新型コロナウイルス感染拡大以降、すっかりなじみの言葉となったPCR(遺伝子)検査。「感染の有無を調べるための検査」と誤解する人は意外と多いかもしれない。静岡県立焼津中央高校(焼津市)が正確に意味を理解することを通じて科学を身近に感じてもらおうと、PCR法を用いて自分の遺伝子を診断するユニークな授業を行った。【深野麟之介】
そもそもPCR法とは、DNAから特定の遺伝子を取り出して増幅させる手法のことで、「遺伝子増幅法」とも呼ばれる。医療現場から考古学、犯罪捜査にいたるまで幅広い分野で利用される。PCR検査が新型コロナ感染症の診断に用いられるのは新型コロナウイルスが持つ遺伝子をPCR法によって増幅させるためで、結果的に感染の有無が判断できるようになる。「PCR検査=感染の確認」というのは勘違いだ。
焼津中央高の授業は、ヒトのDNAに存在し、アルコールの分解に関わる「アルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH)」と呼ばれる遺伝子をPCR法によって増幅させるもの。10月に2回にわたって、3年の「理系生物」選択者や1年の文理混合の「生物基礎」選択者を対象に実施した。
初回はうがいによって口内の細胞を採取し、専用のPCR機器でALDHを増幅させた。2回目にALDHが正常に発現する「活性型」か、うまく発現しない「不活性型」かを判定。「酒が飲める」体質かどうかを推定するアルコールパッチテストも同時に行い、実験の結果と比較した。「自分はお酒に強そうだ」「PCR法の結果がうまく出なかった」などと、生徒たちの反応はさまざまだった。
授業を受けた1年の理系の女子生徒(16)は「PCR法はもともと『コロナを調べる検査』というイメージがあった」と振り返った。授業を担当した矢追雄一教諭(45)は「将来的に利用者としてPCR検査と関わる生徒が多いと思う。高校の学びの先に最先端の技術があることを実感してほしい」と話した。
焼津中央高は2021年春、県教育委員会から「アカデミック・ハイスクール」に指定された。今回の授業はこの事業の一環で、清流館高(焼津市)や静岡大農学部の協力を得て行われた。