百万石の城下町・金沢 情緒人気の木造町家 維持・活用には課題
戦火を免れた金沢市には、城下町の歴史を残す古い建物が各所に残り、宿泊施設や飲食店などとして活用され、観光客にも人気となっている。市も古い町並みを残すために助成などの支援に力を入れているが、町家の維持には費用や法律などさまざまな問題が絡み合い、課題も残る。
金沢市中心部、兼六園近くにある、昭和初期建築の通称「大手町洋館」。大正~昭和期に旧金沢医科大(現・金沢大医薬保健学域)教授を務めた山田詩朗氏の邸宅だった木造3階建ての建物は、西洋建築を思わせる外観だが和室もあり、和洋折衷の造り。タイル張りやステンドグラスなど意匠が凝らされている。
「建物生かす」外観復元し公開
長らく空き家だったが、現所有者の「建物を生かしたい」との意向を受け、建築設計やリノベーション、不動産仲介などを行う会社「E.N.N(エン)」(金沢市)が2021年夏に外観などを復元し、10月に一般公開した。
金沢は空襲や大きな自然災害がなく、江戸期からの武家屋敷や町家をはじめ、大手町洋館のような西洋の建築様式・技術の影響を受けた近代和風住宅が残る。市は、伝統的な構造・形態・意匠を有する木造建築物のうち、1950年以前に建てられた木造の建物(寺社・教会などを除く)を「金澤町家」として定義。実態調査のほか、維持や修復、活用への助成といった支援を行い、市中心部の町家を改装した「金澤町家情報館」で修復手法などを発信している。
所有者負担重く、年100軒が解体
だが、町家の維持は個人では負担が大きい。市歴史都市推進課によると、金澤町家の定義を満たす建物は2017年度時点で6125軒あるが、年間100軒のペースで解体されているという。町家を買ったり借りたりしたい人と持ち主を仲介するバンク事業もあるが、希望者に対し、所有者側の登録が少ないのが現状だ。
町家の継承・活用に取り組むNPO法人「金澤町家研究会」(金沢市)によると、市内で空き家になっている町家は約1000軒に上る。持ち主側の登録が進まない要因には▽相続人が複数いる▽家への思い入れが強い――などがあるという。
建築基準法の壁、膨らむ改修費
また同会の川上光彦理事長は「貸す際は大家側がある程度改修する必要がある。所有者の多くは高齢で『売りたくはないけれど、改修するお金もない』と空き家になっている」と指摘する。改修も現行の建築基準法に適合させるために大規模となり、費用も膨らむ。さらに登記や境界を明確にするための手間もネックとなる。
一方で、世の中では町家の価値や保存の意義が浸透しつつあり、近年は飲食店やゲストハウス(簡易宿泊施設)として使われるケースも増えている。これまで非公開だった「大手町洋館」の一般公開も利活用を探る第一歩で、「空間資源の周知や利用に興味を持ってもらうため」とエン社は説明する。今後の活用法として、宿泊施設を備えたレストランや小規模な美術館などが考えられるという。
継承へ「循環させる仕組み必要」
川上理事長は「建築基準法などの法律がもっと柔軟になれば、活用が進むかもしれない。町家をうまく循環させる仕組みづくりも必要だ」としている。【菅沼舞】