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     故あって《数学を教える》ことについての本を読んでいた。目にしたものは、どれもしびれるほど面白い。

     思えば先日Amazonで一時ベストセラーになってたG. ポリア『いかにして問題をとくか』(クローズアップ現代で取り上げられてたことを教えていただいた方々遅ればせながらありがとう)だって数学書というより(そして数学啓蒙書というより)も、数学教育書だった。
     
     ところで数学について、解き方は教えられても、考え方は教えるのは無理だと考える人は今でも多い。
     そういえば、はやりの中学数学やりなおし本などでも、結局のところ「こんな風に解け」としか言っていない。まったく、あんなものどこがいいんだか。
     そうやれば解けることは分かるけれど、本当に知りたいと思うのは「どうしたらそういう手順を自前で思いつけるのか」ということなのだ。
     
     『いかにして問題をとくか』のあまりに有名な一節。
    「この解法はうまくて間違いがないように見えるけれども、どうしたらそれを思いつくことができるだろうか。この実験はうまくて事実を示すように思われるが、どうしたらそれが発見できたであろうか。どうしたら私は自分でそれを思いついたり発見したりできるであろうか」

     以下は、問題を解こうとするときの《ひらめきの筋道》といったものを、何とか伝えようとする書物たちである。


     

    Mathematics: A Very Short Introduction (Very Short Introductions)Mathematics: A Very Short Introduction (Very Short Introductions)
    (2002/10)
    Timothy Gowers

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    数学 (〈1冊でわかる〉シリーズ)数学 (〈1冊でわかる〉シリーズ)
    (2004/06/08)
    ティモシー ガウアーズ、上野 健爾 他

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     ポリアには『いかにして問題をとくか』(以下『いか問』と記す。シュタイナーの『いかにして超感覚的世界の認識を獲得するか』を『いか超』と略す流儀である)を読み終えた人にお勧めできる邦訳があと2冊あるが、それらは後に回して『いか問』よりもさらに小さな一冊を推す。
     A Very Short Introductionシリーズでは、この分量に詰め込むのは無理だろうといったテーマを(一冊なんかで分かるわけない!)、あの手この手で乗り越える手だれの技がはまると傑作が生まれる。要するに当たり外れがあるということだが、100ページ少しの紙面にどうやって数学を語ればいいのかという難問に、著者ガウアーズは正面突破を挑んでいる。あれやこれやのトピックを軽く触れて紹介してすませるのは無理。だったら、数学では/数学者は、どういう風にものを(問題を)考えるのかに集中したのだ。
     ひょっとするとA Very Short Introduction〈1冊でわかる〉シリーズで最難関の一冊かも知れないが、最良の一冊候補には必ず入る。逸品。
     なおガウアーズのホームページでMathematics: A Very Short Introductionの書かれざる/溢れてしまった数章を読むことができる。
     What to read after Mathematics: A Very Short Introduction
     http://www.dpmms.cam.ac.uk/~wtg10/vsipage.html




    What Is Mathematics?: An Elementary Approach to Ideas and Methods (Oxford paperbacks)What Is Mathematics?: An Elementary Approach to Ideas and Methods (Oxford paperbacks)
    (1996/07/18)
    Richard Courant、Herbert Robbins 他

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    数学とは何か数学とは何か
    (2001/02/22)
    リチャード クーラント、ハーバート ロビンズ 他

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     上記『数学 (〈1冊でわかる〉シリーズ)』を読めば、これよりずっと重厚で内容豊富で、しかしどこか軽やかで、圧倒的に入門書であることを譲らない、あのクーラントとロビンズの共著を思い出さずにはおれない。
     露払いにして申し訳ないが、『数学 (〈1冊でわかる〉シリーズ)』を読み干した後なら、あまり気張らずにこの本に入っていけるだろう。
     原著の初版は1941年。取り上げられるトピック/素材は決して新しいものではないが、サブタイトルのとおり数学の考え方や数学者の思考過程に肉薄する本書は、掛け値なしに読むたびに発見がある作品。



    The Mathematical ExperienceThe Mathematical Experience
    (1999/01/14)
    Philip J. Davis、Reuben Hersh 他

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    数学的経験数学的経験
    (1986/12)
    P.J. デービス、R. ヘルシュ 他

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     デービスとヘルシュのこの一冊は、クーラントとロビンズの書物とともに、この方面の鉄板。
     できるだけ丁寧に易しく、数学の何たるかを伝えようとするこの本は、数学に挫折した人にこそ贈られるべき。
     『数学 (〈1冊でわかる〉シリーズ)』は、ここでも有益な補助線になる。



    Mindstorms: Children, Computers, And Powerful IdeasMindstorms: Children, Computers, And Powerful Ideas
    (1993/08/04)
    Seymour A. Papert

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    マインドストーム―子供、コンピューター、そして強力なアイデアマインドストーム―子供、コンピューター、そして強力なアイデア
    (1995/03)
    シーモア パパート

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     これまでの3冊とは毛色の違った一冊を。
     いまさら持ち出すような本か、という声が聞こえないではないが、コンピューターがもたらす、あるいはもたらしたかもしれない世界や経験や能力を、今も色褪せること無く示してみせる。
     『パーセプトロン』をパパートと共著したマーヴィン・ミンスキーは、彼を「生きている内で最も偉大な数学教育者」と呼んでいた。
     何よりパパートが、コンピュータ言語LOGOを開発したのは、子どもたちが言葉を学ぶように、自然に数学を学ぶことができる環境を生み出すためだった。
     コンピュータに入れられたテキストとテストを繰り返すことで学ぶのでなしに(CAIなんてクソくらえ)、コンピュータを(具体的にはLOGOタートルを)自在に操り、いろいろ試してみる中で発見を通じて数学をマニュピレートできるようになること。
     「知識は理解の一部でしかない。真の理解は実際に経験することなしには、ありえない」(シーモア パパート)。



    Induction and Analogy in Mathematics (Mathematics and Plausible Reasoning)Induction and Analogy in Mathematics (Mathematics and Plausible Reasoning)
    (2009/07/30)
    G. Polya

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    Mathematics and Plausible Reasoning: Patterns of Plausible InferenceMathematics and Plausible Reasoning: Patterns of Plausible Inference
    (2009/07/30)
    George Polya、Sam Sloan 他

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    数学における発見はいかになされるか〈第1〉帰納と類比 (1959年)数学における発見はいかになされるか〈第1〉帰納と類比 (1959年)
    (1959)
    ポリア

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    数学における発見はいかになされるか〈第2〉発見的推論-そのパターン (1959年)数学における発見はいかになされるか〈第2〉発見的推論-そのパターン (1959年)
    (1959)
    ジョージ・ポリア

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     ポリアは次の言葉でこの著書を始めている。
     「経験は人の信念を修正する。われわれは経験を通して学ぶのである、否むしろ進んで経験を通して学ぼうとしなければならない。経験を最大限に活用することは,われわれ人間に課せられた偉大なつとめの一つであって、このつとめのためにつくすことが,科学者本来の使命である。その名に値する科学者は、ある一定の経験からもっとも正確な信念を引き出そうとつとめ、一方では一定の問題についての正確な信念をうち立てるため、もっとも適切な経験を集めようと努力するものである。科学者が経験を処理するこの手続きは,ふつう帰納と呼ばれている。」
     
     数学的事実はまず推測され、しかる後に証明される。
     普通、教科書を含めたほとんどの《数学》書に登場するのは、このうちの後半のみである。そこ
    に紹介されている定理や性質が成り立つか、それはどう証明されるのかについて描かれてはいても,それをどのように発見したか、あるいはどのように試行錯誤したかについて触れられない。
     この『いか問』に始まる数学的発見学(heuristic)三部作の第2弾は、まさに書かれざる前半に焦点を合わせ、豊富な事例を通じて数学における発見を詳述する。なんとなれば、発見することについて簡単なマニュアルは存在せず、この実際的技能は模倣と自分で問題を解くことを通じてしか学ぶことが出来ないからである。
     



    Mathematical Discovery on Understanding, Learning, and Teaching Problem SolvingMathematical Discovery on Understanding, Learning, and Teaching Problem Solving
    (2009/06/30)
    George Polya、Sam Sloan 他

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    Mathematical Discovery on Understanding, Learning, and Teaching Problem SolvingMathematical Discovery on Understanding, Learning, and Teaching Problem Solving
    (2009/06/30)
    Polya George

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    数学の問題の発見的解き方 第1巻―問題解決の理解・学習・教授数学の問題の発見的解き方 第1巻―問題解決の理解・学習・教授
    (1964/10/01)
    G.ポリア

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    数学の問題の発見的解き方 第2巻―問題解決の理解・学習・教授数学の問題の発見的解き方 第2巻―問題解決の理解・学習・教授
    (1967/01/25)
    G.ポリア

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     発見に、マニュアルや普遍的アルゴリズムは存在しない。
     しかし、ポリアは言う。
    「デカルトはすべての問題を解く普遍的方法に思いをこらし、ライプニッツは完全な方法というアイデアを非常に明白に定式化した。しかし、かつて卑金属を黄金に変えると思われた哲学者の石の探求が成功しなかったように、普遍的で完全な方法の探求もまだ成功していない。世の中には、夢のままで終わらねばならぬような偉大な夢があるものなのだ。それにもかかわらず達成されなくても、このような理想は人々に感化を及ぼすであろう:まだ北極星に行った人はないけれども、この星を見て正しい進路を発見した人は多いのだ。本書は貴方がたに問題を解く普遍的で完全な方法を提供することはできない(また、今後とも、そういう本は決して出ないであろう)が、たとえ達成されなくても、少しでもその理想に向かって進むことは、貴方がたの精神を清澄にし、貴方がたの問題解決能力を増進させるであろう。」
    「本書で試みる、問題解決の手段方法についての研究を、私は発見学(heuristic)と呼びたい。発見学という言葉は、かつて哲学者の中に用いた人もあったが、今日では半ば忘れさられ、その価値も半ば疑われている。しかし、私はあえてそれを用いる。」( 第1巻p.)
     ポリアのこの書以降、ヒューリスティックスは数学的問題解決として復活を遂げた。
     数学的発見学(heuristic)三部作、第3弾。
     



    Mathematical Problem SolvingMathematical Problem Solving
    (1985/09)
    Alan Schoenfeld

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     ショーンフェルドは数学教育を学ぶ者なら誰もが参照する研究者。
     一冊あげるなら近作の
    How We Think: A Theory of Goal-Oriented Decision Making and its Educational Applications (Studies in Mathematical Thinking and Learning Series)だろうが、ポリアつながりで、ショーンフェルドの名を知らしめた出世作の一冊を。
     『いか問』を読んで、ポリアが示してくれる思考の道筋を追いかける経験は、それ自体が喜びに満ちたものだが、かといって本を読みさえすれば、そうした考え方を使えるようになる訳ではない。
     ショーンフェルドは、ポリアの本から、ヒューリスティクスを取り出して,コンパクトなリストにまとめて学生に説明し、それから,問題を解くときにリストを横において,何度もチラ見していいからと教えて、彼らがそれを使いこなせるまで持っていく。言わばポリアの発見学(heuristic)を「実装」したのだ。
     考えることを、そして考え方を伝えることは、容易ではないけれど、確かに可能であると、ショーンフェルドのこの書は我々に教える。



    ポリア以降の数学的問題解決本についても、いくつか取り上げておこう。


    The Art and Craft of Problem SolvingThe Art and Craft of Problem Solving
    (2006/08/18)
    Paul Zeitz

    商品詳細を見る
     
    エレガントな問題解決 ―柔軟な発想を引き出すセンスと技エレガントな問題解決 ―柔軟な発想を引き出すセンスと技
    (2010/12/27)
    Paul Zeitz

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    巧みに構成された「数理的問題解決」のトレーニングブック。解説は丁寧で、ヒントの出し方も要を得ている。


    Solving Mathematical Problems: A Personal PerspectiveSolving Mathematical Problems: A Personal Perspective
    (2006/10/05)
    Terence Tao

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    数学オリンピックチャンピオンの美しい解き方数学オリンピックチャンピオンの美しい解き方
    (2010/07/23)
    テレンス・タオ

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    史上最年少の12歳で数学オリンピックチャンピオンになったテレンス・タオ(陶哲軒)氏が15歳の時に書いた数学ノートを再構成したもの。タオ氏はその後も数学の才能を開花し続け、2006年にはフィールズ賞をとっている。



    How to solve problems
    How to Solve Mathematical ProblemsHow to Solve Mathematical Problems
    (1995/01/30)
    Wayne A. Wickelgren

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    問題をどう解くか―問題解決の理論 (1980年)問題をどう解くか―問題解決の理論 (1980年)
    (1980/07)
    ウェン・A.ウィケルグレン

    商品詳細を見る

    認知心理学者による数学の問題解決法の入門書。
    ウィケルグレンのホームページから彼の論文がダウンロードできる。
    http://www.columbia.edu/~nvg1/Wickelgren/



    Problem-Solving Through Problems (Problem Books in Mathematics Volume 5)Problem-Solving Through Problems (Problem Books in Mathematics Volume 5)
    (1983)
    Loren C. Larson

    商品詳細を見る

    数学発想ゼミナール〈1〉数学発想ゼミナール〈1〉
    (2003/06)
    ローレン・C. ラーソン

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    数学発想ゼミナール〈2〉数学発想ゼミナール〈2〉
    (2003/06)
    ローレン・C. ラーソン

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    数学発想ゼミナール〈3〉数学発想ゼミナール〈3〉
    (2003/06)
    ローレン・C. ラーソン

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    全3巻に700題を搭載した数学的問題解決の問題集。


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    How to Solve It: A New Aspect of Mathematical MethodHow to Solve It: A New Aspect of Mathematical Method
    (2009/06/30)
    G. Polya

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    いかにして問題をとくかいかにして問題をとくか
    (1975/04/01)
    G. ポリア

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     特別な場合に計算が簡単になる方法はいくつもあるが、たくさん覚えても出番が限られているから実用性は低い。

     二桁の九九を覚えるのは確かに有効だが、準備に時間と労力がかかるので、敬遠されがちである。

     結局、適用範囲の広さと習得の容易さのトレードオフから「普通の方法」が浮上してくる。

     筆算は、紙を外部記憶として活用することで、計算中の作動記憶の消費を抑え、計算プロセスに割くことのできる認知資源を確保する。
     計算が速く確実になるばかりか、計算プロセスの「みえる化」はミスの発見や、計算のさらなる改善へ向けた気づきにもつながる。

     実際のところ、計算の遅い人は、しばしば手を止めて、頭に汗をかいて無理をして計算している。
     本当は、頭で無理をするかわりに、そこで手を動かすべきなのだ。
     その方が労は少なくて計算速度は上がる。なによりも無理をすることによる計算ミスが激減する。

     人々を筆算においてつまずかせるものは、筆算に最後に残った暗算領域「繰り上がり」である。
     これは人の作動記憶を浪費させ、計算速度を落としミスを頻繁させる、計算のボトルネックだが、これを可能な限り回避する工夫にはまだ余地がある。
     この改良可能性こそ、筆算のすぐれた点なのだ。


     4桁の数9637に3を掛ける掛け算を例にその手順を説明しよう。

    renga1.png


     この筆算は、一桁の数の掛け算は、二桁におさまることを利用している。

     繰り上がりを頭の中でやらないことに加えて、
     書くスペースを圧縮することで今ひとつの計算ミス要因である、視点の「飛び」をも防いでいる。

     実際、筆記具で書いているその脇にきき手でない方の手を添えるだけでも、計算ミスが減ることが分かっている。


     2桁の数を掛けるのも同様である。
     9637×73を計算する例を示す。

    renga2.png


     念には念を入れて、桁上がりの暗算を避けるなら、最後に合計するところでもレンガ筆算は使える。
     例として9637×73の最後の合計をレンガ筆算してみる。

    renga3.png


    (おまけ)3桁×3桁

    renga4.png


    (補記)
     普通の(繰り上がりの数を右肩に小さく書く)筆算による掛け算については、面倒がって(誰もが知ってるだろうと思って)説明するのを省いたのだけれど、どこが違うのか比較しにくいという声があったので、普通の筆算とレンガ筆算の違いをまとめておく。
     
    普通の筆算レンガ筆算
    ・各桁の掛け算ごとに繰り上がり処理を行う
    (これだけでm桁の数とn桁の数の掛け算なら最大でm×n回繰り上がり処理が必要。
    加えて最後に合計する際にも繰り上がり処理が必要)


    ・各桁の掛け算の答えに繰り上がりの数を加えたものを記入する。

    ・繰り上がりの数を加えることで、さらに上の桁へ繰り上がりが生じることがある
    (この処理は頭の中だけで行われるため、作動記憶を浪費し、計算間違いが最も多く生じる箇所である)。

    ・各桁の掛け算と切り離し、繰り上がり処理は最後にまとめて行う
    (m桁の数とn桁の数の掛け算なら最大でm+n回の繰り上がり処理だけで済む。
    ついでにいうと足し算はまとめて行なった方が、切りの良い数字になるペアが見つかったりして、楽になることが多い)。

    ・各桁の掛け算の答えをそのまま記入する
    (計算過程を振り返りやすい)。

    ・繰り上がりは最後にまとめて処理するので、左のようなことは生じない。
    (繰り上がり処理についてもレンガ筆算を使えば、繰り返し処理を頭の中だけで処理する必要がない)



    (普通の筆算の例)
    renga5.png

    1. 683の一の位の数7と296の一の位の数6をかける→18→18の一の位の数はそのまま書く。十の位の数1はくり上がりとして一つ上の桁の右肩に小さく書く。
    2. 683の十の位の数8と296の一の位の数6をかける→48→48の一の位の数8と下からのくり上がりの数1と加えて9を書く。十の位の数4はくり上がりとして一つ上の桁の右肩に小さく書く。
    3. 683の百の位の数6と296の一の位の数6をかける→36→36の一の位の数6と下からのくり上がりの数4と加えて10。その一の位の数0を書き、十の位の数1を繰り上げる。十の位の数3と繰り上がりの数1を加えて4を書く。

      =>4098

    4. 683の一の位の数3と296の十の位の数9をかける→27→27の一の位の数はそのまま書く。十の位の数2はくり上がりとして一つ上の桁の右肩に小さく書く。
    5. 683の十の位の数8と296の十の位の数9をかける→72→72の一の位の数2と下からのくり上がりの数2と加えて4を書く。十の位の数7はくり上がりとして一つ上の桁の右肩に小さく書く。
    6. 683の百の位の数6と296の十の位の数9をかける→54→54の一の位の数4と下からのくり上がりの数7と加えて11。その一の位の数1を書き、十の位の数5を繰り上げる。十の位の数5にくり上がりと繰り上がりの数1を加えて6を書く。
      =>6147

    7. 683の一の位の数3と296の百の位の数2をかける→6→6はそのまま書く。くり上がりなし。
    8. 683の十の位の数8と296の百の位の数2をかける→16→16の一の位の数6を書く。十の位の数1はくり上がりとして一つ上の桁の右肩に小さく書く。
    9. 683の百の位の数6と296の百の位の数2をかける→12→12の一の位の数2と下からのくり上がりの数1と加えて3、その数を書く。これ以上の繰り上がりはなし。十の位の数1を書く。
      =>1366

    10. それぞれの計算で出た答えを足し合わせる。
      =>202168




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    Berliner Mauer


     1969年の夏、リチャードという名前の青年がベルリンの壁を訪れた。
     ハーバード大学を出たばかりで、その年の夏休みをヨーロッパ旅行に当てていた。

     ベルリンの壁(Berliner Mauer)は、冷戦の真っ只中にあった1961年8月13日に東ドイツ(ドイツ民主共和国)政府によって建設された。
     リチャードは大学では物理学を学んだが、自分が複雑な東西関係のパワーゲームを分析するのに役に立ちそうな知識を持っていないことと考えた。
     しかし、とにかくベルリンの壁ができた年は知っていた。
     たったそれだけの知識から、リチャードは、ベルリンの壁が今後いつまで存在しているかを予測した。
     「ベルリンの壁は存続するのは、長くてあと24年だろう」
     リチャードは、この予測の精度があまり高くないことも知っていた。
     だが、まったく的外れのものでないことも分かっていた。
     
     1989年11月、ベルリンの壁は崩壊した。リチャードの予測から20年後の事だった。
     
     
     1993年、リチャードが書いたImplications of the Copernican principle for our future prospectsというエッセイが科学雑誌Nature誌のHypothesis欄に掲載された。
     その中でリチャードは、人類という種がこの先いつまで存続するかを計算して、最悪で20万年、最高で800万年という数字を示した。今度は信頼度は95%(間違う確率は5%)というものだった。
     もちろんリチャードがかつてベルリンの壁の前で行った推論を、いくらか科学者好みにアレンジしたものだった。
     
     
     リチャードのアイデアを理解するには、いくらか数学的作業が必要だが、利用するだけならすごぶる簡単である。
     現在までの存続期間がx年とすれば、
    ・50%の信頼度で予想される余命の最大値はxの3倍、最小値はxの1/3になる。
    ・60%の信頼度で予想される余命の最大値はxの4倍、最小値はxの1/4になる。
    ・95%の信頼度で予想される余命の最大値はxの39倍、最小値はxの1/39になる。


    ※これらの倍数は次のように計算する。

     いま検討している出来事が始まった時をTbegin、終わるときをTend、現在時をTnowとし、これらから次の式でrを計算する。
     r=(Tnow - Tbegin)/(Tend - Tbegin)
     このrは0<=r<=1の値をとりTnowが出来事の寿命の中でどこにいるかを示す。すなわち現在時が出来事の始まりと一致していればTnow=Tbeginからr=0となり、現在時が出来事の終わりと一致すればTnow=Tendからr=1となる。

    さて、
     信頼度50%の予想の場合、rの範囲は0.25 < r < 0.75であり、
     信頼度60%の予想の場合、rの範囲は0.2 < r < 0.8であり、
     信頼度95%の予想の場合、rの範囲は0.025 < r < 0.975である。 

     ここで出来事が始まってから今までの時間をTpast、今から出来事が終わるまでの時間をTfutureとすると、r=(Tnow - Tbegin)/(Tend - Tbegin)=Tpast/(Tpast+Tfuture)となるから、

     信頼度50%の予想の場合、0.25 < Tpast/(Tpast+Tfuture) < 0.75であるから1/3past < Tfuture < 3 past
     信頼度60%の予想の場合、rの範囲は0.2 < Tpast/(Tpast+Tfuture) < 0.8であるから、1/4 Tpast < Tfuture < 4 Tpast
     信頼度95%の予想の場合、rの範囲は0.025 < Tpast/(Tpast+Tfuture) < 0.975であるから、1/39 Tpast < Tfuture < 39 Tpast
    となる。




     信頼度によって予想の幅は増減するが、そこのところは議論の本質ではないので、最初のベルリンの壁の例で考えよう。
     リチャードはひとつの仮定を置いた。これを彼は「コペルニクス原理 Copernican principle」と呼んでいるのだが、これはコペルニクスによって人類にもたらされた知見、すなわち「人間は(我々は、そして私は)、この宇宙において何ら特別な存在ではない」というものである。
     今知られているのは、ベルリンの壁が1961年に作られたこと(つまり現在まで8年間存続していること)だけである。
     リチャードは、自分がベルリンを訪れたその時点はベルリンの壁が存在する期間の任意の時点であり、何か特別な時点ではないと考えた。
     ここで壁がつくられてから存続する期間を θ 年とおこう
     すると区間 [1961 + (θ/4), 1961 + (3θ/4)] の中に、リチャードが訪れている時点 (1961 + X )年が入る可能性が五分と五分、すなわち確率 50% であると考えた。
     壁がその時点 (1961 + X) 年から存続する期間は (θ - X) 年であるから、θ/4 ≤ X ≤ 3θ/4 より、次の不等式が導きだされる。



     すなわち壁を訪れた時点からその壁が存続する期間が築年数の 1/3 倍から 築年数 の 3 倍となる確率は50%となる。

     さてリチャードがベルリンの壁を訪れたのは築後8年目(X = 8)であった。
     したがっての壁の存続期間は、50% の確率(信頼度)では、 2 年 8ヶ月以上 24 年以下になる。
     これがリチャードが行った計算であった。



    Ferris, Timothy. (1999). How to Predict Everything. The New Yorker, July 12 1999. [online: http://www.newyorker.com/archive/1999/07/12/1999_07_12_035_TNY_LIBRY_000018591]

    Gott III, J. Richard. (1993). Implications of the Copernican principle for our future prospects. Nature 363, 315 - 319 (27 May 1993); doi:10.1038/363315a0

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