「太りすぎです」

 医者は厳かな表情でそう言った。一瞬「そんなもん医者じゃなくてもわかるわい」と突っ込もうと思ったが、場が凍ると後の展開がキツいので思いとどまった。ナイス判断。続く医者の言葉は「HbA1cの数値9.8は今すぐ入院してもおかしくないくらいです」。

 ということで、忙しがって外食に頼っている場合じゃなくなった。仕方なく自炊である。そして炭水化物を、豆腐か厚揚げに置き換える生活が始まった。八宝菜みたいな野菜多めの餡かけや、出汁を利かせた鶏挽肉と菜の花の銀餡なんかを作って、焼いた厚揚げを焼きそばに見立てて餡かけにしたり、木綿豆腐をご飯代わりにした親子丼なんかを作って、日々過ごしている。

 幸いなことに長い独居生活のおかげで、料理はそこそこできる。しかし、それゆえに自分の作る料理の味に飽きて、何か違う味のものが食いたくなるのだ。長年かけて染みついた手癖というか、自己流のやり方が何を作っても同じような味に落ち着く理由である。

 そんな時は基本に戻るに限る。

 レシピサイトのほとんどは、手間なしカンタンレシピみたいなヤツで、求めるものとどうも違う。クルマで言えば、サスペンションのアライメント出しみたいに、基準点を確認するためには、正しいプロの基本形が知りたい。ということで、少なくとも和食に限っては「白ごはん.com」を当てにしている。

 ちょっと前に生姜焼きを作った時に思い知ったのだ。普通、生姜焼きごときでわざわざレシピは見ない。目分量でちゃっちゃっと作ったって普通に美味い。ある日敢えて白ごはんドットコムのレシピを見て、調味料を正確に計量して作ってみて驚いた。大さじ1杯ってこんなに多いのかとか、タマネギ1/2の指定を、残り半分をラップで包んで冷蔵庫にしまうのが面倒なばかりに、1個まるまる使っちゃうとどう仕上がりが異なるのかを実感した。発見の連続。出来上がった料理は確かにお店の味、求めていたぴしっと軸の通った味がそこにあったのだ。

 豆腐の親子丼も頑張った。たった大さじ4杯の出汁のために、出汁昆布をキッチンペーパーで拭いて、少し水で戻してからハサミで注連縄(しめなわ)に付ける紙垂(しで)みたいに切って弱火で煮出し、味を見つつ、粘りが出ないうちに昆布を取り出して、今度は厚節を入れて弱火でしっかり出汁を取る。きっと市販の和風出汁の素で代用したって、そこそこ美味くはなるのだろうが、基準の味はそこにはない。

 親子丼のレシピは、流石に冗長なので白ごはんドットコムで検索してもらいたい。ひとつだけサイトに載っていないことを説明すれば、豆腐をご飯代わりにするには水気をいかに抜くかだが、パックからバットに取り出して、ラップをかけずに冷蔵庫で一晩。食前にキッチンペーパーに包んで電子レンジで温めると完璧だ。

 と、要するに自己流を見直したことと、そうやってできた美味いロカボ飯によって、医者の「食事と運動くらいで下がる数値ではない」という宣言をひっくり返し、2週間で9.0までは落とした。ちょっと気持ちいいが、まだあと3くらい落とさねばならず、ゴールはだいぶ遠い。精進あるのみである。

日本はいつの間に「化石賞」の国になったのか

 今回は欧州の企み(たくらみ)を明らかにしていきたい。

 例によって長い記事なので、結論を先に言うと「欧州の電気自動車(EV)戦略は、未来を見据えて考えられたものではなくて、打つ手が全て外れた結果、やむなく企んだものではないか」ということだ。

 筆者は欧州政界や産業界にディープ・スロートがいる論者でもないし、野暮な日本スゴイデスネ論者でもない。自動車関連の公開されたファクトを、論理的に積み重ねていくと、どうもこれは「戦略」というより「企み」という言葉が似合うのではないか……と思った次第だ。ひとつの考え方としてご笑覧いただければと思う。

 現在欧州各国政府は「地球環境の改善は待ったなし」と口を揃えて言う。そして2030年から40年あたりにかけて、ガソリンエンジン廃止を目標に据えている。揚げ句に日本に対しては、不名誉にも「化石賞」などという当てこすりをする始末である。

 しかしながら、こんな風に感じている読者の方は多いのではないか。

 「環境と言えば、米国のマスキー法とか、それに対応したホンダのCVCCとかで、ずいぶん昔から日本メーカーは大気汚染問題に取り組んできたはずじゃないのか、いつのまにこんな上から目線で欧州に叱られるようになっちまったんだ?」

続きを読む 2/6 大気汚染に早くから向き合ってきた日本

この記事はシリーズ「池田直渡の ファクト・シンク・ホープ」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。