記事一覧

擬似形態素の一覧表(後) : 2021年11月19日版

「擬似形態素の一覧表(後)」の最新稿を発表します。

この後篇には「前接擬似形態素ではないもの」を集めました。七種類に分類してあります。

F爺・小島剛一の提唱する新造語「擬似形態素」の現段階での定義をもう一度書きます。
【一つだけかごく少数の複合語または成句の構成要素を成すが、単独では意味の認め難い音列・文字列】

なお、かなりの数の擬似形態素に「語調を整える機能や擬態語としての機能」が具わっています。

[1] コソアド言葉のように見える擬似形態素

「何もも」と「何やや」の「か」
「どこもかしこも」の「かしこ」
「誰もかれも」の「かれ」
「何だかんだ言っても」と「何でもかんでも」の「かん」
「どいつもこいつも」の「こいつ」
「どうにかこうにか」と「どうもこうも」の「こう」
「どれもこれも」の「これ」

[2] 欠如名詞を成す擬似形態素

ガタが来る」の「ガタ
「愛想も小想も尽き果てた」の「小想」
「短気は損気」の「損気
二進(にっち)も三進(さっち)も行かない」の「二進(にっち)」と「三進(さっち)
「□□もへったくれも無い」の「へったくれ」

[3] 副詞のように見える擬似形態素

「ちょっとやそっと(*)の「そっと」

(*) 成句全体としては、「ちょっとやそっとでは」や「ちょっとやそっと努力では」のように名詞型形容詞を思わせる構文を要請します。分類に困る例です。

[4] 欠如感歎詞を成す擬似形態素

「うんともすんとも言わない」の「すん

[5] 欠如動詞を成す擬似形態素

「惚れたはれた」の「はれた」
「押し合いへし合い」の「へし-

[6] 後接擬似形態素

「腹いせ」の「-いせ」

「破れかぶれ」の「-かぶれ
「厚かましい」の「-かま-
「暗がり」の「-がり」.
「痩せぎす」の「-ぎす (*1)
「目くじらを立てる」の「-くじら」
「一緒くた」の「-くた」
「無茶苦茶」と「滅茶苦茶」の「-苦茶
「土くれ」の「-くれ」 
「端くれ」の「-くれ」
「真っ黒」の「-け
「混ぜこぜ」の「-こぜ
「夕焼け小焼け」の「-小焼け
「石ころ」と「犬ころ」の「-ころ」 

「気さく(な)」の「-さく」
「食いん坊」の「-し-
「出しゃばる」の「-しゃばる」
「通りすがり」の「-すがり」
「碌すっぽ」の「-すっぽ」
「当てずっぽう」の「-ずっぽう」
「行きずり」の「-ずり」
「またぞろ」の「-ぞろ」(*2)

「汗だく」の「-だく
「呑んだくれ」の「-だくれ」
「女だてらに」の「-だてらに
「高慢ちき」の「-ちき」
「妙ちきりん」の「-ちきりん
「変ちくりん」の「-ちくりん」
「楽ちん」の「-ちん」
「横っちょ」の「-っちょ」(*3)
「太っちょ」の「-っちょ」(*4)
「嘘っぱち」の「-っぱち」
「夜っぴて」の「-っぴて
「薄っぺらな」と「薄っぺらい」の「-っぺら-
「痩せっぽち」の「-っぽち」
「恨みつらみ」の「-つらみ
「変てこ」の「-てこ」
「変てこりん」の「-てこりん」
「頭でっかち」の「-でっかち
「酔いどれ」の「-どれ」

「行き当たりばったり」の「-ばったり(*5)
「口幅(くちはば)ったい」の「-はばった-」 
「落ち着き払う」と「出払う」の「-はらう
「酔っぱらい」の「-ぱらい」
「酔っぱらう」の「-ぱらう
「見せびらかす」の「-びらかす
「地べた」の「-べた」 
「平べったい」の「-べった-」 
「穴ぼこ」の「-ぼこ」
「日向ぼっこ」の「-ぼっこ」
「厚ぼったい」の「-ぼった-」 
「腫れぼったい」の「-ぼった-」 
「一人ぼっち」の「-ぼっち」
「張りぼて」の「-ぼて」

「大まか」の「-まか
「汗みずく」の「-みずく
「汗みどろ」と「血みどろ」の「-みどろ
「毛むくじゃら」の「-むくじゃら
「矢鱈めったら」の「-めったら」

「無理矢理」の「-矢理」
「日和(ひより)」の「-より」

(*1)〈「痩せてぎすぎすした」を短縮したのが「痩せぎす」だ〉という俗説がありますが、根拠は極めて薄弱です。

[1]「痩せぎす」は、「痩せてほっそりしているさま」です。物言いや動作が「ぎすぎすしている」とは限りません。

[2]「ぎすぎす(した)」の発音は、[ɡisɯ ɡisɯ]。「(痩せ)ぎす」は、[ŋisɯ]です。仮に後者が「ぎすぎすした」を語源としているのだったら、[ɡisɯ]という発音になっているはずです。

[3] 仮に〈「痩せてぎすぎすした」を短縮した〉のだったら、「ぎす*痩せ」という形態になっているはずです。ブログ記事〈「痩せぎす」の「-ぎす」〉をご覧ください。


(*2) 古語辞典によると、漢字では「又候」または「復候」と書くものだったそうです。

そのため
「またにそうろう」が「またぞろ」になった
と書いている「国語」辞典があります。

ところが、「またにそうろう」は、動詞の基本形で終わっています。「またぞろ」は、接続詞です。文法機能のこういう変化は、非常に稀なことのはずです。

また、「○○に候」「○○ござ候」などと書く「候」の最初の拍は、全て「そうろう」「そうらえば」などと「清音」で発音します。突発的に「ぞろ」と「濁音」になる理由がありません。

件(くだん)の辞書の制作者は、どんな根拠があってこの語源説に到ったのでしょうか。


(*3)(*4)「横」は名詞、「太(ふと)」はイ形容詞「太い」の語幹です。文法上、別のことです。また「太っちょ」は人物を指し、侮蔑の響きがあります。ところが「横っちょ」は、そうではありません。意味と用法も違います。

(*5) 単独の「ばったり」は、副詞です。後続の動詞によって、「急に(倒れる)」「不意に(出くわす)」「俄かに(途絶える)」などの意味になります。

ところが、〈「行き-」+「-当たり-」+「-ばったり」〉の「ばったり」を副詞だと仮定した場合、三要素の語義を併せても、複合語の「行き当たりばったり」(=その場その場で 成り行きに任せて)の意味にはなりません。それに、複合語全体としては、形容詞(#)です。副詞ではありません。


   (#)「小島剛一文法」で「形容詞」は、学校文法の「形容詞」と「形容動詞」と「連体詞」を含みます。
   下位分類として「名詞型形容詞」「イ形容詞」「不変化前置形容詞」などがあります。


こうして見ると、「-ばったり」は、擬似形態素と見做すのが妥当です。

なお、「当たり」+「ばったり」と二拍の「たり」を重ねることに「語調を整える」機能があります。


? 後接擬似形態素かもしれないもの

「これっぽっち」の「-っぽっち」

意味は完全には並行しませんが「それっぽっち」「あれっぽっち」という言い廻しもあります。後の二語が「これっぽっち」から派生したものだという確証があれば、擬似形態素だと言えます。今のところ、結論は、保留しておきます。

[7] 接中擬似形態素

「いじる」と「しゃべる」と「ほじる」の「-く-
「落っこちる」と「落っことす」の「-っこ-

お願い

擬似形態素は、この他にもまだまだあるかもしれません。気の付いた方がいらっしゃいましたら是非お知らせください。追記します。

特に面白いものや判断に迷うものなどが見つかれば、補遺記事を立てることもあり得ます。

コメント

コメントの投稿

非公開コメント

Profil

F爺・小島剛一

Author:F爺・小島剛一
 F国(= フランス)に住む日本人の爺さん。
 専門は、言語学(特にトルコ語、ザザ語、ラズ語など)、民族学、日本語文法、作曲・編曲、合唱指揮など。
 詳しいことは「Catégories」欄の「自己紹介」という記事に。

Derniers commentaires

Derniers rétroliens

Catégories