろ」と記されていますが、では、その根拠はどこにあるかと言えば、上記動画の括弧書き 「だから死んでこい」「国のために死ぬ」 から派生したものであることは容易に想像がつきます。
よって、この画像と動画は意図的に編集され、脚色・捏造されたものと断定することができます。
佐藤正久「人権発言」完全版
インターネットの一部で盛り上がりを見せていた、佐藤正久議員の人権を軽視する発言でしたが、少なくとも彼は「死ね」という発言はしておりませんでしたし、また、人権についてどのようなスタンスなのかも、これまでの動画では判然としませんでした。
よって、佐藤氏の真意を確かめるためには、動画にきちんと向き合う必要があると考え、インターネットを検索したところ完全版が見つかりました。
佐藤氏の発言は、平成25年(2013年)4月に「チャンネル桜」で放映された番組、『日いづる国より』の中でなされたことが分かったのです。
※ 開始後19分あたりで 「 個人の権利、個人の権利、個人の権利、馬鹿じゃないか 」と発言しています。
この番組の中で、佐藤氏はどのような文脈で人権を語ったのかが重要となります。
これについては、佐藤氏は次のように語っています。
●東日本大震災の1週間後の予算委員会で次のような質問した。
「災害対策基本法に基づき、災害緊急事態を行使して欲しい」
返ってきた政府答弁は「個人の権利を抑えるような、そんなことはできない」であった。
●例えば、震災の支援物資としてガソリンを送ろうにも、「危険物取扱いの資格」を持った者でないと対応できないといった ”あり得ない” ことが実際におきた。
●震災の捜索をするにも、車などは「財産権」などもあり、勝手に動かすこともできないこともあった。
●人権の中で最も大切なのでは「生存権」のはずだ。我々が誰かを救おうとしたときに「個人の権利、個人の権利、個人の権利・・・馬鹿じゃないか」
●だから、もっと大きなものを守るために個人の権利を抑えて、今はこうですよとできるリーダーがいないといけない。そして憲法にそのような精神や規定がないから弱いのだ。
●よって、憲法に緊急事態条項があれば、軽易に緊急事態を達成できた(対応できた)かもしれない。
●小さなことでも平時の法律が邪魔して出来ないことが多い。
これは佐藤正久議員のミスリードなのか?
結論を申し上げると、佐藤氏の発言については「人権」を「法律」に置き換えるとスッキリします。そして、佐藤氏の意図もそこにあるものと考えられます。
つまり、佐藤正久議員は、こう言いたかったのです。
「東日本大震災では支援物資を送ろうにも、捜索活動をしようにも、事あるごとに ”法律” が邪魔して思うようにできなかった。
人の命が掛かっているような時でも、やれ ”法律、法律、法律”、もう馬鹿じゃないか?
想定外の震災なのだから、そういう場合は「法律」についても、緊急事態に柔軟に対応できる規定が必要なのではないか?」
以上が、筆者が動画の完全版から読み取った結論であり、少なくともこの事に関しては、佐藤氏は至極真っ当な発言をしていたと言わざるを得ません。
ただ、現実には本来「法律」と表現すべきところを「人権」と言い、そのことで少なからず軋轢を生み出したのは確かです。筆者に言わせれば読解力の範疇なのですが、もしかしたら、ここに佐藤氏の何らかの含みがあるかもしれません。
今回の発言で、佐藤氏の決定的にダメな点を挙げるとすれば、それは「法律」と「憲法」の区別が分かっていない、完全に混同していることです。この辺の区別が出来なければ、はっきり言って議員失格です。
立憲主義とは、最高法規である「憲法」が権力を縛るというのが基本的な考え方です。
つまり、憲法は市民から統治権力への命令で、統治権力にとっての義務規定。
一方、法律とは統治権力から市民への命令で、市民にとっての義務規定。
今回、佐藤氏が取り上げた震災での支援や捜索は、何も佐藤氏のような国政議員のみがやるわけではなく、自衛隊、地元の消防団、そして一般人も入り混じっての活動となるので、その活動の規定は当然「法律」の範疇となります。
それを、佐藤議員が「法律」を「人権」と置き換え、憲法に緊急事態条項を加える、つまり、憲法改正があたかも必要であるかのように語るのは、明らかに佐藤議員が意図した「ミスリード」とも受け取られます。
そして、佐藤正久氏を批判するとすれば、まさにこの「ミスリード」の部分なのです。なぜなら、この問題は「憲法」ではなく、「法律」の問題だからです。
ただ、動画全体を見た印象としては、佐藤氏にそのような頭はないように思われます。話の中で何度となく「人権」というフレーズが出たこともあり、佐藤氏が話の流れで「人権、人権、人権」と言った。その程度の話だと筆者は考えています。
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