コンビニ大手3社が、8月末までに「成人向け雑誌」の販売を取りやめることを決めた。女性や子供、訪日客などへの配慮を理由としている。この件です。
表現の自由や「成人向け雑誌」「成人誌」の定義の曖昧さから、こうした判断を懸念する声も上がった。一方で、BuzzFeed Japanの記者がTwitterで「来店しやすくなる人がいるのか。非実在なんじゃ」などと発言し、多くの批判を浴びた。
実際には「コンビニに行きやすくなる」と歓迎する人はいる。BuzzFeed Newsはそういった人たちの思いを改めて取材した。
成人向け雑誌の販売をめぐっては、1月21〜22日にセブン-イレブン、ローソン、ファミリーマートが8月末で販売を中止することを決めた。大手3社が足並みをそろえた。
ファミリーマートを運営する「ユニー・ファミリーマートホールディングス」広報室によると、2018年4月から「直営店を含む国内約2000店で既に取り扱いを中止している」という。
その上で、「女性やお子さまのお客様に、安心してお買い物をしていただける店舗づくりをさらに進める」「2020年のオリンピック・パラリンピック、2025年の大阪万博等の開催を控え訪日外国人の大幅に増加している」として、全店舗での成人向け雑誌の販売中止を決めたとしている。
一方、日本雑誌協会は「『成人誌』の基準が曖昧で、選別方法が不明瞭であることに危惧を覚える。一部雑誌の取り扱い中止に関しては、慎重な判断を求めたい」と懸念を表明している。
「誰かを傷つけていることを、知ってほしい」成人誌がコンビニから消える意味-BuzzFeedJapan
私の認識としては上のツイートに集約されています。よい変化ではありますが、一方でオリンピックや来日外国人への配慮という口実との抱き合わせであり、人権の問題であるという点が真正面から議論されなかったつけがいずれ来るのではなかろうかと危惧しています。新橋九段@kudan9
コンビニの成人向け雑誌取り扱い停止に関しては、いい変化だと歓迎したい一方で、結局のところ人権マターであるという点から目をそらした対応になっていて根本が変わっていないしわ寄せがどこかで来るんじゃなかろうかという不安もある。
2019/01/23 12:05:31
それはさておいて、今回はこの「コンビニが成人誌の取り扱いをやめる」という状況を、どのように認識すればよいかを簡単に論じておきたいと思います。
本件は「表現の自由戦士」の敗北である
結論を先取りすれば、本件は表現の自由戦士たちが頑なにゾーニングすら「表現規制だ」と拒絶したがゆえに行き着いた先であろうということができます。
まぁ正確には、ネットでうごめくだけの表現の自由戦士のせいというよりは雑誌業界の人のせいというべきなんですけど、その二者間にイデオロギー上の違いはなさそうですし。そんなこと言ったら表現者の大多数が表現の自由戦士みたいなもんじゃないかという突っ込みも成立しますけど。
本ブログでの過去の記事を遡るまでもなく、表現の自由戦士たちは自主規制やゾーニングと強権的な表現規制の区別がつかないまま議論を無為に繰り返し、時間を浪費してきました。「コンビニにあんな大っぴらにエロ本があるってどうなの?」という議論は少なくとも東京五輪が決定する前からは確実に存在しており、その当初からきちんと対応していれば貴重な売り場を失うことはなかったでしょう。
私はかねてから主張しているように、適切なゾーニングはむしろ表現の自由を守るために必要不可欠です。具体的には『【書評】新版犯罪報道の犯罪』のとき一緒に論じましたが、適切にゾーニングが行われ、無遠慮な表現によって傷つく人が減れば、わざわざ政府が出しゃばって規制をかける必要もなく、表現の自由は守られるというわけです。
もちろん、政府による規制と自主規制は全く異なるものです。後者はあくまで市民による自主的なルールに基づくものであり、極端な話そのルールを破っても刑事罰になることはなく、気に入らなければそのルールの枠組みを飛び出してしまうことも可能です。一方政府による規制は刑事罰をも視野に入れたものであり、本来規制されるべき範囲を超えて表現を委縮させる可能性があります。また政府による規制は硬直的であり、かつ全国へ普遍的に適用されるのでルールそのものに異議を唱えることも困難となります。
ゾーニングによって表現に対する不用意な批判を回避することは、政府による規制の導入を回避するために必要なことです。例えば無遠慮に氾濫する性暴力表現によって脅威を感じさせられている女性は、まず雑誌を陳列する店や出版社に対応を求めることになるでしょう。しかしこれらが木で鼻を括ったような対応しかせず現状がそのまま放置され、脅威状態が持続するのであれば、取れる行動はもう1つしかありません。そう、政府による規制を求めることだけです。
もちろん、そのような規制を求めざるを得ない立場の人たちも、政府による規制の副作用は多かれ少なかれ認識しているのでしょうが、しかし全く対応がなされないならばやむを得ないとなるでしょう。
コンビニへの雑誌陳列という点では、どうしてもその売り場を守りたいというのであれば、出版社の負担でカバーをかけたり、過激ではない(それこそ『LO』みたいな)表紙へ切り替えるといった手段はいくらでも考えられ、それをするだけの時間もあったはずです。しかしそれは行われず、最終的にコンビニからの排除とあいなりました。
まぁ、私はエロ本なんてコンビニに置かなくていいだろうと思うので別にどうでもいいのですが、コンビニにエロ本を置いてほしいという立場なら本気で対応すべき案件でしたね。