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非逐語訳「何がおめでたくて」の元のフランス語 : アンケートの纏めと舞台裏明かし

当ブログの記事〈非逐語訳「何がおめでたくて」の元のフランス語〉でお願いしたアンケートの纏めをします。

コメントでご回答くださった「106」さん、星三郎さん、ミカエル・ブルムさん、在地人さん、馬場伸一さん、脱線男さん、洛北孫子亭さん、神谷俊成さん、K.Forest.Islandさん、「群馬の小馬」さん、露堂々さん、
メールなどでご意見をお知らせくださった皆様、
誠にありがとうございます。

アンケートの質問

アンケートの質問は、こうでした。

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質問 一

フランス語がある程度以上できる方にお訊きします。「何がおめでたくて」の元のフランス語の見当が付くでしょうか。

難問です。答えが合っていなくても、当然です。全然気にしないでください。自由奔放な憶測や幻想を聞かせていただければ幸甚です。
《難問すぎて、無理かなあ・・・》


質問 二

フランス語を全くご存じない方にも答えられるはずの質問です。

日本語で
何がおめでたくて、万歳三唱するの?
という言い方は、普通は誰もしませんよね。

敢えてこの言い方を択んだF爺の魂胆は、どんなことでしょうか。

《これも、もしかしたら難問過ぎるかなあ。難無く言い当てる人もいそうな気がするけど》

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皆様のご回答

皆様から届き始めたご回答を読んで、記事の説明と質問に不備のあったことが判明しました。大慌てで、補足説明のための記事〈「万歳」と「banzai」は違う〉を掲載しました。

最初から「難問であることが明らか」でしたから、今回は、個々のコメントの引用はしないことにします。

記事には書かなかった舞台裏

 子供たちの知識


子供たちは、
「自宅で大人たちに聞かされたこと」と
「自分たち同士の議論の暫定結論と疑問」
をF爺にぶつけたのです。

大人たちは、主に米国発の戦争映画を観ていたため、
【負け戦(いくさ)の日本の軍人が「自殺突撃」の際に発する異様な叫び】
という認識だったようです。

インターネットなどで、メディアが日本の「下院」(= 衆議院)の解散を報じた時に、失職して「ただの人」になったばかりの議員が揃って「banzaï」をするのを見て奇異に思い、例の不特定多数匿名サイト『ウィキペディア』などを参照したようです。フランス語版には、1953年の衆院解散の時の万歳三唱の写真が載っていたそうです(*)

(*) たった今、F爺も確認しました。「万歳」のフランス語の「説明」を確認するためにウィキペディアを参照する破目になるとは、予測していませんでした(苦笑)。

画像には、日本語で「総選挙! バンザイ突撃」と書いてあります。その画像の出典は、不明です。 

そのため、F爺と会った時の子供たちは、同年代の普通のフランスの子供よりもずっと多くの情報を得ていたのです。

 F爺の説明

F爺は、フランス式に、歴史的な背景から説明を始めました。

#「万歳」の字義通りの意味は「10000年」または「10000歳」。
#「長寿を祝う」→「国家の永続を願う」と意味がずれる。
#「祝福」を意味する感歎詞になって今に到る。祝福の対象は、個人でも団体でも国家でもあり得る。
# 第二次世界大戦中は、自殺突撃を強制された特攻隊の兵士が最期の時に叫べと命令されていたが、小型の軍機に乗っていたのは一人ずつだったから、本当に叫んだかどうか証言できる人はいない。
# 戦争の末期に「玉砕」する軍人が集団で叫んだのを聞いたと言う米国の軍人が多数いる。
# 主に米国で制作した戦争映画で、「自殺突撃の呪文」という位置付けで世界に広まった。
# 戦後の日本国内では、大きな祝賀の機会などに万歳三唱をすることがある。「自殺突撃」という含蓄は、全く無い。
# 現代では、溢れる歓喜の表現として個人が一人で行なうこともある。「万々歳」という言い方もある。

 子供たちの質問

「頭がこんがらがっちゃった。もう一回、初めから言って」

複雑な話でしたから、当然です。F爺先生は、噛んで含めるように、初めから繰り返してやりました。

「とすると、今の日本では、banzaïは、皇帝崇拝(*)とも自殺突撃とも無関係なの!?」

(*) 日本語以外の言語では、「天皇」と「皇帝」を区別しません。

「そうだよ。封建時代や戦争の時代があったことは、誰も忘れてはいないけど、過ぎ去った昔々のことだとみんな思ってる」
「お爺ちゃんは、嬉しくてbanzaïすることある?」
「今までは一度も無かったけど、コロナ禍が明日にでも奇跡的に世界中で収束するなんていうことがあったら、全人類にとってめでたいことだから『ばんざあい』って叫ぶかもしれないよ。うふふ」

「日本の下院の議員たちは、解散のせいで自分たちが失業したことを知らないはずは無いよね」
「無収入に転落したことは、みんな知ってるよ。議員は、落選しても失業手当なんか貰えないから、『失業』とは言わない」
「何て言うの?」
「失職」
「それで、失職したあの人たち、何がめでたくてbanzaïしたの?」
「さあ、それは、F爺にも分らない。日本でも、庶民は、みーんな、『あの万歳三唱は、滑稽だ』って笑ってるよ」

「何がおめでたくて」の元のフランス語

仲の良い子供が三人もいて、それぞれの親の言葉の引用と自分の元からの語彙が入り交じった状態で賑やかな会話になりました。

当ブログの〈コロナ禍の10月12日 : F爺は衆院選挙で棄権します〉と題した記事で紹介した非逐語訳の日本語文は、この時に飛び交ったフランス語文を短く纏めたものです。

元のフランス語文は、多岐に亘ります。一部だけを・・・翻訳しやすいものだけを・・・紹介します。

La guerre perdue est bien loin. Qu’est-ce qui leur prend de crier banzaï quand ils ont tout perdu en temps de paix ?
Ils ont fait banzaï pour fêter quoi ?
Mais, ils sont fous !
Ils sont c..... (*) Oh, pardon !
Ils sont ridicules.
Mon papa disait qu’ils assimilent peut-être les élections à la guerre ... perdue !

(*) 卑語に伏せ字をしました。

日本語訳を試みると、大体こうなります。

「敗戦は大昔のことなのに、平和時に失職して『万歳』って言うの、おかしくない?」
「何がめでたくて万歳するの?」
「あの議員たちって、頭がおかしいんだよね」
「□□並みのおめでたさだね。あっ、ごめんなさい。この言葉、使っちゃいけないんだった」
「滑稽って言うか、哀れって言うか・・・」
「お父さんが言ってたけど、選挙を戦争みたいなものだと見做してるんじゃないの? つまり負け戦(いくさ)だと」

F爺の「纏め」の含蓄

F爺は、子供たちの感想を、舌を巻いて聴いていました。元々とても利発な子揃いなのですが、大人の会話を的確に理解していたのです。

そして当ブログの記事に書いた「纏め」には、F爺自身の疑問と感想と皮肉も籠めてあります。

《衆院解散で議員が万歳三唱? なんで?》
《敗戦だと覚悟した時の意味で万歳三唱したのだとすると、選挙に打って出ることを自殺突撃だと思ってることになるぞ》
《特攻隊や玉砕以外の万歳は、めでたい時にするもの。衆院解散は、議員にとっては全然めでたくない。それなのに万歳とは・・・ほとほと「おめでたい」って思っちゃう・・・》
《こいつらより少しはマシな政治家、出て来ないかなあ》
・・・・・・。

正解が殆どだった

難問のはずだったのに・・・皆様から届いたご回答には、
「どんぴしゃりのもの」もあり、
「同義語・類義語だから正解のうち」というのも多く、
「当たらずと雖も遠からず」
のものもありました。

完全に的外れというのは・・・ゴキブリ認定して削除したコメント(*)以外には・・・見当たりません。

(*) 読んでいないから「確認」はしていないのですが、その必要はありません。ゴキブリの寝言や戯言(たわごと)は、定義からして、本質的に的外れなのです。

これは、恐らく、F爺が、いくら長年日本を離れていても、日本人の大多数と同じ「日本人感覚」を保持していて、その立場と心情でフランスの子供たちと話し合ったからだろうと思います。

コメント

解答と解説ありがとうございました

詳細な解説ありがとうございました。
「めでたい」と「おめでたい」をかけていたのですね!
絶妙な和訳に脱帽いたしました。
(そして、書いていいかどうかずいぶん迷って書きませんでしたが、やはりc…も出てきたのですね。)
子供たちが日本の議員の謎のバンザイにつき、いろいろ考えていたこと、感心いたしました。

Re: 解答と解説ありがとうございました

「群馬の小馬」さん

>子供たちが日本の議員の謎のバンザイにつき、いろいろ考えていたこと、感心いたしました。

子供は、得た知識の範囲内でいろいろ考えるのですよね。どんな若者に、大人に、成長するのか、楽しみです。

>(そして、書いていいかどうかずいぶん迷って書きませんでしたが、やはりc…も出てきたのですね。)

当然です(笑)。

本当に「ついうっかり」だったのか、
《このお爺ちゃんがどこまで大目に見てくれるか試してみよう》
という気持ちがあったのか、そこは微妙です・・・。

期待通り

F爺様

解説記事、ありがとうございます。
期待通り楽しく拝読いたしました。

万歳とbanzaiの違いを考えると、日本で行われる「万歳」に対する子供達の疑問は当然だと思います。
子供達へのF爺様の説明も、それに対する子供達の返答もどれもとても納得できるものでした。
日本に住んでいて、解散時の万歳について今まで深く考えたことはなく、フランスの子供達とF爺様の記事を通じて、その奇異さに気づくことができました。
他にも、普段何気なく行っていることに、よく考えればおかしいものがあるかもしれません。
フランスの子供達が、疑問を感じ、考えたり調べたりすることに感心し、私も常に考えられる人間になろうと思います。
とても勉強になりました。

Re: 期待通り

「knrYAMA」さん

>フランスの子供達が、疑問を感じ、考えたり調べたりすることに感心し、私も常に考えられる人間になろうと思います。

買い被りが一つ交じってしまっています。子供たちは、自分で「調べた」とは言いませんでした。
「お父さんが・・・」
「お母さんが・・・」
インターネットなどで調べたことの一部を教えてもらったのです。自力で多数の情報を集めて比較し判断するのは、もう少し大きくなってからでしょう。

「日本のことだから、日本人のお爺ちゃんに訊いてみようよ」
と相談して実行したのは、素晴らしいことだと思います。

No title

F爺様

買い被りのご指摘、ありがとうございます。
記事を読み返してみても、「調べて」は言い過ぎでした。
そのことを除いたとしても、F爺様も仰る通り、子供達の行動が素晴らしいことに変わりはありませんね。

No title

「何がおめでたくて」という訳語に込めた含蓄がよく理解できました。自分にとって全然めでたくないことで万歳三唱するさまは、まさに「おめでたい」の一言です。

元のフランス語は多岐に渡るとのことなので、一つ二つ当たっても不思議ではなかったと思いますが、それでも「何がおめでたくて」の元のフランス語として真っ先に思いついた表現が小学生の発言のひとつと一致していたというのは嬉しいことです。とても楽しいクイズでした。

三三七拍子

F爺さま

舞台裏、大変に興味深く拝読しました。
ありがとうございました。

特に《元々とても利発な子揃いなのですが》との記述、本当にその通りだと思います。凄い子供たちですね!

「非逐語訳『何がおめでたくて』の元のフランス語」のコメント欄で、

《F爺も、あれは「三三七拍子」なんかで置き換えたほうが良いと思います》

とも書いておられました。

こうして「舞台裏」を教えてもらいますと、本当に三三七拍子がベストなのではないかと思えてきます。

Re: No title

「knrYAMA」さん

>「調べて」は言い過ぎでした。
そのことを除いたとしても、F爺様も仰る通り、子供達の行動が素晴らしいことに変わりはありませんね。


素晴らしい行動です。どんな子供でも思い付いて実行することではありませんよね。

Re: No title

星三郎さん

>「何がおめでたくて」の元のフランス語として真っ先に思いついた表現が小学生の発言のひとつと一致していたというのは嬉しいことです。

将(まさ)にどんぴしゃりでした。おめでとうございます。←これは、本当に「めでたい」ことです。(笑)。

>とても楽しいクイズでした。

いままでずっと「アンケート」と呼んで来ましたが、今回のは、確かに「クイズ」でしたね。今後は、時々、明確に「クイズ」と銘打って読者の皆様に「出題」を試みるのも面白いかもしれません。

Re: 三三七拍子

脱線男さん

>本当に三三七拍子がベストなのではないかと思えてきます。

三三七拍子を実行する政党が出現すると話題になるでしょうね。すぐに実現するとは思えませんが、夢だけは今から見ておいて楽しむことにします。

No title

ありがとうございます!得意になって「おめでたい」奴と嗤われないように気を付けます(笑)。

おっしゃる通り、「アンケート」といっても、日頃の考えを脚色なくお答えするものから、かなりの推理力を要するものまで様々ですね。「クイズ」と銘打った企画、またの機会を気長にお待ちいたします。

Re: No title

星三郎さん

>「アンケート」といっても、日頃の考えを脚色なくお答えするものから、かなりの推理力を要するものまで様々ですね。「クイズ」と銘打った企画、またの機会を気長にお待ちいたします。

正解が予めF爺に分っていないと「クイズ」になりませんね。そう銘打った企画の実現する最初の機会がいつになるかは全く予測できませんので、本当に気長に待っていてください(^_^)。

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答え合わせを読んで

数日前から何らかの理由で投稿の送信が出来ませんでした。テスト送信が出来たので、改めて送信致します。
西洋諸語のbanzaiの意味、知りませんでした。走ってくるゴミ収集車を足蹴にするなどの行為をbanzai attackと呼ぶのですね。
解散時に日本の国会議員が万歳を叫ぶのを見て、「何がめでたくて万歳なんかして〇〇るんだ」と思ったり言ったりする日本国民は多いと思いますが、その「めでたくて」を先生が「おめでたくて」と表現なさる意図を問うご質問だと勘違いしました。

万歳という言葉から私が連想するのは以下の、暗い笑い話です。
台湾語(鶴佬話)では「歲」と「稅」は同音です。それ故「中華民國萬萬歲」は「中華民國萬萬稅」とも聞こえます。

「理由」を「原因」に訂正します

先ほど私が投稿した文で「理由は・・・」と書いたような気がいたしますが、「原因は・・・」に訂正いたします。

Re: 「理由」を「原因」に訂正します

在地人さん

諒承いたしました。

Re: 答え合わせを読んで

在地人さん

>西洋諸語のbanzaiの意味、知りませんでした。走ってくるゴミ収集車を足蹴にするなどの行為をbanzai attackと呼ぶのですね。

走ってくるゴミ収集車を足蹴にする」!?
いくらなんでもそんな馬鹿が実在するはずは・・・ああぁ、あの、例の、塵芥賞とかいうものを取ったという「フランスに住んでいてフランス語知らずの自称作家」がそんな妄想を書いていたそうですね。鈴木良照さんの教えて下さったリンクhttps://web.archive.org/web/20201104052558/https://www.designstoriesinc.com/jinsei/dairy-269/を貼ります。仮に事実だとしたら、愚かな自殺突撃でしかありませんから、反面教師としての役には立つでしょう。

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F爺・小島剛一

Author:F爺・小島剛一
 F国(= フランス)に住む日本人の爺さん。
 専門は、言語学(特にトルコ語、ザザ語、ラズ語など)、民族学、日本語文法、作曲・編曲、合唱指揮など。
 詳しいことは「Catégories」欄の「自己紹介」という記事に。

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