大村知事へのリコール運動で署名を偽造したとして、19日、リコール団体の事務局長・田中孝博容疑者ら4人が逮捕されました。田中容疑者はなぜ運動に参加し、署名偽造を巡って逮捕されたのか。密着取材で見えてきたのは、政治家を目指すあまり、焦りと不安を抱えていた男の姿でした。
逮捕前の田中孝博容疑者(59)。ゴールデンウイーク中の5月1日、愛知県内の公園に停めた車にいました。
田中容疑者(5月1日):
「(Q.なぜ車の中に?)落ちつくじゃないですか。電話もできるし、事務所ですよ、これ。田中事務所ですよ、この車が。6着だ、スーツが6着。あとは下着とか私服の着替えですね。黒靴が一足」
田中容疑者(4月30日):
「リコールが終わってから被疑者になったんだよな、被疑者報道に。それが人生変わったかどうかは分からないけど。一番伝えたかった、一番達成したかったのは、とにかくリコールは成立させたかった」
メディアの取材攻勢を受け、自宅には帰らずホテルなどを転々としていた田中容疑者。逮捕直前の容疑者の姿です。
去年6月28日、名古屋・大須。
田中容疑者(去年6月28日):
「ただ今こちらの方からですね、はがきの方を配らさせていただきますので、ソーシャルディスタンスをきちっととっていただいて、お願い致します」
高須院長をトップに河村市長も支援する形で始まった大村知事へのリコール運動。
田中容疑者にとって高須院長は「将軍」、河村市長は「大将」。2人の黒子に徹し、事務局長としてリコールを成立させるはずでした。
しかし19日、署名を偽造した疑いで逮捕。そして妻と次男、家族までも…。
偽造を主導したとみられる田中容疑者。一体、何が彼をリコールに駆り立て、事件へと発展したのでしょうか。
少年時代はスポーツ万能、野球部では4番でエース、そして生徒会長も…。絵に描いたような好青年だったといいます。
大学を卒業後、名古屋のコーヒーショップで店長として働いていた時、人生の転機が訪れます。
田中容疑者:
「『おい店長、俺の秘書やれ』と言われて。パッと名刺渡されて『ちょっと一回時間作れ』と。見てみたら『名古屋市議会議員』って書いてあったわけですよ」
市議会議員からスカウトされて政治の世界に。それがすべての始まりでした。
1995年に愛知県議会議員に初当選。2期務めますが、その後は落選。
タレント業にも挑戦し、脇役としてドラマやバラエティへの出演も…。
「もう一度バッジをつけたい」その間、諦めていなかったのが「政治家」でした。そして、大村知事・河村市長の2人と出会いました。
2011年に大村知事の地域政党「日本一愛知の会」、19年には河村市長の地域政党「減税日本」から県議選に出馬します。続けて落選しますが、去年7月には「日本維新の会」から愛知5区の支部長として公認を受け、国政にもチャレンジすることになりました。
そんな中、あったのが『あいちトリエンナーレ』です。
昭和天皇の肖像を燃やす映像作品などの展示に、河村市長らが反発。リコール運動へと発展することになります。
田中容疑者(今年3月):
「河村市長の方から僕にお電話がありまして『高須さん、リコールやらんかな?』と。リコール活動を一番最初に『やる』とご提案されたのは市長であります。高須会長はやっぱり私人ですよ。ドクターじゃないですか、全く政治活動なんて無知ですよ。ですが、展示が良かったか悪かったかということはSNSでやってみえましたけど、自分が先頭に立って『リコールやるんだぞ』ということは語ってみえませんでしたからね。『応援はするよ』とは言ってましたけど」
河村市長と高須院長の間を取り持ち、田中容疑者はリコール団体の事務局長に…。再び政治家になるのを夢見て、その足掛かりとしてリコールを成立させたかったのでしょうか。
リコール活動を進め署名を集めたものの、8割以上が無効。そして署名偽造の疑惑が浮上したのです。
高須院長(今年2月):
「事務局長を信じないで組織は動きません。事務局長を僕は信じます」
疑惑の目は田中容疑者に…。
田中容疑者(今年2月):
「具体的に指示したか、知りません。佐賀の業者がどこか、知りません。発注書を出しているか出していないか、出していません。契約もしていません」
田中容疑者(今年4月):
「ここは今、田中孝博の個人事務所です。以前は政党(日本維新の会)の支部として使っていましたけど退任しましたので、5月末ぐらいまでは(個人の)事務所として使っております」
リコールの一連の騒動を受け、支部長を辞任。国会議員の夢は潰えました。
Q.リコール活動を後悔したことはありますか?
田中容疑者(今年4月):
「すごく…何かそこからきますか…。あのね、後悔はしてないですよ。後悔してしまったら、今の結果含めてリコールの署名やって頂いた方に失礼じゃないですか。家族が一番反対したね。『大丈夫なのか、選挙』って」
Q.この後どこへ?
田中容疑者:
「ホテルですね、宿泊ですよ。現状、いつどういう形で(警察から)お声がかかるか分からないので。実家が田舎なので、あまり(近所の)皆さんにそういうところはお見せしてよくないだろうということで、外にいますね」
逮捕直前はホテルなどを転々としていました。
田中容疑者:
「(報道番組を見ながら)発注は認めていないですよね、違うでしょ…。太りましたよ。ご飯食べていないのに、ストレスを多分感じているんでしょうね。睡眠剤飲んでいますから、一応寝れています」
取材には一貫して署名偽造への関与を否定。事件について多くを語ろうとはしませんでしたが、こう本音を漏らしたことがあります。
田中容疑者:
「高須会長の顔に恥をかかせるわけにはいかなかった。焦りより不安かな、初めてやることなので。本当に(署名が)87万も集まるのかなと。やっぱり87万は相当な数ですよ。そこには不安はありましたよね」
「不安があった…」政治家への夢を追う中、低調に進んだリコール活動。なんとか形にしようと動いた結果が署名偽造だったのでしょうか。