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7月も中旬になり、山の花は見頃を迎えています。新型コロナウイルス対応のためシャトルバスが運行していない今シーズンは、登山者は土日には少なく平日に分散しています。8月2日(日)までの土日祝日はシャトルバスの運行はなく、ただし交通規制はありますのでお気をつけ下さい。

早池峰山車両交通規制及び2020シャトルバスの運休のお知らせ


さて、今日はそれとは直接関係ない話です。

少し前になりますが、5月24日(日)、早池峰山の登山道外でロッククライミングを楽しむ8人のグループの姿が見られました。



場所は閉鎖中の河原坊コース登山道の打石(1686m)〜千丈ヶ岩(1750m)の西方約100mの岩場です。
当該グループは通行禁止のバリケードが置かれた河原坊登山口から入山し、河原坊コース登山道を打石(1686m)付近まで登り、登山道を西側に外れてトラバース、岩場に取り付いたとみられます。
たまたま、河原坊コース頭垢離に設置された防鹿柵の見回りに入っていた自然公園保護管理員(筆者)が発見しました。


現場はこの辺り。

グループはヘルメット、ロープその他登攀器具を装備してロッククライミングを行なっていました。発見した時すでに午後1時ごろだったので、現場まで確認に行く間に山頂稜線に抜けられては追いつけないと思い下から監視していましたが、一行は違う岩場を何本か登ったあと上には出ずに打石の方に戻り下山する様子でした。

さて、このクライミング行為にはいくつかの問題点がありました。

一つは、通行禁止措置がとられている河原坊コースを通行しているということ。通行禁止は、登山道の管理者である岩手県生活環境部自然保護課が取っている措置で特に法的に罰則等のあるものではありませんが、重大なマナー違反ということになります。

次に、クライミングの行われていた場所は早池峰国定公園の特別保護地区になります。そこでクライミングを行うことに対する規制はないのでしょうか。実は、国定公園や国立公園について定めた自然公園法には、山岳登攀を禁止する条文はありません。しかし登攀自体を禁止していなくても例えば、岩にハーケンを打ち込んだりすると当てはまりそうな「土地の形状変更」には知事の許可が必要です。これに違反した者は六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金が科されます。

また、早池峰山にかかっている法規制は自然公園法だけではありません。文化財保護法もあります。早池峰山の高山帯と植物群落は、「早池峰山および薬師岳の高山帯・森林植物群落」として特別天然記念物に指定されています。「その現状を変更し、又はその保存に影響を及ぼす行為をしようとするときは、文化庁長官の許可を受けなければならない」のです。こちらの違反には五十万円以下の罰金。

5月24日の彼らは、登攀用の支点作りには岩を傷つけないナチュラルプロテクションなどを使用しているようにも見えましたが、すべての支点で岩に穴を開けなかったかどうかは確認できていません。


左はクラックにナチュプロをかませている様子だが右は?


器具は回収していった。

さて、実は早池峰山の登山道外でのクライミング行為における問題は、岩に傷をつけたかどうかだけではありません。
今回のご一行様は、岩場への出入りに登山道外の高山植物帯を歩いていました。



自然公園法では、国定公園の特別地域での「指定植物の採取・損傷」にも事前に知事の許可が必要です。違反した者は六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金。(追記:特別保護地区内では、指定によらずすべての植物の採取等に知事の許可が必要)
また、「岩手県希少野生動植物の保護に関する条例」でも、「指定希少野生動植物」の「生きている個体を捕獲、採取、殺傷、損傷してはならない」と定められています。違反した者は1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されます。

早池峰国定公園の指定植物には200種を超える膨大な種が指定されているのでここに書くことはできませんが、早池峰山の高山植物帯で見られるほとんどの植物が該当します。また、「岩手県希少野生動植物の保護に関する条例」の方では、ハヤチネウスユキソウやナンブトウウチソウなど10種類が指定されています。
つまり、これらの植物を踏んで歩いて損傷した場合、上記の法律違反に問われることになるのです。

また、先ほどの文化財保護法に照らしても、文化庁長官の許可なく特別天然記念物である高山植物群落を損傷(現状変更)すれば五十万円以下の罰金となります。

最後に、国有林の規程についても触れておきます。早池峰山(鶏頭山から早池峰山を経て高桧山の西側に至る早池峰連嶺)と薬師岳のだいたい標高1000mから上のエリアは「早池峰山周辺森林生態系保護地域」の「保存地区」に指定されています。そこでは、既設の登山道、山小屋等の周辺以外は原則立ち入りができないことになっています。


うすゆき山荘の前に看板があります。

このように、今回のクライミング行為は「自然公園法」・「文化財保護法」・「岩手県希少野生動植物の保護に関する条例」の三つの法令と「早池峰山周辺森林生態系保護地域」の規程に違反している可能性がありました。

その日、当該グループはなかなか下山してこなかったので我々自然公園保護管理員は直接問い質すことはできませんでしたが、駐車してあった車から岩手県内のグループらしいと思われました。そこで、岩手県自然保護課に報告し、県から岩手県山岳協会等に問い合わせてそうした行為を行なった山岳会などが判明した場合、当人達に事実確認を行い、今後はしないように注意をしてほしいと要望しました。

それから一月半以上経ちますが、何も進展があったとは聞いていません。私はここに情報を公開し、これがもし当人達か知り合いの目に触れるならば、このような行為は法令違反に問われる可能性があると知ってもらいたいです。

私はクライミングという文化を一概に否定するものではありません。しかし、早池峰山にこれほど厳しい規制の網がかけられているのはひとえにその高山植物群落の希少価値からです。そこが他のどんな岩場とも違っている点です。岩に登りたいなら日本中、いや世界中にゴマンと岩場はあります。岩の隙間のわずかな土壌に根を張る早池峰の高山植物がどれだけ脆く厳しい生育条件の中で生き残っているか。希少な植物を踏み越えてする岩遊びはやめてもらいたい。

これは、毎年数組のグループが行う、「奧鳥沢から早池峰山縦走コースへ登る沢登り」にも言えることですが、それについてはまた機会を改めたいと思います。

10/28 追記:
この件について、岩手県自然保護課は9月には当該グループを特定し、こうした行為をしないよう指導し、代表者は反省していたとのことです。
早池峰山では毎年、6月の第2日曜を山開きとし、その日から登山のハイシーズンとなる8月第1日曜までの土・日曜と祝日には、登山口へつながる県道で車両交通規制を行い、それに合わせてシャトルバスを運行してきました。

それが、この度の新型コロナウイルスの感染拡大により、今年の山開き行事の中止と、シーズン中のシャトルバスの運休が決まりました。山開き行事は、小田越登山口での入山式・山頂安全祈願祭・神楽の奉納・記念絵馬の配布のすべてが行われません。

ただし、車両交通規制は行われます。ということは、6/14 (日)〜8/2 (日)の間の土日祝の5時〜13時には、登山しようと自家用車で(あるいはツアーバスであっても)やって来ても、花巻側では小田越登山口から約8km手前の岳駐車場までしか進めません。そこからは徒歩か自転車かバイク、またはタクシーでということになります。
また、規制期間に合わせて運行されていた盛岡駅や新花巻駅から小田越まで行くバスも運休とのことです。

山開き行事の中止とシャトルバスの運休は、これらを主催してきた早池峰国定公園地域協議会によるものですが、登山そのものの規制は行わないとのことです。
詳しくは下記リンク先をご覧ください(下の画像は同じものですが解像度が低いです)。

2020早池峰山車両交通規制及び早池峰山登山シャトルバスの運休について





2020.04.30 STAY HOME
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて全国に非常事態宣言が出される中、大型連休が始まりました。この連休中に早池峰山に登山しようと考えている方はいますか?

早池峰山の現地情報をお伝えするこのブログ、ほしがらす通信からのメッセージは単純です。

STAY HOME

それだけです。理由は二つあります。

一つ目は、説明の必要もありませんが、非常事態宣言により県境をまたぐ不要不急の移動はしないようにと自治体が呼びかけています。

二つ目は、現在の早池峰山の状況からです。4月30日現在、早池峰山の積雪は例年の同時期より多く、ほぼ冬山のような状態です。

今冬は岩手県内陸部では記録的な少雪で、3月末には早池峰山の岩肌も見えてきていましたが、4月に入り低温が続く中で山には何度も雪が降り積もったようです。


2020年4月29日


同 山頂付近


2020年4月27日 河原坊付近

5月11日の県道冬季閉鎖解除に向けて除雪が入っているものの、その上にさらに雪が積もっています。


同 河原坊から、小田越コース五合目付近遠望

早池峰山頂まで最も近い小田越登山口に通じる県道は、5月11日まで冬季閉鎖中なので冬季ゲートから小田越登山口まで(往復15km)も徒歩になり、岳〜小田越〜早池峰山頂への往復でも標準で11時間ほどの行動時間になります。それに加えて、樹林帯での道迷い、岩場での滑落、頂上稜線での道迷いなど、積雪期特有の遭難リスクが増します。

昨年のゴールデンウィークに、早池峰山の南側の薬師岳から入山した登山者が遭難して一晩行方不明となり、翌日岩手県の防災ヘリに救助された事例がありました。遭難者は家族に「早池峰山に登る」とだけ伝え、その後下山連絡がなかったことから家族が警察に相談。幸い遭難者は「ココヘリ」という遭難救助サービスを使っていたため翌日岩手県警のヘリに捕捉され、岩手県防災航空隊のヘリに救助されました。おそらく早池峰山域でのココヘリ初事例だったと思います。

遭難のあった2019年5月5日は快晴でした。その日私は早池峰山を小田越から山頂までパトロールし、小田越に15時前に下山しました。その日出会った登山者は6人、全員が無事に下山していました。翌6日になって警察から照会があった時には私は薬師岳側から入山したとは思ってもみず、北側の門馬口から入山した可能性を考えていました。その後、ヘリが薬師岳で遭難者を救助したことが分かりました。遭難者は薬師岳に南側の馬留登山口から入山し、早池峰山には登っていなかったのです。
その時まず思ったのは、なぜ遭難者が薬師岳の南側、馬留登山口から入山したのだろうかという疑問でした。馬留から薬師岳を通り小田越を経て早池峰山に登るコースは無雪期でさえ一般的ではありません。かなり距離が長くなるからです。
夏でもほとんど誰も選択しないコースを積雪期になぜ登ったのか。遭難者はトレイルランナーで、早池峰に来る前はやはり積雪の残る岩手山を登っていたらしく、それだけの経験者だからロングコースに挑戦しようとしたのか。それなら無雪期に下見はしていたのか。いろいろ疑問が残りましたが、憶測で書く訳にもいかないのでこのブログでは記事にしませんでした。

そして今回、改めて去年のこの遭難について調べてみると、ココヘリのサイトに遭難者本人の記録が出ていました。

岩手県早池峰山で生還者!

何のことはない、早池峰山にも薬師岳にもそれまでに来たことはなく、山をなめて判断ミスを起こしただけのことでした。サハラマラソン250kmを完走するほどの人なら岳から県道を歩くことなど苦にならないでしょうに、その自信がかえって薬師側からの入山という判断ミスを招いたように思います。また、一年間で百名山を制覇しようとか思うからいろいろ端折って判断を誤るのではないでしょうか。
百名山38座目ともなれば初心者とも言えないでしょうが、何か山に対する意識がお粗末と言うかいろいろ手ぬかりがあったように見えます。残雪の東北の山に夏と同じ感覚で来たように読めますし、ココヘリ発信器は持っていてもGPSナビは持っていなかったのでしょうか?ヤマレコといった他人の山行記録も、読んで正しい判断ができないのであれば頼るべきではありませんね。馬留から雪を漕いで2時間で薬師岳山頂に着けるならずいぶん足の速い人です。この遭難の原因は慢心からくる計画不足と判断ミスだと思います。普通の人は同じ日に舗装道路をテクテク歩いて山頂を往復していました。
この方は命が助かって幸いでしたが、ココヘリ発信器があるから大丈夫と、登山を安易に考えることがあってはならないと思います。

初めて早池峰山に登るのに、積雪期に来るのはこの方だけではありません。私のような臆病者には、初めての山に積雪期に登るのになぜ無雪期に下見をしないのか(無雪期が存在しないなら別ですが)理解できないのですが、標高や距離を見て大したことない、自分の技術と体力では問題無いと判断して来るのでしょう。そのような登山で何も起きなかったのは偶然で、何か起きるのはその判断も含めて必然だと私には思えます。

さて、今年はさらにもう一つ懸念される要素があります。

先日、長野県の八ヶ岳で、遭難し救助された登山者が新型コロナウイルスに感染している可能性があり、長野県警の遭難救助隊員など10人前後が自宅待機を余儀なくされたという事案がありました。

遭難男性新型コロナ疑い 県警救助隊員ら一時自宅待機

自分の車で来て単独で登山し、冬並みの積雪でも絶対に遭難しない自信があるとしても、自分が新型コロナウイルスに感染していないとは誰も言い切れません(これは未だに感染者の出ていない岩手県民でも同じです)。
救助隊に完全防護をお願いしますか?

コロナの感染拡大、そして例年にない積雪。それらが消えてから早池峰山に来てください。
今は STAY HOME をお願いします。

世界中に深刻な被害を与えている新型コロナウイルス。日本でも東京都など7都府県に緊急事態宣言が出されました。
早池峰山のふもと花巻市でも宮沢賢治記念館をはじめ多くの公共施設が休館になっています。早池峰神楽の公演もしばらく中止になりました。
ところで岩手県には日本の人口の約1%、122万人が暮らしているにも関わらず、いまだに一人の新型コロナウイルス感染者も見つかっていません。
その理由を考えてみました。

①岩手県民は無口なので具合が悪くても言わない。
②岩手県民は我慢強いので具合が悪くても我慢している。
③岩手県民は雨ニモマケズ風ニモマケズ夏ノアツサニモコロナニモマケヌ丈夫な身体を持っているので感染しない。
④コロナに感染していると分かると村八分になるので黙っている。
⑤岩手県民だけが新型コロナウイルスの抗体を持っている。
⑥検査して陽性だった人を片っ端から埋めている。
⑦県境で感染者を検知しては追い返している。
⑧人口密度が低すぎて感染しようにも隣の人に届かない。
⑨座敷わらし、河童、オシラサマなどが結界を張ってコロナを入れないように守っている。
⑩実は検査をしていない。

いかがでしたか?これで笑えた人は免疫力が上がりましたね。
⑨だったらいいのですが、日本のドリームランド岩手県といえどこの波は避けられないものと思っています。いつかこんなこともあったと言える日まで、頑張ってこの危機を乗り越えましょう。

※⑩について、岩手県のために書いておくと、4月7日までに岩手県では104件のPCR検査が行われ結果は全て陰性となっています。ただ、「帰国者・接触者相談センター」で受け付けた相談件数2399件に対して検査が行われた件数が104件だけなんですよね…
岩手県 新型コロナウイルス関連情報


広大な山並みの麓に人家が点在する北上山地。
2019年度シカ柵事業まとめ

だいぶ久しぶりの更新になってしまいました。
早池峰山のシカについて、2019シーズンのまとめをしようと思っていたのですが、一度にいろいろ書こうとして結局書けず何ヶ月も経ってしまいました。とりあえず私が見た範囲のこと、岩手県自然保護課(県)と東北森林管理局(国)が早池峰山の南側と薬師岳で行った防鹿柵設置だけに絞って記事にします。
(県も森林管理局も、早池峰山のシカ対策としては今のところ防鹿柵設置と捕獲という二本立てになっていて、またそのための生態調査も行われています。)
防鹿柵の設置は2018年から始まり、今年度が2年目でした。ここではそれだけを簡単に振り返ります。

2019年に先立って、2018年のおさらいをすると2018年は
・岩手県自然保護課→試験的に樹林帯に3箇所で合計100mの植生保護柵を設置。そのうち2箇所は冬になる前にネットだけ下ろす。1箇所は張りっぱなしに。
・東北森林管理局→4箇所に合計200mの植生保護柵を設置。冬季は支柱とネットを撤去。

(2018年の様子は、ほしがらす通信>カテゴリ>シカ で過去記事に見ることができます。)

2019年はこれら前年に設置したネットを拡張したり、新たに追加した、ということになります。

2018年は岩手県、森林管理局とも設置時期がかなり遅く、その効果は限定的なものでした。
そこで2019年は雪解けと同時に柵が設置されることを望んでいましたが、何かわからない様々な事情があったらしく、結局シカの侵入と植物の成長が進んでからとなりました。
ここでは早池峰山南面の柵に限って見てみたいと思います。

6月26日 東北森林管理局岩手南部森林管理署遠野支署、頭垢離に柵を拡張設置。50m→150m
(遠野支署はもう一箇所50m、2018年に設置した柵を2019年も再設置しています)

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2019年8月12日撮影

河原の坊コースで最も標高が低い高山植物群落を大きく囲うことができました。ただしもう少し早く設置できればよかったです。ここは早池峰山で最も早く花が開く群落なのです。また、期間中に一部ネットに緩みや隙間が見られました。

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6月9日には下ろしたままのネットの内側にシカが来ていました。

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8月12日 ネットにやや緩みや隙間ができていました。設置後も時々メンテナンスが必要ということですね。


7月11日 東北森林管理局三陸北部森林管理署、小田越コース東側草原に150mの柵を設置。

この草原は2018年秋に岩手県立博物館の植物専門学芸員によって発見されました。その時すでにシカの糞や足跡、食痕など痕跡が濃く、植物の矮化も見られました。高山帯にありながら登山道からは見えないためシカの生息密度が高いことが推測され、ここを囲うことは今年度の核心事業のはずでした。が、柵の量が足りなかったのか草原全体を閉じて囲われなかったため、柵設置後もシカが高密度で侵入するという残念な結果になりました。

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柵設置後の7月14日にも多くのシカが来ていた。写真提供:岩手県立博物館・鈴木まほろ氏

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同上 7月14日でもまだ袋角なんですね。

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柵の脇に隙間が。2019年8月14日

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というか、途中までしかないんですよね。 2019年8月14日

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糞も普通に落ちていました。 2019年8月14日

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繰り返し食べられて小さくなったナンブトウウチソウ(早池峰山固有種)。2019年8月14日

7月21日 岩手県自然保護課、河原坊コースに昨年設置した柵のネットを張る。

シーズンの当初(5月〜)、県は前年度に設置した三箇所計100mのうちの二箇所は柵を撤去して別の場所に移動することにしていたため、支柱だけが立った状態でしばらくネットを張りませんでした。しかしその後方針が変わり前年度の柵を再び使うことになり、7月21日になりネットを張りました。その時にはシカの食害はかなり進んでいました。また、張り方が緩く、張った後もシカがネット越しに植物を食べているところが自動撮影カメラに写っていました。
この県の柵の一箇所のすぐ隣には森林管理局が設置した柵があり、そちらは6月にネットを張ったため、後日、柵の中の被食度合いの違いがよく分かりましたね。

7月22日 岩手県自然保護課 小田越コース樹林帯・二合目東側・薬師岳登山道に新たに柵を設置。合計300m。

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小田越樹林帯での柵設置作業。主にオサバグサの群落を保護します。
作業は岩手県職員、グリーンボランティア、自然公園保護管理員などで行ないました。

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完成したところ。

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続いて二合目へ。

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柵を設置しました。ここにはナンブトウウチソウなどが生育しています。

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薬師岳樹林帯の柵。ここもオサバグサが主対象です。

2019年、岩手県自然保護課が初めて予算をとって防鹿柵を設置したことは評価できます (2018年の岩手県による防鹿柵設置はお茶の伊藤園の寄付で柵を購入したものでした)。しかしやはり設置時期が遅すぎました。シカは5月2日には早池峰山の小田越樹林帯で目撃され、二合目東側地点の雪は6月2日には完全になくなっていました。7月22日までにのべ何頭のシカがここに侵入したでしょう。

ちなみに、岩手県が2018年に設置しそのまま撤去せずに冬を越した一箇所の柵。2019年もそのまま設置を続けました。
ここではオミナエシ科のマルバキンレイカがシカの食害を受け2016年にはすっかり咲かなくなっていたのですが、2018年から柵を設置し続けたところ、2019年には一株が開花し、種を実らせました。柵の効果があったのです。いっぽう柵の外では引き続きシカの食害が続いています。

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6月11日には仔鹿が写っていました。

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8月12日には4年ぶりにマルバキンレイカ一株が開花。

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8月26日にもシカが来ていましたが、マルバキンレイカには届きません。

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そして結実。よかった。しかしまだ花の咲かない株もあるのです。2019年8月30日


防鹿柵は、積雪期の損傷を避けるため、ネットを下ろすか、支柱も外す形で撤去されました。
10月23日 三陸北部森林管理署 防鹿柵撤去
10月23日 自然保護課 防鹿柵撤去(一箇所を除く)
10月31日 岩手南部森林管理署 防鹿柵撤去

今年はぜひ雪解けと同時に再設置をして欲しいものです。

さて、県と国の事業にあれこれとケチをつけてきましたが、それはこれらの事業が税金で行われているからです。せっかく岩手県、日本、そして世界の宝である早池峰山のシカ対策を県民・国民の税金でやるからには効果的に行われなければなりません。

記事のはじめにも書きましたが、早池峰山のシカ対策事業はこの柵だけではありません。調査や捕獲も行なわれています。
広く一般に周知されているとは言えませんが、事業の概要は、岩手県のウェブサイトで見ることができます。早池峰地域保全対策事業推進協議会の会議資料として公開されているものです。興味のある方はご覧ください。

早池峰地域保全対策事業推進協議会H30会議資料
(シカ対策については25ページから50ページまで)

早池峰地域保全対策推進協議会・平成23年以降の会議録と結果

この協議会は毎年1回開かれていて、今年度の協議会は3月10日(火)。今年度に行われた早池峰山での保全対策がシカに限らず報告されます。話し合うのは委員ですが、傍聴は可能です。直前になってしまいましたが、興味のある方は聞きに行ってみてはいかがでしょうか。
早池峰地域保全対策事業推進協議会

協議会では2020年の保全対策事業についても話し合われることと思います。
シカについて言えば、昨シーズンは侵入頭数が大幅に増加している感じはなかったのですが、前年にある種の植物を食べ尽くしたら今年はまた別の…というように段々に麓で見られる植物の種数が減ってきています。
このあたりのことは、データとともに報告されることと思います。

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2019年の小田越樹林帯でのトレンドはカニコウモリでした。今年は姿を消すでしょう。

そして8月〜9月に発生したハヤチネウスユキソウとナンブトウウチソウの大量喪失事件。
原因は分かっていませんが今年どうなるのか、出来るだけ対策は講じておかなければならないと思います。
つまり、
①シカを防ぐような柵で囲う
②ネズミも防げる柵で囲う
③何もしない
の三通りの場所を設けてそれぞれにセンサーカメラで監視。
といった具合に。

協議会でそういう話すんのかなー?