本拠地の分散化が観客動員に寄与
プロ野球の観客動員数は、観客の実数発表が始まった2005年から比較すると、30%近く増加しています。
【プロ野球の観客動員数推移(抜粋)】
観客数増加の要因としては、まず、本拠地球団の分散化があげられます。
2004年、東京ドームを巨人と併用していた日本ハムが本拠地を北海道に移転し、楽天がプロ野球に新規参入しました。その一方で、球団を保有していたダイエーがソフトバンクに球団を譲渡することが決まるなど、球団経営が厳しさを増していることも明らかになりました。これまでは球団経営を親会社の宣伝媒体として捕らえ、年間数十億円の赤字を出していたとされる各球団も、野球をビジネスとして展開する必要に迫られたのです。
結果として、それぞれ北海道と仙台を本拠地とすることにした日本ハムと楽天は、地元ファンの支持を集めることに成功し、地域密着型のサービスが注目されるようになりました。特に楽天は参入初年度に黒字化を達成、他球団に大きな刺激を与えました。
広がる球場のボールパーク化への取り組み
球場のボールパーク化と呼ばれる取り組みも進んでいます。ボールパーク化とは、試合観戦だけでなく、食事やアトラクションなど来場者向けに多彩なサービスを提供することによって、ファンの裾野を広げ、球場での滞在を楽しんでもらおうとする試みです。
例えば楽天の本拠地球場である「楽天生命パーク宮城」には、レフト側後方に球場を見下ろす観覧車やメリーゴーラウンドなど、子どもの喜ぶ遊具が揃う「スマイルグリコパーク」があります。観戦チケットがあれば入園が可能で、1軍の公式戦がない日でも入園券を買えば利用可能。また、2019年から始めた完全キャッシュレス化も話題になりました。
11年にプロ野球に参入したDeNAは、東京五輪の会場として使用される横浜スタジアムを連結子会社化し、球場の改築に取り組んでいます。既に横浜みなとみらいエリアの景観が一望できる屋上テラスが新設されたほか、球場を一周できる「回遊デッキ」を試合のない日も開放することなどが計画され、2020年2月には工事が完了する予定です。
札幌ドームを本拠地としてきた日本ハムは、2022年3月に北広島市に「北海道ボールパーク」(仮称)を開業すると発表しました。球団では「食とスポーツを有機的に融合させることで健康を育み、道民・市民・ファンの皆様が愛着と誇りを持てる施設を目指します」(日本ハムの発表資料より)としています。
また、各球団はシーズン中も様々なイベントやファンサービスを行っています。通常、選手たちは、ホーム球場用とビジター球場用の2種類のユニフォームを着用しますが、今では多くの球団が期間限定のユニフォームを制作し、選手が身につけることはもちろん、来場者プレゼントとする他、販売もしています。かつて着用されていた復刻版や夏限定のデザインなど、趣向をこらしたユニフォームがファンの人気を集めています。
さらに最近では、試合前のグラウンドや球場内のダグアウトやブルペン、ロッカールームなどを見学できるスタジアムツアーを行う球団も話題に。野球場のスコアボードはデジタル化され、試合中も動画やデータをふんだんに使って観客を飽きさせない工夫がされています。
気分はVIP!スイート級のスペシャルシートで野球観戦
各球団では野球観戦の席にも様々な工夫を凝らしています。飛行機でいえばファーストクラスやビジネスクラス、ホテルでいえばスイートルームのような特別な席が主に法人向けに発売され、取引先企業とのコミュニケーションの場などとして利用されるケースも増えています。
巨人が用意しているのは、東京ドームの「スペシャルシーズンシート」。最も高額な席は、63試合を観戦できる「ダイヤモンドボックス」の1席220万円。バックネット裏の中央上段エリアで、ウェルカムドリンクを飲みながら上質な革のシートに座って野球観戦ができ、各座席には専任のコンシェルジュが控えています。
西武の最高級エリアは、バックネット裏の最もグラウンドに近い場所に設置されている4席で、1シーズン374万円の「プレミアムシートS」です。エスコートスタッフが飲食の注文に対応してくれるほか、バックネット裏の上層部にあるオーナーズレストランで観戦しながらの食事も可能です。
DeNAは2019年から横浜スタジアムに、バックネット裏スタンド上部の個室観覧席で野球観戦が楽しめる「日産スタースイート」を設置しました。すべての個室に高級ホテルの専属スタッフが配置され、バルコニーから観戦できるのはもちろん、個室の中では豪華な料理も楽しめます。1試合の価格は8人の部屋で30万円です。
このような席での贅沢な野球観戦は、プロ野球ファンにはもちろん、ファンでない人にとっても一度は体験したいものではないでしょうか。
※金額は2019年11月時点。
家族や友だちと“野球観戦パーティ”を楽しめる席も
こうした贅を尽くした席とは別に、家族や友だちと楽しみながら観戦できるユニークな席も用意されています。
ロッテのZOZOマリンスタジアムの「セブン-イレブン スタンドデッキ」は、レフトスタンド上部のウッドデッキエリア。1テーブル4名の「グループシート」は試合カテゴリーによって料金は異なりますが、最も高いグレードで12,800円。飲み放題やオードブルのついたパーティープランもあり、家族や仲間と野球観戦が楽しめます。
広島のマツダスタジアムには「ちょっとびっくりテラス」が。25人まで10万円と、30人まで12万円という2つのゾーンがあり、子連れの家族などが集まってお好み焼きやバーベキューに舌鼓を打ちながら、カープを応援することができます。
甲子園球場の「三ツ矢サイダーボックス」は、テーブルのある掘りごたつ形式の座席です。料金は4人席で土日のゲームは18,000円。座席は球場名物の銀傘の柱の周りに設けられています。
※金額は2019年11月時点。
まとめ
各球場の様々な取組による新しい野球観戦や球場での楽しみ方をご紹介しましたが、行ってみたい球場は見つかったでしょうか?各球場では単に野球を観戦するだけではない、プラスαの楽しみ方を次々と用意しています。これまで野球に関心のなかった人も、一度足を運んでみれば新たな楽しみが見つかるかもしれません。
ライタープロフィール
大学卒業後、大手新聞社勤務を経て、ロイター・ニュース・アンド・メディア・ジャパン株式会社にてアドソリューション・クリエイターとして勤務(2013年6月~2019年2月)。現在はフリーランスライターとして幅広い分野で執筆中。
本松 俊之の記事一覧はこちら