「憧れの恐竜に関わる仕事ができて幸せ」と笑顔を見せる矢原武さん=福井県勝山市の福井県立恐竜博物館

 「化石発掘体験のお客さんは、大人も子どもも『もっとやりたい』と言ってくれる。自分もテンションが上がる」。白亜紀前期の化石の発掘現場が間近に見える野外恐竜博物館で、発掘体験の指導員を務める。

 野外博物館が休止となる冬場は、発掘体験で出た化石の分類や整理に当たる。多数の石をチェックし、そこから一部を展示や研究用に選び出す。「発掘現場の一帯は水辺だったので貝やワニ、カメ、植物が多い。恐竜の骨も出るし、新発見もある」と目を輝かせる。

 勝山市に来て、さらなる転機があった。瓶の中で植物を育てる「テラリウム」。作り方を大阪時代に習ったことがあり、恐竜博物館での工作教室にコケのテラリウム作りを取り入れたら「コケの生態に興味が湧いて、自分がはまってしまった」と笑う。

 嘱託職員と兼業でコケの栽培やテラリウム販売、体験教室を手掛ける事業を立ち上げた。「勝山には自由な時間と空間がある。だからこんなトライもできた」。大阪では通勤に電車とバスを乗り継いで1時間かかった。今は車で10分。家も庭付きの一戸建てを借りられた。

 30~40種類のコケを庭で育て、作ったテラリウムを勝山市と大野市の道の駅などで販売している。「コケは恐竜より古く、約4億7千万年前から変わらない生態で現代まで生き続けている」。今度は“コケ愛”が止まらない。

 20年秋、越前大仏の門前町の空き店舗にショップ「苔町3丁目」をオープンした。イベントではテラリウム教室が人気を呼んでいる。ねじを使ったアート作品の店を近くに構え、矢原さんの開店を手伝った男性=同市=は「若い人がIターンしてくれるのはうれしいね。コケがブームらしいし、波に乗って門前町を盛り上げてくれたら」とチャレンジを応援する。

 矢原さんの妻(36)は「好奇心旺盛で、面白い人」と夫を評し、店の経理を手伝うなど支えている。勝山市に移って2人の子どもが生まれた。「コケ作りを安定した仕事にすることが目標」と矢原さんは意気込む。「テラリウムはネット販売せずに、地元に根差した県内限定の商品に育てていきたい。チャンスをくれた、勝山への恩返しにもなるかな」

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