では、萌え絵ファンはもはや児童ポルノ規制に対してなす術なしなのか、というと実はひとつだけ、厳しい規制を回避する策がある。「寛容さ」だ。タバコ規制までの道のりを見てつくづく思うのは、喫煙側が「自分たちは絶対に間違っていない」というスタンスを崩さず、受動喫煙防止などで歩み寄りをしなかったということがある。
タバコでガンになるなどまったくのデタラメで、製薬会社や医療界の陰謀だと罵(ののし)った。「受動喫煙防止」を主張する人たちは、愚かで科学的に物事を見れないと感情論者だとディスった。要するに、全面戦争を仕掛けて見事に負けてしまったのだ。
「美少女萌え」も同じである。ファンの皆さんは「萌え絵」を絶対的に正しい、批判されるようものではないという主張をするが、どう見ても「性的な描写」もある。
また、馬や戦艦を美少女に擬人化するアニメやゲームも、そういう世界観に慣れている人たちは「健全じゃないか」「単なるファンタジーだ」と主張するが、世の中にはまったくピンとこない人もいる。「どういう目で女性を見ているの?」とドン引きする人もいる。理解する女性もいるが、不快に感じる女性も少なくない。
そういう多様な視点を踏まえて、自分たちから規制はできないものか。例えば、胸の大きさや性的な魅力を前面に押し出すような「萌え絵」は、子どもなどの目に触れるような観光キャンペーン、自治体のプロモーションの起用は控えるなどのガイドラインをつくる。どうしても、胸を強調したい、露出を増やしたい、性的なことを言わせたいのなら年齢制限コンテンツなどにする。
このあたりを「温泉むすめ」のように多くのファンに愛されるコンテンツがしっかりと確立して、筋道をつけていくのだ。厳しい規制を避けるには、「自分たちで先にルールをつくる」というのが実は最も有効なのだ。
「われわれは絶対に正しい! フェミニストをどうにかしないと日本はおしまいだ!」と価値観の異なる人々へ憎悪を募らせているだけでは、「美少女萌え」もタバコと同じ轍(てつ)を踏んでしまうのではないか。
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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