「きたる看板」貼ったもん勝ち? 選挙中「許可も取ってない」けど…
選挙期間中によく見掛ける電柱や街路樹に取り付けられた「〇月〇日 〇〇来る!」の看板。10月の衆院選でも、目にした人は少なくないだろう。大物政治家らが候補者の応援演説に訪れることを周知するものが大半で、通称「きたる看板」と呼ばれる。福岡都市圏在住者から、「最寄り駅周辺の道路標識や電柱に大量の看板が貼ってあった。問題はないのか」との投稿が、西日本新聞「あなたの特命取材班」に寄せられた。実態を調べてみると―。
衆院選が終盤を迎えた10月末。西鉄の春日原駅(福岡県春日市)と白木原駅(同県大野城市)近くの電柱などに、「岸田総理来る」「自民党政調会長 高市早苗来る」「オリパラ組織委員会会長 橋本聖子来る」と、自民党関係者らの看板が貼られていた。
同選挙に福岡5区から立候補した自民前職(当時)の原田義昭氏の支持拡大に向け、街頭演説を示唆する内容。報道各社の情勢調査などで野党候補との接戦が伝えられており、陣営の活動も熱を帯びていた。
原田氏の後援会事務所は取材に対し「3人合わせて230枚ほど貼った」と設置を認める一方、「来援後はすぐに撤去した」と説明。電灯や電柱の所有者である自治体や九州電力、NTT西日本などの許可を得たのか聞くと「いつもしていることなので許可は取っていない」。自民党県連は「私たちは知らない」と関与を否定した。
こうした看板は福岡5区に限らず、各地で見られたが、違法性はないのか。福岡県選挙管理委員会に写真を見せたところ、担当者は「選挙用の看板とは言えない」。看板に、立候補者である「原田義昭」氏の名前や「衆院選」など選挙運動と見なされる文字がないのが理由という。これらの文言が含まれると選挙用と見なされ、選挙ポスター掲示板など決められた場所以外に貼るのは、公職選挙法違反となる。
ただ原田氏の事務所が認めるように、外形は当てはまらなくても、目的は選挙用だ。5区内のある自治体選管は「候補者名が入っていなくても、『きたる看板』は元々グレーゾーン。今回も、選挙用と言われても仕方ない」と明かす。
九電によると、同社はそもそも選挙用の看板やポスターを電柱に取り付けることを認めていない。「発見したら連絡してほしい」と呼び掛けている。同じように電柱を所有するNTT西も「選挙広告を貼り付けたいと申請があっても受け付けない」と対応は同じだ。
取材班は、春日市が所有する電灯にも「きたる看板」が貼られていたことを確認。市が選管同様「選挙用と見なさない」場合でも、道路法に基づき占用許可の相談を事前に行う必要がある。市道路管理課は「事前申請はなく、道路法違反の可能性がある。既に撤去されており具体的な対処はできないが、同じことがないよう県選管を通じてお願いしたい」としている。
(竹中謙輔、竹次稔)
「選挙用ではない」という解釈は無理がある
九州大の施光恒教授(政治学)の話 有権者から見ると「きたる看板」を「選挙用ではない」と解釈するには無理があるだろう。一方で、選挙期間中の大物政治家の「きたる」情報は、関心が高いのは確かだ。私の選挙区でも自民党以外の看板を目にした。看板設置は、電柱所有者などの許可を得ていないゲリラ的な手法であり、選挙ポスター掲示板の拡充などを含めて、別のルールを検討する必要がある。