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    ■補数って?

     10、100,1000……から、ある数を引いた残りの数のことを(基数の)補数というが、今回の主役は、
    それよりも1少ない、いわゆる減基数の補数(注)である。
     10進数だと、ぶっちゃけ足して(各桁が)9になる数(の組)だ。


     具体例を出すと「9-1=8」だから、8は1の補数である。いうまでもないが、1は8の補数である。


    ■まずは「おつり算」


     日常生活で最も多い計算は「おつりを計算すること」だろう。
     これは補数を使った計算の第一歩にちょうどいい。

    速算に 10000-3452=?

    を計算することは、3452の基数の補数をもとめることだけれど、

    まず減基数の補数を求めちゃえばいい。そしてこれは次の方法で反射的にできる。
    減基数の補数は基数の補数よりも1だけ少ないということを心に留めておくと、

    次の表を覚えておく(というより反射的に出るようにしておく)だけで、
    「繰り下がり」なんかに希少で貴重なワーキング・メモリを費やさずに、反射的に計算ができる

     0 なら 9
     1 なら 8
     2 なら 7
     3 なら 6
     4 なら 5
     5 なら 4
     6 なら 3
     7 なら 2
     8 なら 1
     9 なら 0


     表の中身は、なんてことない「足して9になる数字の組」なので覚えるまでもないが、反射的に出るようにしておくのが、ポイント。


    ■実際の計算


     9999 + 1 =10000
     3452

     ↓↓↓↓(反射的に置き換え)

     6547(減基数の補数) + 1 = 6548(基数の補数)

     何桁の引き算だろうと、最も上の位から十の位までは、自動的に置き換えることで済む。
     一の桁だけ、プラス1することを忘れなければよい。
     さらに良いことは、上の桁から計算ができるので、口頭で数字が与えられた時でも、数字を読み上げられているさなかに計算が開始できるので、数字を一旦アタマの中に蓄えなくても計算できる。
     おかげで、これまたワーキング・メモリを消費しなくて済む。


     100000000000000000
      43512809838428374
     -)
      56487190161571626

     こんな桁数が多くても大丈夫である。
     最後の一の位だけ、忘れず1プラスしておくこと。
     というより「999……9」から始めたんだ、ということだけは忘れずにいること。


    ■引き算と足し算を相互に変換する


     「おつり算」を反射的にできるようになることは、補数を反射的に計算できることである。
     実は、補数は、引き算を足し算にするのに用いられる。
     オーバーフロー(桁あふれ)を無視すれば、ある数で足し算することは、その基数の補数を引き算することに等しい。
     例を示そう。

     38+99
    =38+(100-1)
    =100+38-1
    =100+37
    =137

    ステップを細かく分けているが、99なら100を足しておいて1引く、なんてことは誰でも思い付くだろう。ここで1は99の基数の補数である。

     38+86
    =38+(100-14)
    =100+38-14
    =100+24
    =124

    やってることは同じ。頭の使い方は、「38+86だと、どしたって100超えるよな。下二桁は、86→(補数に変換)→14を足しときゃいいか。100と24だ。」といった感じである。





    (注)
     基数の補数を使え、と書いてあるものがあるが、却って鬱陶しい。なぜそろばんの珠は、10から9を表すものに「進化」したのか、考えてみるといい。
     なお基数をもっとちゃんと定義しとくと、
    b 進法において、自然数 a を表現するのに必要な最小の桁数を n としたとき、

      * bn - a を「b 進法における a に対する基数の補数(b の補数)」
      * bn - a - 1 を「b 進法における a に対する減基数の補数(b - 1 の補数)」

    という。
     例えば、10進法において、自然数 61 に対する基数 10 の補数は 102 - 61 = 39、減基数の補数は、102 - 61 -1 =38。つまり「足して9になる数」に各桁を置き換えることは、減基数の補数を求めているのである。
     2進法において、自然数 100102( = 1810) に対する基数 2 の補数は 25 - 18 = 11102( = 1410) 、減基数の補数は011012と1と0を入れ替えた数になる。




    計算術のようなものは、ほとんどこの本に網羅されている。

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     「このあたりの数学を学ぶと、こんなことまでできる」シリーズが第1回目が出たまま、そのままになっている。

     実は、ブログで数式を書くのがどんどん面倒くさくなって、何かよいものはないかと探していた。

     とりあえず、記事の先頭に以下のscript一行を追加するだけで数式表示ができるようになるASCIIMathML日本語での紹介)をつかってみる。

    <script src= "http://mathcs.chapman.edu/~jipsen/math/pub/ASCIIMathML/ASCIIMathML.js" type="text/javascript"></script>


     ほんとにこれだけでいい。数式をつかう記事の先頭に入れればよし、数式を頻繁に使うブログならサイドバーに入れておけばいい。これで、コメント欄でも数式が使える。困ったことに、グラフまで描けてしまう。

    $$(ほんとは半角)で囲んだところにTeXの書式通りに書けばいいが、より数式に近く読みやすく書きやすい(1. close to standard mathematical notation -- 2. easy to read -- 3. easy to type)ASCIIMathMLの表記法もある(この場合は``(バッククォート、ほんとは半角)で囲う)。

     以下の表では「ASCIIMathMLでの表記」と「TeXでの表記」としてまとめてみた。なお、記号欄の数式を表示するのにASCIIMathMLを使っている。
     せっかく表にするので、「数式の読み方」もつけてみた。

    (「数学のいずみ」というサイトに「数式記号の読み方・表し方-LaTeXを用いた数式記号のテキスト化」という、とても充実したページがあるのだが、「高校数学における数学記号の読み方」とのことで、偏微分や行列式はない。「PCユーザの為の 数学記号検討委員会」というページはさらに詳細なものだがサーバーから消えている(リンクはInternet Archive:Wayback Machineで保存されているもの))。

     amath(ほんとは半角で)で始めた行から、endamath(ほんとは半角で)と始めた行の間では、``(バッククォート、ほんとは半角)で囲う必要は無い。

    記号 読み方 ASCIIMathML
    での表記
    TeXでの表記
    `1+2` 1たす2
    1プラス2
    1+2 1+2
    `3-2` 3ひく2
    3マイナス2
    3-2 3-2
    `3xx2`
    `3*2`
    3かける2 3xx2
    3*2
    3 \times 2
    3 \cdot 2
    `4-:2` 4わる2 4-:2 4 \divide 2
    `a=b` aイコールb a=b a=b
    `a!=b` aノットイコールb a!=b a \ne b
    `a<=b`
    `a>=b`
    a小(しょう)なりイコールb
    a大(だい)なりイコールb
    a<=b
    a>=b
    a \leqq b
    a \geqq b
    `a/b` a分のb a/b \frac{b}{a}
    `a^n` aのn乗(じょう) a^n a^n
    `root{}{a}` ルートa
    平方根a
    root{}{a} \sqrt{a}
    `root{n}{a}` n乗根(じょうこん)a root{n}{a} \sqrt{n}{a}
    `vec a` ベクトルa
    aベクトル
    vec a \vec{a}
    `vec(AB)` ベクトルAB
    ABベクトル
    vec(AB) \overrightarrow{AB}
    `( a \quad b )` 行ベクトルa,b ( a \quad b )
    `((a),(b))` 列ベクトルa,b ((a),(b)) \begin{pmatrix} a \\ b \end{pmatrix}
    `((a,b),(c,d))` 行列a,b,c,d ((a,b),(c,d)) \begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}
    `detA=|(a,b),(c,d)|` 行列式Aイコール行列式a,b,c,d detA=|(a,b),(c,d)| \det A= \begin{vmatrix} a & b \\ c & d \end{vmatrix} =ad-bc
    `{a_n}` 数列a(エー)n(エヌ) {a_n} \{ a_n \}
    `sum _{k=1} ^{n} a_n ` シグマ、a(エー)k(ケ―)、k=1(ケーイコール1)からn(エヌ)まで sum _{k=1} ^{n} a_n \sum _{k=1} ^{n} { a_n }
    `prod _{k=1} ^{n} a_n ` パイ、a(エー)k(ケ―)、k=1(ケーイコール1)からn(エヌ)まで prod _{k=1} ^{n} a_n \prod _{k=1} ^{n} { a_n }
    `lim_{n ->oo} a_n=\alpha` nが限りなく大きくなるときの数列a(エー)n(エヌ)の極限値はα(アルファ)
    リミット、n(エヌ)→(矢印)∞(無限大)、a(エー)n(エヌ)イコールα(アルファ)
    lim_{n ->oo} a_n=\alpha \lim {n \to \infty} a_n=\alpha
    `f'(x)=lim_{h -> 0} (f(x+h)-f(x))/h` f’(エフダッシュ)x(エックス)イコール、リミットh→0、h分の、f(x+h)(エフエックスプラスエイチ)-(マイナス)f(x)(エフエックス) f'(x)=lim_{h -> 0} (f(x+h)-f(x))/h f'(x)=\lim{h \to 0} frac{f(x+h)-f(x)}{h}
    `d/dx x^2=2x` d(ディー)、dx(ディエックス)x2(エックスの2乗)イコール 2x(にエックス) d/dx x^2=2x \frac{d}{dx}x^2=2x
    `(d^2y)/(dx^2)` d(ディ)2トゥー、y(ワイ) dx(ディエックス)2トゥー
    yの第2次導関数
    (d^2y)/(dx^2) \frac{d^2y}{dx^2}
    `(delT)/(dely)=0` ∂(デル/ラウンドディ)、T(ティ) ∂y(デルワイ/ラウンドディワイ)、イコール0(ゼロ) (delT)/(dely)=0 \frac{\partial T}{\partial y}=0
    `int_0^(2 pi) sin x dx = 0` インテグラル,0(ゼロ)から2π(パイ)まで,サイン、エックス、ディエックス、イコール、ゼロ int_0^(2 pi) sin x dx = 0 \int _0 ^2\pi \sin x dx = 0
    `A sub B` AはBの真部分集合である A sub B A \subset B
    `A sup B` AはBを真部分集合に持つ A sup B A \supset B
    `A sube B` A含まれるB
    AはBの部分集合である
    AはBに含まれる
    A sube B A \subseteqq B
    `A supe B` A含むB
    AはBを含む
    BはAを部分集合に持つ
    A supe B A \supseteqq B
    `A in B` aはAの要素である
    aはAに属する
    a属するA
    A in B a \in A
    `A !in B` aはAの要素でない
    aはAに属さない
    a属さないA
    A !in B a \notin A
    `{x| x<6}` x(の集合)ただしx<6
    x<6を満たす集合
    {x| x<6} \{ x \mid x<6 \}
    `A nn B` AキャップB
    A 交わり
    AとBの交わり(共通部分)
    AインターセクションB
    A nn B A \cap B
    `A uu B` AカップB
    A 結び
    AとBの結び
    AユニオンB
    A uu B A \cup B

    `bar A `
    AバーB
    Aの補集合
    bar A \bar{A}
    `O/` 空集合
    ファイ
    O/ \phi
    `P^^Q` PかつQ P^^Q P \wedge Q
    `PvvQ` PまたはQ PvvQ P \vee Q
    `not P` Pの否定
    ノットP
    Pでない
    not P \neg P
    `P=>Q` PならばQ P=>Q P \implies Q
    P \Rightarrow Q
    `P iff Q` PとQは同値 P iff Q P \iff Q
    P \Leftrightarrow Q
    `AAx P(x)` すべての(任意の) x について、x は P である AA x P(x) \forall x P(x)
    `EEx P(x)` あるxについてPである
    x は P であるようなxが少なくともひとつ存在する
    EEx P(x) \exists x P(x)



    グラフは描写範囲の大きさ、グラフの範囲(例:width=300; height=200)とマス目の間隔(例:xmin=-10; xmax=10;xscl=1)、描く関数(例:plot(x^2))を次のように指定してやれば、下記のようなグラフになってくれる。

    ¥begin{graph}width=300; height=200; xmin=-10; xmax=10; xscl=1; plot(x^2) ¥end{graph}(¥は本当は半角)

    \begin{graph} width=300; height=200; xmin=-10; xmax=10; xscl=1; plot(x^2) \end{graph}

    ¥begin{graph} width=300; height=200; xmin=-1; xmax=1; xscl=1; plot(x*sin(1/x)); ¥end{graph}(¥は本当は半角)

    \begin{graph} width=300; height=200; xmin=-1; xmax=1; xscl=1; plot(x*sin(1/x)); \end{graph} その他の記号については以下

    Operation symbols
    `+ - * ** // \\ xx -: @ o+ ox sum prod ^^ ^^^ vv vvv nn nnn uu uuu`
    (その表記)
    + - * ** // \\ xx -: @ o+ ox sum prod ^^ ^^^ vv vvv nn nnn uu uuu

    Relation symbols
    `= != < <= > >= -< >- in !in sub sup sube supe -= ~= ~~ prop`
    (その表記)
    = != < <= > >= -< >- in !in sub sup sube supe -= ~= ~~ prop

    Logical symbols
    `\and \or \not => if iff AA EE _|_ TT |-- |==`
    (その表記)
    \and \or \not => if iff AA EE _|_ TT |-- |==

    Miscellaneous symbols
    `int oint del grad +- O/ oo aleph ... cdots \ quad qquad diamond square |__ __| |~ ~|` `CC NN QQ RR ZZ`
    (その表記)
    int oint del grad +- O/ oo aleph ... cdots \ quad qquad diamond square |__ __| |~ ~| CC NN QQ RR ZZ

    Arrows & Accents
    `uarr darr rarr -> larr harr rArr lArr hArr hatx barx ulx vecx dotx ddotx`
    (その表記)
    uarr darr rarr -> larr harr rArr lArr hArr hatx barx ulx vecx dotx ddotx

    Greek letters
    `alpha beta chi delta Delta epsi eta gamma Gamma iota kappa lambda Lambda mu nu omega Omega phi Phi pi Pi psi rho sigma Sigma tau theta Theta upsilon xi Xi zeta`
    (その表記)
    alpha beta chi delta Delta epsi eta gamma Gamma iota kappa lambda Lambda mu nu omega Omega phi Phi pi Pi psi rho sigma Sigma tau theta Theta upsilon xi Xi zeta


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     『語学としての数学』を補完する意味で、

    「このあたりの数学を学ぶと、こんなことまでできる!!」

    といった動機づけ記事を、何回かに分けてやってみようと思う。

     動機づけがないと学んでも使わないことになるだろうし、学びだしても途中であきらめる確率が高い。そもそも学ぼうという気が起きない気もする。

     なるべく初等的なところから、動機付けを用意したいと思ったので、1回目は中学数学、それも文字式あたりまで、である。

     正直、このレベルの数学で、大人がおもしろがれるネタを、浅学の身では見付けることが難しかった。

     というわけで、しょっぱなから、こんなネタである(知ってる人はご存知のあのネタである)。

     せめて全微分あたりまでいけば、「景気対策なんて相殺されちゃって意味無いぜ」といった「構造改革」な人も寿げる命題を扱えるのだが、全微分どころか偏微分も、高校でも習わないのだそうである。方程式からはじめると、道のりが、結構長い。回を重ねて、せめて微分くらいは、やりたいと思っているので、お待ちいただきたい。


     さて、先に述べた通り、今回は数学といっても、ちょっとした代数の範囲(要するに「文字式」という奴だ)で、たいていの話はおさまる。つまり中学数学(ほとんどが中1数学)の範囲である。
     必要な中学数学についても、ほとんどイチから説明してみた。その気になったら以下の参考図書を参照にされたし(ネット上にも多くの教材がある、たとえばここなど)。


        今回の元ネタは以下のとおり。もちろんこの記事の方が、かなりカンタンである(と思う)。



    元ネタ&参考図書
    置 塩 信雄, 鶴田 満彦, 米田 康彦『経済学』(大月書店,1988); ISBN: 427211056X
    マルクス経済学を数理的に扱ったものの内ではこれが一番数学的に軽い。しかも手に入りやすい。森嶋通夫の著作集が出る時代である。置塩信雄もまとめて手に入るようにしてほしい(とおもったら復刊ドットコムに特集ページがあった)。


     なお、今回とりあげた「マルクスの基本定理」や労働搾取理論については、この記事を読んで、できたら式を写してみて、流れをつかんだら、松尾 匡の紹介とともに、吉原直毅の「再論:70年代マルクス派搾取理論再検証」(pdfファイル)や「21 世紀における労働搾取理論の新展開」(pdfファイル)を読んでみるとよいと思う(数学的にはもうちょっと先のレベルが必要だが、今回証明したものがどう位置付けられているかがわかるので)。


    「数学がわからない」という人は、「わからない」以前に基礎的な計算が苦手で、「わかる」ところまで行き着いてない場合も多い。その意味で、数学やり直しには中学数学あたりをまず固めておきたい。
    間 地 秀三『中学3年分の数学が14時間でマスターできる本―きちんとわかる・スラスラ解ける総復習 通勤・通学電車の60分で頭の体操』(明日香出版社,1992) ; ISBN: 4870305739
    など、最近はいろんな「やりなおし本」が出ているが、いずれも紙とペンを持って手を動かすのが肝心。その意味で、時間をもっと 使える人には
    く もんの中学基礎がため100%数学(くもん出版)
    のシリーズが基礎的な問題を大量にやれてよいかもしれない。
    鍵 本 聡『高校数学とっておき勉強法―学校では教えてくれないコツとポイント』(講談社,1999;ブルーバックス B1243); ISBN: 4062572435
    は、勉強法本ではめずらしくタイトルに違わぬ有益な情報(コツとポイント)を与えてくれて、数学を学ぶすべての人にお勧めできる。




     
     さて、関係を数式で表すところから、数学を思考の道具にすることは始まる。

     そうすることのメリットのひとつは、思考の経済性(頭が楽できるところ)である。

       頭にかなり負担をかける(多くの要素を含んだ複雑な)推論も、問題を数式によって表現できれば、半ば機械的に規則を適用することで、かなりのところまで代替することができる。

     これは込み入った議論や推論を行うときに、そして議論や推論の過程を残して,他人による検証を受けるときに威力を発揮する。

     自分が楽できるというより(発案者は別のところでちゃんと苦労する)、自分が行った推論を、ちゃんとできているかどうか確かめようとする他人が楽できるところが重要である。

     でないと他の人は見てくれないし、せっかくやったことが同時代人に、そして未来に伝わっていかない。


    数値例からはじめてみるか


     話を簡単にするために、世の中に商品が1種類しかない、と仮定しよう。
    1種類は少なすぎる、せめて2種類にしろ

    2種類は少なすぎる、もっと多くしろ(→後述
    などなどいろいろ反論はあるだろうが(貴方の批判精神に幸いあれ!)、ここは一つ飲んでもらいたい。

     米を1kgつくるのに、米0.1kg と 10時間の労働が必要だとしよう。
    米1kg ← 米0.1kg と 10時間の労働  
     勘どころは、米を作るのにも、また米が必要なところである。

     今、米を1kgつくるには、10時間の労働が必要だといった。直接的には確かに10時間である。
     しかし、加えて米0.1kgが必要なのである。だから米0.1kgをつくるのに必要な、0.1×10時間=1時間の労働もまた、間接的に必要なのであ る。
     しかし米0.1kgをつくるにも、0.1×0.1=0.01kgの米が必要で、だから米0.01kgをつくるのに必要な、0.01×10時間=0.1時 間の労働もまた、間接的に必要なのである。
     しかし・・・(以下繰り返し)

     これでは切りがない(実はきりをつけることができるが、それは,少しだけややこしいので,後回しす る)。




    いわゆる方程式ってやつ


     ここから以後は、めちゃくちゃ簡単な代数(文字式)をつかって考えてみる。このきりなさそうな,言葉でいうとややこしい話を,シンプルに考えられるのが,数学のよいところである。

     米を1kgをつくるのに直接間接を問わず,全部あわせて必要な労働量を〈覚えやすく、あとで便利なように〉tと書くことにする。
     労働量は時間で計られるので、Timeの頭文字tを使うことにした。

    文字を使った式のお約束:

    1 かけ算(×)は省略する         例)a×b=ab
    数字で数をあらわすと、123とか45とか数字を並べなければならない。
    なので、かけ算を省略すると、1×2が、12になってしまってややこしい。
    しかし文字で数を表すと、どんな数も一文字で表せるので、かけ算を省略しても大丈夫。

                                a
    2 わり算(÷)は省略して分数の形     例)a÷b = -----
                                b
    数行にわたるのがめんどくさいので、このページでは分数をa/bと書くことがある。

    3 数字は文字の前にかく          例)a×3=3a

    4 文字の前の1は省略する         例)a×1=a

    5 同じ文字のかけ算は指数(乗)で表す   例)a×a×a=a

    6 かけ算の文字はアルファベット順     例)b×c×a=abc
     ならべる順番を決めておくと整理しやすい。
    7 たし算、ひき算は省略しない       例)a+b=a+b(そのまま)



    例題:具体的な数の代わりに、 文字を使った式で表してみる

    1個a円の品物を10個買ったときの代金 ……10a(円)

    100円でa個買える品 物b個の代金 …… 100b/a(円)

    定価a円の2割の値段        …… 0. 2a(円)

    定価a円の2割引の値段       …… 0. 8a(円)

    定価a円の品物を2割引で買い、 500円だしたときのおつり …… 500-0.8a(円)
     




     米を1kgをつくるのに必要な労働量は、直接必要な10時間という労働量と、0.1kgの米を作るのに必要な労働量を足したものである。

    1kgをつくるのに直接間接を問わず,全部あわせて必要な労働量をtとしたのだから、0.1kgの米を作るのに必要な労働量は、 0.1 t と書ける。

    だから米を1kgをつくるのに直接間接を問わず,全部あわせて必要な労働量をtは、10と0.1tの合計と 等しい。これを数式で書くと

    t=10+0.1t

    である。

    ここからtを求めると(最初なので,馬鹿らしいかもしれないが、くそ丁寧に解いてみる)、

       t=10+0.1t
      t-0.1t=10+0.1t-0.1t  
    (両辺から
    0.1tを引いている)
       0.9t=10
    0.9t/0.9=10/0. 9       (両辺を0.9tで割っている)
           t=10/0.9

        ゆえにt=10÷0.9=11.1111・・・


    まあ、だいたい11.1時間ほどが、米を1kgをつくるのに直接間接全部あわせて必要な労働量である。


    例題:方程式の解き方(一次方程式

    方程式
    x+5=8のとき、
    xを求めよ

     x+5=8とあるから、x+5と8は同じ数である
     x+5から5を引くと、x+5-5=xになる
     8から5を引くと、8-5=3になる
     要するに同じ数(x+5、8)から同じ数(5)を引いても、やっぱり同じ数だろう。
     
    つまり
    x+5  =8
    x+5-5=8-5
    x    =3

    文字で数字を表してみる。
    この場合も解き方は同じである。
    x+a=bのとき、
    x=b-a

    理由は
    x+a  =b
    x+a-a=b-a
    x    =b-a


    方程式
    4x=6のとき、
    xを求めよ

     4x=6とあるから、4xと6は同じ数である
     4xを4で割ると、4x÷4=xになる
     6を4で割ると、6÷4=1.5になる
     同じ数(4x、6)を同じ数(4)で割っても、やっぱり同じ数だろう。

    つまり
    4x  =6
    4x÷4=6÷4
    x   =1.5

    文字で数字を表してみる。
    この場合も解き方は同じである。
    ax=bのとき、
    x=b/a

    理由は
    ax  =b
    ax÷a=b÷a
    x   =b/a




    必要な労働時間を考える



     ところで、 米1kgに直接10時間必要だとかいう数字は、詳しいことは知らないままにあてずっぽしたので、実はまったくのデタラメな数字である。
     詳しい数字は後から調べることにして、aだとかτだとかと、これも文字にしておくと話を進めるのにも、また必要な労働時間が変わった場合を考えるのに も、便利である。

    aはあんまり考えなかったが、直接必要な労働量はさっき使ったtと似ていてしかも違うものとして、ギリシア文字のτ(タウ)を使うことにした。これはアル ファベットのtに対応するギリシア文字である。  
    米1kg ← 米akg と τ時間の労働

      米1kgをつくるのにakgの米とτ時間の労働が必要、ということである。
     
     あたりまえのことだが、大切なことに注意を払っておこう。
     たとえば米1kgをつくるのに10kgの米が必要だとしたら悲惨なことになる。つくればつくるほど、米が減っていくのである。
     こうしたことがないためには、すくなくともaについては1より小さくなっていてほしい(さっきの数値例でも0.1だった)。でないと縮小再生産になって しまう。
     また、もっとあたりまえのことだが、aはマイナスであってはおかしい。マイナス1kgの米から、1kgの米をつくるなんて訳が分からない。
     なので、結局、
    0<a<1
    であることが必要である。数字を文字で表したときは、こういう当たり前のこともきっちり書き出しておくことが大切なのである。


     さて、米1kgをつくるのに、直接間接合わせてどれだけの時間の労働が、計算しておこう。
     米1kgをつくるのに直接間接全部あわせて必要な労働量を とすると、
    t=at+τ
    という式ができる。

    この式をさっきと同じように変形すると
               t=at+τ
            t-at=at+τ-at  
    (両辺から0.1tを 引いている)
          (1-a)t=τ
    (1-a) t/(1-a)=τ (1-a) (両辺 からを1-aで割っている。1-a≠0なのでできる)

             τ
       ∴ t=-------
           1-a

    解けました。

    これは、米を1kgをつくるのに直接間接全部あわせて必要な労働量である。これを「投下労働価値 labor embodies value 」という。


    無限を取り扱う方法



    さっき(以下繰り返し)となった話にケリをつける。
    米を1kgつくるには、直接にはτ時間の労働が必要で、しかし、加えて米akgが必要だから米akgをつくるのに必要な労働量a×τ時間もまた、間接的に 必要なのだった。しかし米akgをつ くるにも、a×a=a2kgの米が必要で、だから・・・(以下繰り返し)になるのだった。

    数値例では、間接的に必要な労働量は1+0.1+0.01+0.001+・・・・といった具合に(以下繰り返し)になっていた。それぞれを見ると、間接労 働量はそれぞれ前の1/10になっている。これは0.1を掛けていたのだから当然である。
    実は1+0.1+0.01+0.001+・・・・が無限に続くとすると、この足し算の合計は10/9と等しいのである。
    10/9=1+0.1+0.01+0.001+・・・・
    文字式でいうと
    1+ a +a2+a3+a4・・・・は、1/(1-a)と等しいのである (10/9も、1/(1-0.1)だったのである)

    1/(1-a)= 1+ a +a2+a3+a4・・・・
    (ただし0>a>1)
    これは公式になってるくらいの話なので、お受験用には「丸暗記」すればいいのだが、ちょっとだけ「なんでそういえるか」をやっておく。

    分からないものは文字で表す、というのが代数の基本である。いま分からないのは、a +a2+a3+ a4・・・という無限につづくやつなので、
      S= 1+ a +a2+a3+a4・・・・
    としてしまおう。
    せっかく文字で表しても、そのままだと、どうしようもないので、
    ここはひとつSにaを掛けてやる。すると
    a×S=    a +a2+a3+a4 +a5 ・・・・
    なんだか上のSと比べて、ひとつずらした感じがする。

      S= 1+ a +a2+a3+a4・・・・
    a×S=    a +a2+a3+a4 +a5 ・・・・

    なのでSからaSを引いて見ると,同じのは消えてしまって

      S-aS=1

    S(1-a)=1
    0>a>1だから、1-a>0である。1-a=0でないので、両辺を1-aで割ってかまわない。


    S(1-a)/(1-a)=1 /(1-a)
    (1-a)/(1-a)=1であるから、
    S=1/(1-a)
    結論は
    1/(1-a)=1+ a +a2+a3+ a4・・・・
    なのである。

    扱いずらい無限に続く式を、やはり無限に続く式ををつかって(引き算して)消し去るのがキモであった。
    この無限に続くものが有限におさまる、というのは、先に見たようにマルクスら古典派の投下労働価値の定式化に、それ以外にもケインズらの乗数理論や、ベー ム・バベルクの平均生産期間の定式化などにも用いられる。



    いよいよ搾取の存在を証明する


     すこし寄り道したが、ここでいきなり「マルクスの基本定理(Fundamental Marxian Theorem)」を(中学生の範囲の数学で)証明してみよう。
     これは、正の利潤と労働の搾取との同値性を、つまり「利潤もうけがプラスであるならば、労働が搾取されている。労働が搾取されているならば、利潤もうけ がプラスである」ことを、数学的に示した定理である。

     利潤もうけを考えるためには、商品をつくるのにいくらかかり、それをいくらで売るのか、それぞれの値段を考える必要がある。
     なので、米1単位あたりの価格をp、それから1時間あたりの賃金(労働の価格)をwと表すことにして、話を進めよう。

     米1単位をつくるのにいくらかかるかと言えば、さっき見たように、
    米1単位  ← 米akg と τ時間の労働
    米1単位をつくるのに 、米akg と τ時間の労働が必要だった。

    米1単位あたりの価格をp、1時間あたりの賃金(労働の価格)をwだから、米1単位をつくるのに必要な 米と労働の値段は合計でap+τwだということがわかった。
     さて、利潤もうけが出るためには、つくるのにかかった値段よりも、売る値段の方が高くなければならない。これを数式でかくと(売る値段)>(かかる値 段)だから、
    p>ap+τw ……式(1)
    という式がなりたたなくてはならない。

    また
    0<a<1   ……式(2)

    であることも縮小再生産になったりしないためには必要であった。

     さらに米1kgをつくるのに、直接間接合わせてどれだけの時間の労働が必要かも計算した。米1kgをつくるのに直接間接全部あわせて必要な労働量を とすると、

    t=at+τ  ……式(3)
    だった。

    この3つでこれでマルクスの基本定理を証明する材料はそろった。

    式(1)
       p>ap+τw
    の両辺からapを引いて
    p-ap>ap+τw-ap
    p-ap>τw

    左辺をpでまとめると
    (1-a)p>τw  ……式(1)’

    式(2)0<a<1から、1-a>0

    つまり式(1)’の両辺を1-aで割っても不等号の向きは変わらない。だから

         τw     τ
    p > --------- =--------- w ……式(4)
        1-a   1-a
    ところで
     式(3)t=at+τから、
      τ
    t=-------  ……式(5)
      1-a

    というのをさっき求めた。

    この式(5)を式(4)
        τ
    p > -------- w
       1-a

    に代入すると
    p > t・w
    これで必要な計算はあらかた済んだ。

    pは、(我々にとっての唯一の商品だった)米の1kgの値段であった。
    そしてtは、米の1kgをつくるのに直接間接に必要な労働量だった。
    wは1時間当たりの賃金だったから、t・wは米の1kgをつくるのに直接間接に必要な労働に支払われる賃金の合計である。
    これが米1kgの値段pよりも小さいのだから、よくソーシャリストがこぼす「米1kgをつくって貰った給料で、米1kgが買えない」という状態をこの式は 示している。

    つまりこの式 p>t・w は、搾取の存在を意味している。


    この式が意味しているところを、いくつか見ていこう。

    まず両辺をpで割る。
    1>(w/p)・t
    このw/pは実質賃金率と呼ばれるものである。
    たとえば賃金が上がっても、それ以上に物価があがれば、ちっとも賃金が上がった気がしないだろう。
    労働者が買うのは消費材の方だから、賃金wと商品の価格pとから、次のように 実質賃金率Rを定義する。
    R=w/p
    つまり賃金wを商品(ここでは唯一の商品である米)の価格pで割ったものが実質賃金率である。
    いまは商品を1種類だけしか考えてないので、実質賃金率Rは「1時間あたりの賃金で実際にどれだけの商品が買えるか」を示すものである。

    1 > R・t

    この両辺にT(1日の労働時間)をかけると
    T>TR・t
    である。
    実質賃金率Rは「1時間あたりの賃金で実際にどれだけの商品が買えるか」であった。Tは「1日の労働時間」だから、TRは「1日働いた賃金で実際にどれだ けの商品が買えるか」を示している。
    tは、商品1単位(ここでは米1kg)をつくるのに直接間接に必要な労働量であった。だからTR・tは、「1日働いて買える商品」をつくる のに「直接間接に必要な労働量」である。これは、その筋の用語では「必要労働時間」と呼ばれる。

    T>TR・tは、要するに「1日の労働時間は、必要労働時間よりも長い」ということである。そして、これが普通にいう搾取の定義である。

    なんとなれば、「1日働いて買える商品」を手に入れるのには、TR・t時間だけ働けばいいはずなのに(例えば6時間でいいはずなのに)、実 際には労働者は時間働いている(例えば8時間働いている)。逆にいえば、TR・t時間だけ(例えば6時間だ け)働けばつくることができる量の商品なのに、同じだけの量の商品を賃金で買おうとすれば時間(例えば8時間)働かないといけない。


    さらに1>R・tから、両辺をt(商品1単位をつくるのに直接間接必要な労働量)で割ってやると、
    1/t>R 
    この1/tは、商品(ここでは米)の労働生産性である。
    生産性(productivity)というのは、「生産過程に投入された生産要素(材料とか労働など、生産に必要なもの)が生産物の産出に貢献する程度」 をいう。
    要するに労働生産性だと、商品を1単位つくるのに、どれくらい1単位あたりの労働が役に立っているかということである。
    つまり労働生産性が上がると、同じだけの商品を作るのに、より少ない労働量で済む。

    つまり 1/t>Rとは、
    (商品の労働生産性)>(実質賃金率)
    であることを示している。「その商品をつくるのに労働が役立ってる度合い」の方が、「その商品をつくるのに参加してもらえる実質的な賃金」よりもやっぱり 多い(役立ってるほどには賃金を貰えてない)ということである。

    また1>R・tの両辺をR( =w/p:実質賃金率)で割ってやると、
    1/R>t
    R=w/pだったから、1/R=p/w。これを1/R>tに代入すると、
    p/w>t
    となる。p/wは、「商品の値段÷賃金」だから、商品1単位を売り払った金で雇える労働量を示し、支配労働量と呼ばれる。
    つまり文字で書くと

    (支配労働量=商品1単位の貨幣で雇える労働量)>(商品1単位の投下労働量=労働価値)

    ということである。




    (おまけ)

    これまでは経済の規模を全然考えてこなかった。

    いま全体でN人の人間が雇用され、Xkgの米(我々にとっての唯一の商品)が生産されている、としよう。
    Xkgのうち、aXkgは米の生産に投じられるので、我々が食べる(消費する)用に残るのはX-aXだけである。これをYとおこう。つまり
    X-aX=Y
    である。Xを総生産、Yのことを純生産と呼ぶ。
    上で、aは、0<a<1という条件を満たさなければならないと言ったが、これは純生産がプラスでなければならない、つまり
    X-aX=Y>0
    がなりたたなければならない、ということである。
    X-aX=Y
    X(1-a)=Y
    で、総生産Xも純生産Yも当然にしてプラスだから、1-aもプラスでなければならないのである。

    さて、総利潤を考えると、これはつくった商品の合計金額(pX)から費用を引いたものである。
    費用としては原料費と人件費が考えられる。
    原料費は、生産に投じられる米の金額なので、p×aX=apXである。
    人件費は賃金として払われる金額の合計なので、wτNである。
    よって利潤Πは、
    Π=pXー(apX+wτN)>0
    p>0だから両辺をpで割っても不等号の向きはかわらない
    XーaXー(w/p)τN>0
    YーR・τN>0
    Y>R・τN
    Rはさっき見た通り実質賃金率、τは一人当たりの労働時間でNは雇用数だから、τNは総労働時間である。

    利潤がプラスならば、実質賃金率と総労働時間の積は、かならず純生産より小さい。もし純生産が変わらずそして利潤に回される分も変わらないならば、雇用数 を上げるには(つまり失業を減らすには)、一人当たりの労働時間を減らすか(つまり時短である)、実質賃金を引き下げるか、それともその両方を行なうか、 いずれかを行なわなければならない。

     
     




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