新型コロナ第5波検証 都内の全保健所にアンケート[2021/11/17 14:44]
自宅療養者の死亡が相次いだ新型コロナ第5波の検証として、ANNでは都内すべての保健所にアンケートを行いました。その結果、自宅療養者への対応について、7割以上の保健所が、おおむね十分だったと評価しました。
アンケートは、北区と中野区を除く24カ所から回答を得ました。
西多摩保健所、南多摩保健所、多摩立川保健所、多摩府中保健所、多摩小平保健所、島しょ保健所は、管轄している東京都として、まとめて回答がありました。
【保健所の体制について】
(問)「第5波」における保健所の体制について、どのように評価されていますか。選択肢を一つだけチェックして下さい。
1、十分な体制だったと思う 2カ所
2、ほぼ十分な体制だったと思う 12カ所
3、不十分な体制だったと思う 9カ所
十分な体制だったと答えたのは江戸川区と墨田区でした。江戸川区は理由について「医師会の協力により、濃厚接触者の検査案内が簡略化できたり、都の制度利用と医師会の協力により電話診療・往診が利用しやすくなり増える自宅療養者に対応できた」などとしています。また、墨田区は、患者が新型コロナと診断された当日に患者の状態確認を開始するとともに、パルスオキシメーターの配達、疫学調査も同時できていたと回答しました。
一方、不十分と答えたのは足立区、中央区、板橋区、千代田区、杉並区、渋谷区、目黒区、大田区、八王子市です。
理由については「想定を遥かに超える患者数に対応できる体制(ソフト面・ハード面共に)ではなかった(板橋区)」など、想定以上の感染の急拡大に対し、保健所の対応が追い付かなかったという回答が目立ちました。
足立区は「7月以降、患者が急増した際に、東京都自宅療養フォローアップセンターの健康観察を行う対象が65歳未満から30歳未満と変更になり、区の健康観察を行う対象が激増した」ことも理由に挙げ、体制は「やや不十分だった」と回答しています。
多摩地区と島しょ部の保健所を管轄する東京都は、3択の設問では「いずれにも該当しない」と回答し「感染者数の急増により、業務が繁忙となる状況が生じたことから、引き続き、次の波へ備え、さらなる体制強化に取り組んでいく」としました。
保健所の体制については、すべての保健所が人員を増やして体制を強化したと回答しました。
このうち足立区、葛飾区、江戸川区、港区、板橋区、杉並区、渋谷区、世田谷区の8カ所は、人材派遣や他部署からの応援職員などで50人以上の増員をしたと回答しています。
アンケートでは「深夜まで業務がずれこむこともあり、複数の職員が夜中12時を過ぎての勤務が続いた(品川区)」など、保健所の人員が業務に対し不足したとする回答が目立ちました。
昨年2月の流行開始以降、激務により休職や退職した職員が何人いるかという質問には、非公表とする保健所もありましたが、少なくとも都内で8人以上が休職し、1人が退職していた事が分かりました。
新たな患者が発生した際に、疫学調査がすぐに出来ていたかについて、新宿区は「届出時にすでに入院しており状態が悪く会話が困難な事例等」を除いて当日中に開始できていたなどとしましたが、「感染拡大時、発生届の到着日当日に対象者、全員への疫学調査は困難となりました(町田市)」「感染爆発期においては、対応人数や対応時間を拡大して対応をしても、一日の届け出件数がそれ以上となり、当日に開始できないケースがあった(江東区)」など、すぐに調査を始めることが困難であったという回答が多くありました。
今後、再び感染が拡大したときに備え、検討している対策や改善した点を尋ねた質問には、医療機関や医師会との連携の強化をあげる回答が多くあったほか、「自宅療養者支援ステーションを設立した。受診相談センター従事相談員数及び受付電話 台数の増強を検討(杉並区)」「患者急増時に対応出来るよう、業務を経験した事のある職員の流動体制の構築(文京区)」など、独自の取り組みを進めるという回答もありました。
【自宅療養者への対応について】
都内では8月以降、自宅療養中の死亡者は57人に上ります。それぞれの管内の死亡者数について、非公表とする保健所が多い一方で、墨田区、台東区、文京区、千代田区、渋谷区、品川区、八王子市の7カ所は死亡者がゼロだったと回答しました。
(問)「第5波」における自宅療養者への対応についてどのように評価されていますか。選択肢を一つだけチェックして下さい。
1、十分にフォローすることができたと思う 3カ所
2、おおむねフォローすることができたと思う 14カ所
3、十分にフォローできなかったと思う 6カ所
自宅療養者に対し、江戸川区、墨田区、荒川区が「十分にフォローすることが出来た」とし、「おおむねフォロー出来た」と合わせると7割以上となりました。
「診断の当日、新規陽性者にファーストタッチし、状態確認を開始するとともに、疫パルスオキシメーターの配布、疫学調査も同時に出来ている。(墨田区)」
「緊急対策として、看護師の専門チームによる自宅療養者の健康観察や、食料品・日用品の配送、医師のオンライン診療や、薬の配達等、きめ細やかな対応を行った(荒川区)」「『対応できずに放置』といった案件はなかった。一方で、毎日の連絡は出来なかった為(千代田区)」などと回答しています。
一方で、台東区、板橋区、杉並区、渋谷区、目黒区、大田区は「十分にフォローできなかった」と回答しました。
「十分にフォロー出来なかった」とした台東区と渋谷区は自宅療養中の死亡はゼロでしたが、「自宅療養者の毎日の健康観察が十分に実施出来なかった(台東区)」「応答しない患者が多数発生し、健康観察が滞った状況があった(渋谷区)」としています。
病床の逼迫(ひっぱく)などを理由に、国や都が主に軽症患者について自宅療養させる政策を進めたことに対しての考えを聞いた質問では「必要な方が入院出来るようにするための対応であったと考えています(豊島区)」「病状や重症化リスクに応じて入院、宿泊療養および自宅療養を選択し調整を行っており、国や都への意見はありません(練馬区)」など、当時の状況を考えると必要な措置であったとする回答が複数ありました。
また、軽症患者は自宅療養をしてもらう以外の方法がなかったとし、「『自宅療養させる政策を進めた』という表現は不適切であると考える(千代田区)」という回答もありました。
一方で、「急変患者のリスク判断は、電話越しの対応にならざるを得ない保健所では限界がある(港区)」「自宅療養者については、急激に体調悪化する危険性もあり、また、その際に医療支援が十分に受けられない可能性がある(荒川区)」など、自宅での療養では容体の急変に対応できないという回答や、自宅療養者を保健所が担当して観察すること自体が困難であるという意見が多く上がりました。
八王子市は、「自宅療養者は24時間医療従事者が病状を観察することは不可能である」としたうえで、酸素ステーションなどの療養施設をより迅速に大規模に開設すべきだったとしています。また中央区は「感染症対策の基本である感染源の隔離を行うべきである」と回答しました。
東京都は3択の設問には「いずれにも該当しない」と回答し、自宅療養者自体については「症状、重症化リスク、個々の患者の状況等をふまえ、療養先の決定をしている」と回答しました。
【新型コロナ患者の管理システム「HER-SYS」について】
(問)「HER-SYS」を利用して、どのように評価されていますか。選択肢を一つだけチェックして下さい。
1、システムに改善すべき点はなく問題はなかったと思う 1カ所
2、改善すべき点はあると感じたが、おおむね問題はなかったと思う 13カ所
3、改善すべき点があり、起因する問題も発生した(しそうだと感じた) 10カ所
厚労省は保健所の業務負担軽減や医療機関などとの情報連携のため、新型コロナ患者を管理するシステム「HER-SYS」を開発し、去年5月から運用しています。
しかし、今年8月に東京・杉並区で自宅療養中に保健所と連絡が取れず死亡した男性のケースでは、区は「HER-SYS」の事務処理方法が自治体間で統一されていなかったことなども原因の一つだったとしています。
アンケートでは、システムに改善すべき点はなく問題なかったと答えたのは品川区のみで、そのほかのすべての保健所が改善が必要と指摘し、このうち4割で実際に「問題が発生したり、発生しそうだと感じた」と回答しました。
理由については「都のシステムとの連携がされていないため、入力作業等を重複して行わなければならなかった(渋谷区)」「ハーシスのIDが発生順等でないため、患者の検索が難しい(葛飾区)」など、システム自体の不便さを指摘する意見に加え、「HER-SYS は本来患者数を迅速に把握するために作成されたシステムのため、入院後の状態変化や自宅療養者の毎日の体調について対応できるシステムとなっていない(大田区)」「変更先の保健所に通知をしない設定も選ぶ事が可能な仕様となっており、患者の抜け漏れのリスクがある(足立区)」など、患者を管理する中でのシステム上の危険も指摘もありました。
また保健所ではもともと、陽性と診断された患者の情報を、医療機関から送られてくるFAXに頼っていて、品川区は「FAXによる届出をHER-SYSへ入力する必要が無くなり、業務効率化に繋がった」と回答しています。
しかし、「発生届をHER-SYSを使用せず、提出する医療機関がいまだ多い(目黒区)」という指摘もあり、「発生届のHER-SYSでのご提出について、引き続き医療機関にお願いしていきます(世田谷区)」などとする保健所もありました。