バイデン氏「台湾防衛」発言に確信犯説 疑心暗鬼の中国
バイデン米大統領が台湾をめぐり「失言」を連発している。機微に触れる「一つの中国」政策などについて米国の歴代政権と異なる立場を示唆し、直後に修正や撤回を繰り返す。台湾防衛義務に触れた発言は中国を抑止するため意図的に間違えた「確信犯」の可能性がある。
「我々は台湾の独立を奨励していない」。バイデン氏は16日、東部ニューハンプシャー州で記者団に強調した。これに先立って「台湾が独立している」との認識を示したと受け取られかねない発言をしていた。歴代政権は中国大陸と台湾が1つの国に属するという「一つの中国」政策を踏襲してきた。
バイデン氏は米東部時間15日、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席とのオンライン協議で「一つの中国」政策を確認したばかりだ。首脳同士が台湾をめぐる双方の立場を明確にして意図しない衝突を避けることが主眼だった。協議翌日の「失言」で中国は米国に再び不信感を強めた可能性がある。
バイデン氏は大統領就任前から失言癖で知られ、8月と10月には米国は台湾防衛の義務があると明言して物議を醸した。米国で1979年に成立した台湾関係法は、台湾の自衛力強化の支援をうたいながら台湾防衛を確約していない。ホワイトハウスはいずれも直後に発言を撤回して火消しに回った。
この過程で浮上したのが、台湾防衛義務をめぐる発信が「確信犯」との見方だ。バイデン氏にアジア政策を助言した元側近は「バイデン氏は米国の台湾政策を知り尽くしている」と指摘する。
根拠は2001年にさかのぼる。当時のブッシュ大統領(第43代)は米国に台湾防衛義務があるかどうか問われて「もちろんだ、中国はそう理解すべきだ」と応じた。
バイデン氏は当時、上院議員として米紙に寄稿し「外交で武力行使の権利留保と台湾防衛の事前約束には雲泥の差がある。細部に注意しないと同盟国からの信頼を損なう」と苦言を呈していた。
安全保障の新枠組み「AUKUS(オーカス)」を米国や英国と立ち上げたオーストラリアのダットン国防相の発言も「確信犯」説を補強する。
ダットン氏は11月、豪メディアに台湾が中国に攻撃された場合「もし(同盟国である)米国が行動を起こすことを選択したら、我々が米国を支援しないことは考えられない」と述べた。
米国が軍事行動に出れば、豪州も追随する考えを明言した。両国の国防当局が事前に擦り合わせなければ難しい発言だ。
中国も「確信犯」とみている公算が大きい。1度目の発言の際は外務省報道官は「メディアが失言と報じている」と取り合わなかったが、2度目の発言に報道官は「失言」に触れなかった。
習氏はバイデン氏との協議で「台湾独立の分裂勢力が挑発的に迫り、レッドライン(越えてはならない一線)を突破すれば、我々は断固とした措置をとらざるを得ないだろう」と強調した。米国では中台統一へ武力行使を排除しない立場を示したと受け取られている。
バイデン氏は強気の姿勢を示すが、台湾有事での軍事介入は米国民の支持を得られるかがカギをにぎる。米シンクタンク、シカゴ・カウンシルの7月の調査では、台湾有事に米軍を派兵すべきだと答えた人の比率は52%だった。初めて半数を超えたが「ロシアによるバルト3国侵略」への派兵(59%)には及ばない。
バイデン氏の「失言」は日本の安全保障にも直結する。4月の日米首脳声明は台湾海峡について「平和と安定の重要性を強調する」と明記した。自民党内では台湾有事に備えて日米の防衛協力指針を見直すべきだとの声があがる。
台湾有事を想定した米軍の図上演習参加者は「米国が深刻な規模の犠牲者を出すことに疑問の余地はない」と話す。内向き志向を強める米国が遠い極東の有事にどれだけの犠牲を払う覚悟があるかはまだ見通せない。
(ワシントン=中村亮、シドニー=松本史)
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