光の魔力にもっと光を
裏側で七転八倒しながらも、エカテリーナの脚本は徐々に形になってきた。
前世の世界的歌姫の出世曲をどうにか押し込んでみると、ベースにした西遊記はほぼ原型を留めていない有様となったが、まあ、いいか。で済ませている。
三蔵法師は、旅の聖女様に置き換えた。この世界に実在したらしい、人々を救いながら各地を旅して回ったという女性だ。
実在したにしては活動期間が異常に長期間だったり、名前がエステールとかアネモーニとか全然違ったりするので、違う女性たちが混同されたのだろう、とエカテリーナは思っている。
主役を聖女にしたことで、自然とフローラが主役になりそうな空気になってしまったが、エカテリーナはぜひお願いしたいと思う。三蔵法師は美人女優が演じる、という鉄則が前世にあった気がする。
いや、よく考えたらなんでやねん。
美人女優にスキンヘッドの扮装をさせる鉄則って、思えばなんと大胆不敵だったことか。
ま、昭和の時代にそれで大当たりした西遊記のTVドラマがあったせいらしいが。若くして亡くなった美人女優が三蔵法師を演じて、それはそれは美しかったらしい。
そういえば、新撰組の沖田総司は美形でなければならない、という鉄則もあって、それも昭和の時代に美男スターが沖田総司を演じたからだとも聞いたけど本当だろうか。
まあそれはさておき、配役や裏方の役割分担などもおおよそ考えて、今は相手に打診しているところだ。
最終的にはクラス会議で決定する予定だが、前世の社畜生活で染み付いた、根回しをやらずにいられない。
いや根回しというと何かアレだが、エカテリーナとしては、皆の前では断り辛いとか、逆にやりたい役割があるのに手を上げにくいとかそういうことで、クラスの誰かにとって不本意な学園祭にならないようにしたいのだ。
あと、自分がこうしたいからと勝手にいろいろ決めるのは、悪役令嬢っぽくて怖い。
清く正しく美しく!脱・悪役令嬢!
とはいえ、エカテリーナにもゆずれないところはある。どうしてもお願いしたい役割は、前もって相手の合意を得たい。
というわけで今、エカテリーナはとある同級生男子と向き合っていた。
「照明係……ですか?」
公爵令嬢を目の前にして、おどおどと視線をさまよわせていた男子が、エカテリーナの言葉を繰り返してきょとんと目を見張った。
彼の名前はユーリ・レイ。男爵家の次男だそうで、クラスは同じでも、今までほとんど話したことはない。
いつぞや、隣の席の男子にノートを獲られて、追いかけて廊下を走っていた時に、そのノートをエカテリーナが取り返して渡してあげたことがあったが、その時くらいか。
なお、隣の席の男子とは、いつの間にか仲良くなったようだ。
「ええ、耳慣れない言葉かと存じますけれど、光での演出で演劇を盛り上げる役割を、そう名付けてみましたの」
自分が考え出したみたいに言ってごめんなさい、と内心思いながら、エカテリーナはそう説明した。
というのは、この世界の演劇には、まだ照明という概念が存在すらしていないからだ。
以前、最初の試験で学年一位をとったご褒美に、アレクセイに皇都見物に連れて行ってもらった。
その時、皇都で一番の格式を誇る国立劇場を見学して、その時に知ったのだ。前世では当たり前だったスポットライトなどの舞台照明は、この世界には存在していないと。
考えてみれば、当たり前の話だ。スポットライトは電気の灯りであって、この世界では電気はまだ発明されていない。この世界では、灯りはイコール蝋燭などの炎。または虹石の発光、珍しいところではユールノヴァ領で森の民が白珠虫が放つ光を灯りにしていたけれど、どれも舞台照明に使えるほど指向性が強いものではない。
だから、劇場には蝋燭を灯して劇場内を明るくする普通の灯りはあれど、舞台を演出するための舞台照明と言えるものは、何もなかった。
そういうわけで、ユーリがさっぱり解らないという表情でおうむ返しに言うのは、無理もないことなのだ。
「光の演出で演劇を盛り上げる……?」
「ええ。きっと素敵だと思いますのよ。稀少な光の魔力をお持ちの、レイ様だけにできることですわ」
ユーリ・レイの魔力属性は『光』。一世代に一人いるかいないかと言われるフローラの『聖』の魔力ほどではないが、一学年に一人か二人くらいしかいない、珍しい属性だ。
が……稀少属性としてもてはやされるかというと、そうでもなかったりする。
光の魔力というと、前世のファンタジーではなんかステキなイメージだった。善の側、みたいな。
けれどこの世界では、光の魔力とは文字通り、光を操る魔力のこと。
でしかない。
光を生み出して、暗い所で手元を明るくしたりできる。便利。
便利なのだけど、なんというか……しょぼい、とか思われてしまいがちなのだ。
多数派の属性、土、風、火などのように、物理的な攻撃能力はないからかもしれない。暗闇でいきなり強く光らせれば目潰しになるが、そんな状況はそうそう発生しない訳で。
長らく平和な皇国だけれど、攻撃能力はどうしても、かっこいいイメージで好まれている。同じく平和な時代には不要な剣術や弓術だってかっこいいイメージだから、仕方がないのかもしれない。
そういう魔力属性のせいか、ユーリはちょっと陰キャな感じだ。特に有力ではない男爵家の次男でもあるし、自己評価が低いように見える。
けれど彼は、魔力は強いようだ。それに、魔力の制御技術も高い。
「わたくし、魔力制御の実技で、レイ様の技量に感心しておりましたの。身体から離れた場所に光を生み、さまざまに制御しておられましたでしょう。お見事でしたわ」
「いや、あんなの……」
遠隔操作も苦もなくやって、離れた場所で光を炸裂させたりもできるというのは、見事な制御だ。
ただ、魔力制御の授業は当然日中で、しかも実技は戸外の明るい場所で行うため、はっきり言ってほとんど見えない。そのせいで、彼の技量はクラスでは今ひとつ評価されずにいた。
エカテリーナとしては、もったいないと思う。
前世で見慣れていた多くのエンターテインメントは、光での演出が不可欠だった。ユーリなら、この世界の人々が驚くような効果を、演劇に加えることができるかもしれない。
できないかもしれないけども。
いやなにぶん、ただの思いつきであって未知数でしかないのだ。なにしろ、お兄様に見てもらう舞台なのに、テキトーテキトーを心の支えにしてどうにか進めているってどうなの?オリガちゃんとレナート君の音楽があればっていうのはあるけど、演劇として見応えがあるような工夫ができないかなあ……という、ブラコンな衝動だけで動き出してしまったので。
とはいえユーリにとっても、悪い話ではないのではないか。もしかしたら、光の魔力に新たな価値が生まれるかもしれないのだから。
主役にスポットライトが当たるだけでも、この世界では画期的。光の魔力の持ち主だけが、それを実現できる。
皆にすごい!と言われたら、ユーリもきっと学園祭を楽しい思い出にできるだろう。
「少し試してみるだけでも、お付き合いいただけませんこと?わたくし、ぜひ、お願いしとうございますの」
祈りの形に手を組んで、レイ様、お願い!と声に力を込める。
「ぼ……僕が、ユールノヴァ嬢の役に立てるなら」
顔を真っ赤にして、ユーリはうなずいた。
活動報告に、5巻発売時の購入特典を記載しましたので、よろしければご覧くださいませ。
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