子どもが親、兄弟などの看護・介護をした場合、相続時にはそれらの事が反映されるのでしょうか?
また反映される場合は、どのように反映されるのでしょうか?
この記事は、子どもが親、兄弟などの看護・介護をした場合に、どのような点について注意すればいいか、寄与分はどれほどの金額になるのかなどについて記載させて頂きます。
目次
寄与分とは?
寄与分とは、共同相続人のうち、被相続人の財産の維持または増加に特別の貢献をした相続人が、法定相続分に加えて貢献分を加えて相続財産を取得することができる制度の事をいいます。
相続人が看護・介護などを行っていた場合、この寄与分が相続時に加算される可能性があります。
根拠となる条文は、次の通りです。
共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
民法第904条の2
特別寄与料とは?
寄与分とは別に、特別寄与料というものがあります。この制度は、相続法改正により2019年7月1日施行されたもので、上記の寄与分とは内容が異なります。
それぞれの違いは次の項目で説明します。
条文には次のように記載されています。
被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第八百九十一条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。
民法第1050条
寄与分と特別寄与料の違い、共通点は次の通りです。
寄与分と特別寄与料の違い
寄与分(民法第904条の2)
…相続人
特別寄与料(民法第1050条)
… 6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族
寄与分については、相続人であれば主張することができますが、特別寄与料は相続人でなくとも、範囲内の親族であれば主張することが可能です。
寄与分(民法第904条の2)
…①被相続人の事業に関する労務の提供
②財産上の給付
③被相続人の療養看護
④被相続人の扶養
⑤被相続人の財産管理
特別寄与料(民法第1050条)
…無償で被相続人の療養看護その他の労務の提供
寄与分は被相続人の財産を増加、維持する行為であればいいのですが、特別寄与料については、寄与した行為が原則、療養看護だけとなっています。
寄与分(民法第904条の2)
…特になし
特別寄与料(民法第1050条)
…相続の開始及び相続人を知った時から六箇月を経過したとき、又は相続開始の時から一年を経過したとき
また寄与分を主張できる期限などは無いですが、特別寄与料については、請求できる期限が定められております。
新設された特別寄与料を請求する場合、期限を超えないように注意する必要があります。
寄与分と特別寄与料の共通点
被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をしたこと
寄与分も特別寄与料もどちらも被相続人の財産を維持または増加する行為である必要があります。
親の介護は寄与分として認められるの?
さて本題ですが、親、兄弟などの親族を看護、介護した場合の寄与分について詳しく説明させて頂きます。
寄与分として認められるための要件
まず療養看護が寄与分として認められるのは、相続人が被相続人の療養看護したことで、財産の増加、維持に寄与したことが要件となっております。
具体的な例で言うと被相続人を看護することでヘルパー代等の支払いが不要になった場合などを言います。
それでは、具体的にどのような介護・看護であれば寄与分として認められるのでしょうか?
過去の判例を例にあげていきますが、生活状況など様々な背景をもとに寄与分を考える必要があるため、必ず寄与分として認められる行為、認められない行為というわけではありません。
あくまで参考として頂ければ幸いです。
寄与分として認められなかった介護・看護
・ 要介護3ではあるが、寝たきりの状態ではなくトイレ等は自分でできる被相続人の在宅看護・介護
・早朝・夜間での看護・介護
・入院時の世話、通院の付き添い
・被相続人の食事の世話・食費の支払い
上記の行為は、過去の判例では、親族の扶養義務の範囲内であるとして寄与分が認められなかったものです。
親族間では扶養義務があるため、単に療養看護しただけでは寄与分として認められず、その療養看護によって、財産の増加、維持に寄与していなければいけません。
また、義理や人情で誠心誠意もって、親などの療養看護をしても、相続人や裁判所(裁判所を利用した場合)から、財産の増加、維持に寄与したと認められなければ寄与分は認められず、また寄与分の立証は、寄与分を主張していく人がする必要があります。
参考判例
老年期痴呆と診断されて要介護3と認定されたCの看護にあたり、平成12年9月には勤務先を定年前に退職して看護に専念できるようになったが、その頃のCは寝たきり状態ではなくトイレは自分でできる状態であり、その頃の看護は同居する子としての扶養義務の範囲内のものと認めるのが相当であり…
平成21年2月9日/横浜家庭裁判所相模原支部/審判/平成19年(家)481号/平成19年(家)482号
仮に、抗告人が、早朝や夜間に被相続人の介護をしたことがあったとしても、抗告人が被相続人に対してした一切の介護行為及び所要時間について、有資格者である第三者が介護した際と全く同様の報酬基準で寄与分を算定しなければ不当であるとはいえない。
平成29年9月22日/東京高等裁判所/第23民事部/決定/平成29年(ラ)1238号
このような点も併せ考えると、上記のように適確な資料のない早朝や夜間の介護について割増加算をすべきとの抗告人の主張は採用できない。
抗告人は、被相続人が昭和五五年に抗告人宅近くに転居してから亡くなるまで約一八年間食事の世話をしており、食費として一日一〇〇〇円を負担していたので、六五七万円相当の寄与がある旨主張する。
平成27年3月6日/大阪高等裁判所/第9民事部/決定/平成26年(ラ)1395号
しかし、上記事実を認めるに足りる的確な資料はない上、仮に、上記事実が認められるとしても、親子関係に基づいて通常期待される扶養の程度を超える貢献があったということはできない。
寄与分として認められた介護・看護
・要介護4,5の被相続人の在宅看護、介護
・痰の吸引
要介護4、5の被相続人への看護・介護は、多くの判例で寄与分として認められております。また過去の判例では、痰の吸引という医療行為については訪問介護費より高額な訪問看護費を基準として寄与分が算定された事例もあります。
参考判例
抗告人が行った被相続人の痰の吸引について、これを有資格者に依頼すると、少なくとも、療養看護日数である523日に訪問看護費の最小の単位である20分未満に対する看護報酬である2850円(乙11)を乗じた149万0550円の報酬を支払う必要があったというべきである。
平成29年9月22日/東京高等裁判所/第23民事部/決定/平成29年(ラ)1238号
看護における具体的な寄与分の金額
療養看護が寄与分として認められた場合、その金額はいくらぐらいになるのでしょうか?
療養看護した場合の寄与分は次のような計算式になります。
寄与分=介護報酬×介護日数×裁量割合
それぞれ言葉の意味、金額などを説明させて頂きます。
介護報酬
過去の判例において、介護報酬は次のような基準で計算されました。
要介護4の被相続人を自宅で介護していた場合
1日あたり…6670円
要介護5の被相続人を自宅で介護していた場合
1日あたり…7500円
痰の吸引
1日あたり…2850円
※上記の金額は裁量割合する前の金額です。
介護報酬は、介護に要する時間から算出されます。
省令では、要介護4の場合、介護に1日90分以上110分未満の時間を要するとされており、要介護5の場合、1日120分以上150分未満の時間を要するとされています。
そして90分以上110分未満の看護費は6670円、120分以上150分未満の場合7500円となっております。
なので要介護4の被相続人を100日介護した場合、66万7000円分が看護費となります。
そして看護費=寄与分ではありません。
看護費に裁量割合を掛け算した金額が寄与分となります。
裁量割合
裁量割合とは、相続人と被相続人が居住していた場合や、扶養義務がある場合など、寄与分の金額を減額すべき事情がある場合、看護費等に掛け算することでバランスをとる事を言います。
具体例を見た方が分かりやすいので具体例を見てみましょう。
具体例
設定:要介護4の被相続人を80日介護した場合
要介護4の1日の介護報酬:6670円
介護日数:80日
裁量割合:0.7
(被相続人と同居し、生活費は被相続人の預貯金で賄われていた。)
(裁量割合は裁判所が総合的に判断して決定します。)
寄与分の金額は、介護費×介護日数×裁量割合ですので、この設定で当てはめていくと
介護報酬6670円×80日×裁量割合0.7=寄与分37万3520円
となります。痰の吸引など介護内容によって、上記の介護報酬に加算されることがありますし、事件の内容によって介護報酬、裁量割合等異なってきますので、あくまで参考にしてください。
要介護認定等に係る介護認定審査会による審査及び判定の基準等に関する省令(平成11年4月30日厚生省令第58号)は、要介護4を要介護認定等基準時間が90分以上110分未満である状態又はこれに相当すると認められる状態、要介護5を要介護認定等基準時間が110分以上である状態又はこれに相当すると認められる状態と定めている。
一方、指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(平成12年厚生省告示第19号)の指定居宅サービス介護給付費単位数表(平成26年度介護報酬改定前のもの)によれば、身体介護が中心である場合の訪問介護費は、所要時間90分以上120分未満の場合につき6670円(1点10円で円単位に換算。以下同じ)、120分以上150分未満の場合につき7500円になる。
以上によれば、要介護4の場合は所要時間90分以上120分未満の訪問介護費である6670円を、要介護5の場合は所要時間120分以上150分未満の訪問看護費である7500円をそれぞれ介護報酬(日当)として採用するのが相当である。
平成29年5月31日/横浜家庭裁判所川崎支部/審判/平成28年(家)591号/平成28年(家)660号
寄与分として認められるための注意点
証拠
寄与分として認められていくためには、証拠を残しておくことは、とても重要なことです。
証拠があったとしても、被相続人に行った行為が、特別の寄与と認められない可能性もありますが、証拠がないために寄与分として認められないことも多くあります。
ですので、寄与分を主張していくのであれば、日ごろから証拠を残していくことが重要となります。
・被相続人の診断書
・要介護認定の書類
・介護日誌(介護内容が記載されているもの)
上記以外にも特別な看護・介護を行った場合は、行ったことが分かる証拠を残しておくようにしましょう。
有資格者が被相続人に対してした介護に上乗せする形で抗告人がした介護に要した時間及びそれを有資格者が被相続人の症状に応じて行った場合に1日当たり要する合理的で適切な時間が、原審判が認定した要介護4の際には90分以上120分未満、要介護5の際には120分以上150分未満を超えるものであったと認めるに足りる適確な資料はない。
平成29年9月22日/東京高等裁判所/第23民事部/決定/平成29年(ラ)1238号
抗告人は、早朝や夜間にも被相続人の介護をしているから、報酬に割増加算をすべきである旨主張する。
平成29年9月22日/東京高等裁判所/第23民事部/決定/平成29年(ラ)1238号
先ず、抗告人が、早朝や夜間に被相続人の介護をしたか否か及び介護に要した時間を認めるに足りる適確な資料はない。
その他、寄与分が認められる行為
①被相続人の事業に関する労務の提供
相続人が被相続人の事業に関して労務を提供した場合、該当します。
「事業」に関する労務の提供になるため、家事などの労働は該当しません。
・被相続人の農業、自営業に関して、ほぼ無償に近い形で労務を提供
②財産上の給付
相続人が被相続人の財産上の給付したことで、財産の増加、維持に寄与したものを言います。
・金銭等の提供
・被相続人が購入した不動産(土地、建物等)への資金援助
・被相続人の債務の返済
・被相続人のローンの返済
③被相続人の扶養
相続人が被相続人を扶養したことで、財産の増加、維持に寄与したものを言います。
・相続人が被相続人の食費等の生活費を賄っていた
ただし、療養看護と同様に親族間では扶養義務があるため、扶養義務を超える範囲の特別の寄与をしていたことが要件となり、過去の判例においては、特別の寄与として認められにくい傾向にあります。
④被相続人の財産管理
相続人が被相続人の財産管理をしたことで、財産の増加、維持に寄与したものを言います。
・被相続人の不動産を管理することで、管理会社への支出などが不要になった
・被相続人の不動産の保険料や税金を支払っていた
・不動産の売却の際に、売却手続きの対応等により売却代金が増加した
寄与分があるときの相続分の計算方法
寄与分がある場合の相続分の計算方法を具体例を通して見てみましょう。
具体例の設定
遺産総額:4000万円
相続人:長男、次男のみ
寄与分:長男の1000万円のみ
(遺産総額-寄与分)×法定相続分+寄与分=相続分
寄与分のある長男の相続分は、
(遺産総額4000万円-寄与分1000万円)×法定相続分2分の1+寄与分1000万円=相続分2500万円
となります。
(遺産総額-寄与分)×法定相続分=相続分
寄与分のない次男の相続分は、
(遺産総額4000万円-寄与分1000万円)×法定相続分2分の1=相続分1500万円
となります。
寄与分を決める方法は?
まず最初に相続人間で寄与分を協議していきます。
相続人間で決定していく際は、相続人全員が同意している必要があるため、一部の相続人のみで寄与分を定めることはできません。
相続人同士で協議をしても、寄与分が決まらなかった場合は、「寄与分を定める処分調停」を申立する必要があります。
「寄与分を定める処分調停」は、あくまで相続人同士での協議を調停委員会を通じて行い、相続人全員の同意をもって決定していくもので、裁判所が一方的に寄与分を決定するものではありません。
「寄与分を定める処分調停」は、次のサイトをご参考下さい。
「寄与分を定める処分調停」裁判所のHP
「寄与分を定める処分調停」の申立をして、協議がまとまらなかった場合、審判の手続きが開始しますが、審判手続きでは、寄与分だけでなく併せて遺産分割の方法も決めていく必要があるため「遺産分割審判」も行う必要があります。
審判の手続きは、調停とは異なり、裁判所が最終的に相続人たちの主張、立証された内容をもとに、寄与分を決定していきます。
まとめ
寄与分について記載させて頂きましたが、御理解頂けましたでしょうか?
被相続人のためを思ってした行為でも寄与分として認められない行為が多いからこそ、どのような行為が寄与分として認められるかを事前に知っておくことで、相続人間の争いを避けることができます。
相続人間で寄与分についてもめている場合などは、是非幸せ家族相続センターへご相談ください。