さよなら老舗映画館 - 奈良の観光会館地下劇場・橿原シネマアーク
奈良市東向南町の映画館「観光会館地下劇場」と橿原市内膳町5丁目のシネマコンプレックス(複合映画館)「橿原シネマアーク」が近く相次いで閉館する。大手資本によるシネコンの県内進出が続く中、個人経営の両館は2、3年前から大幅な赤字に陥っていたといい、地下劇場は今月13日の上映を最後に、またシネマアークは4月いっぱいでそれぞれ閉館する。いずれも前身・関連施設の時代から数えると半世紀以上の歴史がある老舗。長年にわたって県内の映画ファンに親しまれた地域の映画館がまた消えてゆく。
観光会館地下劇場は、主にテナント業を営む南都興業(永井光治代表)の直営施設。奈良市花芝町にあった旧南都日活を前身として昭和43年ごろ、松竹邦画専門の映画館として現在地に開館した。客席数は156。一つの施設に複数の劇場(スクリーン)を備えるシネコンが主流となるなか、県内で最後まで残った単一映画館だった。
近鉄奈良駅近くにあり、指定席・完全入替制を採用しない昔ながらのアットホームな運営で年配の映画ファンに根強い支持を受けていたが、近年はヒット作不足に加え、ヒット作が出ても、すぐそばにあるシネコン「奈良シネマデプト友楽」(8スクリーン)で同時上映されるため、年間の赤字を埋められる利益は望めない。平成19年には奈良市の近鉄高の原駅前にシネコン「ワーナーマイカルシネマズ高の原」が開館し、さらに赤字幅が増大した。5年前と比べて入館者数は半減。映画館の赤字を他の事業収益でカバーすることも難しくなり閉館を決めたという。
一方、橿原シネマアークは、中南和地域初のシネコンとして平成11年に誕生。大和高田市で旧高田シネマ、旧高田大劇を経営していた映画館経営の宮崎昌明さん(62)が、当時浮上していた駅前再開発も見込んで近鉄大和八木駅前に建設した。地上6階建てビルに5つのスクリーンを備え、総席数は717。
最初の2年は年間入館者数が約30万人と順調なスタートを切った。ところが平成12年末、河合町に「ワーナーマイカルシネマズ西大和」(7スクリーン)、同13年に橿原市に松竹系資本の「MOVIX橿原」(9スクリーン)、同16年に同市に東宝系資本の「TOHOシネマズ橿原」(同)が進出。橿原市は近鉄大和八木駅を中心に3キロ圏内で3つのシネコン(23スクリーン)が乱立する全国屈指の激戦区に様変わりした。
とりわけTOHOシネマズの進出は大打撃となり、3年前から赤字経営に転落。年間入館者数は当初の5分の1以下にまで減少したという。宮崎社長は「配給会社が映画館を直営する時代になり、両輪を成していた配給会社と興業主(映画館)のバランスが崩れたのが要因」と話す。
大資本・大規模化の波に、地域色は薄れていく一方だ。